捨て身の救助
「はあ…はあ…確か…この辺から」
「もう!いい加減にしてよ!」
いた!でっかいイノシシと一人の女性だ。
女性からは赤いエフェクトが傷口から溢れている。イノシシは足で地面を掻いて今にも突っ込みそう…。
(来たのはいいけど、どうしよう…)
また、私に気づいていない…先に【ファイアボール】で奇襲をかけるか?でも、女性の回復をしないと……。
「ブゴォォォ!」
「ひぃぃ!」
ああ、もう突っ込んだ!考える時間はない!
視線の方に魔法って飛んでいくんだよね?顔面目掛けて!
「【ファイアボール】!!」
「ブヒィィィィ!?」
わあ!魔法でた!…じゃなくて!
「【ヒールサークル】!!」
「あなたは!?」
「ああ!とにかく逃げて!下さい!」
「は、はい!」
女性が逃げる逆へ駆ける。ヘイトはこっちに向いていそうだし、少しでも離さないと。
初期だから何も失うものないしね!たぶん!
「ブゴォォォ!」
やば!来てるって!怖!臨場感やば!てか、攻撃全然効いてない!
「ひぃぃぃぃい!」
木々の間を必死こいて走るけど、猪はバキバキ枝折りながら迫ってくる。
…あれ…待って、女性、結局【ヒールサークル】外になるじゃん。
「あああ!完全に無駄打ちだったーーーおぅわ!?」
マズい!ツタに引っかかっ……
「ブゴォォォォォォォォ!」
「ひぇ………」
牙が腹部を貫通した。真っ赤なエフェクトが迸る。
「…………………はあ」
はい、リスポーンしました。あのー、本当に怖すぎます。腹貫通されたの人生で初めてです。
……唯一の救いであったのは、あんまり痛くなかった事だけだ。リアル並みに痛かったら即ゲーム辞めてたね。
ここでふと思った。スポーン地点は森の中、初回エンカウントがでっかいイノシシ…ほぼ負けイベで明らかにゲームバランスがおかしい。運営は何をプレイヤーにさせたいのだろうか。もしかして、私の想像と違う遊び方?
と言う事で、イグナイト先生を召喚。
「『このゲームのコンセプトって何ですか?』」
『ご質問を確認しました――
本ゲーム《Remnants of Utopia》は、オープンワールド型VR体験ゲームとして設計されています。以下、主な特徴を列挙します。
【1】サバイバル要素の重視
・本作では、プレイヤーは装備・食料・住居・魔力源などの資源管理を行い、生存を目的とした行動が求められます。
・環境による状態異常(寒冷・毒性・飢餓など)も存在し、探索には十分な準備が推奨されます。
【2】構築システムの搭載
・取得した素材を用いて、拠点・建築物・機械装置・魔法装置などの制作が可能です。
・自由度の高い建築モードにより、プレイヤー独自の拠点づくりが可能となっています。
【3】高自由度のサンドボックス設計
・本作は「目的を持たない遊び」を支援するサンドボックス設計を採用しています。
・クエストやストーリーの強制はありません。探索、戦闘、生活、生産、育成、交友など、プレイヤーの行動選択がすべて物語を形作ります。
要約すると――本ゲームは「生きること」「築くこと」「探すこと」に重点を置いた、没入型の多目的VR空間です。
プレイヤーごとに異なる目標とプレイスタイルが想定されており、正解のない世界を“あなた自身の手で”定義していくことが推奨されています。』
つまり、ストーリーがないから定められた順序が存在しない…いつでも即死レベルの敵に合う可能性があるって事なのか…。
と言うか、建築要素があるんだ。オンラインゲームではたいぶ珍しい。どちらかというとオフラインで多いタイプ。
…ああ、そうだ聞きたかったことがあるんだった。
「『デスペナルティってあるの?』」
『———確認しました。死亡時のペナルティは以下の通りです。
【デスペナルティ概要】
・死亡時、所持していた装備品以外の全アイテムがその場にドロップします。
・ドロップされたアイテムは一定時間経過後に消滅し、他プレイヤーによる取得も可能です。
・スキル経験値やステータス値への直接的な減少はありませんが、MPは0となり、リスポーン後一定時間は自然回復が停止します(通称:マナブランク)。
・拠点設定がされていない場合、死亡時は地域ごとの初期リスポーン地点に戻されます。』
……てことは、今の私MPゼロ?
「んなああぁぁぁ!それは無いよおぉぉ」
メイジもとい魔法職の要だよ!それが無いとただのボンクラだよ!はあ……MP回復するまで、休憩するしかないね。
「暇になるなぁ……あ、そうだ!建築要素に触って………!!!!」
(草むらから音!て、敵かな?どうしよう、まだMPが自然回復すら始まってない………)
いつでも逃げれる体制で身構えてガサガサと音を立てている方を見る。草むらから現れたのは……
「はあ…はあ…ここまでくれば……あれ……人?……と言うか、あなたってさっきの…」
………さっき助けた女性?