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その5 孤児との縁

ドブさらいを始めてから3日後。


今日も変わらずツギハギの上下でドブをさらう。


ギルドで変なあだ名とか付かないか心配だが、

まぁスポットライト効果だな。

誰も俺のコトなんざ気にしてはいないだろ。


そして、この3日で変わったコトが2つある。


1つは貯金額。

今日でようやく1000ソル貯められる予定だ。


一昨日はズボンとパンツを買ってしまったが、

昨日と今日は500ソルずつ余る計算になる。


目標の3000ソルはまだ遠いけど、

この分なら割とすぐだろう。


2つ目が、俺からパンを盗もうとしていたガキ。

毎日餌付けしていたら、

ようやく喋りかけても逃げなくなった。

なんか野良猫みたいなヤツだな。

 

昼休み、隣に座って夢中で

パンにがっつくガキに話しかける。


「キミ、歳は?」


「12だ……たぶん」 


ちょっと自信無さそうに答えるガキ。

まぁ、自己申告を信じるとしよう。


冒険者登録は12歳以上ならできるらしい。

つまり、コイツは冒険者になれる。


「冒険者登録はしねえの?」


「はぁ? バカじゃねーのオッサン。

オレがそんなカネ持ってるワケねーじゃん」


お、オッサン……まだ20歳なんですけど……

その歳からしたら、オッサンか……


密かにショックを受けつつ顎に手を当てる。

冒険者登録手数料は1000ソル。


何の因果か知らんが、

今日丁度1000ソル貯まる予定だ。


「はぁ〜……」


ため息をつく。

ま、コレも縁だな。


「どうしたオッサン?」


首を傾げるガキに告げる。


「貸してやるよ」


「は?」


困惑する、というか理解できない様子のガキ。

俺はもう少しだけ丁寧に言った。


「1000ソル貸してやる」


「え?」


「お前、冒険者になれ」




そして、夕方。


俺は手だけ洗ってから、ガキに言った。


「取り敢えず水浴びからだな。

そのタオルと石鹸使っていいから綺麗にしとけ」


「わかった。

おいオッサン、あっち行ってろよ!

絶対見るんじゃねぇぞ!」


やれやれ、男同士でそんなに嫌がるかね。

俺は男の娘は好きだが、いたいけなショタを

性的に見る趣味は無い。

コイツはショタっていうより

オスガキって感じだけど。


ま、本人が嫌なら尊重してやろう。

ガキが水浴びしている間に、

馬の飼葉を替えておく。


数日でだいぶ馬も懐いてきた。

撫でろ、と寄ってくるので

よしよしと優しく撫でる。

哺乳類ってカワイイよなぁ。


癒やしタイムを味合っていると、

横から声をかけられる。


「洗ったぞ」


見違えるほど綺麗になったガキ。


「……服もおいおい買わにゃダメだな」


本人が清潔になった分、着ていたボロきれが

余計に汚く見える。


ま、今日はしゃーないか。




カウンターが空いてきた頃を見計らって、

いつもの受付嬢さんに声をかけた。


「すいません、冒険者登録がしたいんですけど……」


「あぁ、キアンさん、お疲れ様です♪

冒険者登録ですか?」


なんで?って顔をする受付嬢さんに説明する。


「お疲れ様です。

自分のじゃなくてこの子ですね。

ほれ、行け」


「お、おい止めろオッサン!」


俺の後ろに隠れているガキを前に突き出す。

受付嬢さんは、膝を曲げてガキに視線を合わせた。


「あぁ、なるほど!

承知いたしました。

年齢は12歳以上ですか?」


「……そうだ」


ガキは少し目を反らしながら答える。

綺麗なお姉さん相手に照れてるんだろう。

意外と可愛い所あんだな。


「お名前は何でしょうか?」


「……リューナだ」


そういや名前聞いてなかったな。

我ながら無頓着が過ぎるだろう。

ま、今わかったからいいや。


後は基本的に俺の時と同じ流れだ。


今日の報酬の1000ソルを丸々渡して、

能力値の確認をしてもらう。


リューナの血が染み込んだ冒険者カードから、

文字がじわじわ浮き出てきた。


3人で覗き込む。


『生命 9

 筋力 9

 頑強 8

 器用 14

 魔力 6

 知能 8

 信仰 6

 精神 11

 敏捷 16

 魅力 12

 運 13』


……高くね?

