無知から始まる
正直このゲームについてはあまり知っていない。知っているのはオンラインでファンタジーだってことだけ。だから一般的に街にリスポーンするものだと思っていたわけだが…
「…めちゃくちゃ森…」
初期リスポーンの位置が大樹海だった。深々とした緑が一面に広がり、僅かな木漏れ日が差し込んでいる。葉擦れだけが聞こえ、閑寂としていた。
(あ〜!ちょっと気を張ってたのに〜!)
人との対面に強張らせていた体から力を抜く。残念?少しほっとした?そんな良く分からない感情になった。
暫く戸惑っていたが、それならそれでやりたかったことを先にやってみよう。
と言うことで…
(ファンタジーと言えばやっぱり魔法だよね)
やはり、ファンタジーと言えば魔法だ。現実離れしたそれは人の未知に対する探究心を刺激する。メイジを選んだのもその理由の一つだった。
(それじゃ、魔法を……てか、使い方も何を使えるのかも知らないや)
ってことで、取り敢えずステータスを開く………開くって?
(待って!開き方も分かんない!)
普通のゲームこそした事はあったが、VRゲームは完全に別世界。古い知識なんて何の役にも立つ筈もなかった。
(…どうしよう)
チュートリアルもなかったし…何も分かんない。
『――お困りのプレイヤーを検出。サポートモードを自動起動します。現在のインターフェース:ヘルプチャット Ver.1.31』
「えっ……えっ!?」
(何これ?チャット画面みたいなのが出てきた!)
一瞬プレイヤーからかと思ったが、よくよく見ると上部に“HELP AI”と表示されている。……サポート機能なのかな?
画面の下に小さく『入力してください』と書かれている。なるほど、分からないことがあればここに打ち込めばいいのか。
「えっと……『あなたは誰ですか?』」
『私は《ヘルプAI:イグナイト(I.G.N.I.T.E)》です。
本AIは、認識レベルでの混乱・遅滞行動を検知した際、プレイヤーの行動支援のため自動的に起動されます。任意でメニューからの呼び出しも可能です。』
ふむ、どうやら質問に答えてくれる案内役らしい。
「じゃあ……『ステータスの開き方を教えてください』」
『確認――ステータスメニュー表示方法。
以下の方法から実行してください。
① 音声コマンド:明瞭に「ステータスを開いて」と発話。また、それと同義の言葉であれば開きます。
② ジェスチャー操作:左手を胸元に当て、右手で空中にスワイプする動作を行うことでメニューが現れます。そこから、『ステータス』の項目をタップして下さい。
※いずれもオプションからカスタマイズ可能です。詳細設定をご希望の場合は『設定変更について』と入力してください。』
「……めっちゃ便利じゃん」
多分これからAIもとい、イグナイト先生にお世話になりそうだと思った。