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その6 向こう見ずな正義漢

今朝も遠くで鐘の音が響いている。

うーん……もう一眠り……


「おい起きろ、オッサン」


その声に寝ぼけ眼を開こうとすると、

遠慮なく腹を蹴られる。


「イタァイ!」


無理矢理意識を引き上げられた。

俺は悶えながら挨拶を返す。


「うぁ、おはよ……お前、あんま蹴るなよ……」


頑強値が低いからかテキトーに蹴られるだけでも

HP的なモノがゴリゴリ削られてる気がする。


「もう1の鐘、鳴ったぞ。早くギルドに行こーぜ」


挨拶を返した俺を見下ろして

素っ気なく言うリューナ。


視線を掛けながら大欠伸を一発かます。


「ふぁああ〜ああ……顔洗ってくるから待ってろ」


リューナは呆れたように眉をひそめる。


「普通はもう起きてるモンだぞ?

相変わらず呑気なオッサンだな」


うっせぇ、俺はロングスリーパーなんだ。

あとオッサンって呼ぶんじゃねぇ。




ギルドの依頼ボードの前で足を止める。


「今日も『ドブさらい』を受けるつもりだけど、

『薬草採取』とかやってみるか?

俺はここに来たのが最近だから森までの道とか

よくわかんないけど」


「そんなのオレも同じに決まってんじゃん。

貧民街スラムからもほとんど出たことねーもん」


そりゃあそうか。


「じゃあ大人しく『ドブさらい』だな」


依頼書を剥がさずに受付への列に並んだ。




「じゃ、始めるか」


「おー」


二人でスコップを構える。


「俺がデカ目に掘り上げるから、

その中からゴミを取り除いてくれ」


がしゅり、と音を立ててスコップを

詰まったドブへ突っ込む。


「わかった」


リューナはコクリと頷いた。


ドブさらいの仕事はかなり単純で、

道端のドブの詰まりを取るだけのモノだ。

詰まってる中にゴミがあれば、

集めてゴミ捨て場へと持って行く。


出てきたモノを持ち帰るのは自由なので、

何か価値のあるモノを期待したい所だ。

……今の所食器しか出てきてないけどね。


ただのヘドロや落ち葉の場合は

その辺に埋めてしまえば良い。


ゴミを適当に散らかしたり、

ヘドロで現場を汚して帰ると減点になって

ギルドからの評価が下がるらしい。


評価によっては減給、最悪は除籍になる。

荒くれ者ばかりの冒険者ギルドの治安維持は

ひっ迫の課題だと受付嬢さんもこぼしていた。


「オッサン、どんどん掘ってくれよ」


「えっ?」


ちょっと考え込んでる内にリューナは

掘り上げたドブ溜まりからゴミを仕分けていた。


「早くない?」


俺の倍以上のスピードだぞ。


「は? 誰でもこんなモンじゃねーの?」


何言ってんの?って感じで首を傾げられる。


んー、と考えてピンと来た。

器用の才能値だ。


俺が5でリューナが14。

ほぼ3倍違うんだから、作業の速度もそりゃ変わる。


異世界でも変わらず世の中不公平だなぁ。

『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』

なんて絶対に嘘だと思うの。


「ほらオッサン、はーやーくー」


「はいはい……」


ため息をついてスコップを握り直した。




「いてぇ」


1日中スコップを握ってたから、

手に豆ができてしまっている。

リューナがニヤニヤ笑う。


「なんだー? オッサン弱っちいなー」


「うるせぇ、俺は頭脳労働の方が得意なの」


化膿が怖いため石鹸で念入りに洗っておいた。

はー、やれやれ。

もうちょっと楽な仕事に付きたいモンだな。


「おい、臆病者のドブ野郎!」


冒険者ギルドにそんな叫びが響いた。

軽口を止めて後ろへ振り向くと、いかにも新人って

感じの少年がこちらに指を指している。


「もしかしなくても、俺のコト?」

「だろーな」


指で自分を差すと、リューナが頷く。


「なんでそんな酷いあだ名ついてんの?」

「さー?」


リューナと首を傾げていると、少年が騒ぎ出す。


「おい、無視するんじゃない!