受付嬢さんが、ふむふむと頷きながら分析する。


「器用と敏捷が1つ抜けているので

斥候スカウト盗賊シーフ、もしくは

運も高めなので弓士アーチャー当たりの

ジョブをオススメします。

この数値なら上位職も可能ですよ」


「……何でもいい」


ぶっきらぼうに言うリューナ。

俺は出来るだけ優しく諭す。


「ちゃんと考えろ。

折角選べるんだから」


俺の言葉にリューナは首を傾げる。


「? 選べる?

じゃ、オッサンは何選んだんだよ」


「……選べなかったんだよ」


予想外という反応で目を見開くリューナ。


「え?」


「才能値がさぁ、低すぎてね……

なぁんにも選べないの。『職無し』だよ……」


嘆く俺にドン引きの視線が刺さる。


「えぇ……」


「あ、あはは……」


受付嬢さんも苦笑いだ。

リューナが眉尻を下げて、弱々しく言う。


「え、だって、冒険者ってジョブが良いほど

稼げるんだろ……? じゃあオッサンは……」


俺は目を反らしながらカタコトで返した。


「生活ギリギリだヨ。

さっき出した1000ソルが貯金全額だヨ。

今日の晩ご飯は2人分なんて買えないヨ」


リューナに襟首を掴まれ、

頭をガクガク揺らされる。


「じゃあ、なんで1000ソルなんて

大金出したんだよ! 意味わかんねーよ!」


あぁ、脳が揺れている。


「なんでだろうね、自分でもわかんない」


リューナは発狂したように頭を抱えた。


「バカじゃねーの!? 頭大丈夫か!?」


「ぷふっ」


受付嬢さんが耐えきれずに吹き出す。

相当恥ずかしいのか目の端に涙を薄く浮かべながら

噛みついていくリューナ。


「アンタ、今笑ったなぁ!?」


「い、いえ……ぷふっ」


「ハイハイ、ジョブ決めよーねー」


もはや殴りかかる勢いのリューナを

羽交い締めにして抑えた。




受付嬢さんが、仕切り直すように咳払いする。


「えー、こほん。

まずは先程オススメしたジョブの

紹介をさせていただきます」


正直、ゲーム知識で察しはついているけど

主目的は俺じゃなくてリューナの方だ。

大人しく聞く。


「まず斥候スカウトですね、

索敵や、罠感知、マッピングなどを得意とします。

パーティに1人いると便利です」


言っちゃ悪いけど雑用だな。

まぁでも雑用と下準備が仕事じゃ一番大事なんだ。

俺はいぶし銀の活躍とか縁の下の力持ちとか

かなり好みだから、こういうのもアリだと思う。

ま、不器用すぎて俺には出来ないんですけど。


「続いて盗賊シーフです。

こちらは宝箱の解錠や短剣の扱いなどが

有用でしょうか。

亜人系の魔物には『盗む』スキルを

使うコトも出来ますね」


これも中々ロマンがあるね。

スキルって聞くとワクワクしてくるな。

ちなみに俺のスキル欄には『忍耐』という

スキルが刻まれていた。

耐え忍んじゃったかぁ。

そんなストイックな性格をしてるつもりは

さらさら無いんだけども。


「最後は弓士アーチャーです。

弓スキルをメインに戦う後方援護型の役職ですね。


まずこの3つの中から選んでいただいて、

それから同じ系統の上位職を見ていきましょう」


なるほど。

まずは大まかなタイプを決めていくワケだ。


「どれにする?」


俺の言葉にリューナは視線をあげる。


「……オレ、弓士アーチャーが良い」


そなの?

中々面白い選択だ。

俺だったら盗賊シーフも捨てがたいけど、

最終的には斥候スカウトを選ぶだろう。


索敵が出来るのはかなりデカいと思う。

戦わないで済むワケだし。


「はい、わかりました。

では、弓士アーチャーの上位職を

見ていきましょう!」


俺が何か言う間も無く、話はドンドン進んでいく。


「まずは魔法弓士マジックアーチャーですね。

矢に多種多様な付与魔法エンチャントを施して、

臨機応変に戦場を操作します。

ただリューナさんの場合、魔力が足りないので

弓士アーチャーの経験を積んでからジョブチェンジという形になりますね」


「魔法にはキョーミねーな。

魔力が切れたら役立たずっていうじゃん」


それは、魔法職のステ振りなのに

魔力が無い俺をディスってらっしゃる?


