第三話 宰相
数年後
「陛下、今日こそは此方の書類に手をつけて頂きたい」
「適当で良いのなら今すぐにでもやるが?」
「ふざけないでください」
私は今宰相に追い詰められている。11歳の時に即位してからはや9年。私は20歳となっていた。私の周りには今も人がいる。9年前、大勢殺したにも関わらず、そこにいる宰相アルフォルト・イルネスによって裏切る事はないだろうと見定められた者達がいる。
然し、相変わらず私は昔と変わっていない。邪魔だと思えば切り捨てる。だからか、一部からは恐れられているが宰相は私gそう簡単に殺しをしないと理解しているらしい。まぁ、殺る時はやるんだがな。でも私に危害を加えなければ基本的に安全だと思っているようだ。
その通りで少々不服だ。
そして現在、書類の山に囲まれている。私はこういう面倒なことは嫌いだからな、こういうときは逃げるが勝ちと言うものだ。そう言うわけで今の今迄逃げていた。代わりと言ってはなんだが、国内で起きている争い事はあらかた片付けた。だから残りがだるい。
「良いですか、仮にもあなたはこの国の女帝。この国を、この国に住う民を幸福にする義務があるのです。」
「そうか」
「ですから、陛下にはやっていただかねばならない事がたくさんあるのです。勿論、紛争や戦争の阻止といったことも大事ですが」
「そうか」
「…陛下話聞いてませんね」
「そうか」
宰相は深い溜息をついた。そしてすぐに話題を切り替えた。
「…これは陛下にとっても重要なお話ですのでよく聞いておいてください」
宰相がこう言う時は本当に重要な時だ。…仕方ないな、と思い私は宰相の話に耳を傾けた。
「最近反皇帝派が多くいます。最近では王政を廃止する国がいくつか現れています。このままでは陛下も同じことに…」
「ありえないな。私に逆らおうだなんて無謀過ぎるだろう。それこそ力の差が圧倒的だと分かっているから今、反皇帝派が大人しくしているんだろう?」
宰相はその通りだと頷いた。然し、すぐに私の欠点を言った。
「然し、陛下はただでさえ臣民からの評判が良くありません。というかハッキリ言って最悪です。」
「お前の命日は今日になりそうだ。そかったな」
「いえ、私にはやるべきことがあるので結構です」
そんなことよりと宰相が話を戻した。実際問題私の評判は悪いだろう。9年前の兄妹全員を殺したことも、使用人全員を殺したことも、その後にしでかした様々な悪行を数えれば、そもそも9年もこの座にいられて居るのが奇跡なくらいだ。恐らく、この宰相の力によって今の私はこの座に座ることが出来ている。あとは、武力くらいか?
そんなこんなでどうやっても私の評判は変わらないだろうし、変えるつもりも無い。悪いな、宰相。お前が私を慕っている事はなんと無くわかる。こんな私と既に9年も一緒なのだ。普通なら逃げ出してもいいだろうに彼はそんな事しない。だからこそ私も信頼しているのだ。
「悪いが私がどう思われていようと私は何もしない。ただこの国の為に戦うだけだ」
「…っなぜですか⁉︎貴方は何故っ、力があるにも関わらずその力を使わない⁈私に任せて頂ければ貴方様の名声などいくらでもっ!」
「わかっている、お前は優秀だからな。本気でやれば私の名声くらい落とすことも、上げることもできると」
「ならば何故利用しない‼︎私は貴方の駒だ、あなたの為なら私はっ…!」
私はその後に続く言葉を理解した。そして、すぐに剣を引き抜き宰相の首に向かって刃を向けた。
「私はお前にそんなもの望んでいない」
その声は酷く鋭かった。これは私の本音だ。彼には私のために死ぬなんてことさせたくは無い。そもそも、私に力があっても、使うつもりが無い。それにそれだけの能力があってもどうせ失敗する時はするものだ。
私はそれ以上言葉を紡がなかった。ただ一言彼に伝えた。
「…これは女帝エリス・ヴィ・エルファスとしてでは無い。唯のエリスとしてだ。……私はあなたに生きていて欲しい。共に笑い、共に精進する者として貴方を見つめ続けたい。だから、簡単に死んでもいいなんて思わないで」
「っ!」
私はそれ以上何も言う事はないと、席について書類の山に手を付けた。
その5年後
ザッザッザッ
白い雪、冷たい白、でも暖かい。
空を見上げると白はない。ただただ青い空が広がっている。広大な空が。
ザッ
空に手が見える。あぁ、これは私の手か。
何故だろう、すごく眠い。
…偶には良いだろうか?昼寝なんて今迄したことないんだ。今日くらいは許してくれ。
アルフォルト。私の友人よ、優しき人
解釈は人それぞれです。