ドブさらいしか出来ない腰抜けめ!」


どうどう、落ち着いて。

クールダウン、プリーズ。


少年は革の胸当てに長剣という、

実に駆け出し感溢れる装備だ。

歳は15か16くらいだろう。

顔はイケメンで、正義感が滲み出ている。

女のコが放っておかないカンジだ。

いいなぁ。


彼は続けてがなり立てる。


「おまけに子供からピンハネまで

してるらしいじゃないか! このクズ野郎!」


「ピンハネってなんだ?」


眉をひそめるリューナへ簡単に説明してやる。


「アレだよ、リューナの報酬を

俺が盗ってるってコト」


「へー。なぁオッサン、オレの報酬盗んだ?」


人聞きの悪いコト言うんじゃねえよ。


「盗むワケねえだろ、というか

お前いっつも自分で満額受け取ってンだろうが」


「だよなー。ねえ、盗んでないってさー」


少年にそう告げるリューナ。

コイツ、肝座ってんな。


「え? だって噂だといい歳してドブさらいしか

受けないオッサンがガキを食い物にしてるって……」


少年が眉をへにゃりと歪めてそうこぼす。

誰だ、そんな根も葉も無い噂流したのは。

前へ出ろ、殴ってやるから。

リューナは更に言い返す。


「オッサンがいい歳してドブさらいしか

してない腰抜けなのは合ってるけど、

オレを食い物になんてしてねーぞ」


おやおや酷い言い草ですね、事実だけども。


「……そうなのか?」


あっさり言い負かされて困惑する少年。

おおっと、割とチョロそうだぞ。

しかし少年はどうにか持ち直す。


「で、でも! このオッサンがドブさらいしか

してないのもおかしい!

初心者の仕事を奪ってるんじゃないのか!?」


いや、ワイも初心者やがな。

もはやただイチャモンを付けたいだけに見えるが

最初に啖呵を切ってしまった以上、

引くに引けなくなってしまったのだろう。

どうにかこうにか宥めてみよう。


「えーっとね、あんちゃん。まずは落ち着いて」


「ぼ、僕は落ち着いてるぞ!」


少年がグルグル目で言い返す。

ウソをつけ、ウソを。


「色々弁明したいんだけどさ、

まず俺も初心者だから」


「え? そんないい歳して?」


ええい、やかましい。

だからそんなに歳行ってねぇつーの。

ツッコミたい気持ちをどうにか喉元で抑える。


「……そう。この歳で初心者だよ。

ここから遠い国で暮らしてたんだけど、

母ちゃんが死んじまったから旅を始めたんだ。

そんで路銀が無くなって働きだしたってワケ」


前もって考えていたカバーストーリーを話す。

まぁ全部が全部ウソってワケじゃない。


「だ、だとしても、ドブさらいだけしか

やらないのも変じゃないか!」


んー、確かに。

言い訳を考える。


「俺をよく見ろ。丸腰だろ?