まぁでも気持ちはわかる。

ドラクエで魔法使いをクビにしたのは

懐かしい記憶だ。

だってMP回復アイテム高いんだもの。


「では次に行きましょうか。

狩人ハンター弓士アーチャーをより器用にしたようなジョブです。

弓スキル、罠や毒を活用してじわじわと

追い詰めるような戦い方を得意としています。

あとは、追跡スキルなどにも秀でていますね。

こちらは今すぐにでも

就くコトができるジョブになりますよ」


うわぁ、敵に回したくないタイプ。

しつこく追いかけられて

毒の矢を射たれるとか最悪だ。

しかも反撃しようと深追いすれば罠が待っている。


コレは中々強いと思う。

性格が悪いければ悪いほどに。

子供にはあんまり向いてないかもしれない。


「最後は野伏レンジャーですね。

弓士アーチャー斥候スカウト

複合させた様なジョブです。

弓に加えて短剣も扱うコトが出来るので、

戦術の幅が広がります。

索敵から弓での先制攻撃が強力ですね。

こちらも斥候スカウトと同じく、

一党パーティの安定に一役買ってくれるでしょう」


なるほど、面白い。

こういう役割だと低くなりがちな耐久を

遠距離攻撃で問題とさせないワケだ。


敵の近くに行かなきゃ殴られないもんなぁ。


「コレもすぐになれるんですか?」


俺の疑問に朗らかと答えてくれる受付嬢さん。


「あぁ、すみません。 説明が抜けていましたね。

リューナさんの才能値なら可能ですよ」


と、なると狩人ハンター野伏レンジャーのどっちかだろうな。


「……なぁオッサン、どっちにしよう?」


リューナは決めかねてるらしく、

難しい顔でこちらを見上げてくる。


自分で選ぶべきだけど、あんまり突き放すのもなぁ。

助言するくらいならバチは当たるまい。


「まず、絶対にこっちが正解とは言えないだろ。

お前自身が何に重きを置いてるか、

何をしたいのかによって変わる。

単独ソロで自分より弱い魔物を狩りたいなら狩人ハンターの方が強いだろうけど、

一党パーティを組むなら野伏レンジャーの方が良いと思う」


「これからどういう風に戦うかなんて、

そんなの今わかるワケねーじゃん」


ジト目で呆れた視線を向けられた。


まぁ、そうですね。

今日いきなりの話だもんね、ジョブどころか

冒険者になるのもさっき決めたもんね。


諦めて受付嬢さんに聞いてみる。


「あー、才能値の都合だと、

どっちの方が向いてるとかあります?

折角なら、破格の敏捷16を活かしたいですよね」


「丸投げかよオッサン」


横槍を入れてきたリューナに笑って返す。


「使えるモンは何でも使え、だ」


「はぁ?意味わかんねーし」


やれやれ、まだケツの青いガキにはわからんか。

俺は酢いも甘いも噛み分けた大人なので

素直に他人に聞けるのだよ。


「で、どうなんスかね?」


受付嬢さんは苦笑いをおさめて口を開く。


「そうですね、才能値の都合ですか……

コレを見ていただいた方が早いかもですね」


そう言いながら差し出された紙には、


『狩人 器用14 敏捷10 運12

 野伏 器用12 敏捷14 運10』


こう書いてある。


「コレは、アレですか、

この数字がジョブに必要な才能値だと」


「その通りです。

先程のお話だと、敏捷を活かせるのは

野伏レンジャーの方となりますね」


なるほど。


「ただ、コイツ器用も高いですよね?」


リューナのギルドカードには

『器用 14』と刻まれていたはずだ。


「えぇ、十分高いと言って差し支えないですね。

狩人ハンターでも才能値が無駄になると

いうコトは全く無いと思われます」


まとめると敏捷を重視するなら野伏レンジャー

器用なら狩人ハンターってところか。


「じゃあ結局どっちもどっちだな……」


「オッサン役立たずじゃねぇか」


軽くすねを蹴られる。

リューナさん、痛ぇっス。


痛みに堪えながら、何とか言葉をひり出す。


「あ〜、野伏レンジャー

短剣も武器にできるんでしたっけ……?」


たしか、短剣も弓矢も使えるとか言ってたよな?