装備を買い揃えるカネも無いんだ。

討伐クエストなんか行けるワケない」


これもウソはついてない。

一番の理由は低ステータスで無職ってトコだけど、

こんな往来で『ボク、弱いです!』とか吹聴する

つもりはサラサラ無い。


「そ、そうなのか……」


少年は毒気を抜かれたように困惑する。

まぁ、気持ちはわからんでもない。


冒険者として頑張るぞー!とかやってたら、

子供を食い物にしてるオッサンが居るとか聞いて

我慢できなくなっちゃったんだな。

しかもソイツはドブさらいしかしない腰抜けと来た。

この俺がお灸を据えてやる!みたいに。


コイツは良い奴でバカなんだと思う。


良い奴じゃ無かったらわざわざ

子供の為に動かないだろうし、

もうちょっと賢ければリューナが1人の時に

そっと話を聞いて見るはずだ。


バカは好みじゃないが、善人は好きだ。

受け入れられないと思うが、

人生の先輩として一応忠告しておく。


「あのな、あんちゃん。アンタのその心意気は

評価するけども、裏を取ってから動かないと

いつか痛い目に遭うと思うよ、俺は」


ちょっとしぼんだように見える少年は

弱々しく答える。


「……あぁ、わかった」


おお、これでわかってくれるのか。

本当のバカは人の言葉なんて聞き入れない。

さっきの評価は取り消しておこう。

彼はバカじゃない。

ちょっと先走っちゃっただけだ。


少年に興味が出てきた俺は質問をぶつけてみる。


「そんでさ、何のクエスト受ける予定なの?」


面食らったカンジで答える少年。


「……え? ご、ゴブリン退治だけど」


「……パーティは組んだの?」


「いや? これから探す予定だよ。

見つからなかったらソロでも良いかな」


前言撤回。コイツはバカだ。それも大が付く。

ぶっちゃけもう放っといてもいいけど、

流石にそれは心が痛い。

まぁ、話が通じる相手だし説得しとくか。


「ちなみに受付嬢さんから

ゴブリンについては詳しく聞いた?」


「ハハハ、何言ってるんだオッサン。

ゴブリンなんて雑魚にそんな手間かけないさ!

村に何匹かで来たやつも

ボコボコにしてやったし!」


もうコイツ、見捨てようかな。

いやいや、俺は大人、俺は大人なんだ……

隣で大あくびしているリューナに話しかける。


「ちょっと話長くなりそうだから、

俺の分も依頼受けといて」


「えー? パン1個な」


この野郎、登録料1000ソルの借りを忘れたか。


「はぁ……わかったよ。後で買ってやるから」


「やったー!」


俺の手から冒険者カードが引ったくられる。

いつもの受付嬢さんの所に並ぶリューナの背中を

見送って、視線を少年に戻す。


「あのな、大体こういう依頼で

退治するゴブリンは20匹ぐらいで

群れを組んでるんだぞ」


そうなの?ってカンジで目を見開く少年。

まぁ俺も受付嬢さんからの受け売りだけどさ。


「20匹は多いな……」


少なくともソロで行くのは無謀だろう。


「しかも落とし穴とかの罠も使う。

今のキミが行ったら、罠に引っかかってる間に

袋たたきに合うと思う」


少年は青ざめる。


「しかもしかも武器は毒が塗ってあるらしいから、

一発でも当たったらオシマイだ。

解毒薬とか買うカネあるの?」


「……ない。剣と胸当てで使いきった」


だろうね。


「あとせめて兜は着けた方が良いと思う」


職場でヘルメットの顎紐をつけ忘れて優しい先輩からガチトーンで怒られたのが懐かしい。


頭は人体で一番大切な場所と言っても

過言じゃあない。


安全確認ヨイカ! ヘルメット装着ヨシ!


「わかった……まずは別の依頼から受けるよ」


「じゃ、一緒にドブさらいやる?」


お前もドブ野郎にならないか。


「……誘ってくれるのかい?」


少年は不思議そうに目を見開く。

まぁこれも成り行きだ。

嫌なら良いけど。


「仕事仲間が多いと楽しいかなって」


決して不名誉なあだ名を押し付けたいからじゃない。

本当だってば。


少年は、アハハと笑って手を差し出す。


「僕の名前はヨシケル、職能ジョブ剣士ソードマン

やがて最強の冒険者になる男さ!」


おっきく出たねぇ。


「俺はキアンだ、よろしく」


俺達は固い握手を交わす。


こうして仲間が1人増え、

俺のあだ名は『洗脳ドブ野郎』に進化したのだった。


解せぬ。


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