受付嬢さんはパラリと紙をめくる。

次の紙にはスキル名がズラッと並んでいた。


「そうですね、短剣スキルを習得しやすいです。

逆に狩人ハンターは弓スキルに集中している

イメージですね」


ふむふむ。

あぁ、そうだ。コレも聞いておこう。


「ちなみに弓ってお値段どのくらいなんですか?」


受付嬢さんは下がり眉で答える。


「モノ自体の質にもよりますが、

相場だと短剣の3倍くらいですね……

それに加えて矢の代金もかかりますから……」


食い気味でリューナが言い放った。


「オレ、野伏レンジャーにする」


カネ、無いもんな。




「いらっしゃいませー!」


いつも通り、まんぷく亭の扉を開けると

知らない女性の声が耳に届く。


エプロンをつけて給仕をしている綺麗な娘さんだ。

歳の頃は15か16ぐらいだろう。


「誰?」


首を傾げてると隣からリューナに小突かれる。


「オッサン、毎日来てるとか言ってただろ。

アンタが知らなきゃオレも知らねー」


あ、いや、ただの独り言だったんだけどさ。


そんなこんなしてると、

いつもの様に声をかけられる。


「あぁ、キアンじゃないか、いらっしゃい!」


まんぷく亭のおかみ、アリーさんだ。

今まで心の中では『マダム』と呼んでたんだけど、

この前本名を教えてもらった。


「あっ、お疲れ様でーす」


「あぁ、おつかれさん。

ようやく娘が元気になったから、

少しは楽になるよ」


アリーさんはカラリと笑う。


あー、最初に来た時に

娘さんは風邪で寝てるとか言ってたっけ。

復活したんだな。


ふくよかなアリーさんと違って、

娘さんはスレンダーな別嬪さんだ。


うーむ、眼福眼福。

俺は断じてロリコンじゃないけど、美人は好きだ。

ま、だからどうこうとかはないけど。


「なーに見惚れてんだよ。なぁ、オレ腹減った!」


ボンヤリ眺めてるとリューナにげしげし蹴られる。

頑強の才能値が低いからか、普通にめっちゃ痛い。

あっ、弁慶の泣き所は止めて……!


アリーさんがリューナに気付いた。


「あら、今日は1人じゃないのかい。

どうしたんだい、このコ?」


「仕事場で拾いました」


そう答えると苦笑いされる。


「拾ったって……やっぱりアンタ変わってるねぇ」


自分でもおかしな奴だと思ってますよ、ええ。


「注文はどうすんだい?」


胸を張ってオーダーを通す。


「今日もまんぷく定食で!

2人前のカネ無いんで、分け合って食います!」


「アンタその金回りで

子供拾ってる場合じゃないだろうよ……」


アリーさんには呆れ顔を向けられた。


自分でもつくづくそう思ってますよ、ええ。




「おいオッサン取りすぎだろ!」


「うるせぇ! 俺のカネで頼んだメシだぞ!」


リューナと奪い合いながらメシを喰らう。

あっ、お前ソーセージ取るんじゃねえ!


「ほら、食べな」


横からデカいパンが差し出された。

アリーさんだ。


「え、頼んで無いっス」


俺が驚いて振り向くと、

アリーさんが肩をすくめる。


「アンタら、騒ぎすぎだよ。

コレやるから大人しくしとくんだね」


「い、いいんスか!? ありがとうございます!

ほら、お前もお礼言え」


軽く小突くとリューナはおずおず口を開いた。


「あ、ありがと……おばちゃん……」


「いいんだよ、子供は良く食べな」


アリーさんは優しい笑みを浮かべて

リューナの頭を撫でる。


「おかみさーん、注文!」


別の客の声が店内に響いた。


「はいはい、ただいまー!

じゃ、ゆっくりしていきな」


テーブルに向かっていくアリーさんの後ろ姿を

眺めながら、パンを半分に割る。


「オレこっちー」


お前、デカい方持っていくんじゃねぇよ。


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