表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

その3 必要な出費

冒険者登録をすませ

才能値の低さにあ然とした、

その1時間後。


俺はギルドから借りたスコップで

ドブをさらっていた。


今の所受けられるクエストが

『ドブさらい』ぐらいしか無かったのである。

実力の都合上で。


日本では配管関係の職についていたから、

ほぼほぼ抵抗感は無い。


体力は無いから休み休みやっているけど

こんなんでも職場から逃げ出したりしなければ

一応報酬は出るらしい。


そもそも時間を潰せるスマホも持ってないし、

休んでいても暇なだけだから体力が続く限りは

真面目にやっている。

客先からの評判が良いと

ギルドからの評価も上がるらしい。


あとたまーに使えそうなモノが

出てくるとテンションが上がる。

精々木製のフォークぐらいだけど。


ドブに埋まってた食器を使いたいとは思わないが、

取り敢えず拾っておく。

はした金になるかもしれない。


寝床に関しても見つけられた。

ギルドの裏手にある馬小屋だ。

……ま、野ざらしよりはいくらかマシだろうよ。




拾ったフォークを眺めながら

ギルドへと歩いていく。


どうにか貯金を作って

武器と防具を買うしかないな。

信用が無さすぎて借金も出来ない身の上だ。


馬小屋の横に井戸があったから、

軽く身体を流す。

流石にこんなクソ塗れのままギルドに入ったら

大ひんしゅくだ。


気候的には春先ぐらいだから少し不安だったけど、

井戸水って結構あったかい。

風邪を引くことは無さそうで安心。


なお、大浴場に行くカネは無い。

日本人としてはお風呂入りたいなぁ。


濡れた身体は自然乾燥である。

ちょっと寒い。

タオルか何か買わなきゃ駄目だな。


馬小屋に水洗いした上着を干して、

ギルドへと足を運ぶ。


昼間とは違い、賑わっている受付に並ぶ。

横入りされたらどうしようかと

ちょっとドキドキしていたけど、

そんなイベントは無かった。


あっ、さっきの受付嬢さんだ。

クエストを受けた時に貰った割札を返すと、

報酬が支払われる仕組みである。


「報酬は500ソルになります。

手渡しと預金とどちらになさいますか?」


「手渡しでお願いします」


100ソル硬貨を5枚渡される。

物価も違うから何とも言えないけど、

大体は1ソル=2円ぐらいだ。


今日は昼からの参加だったため、

報酬は通常の半額の500ソル。

日本円に直すと1000円。


つまり、丸一日働いて2000円だ。

安いと思うかもしれないが、

これはかなり破格だと思う。


だって外国とかだと1年働いて

10万円換算しか手元に残らないなんてザラだもの。


この世界の経済がどのくらいのレベルなのか

知らんけど、着の身着のままで死なないのは

相当ラッキーだと言っても良いと思う。

運-18なのに。


ま、目下の目標は3000ソル貯めるコトだな。

それだけあれば武器と防具に手が届く。

一番の安物だけどね。


ギルドは銀行も兼ねているらしく、

最初に渡されたカードを使って

預金や引き出しが可能だ。


強盗などに合わないように、

駆け出し冒険者はカネを

ギルドに預けるコトを推奨されている。

本当の理由はその冒険者が死んだら

そのカネがギルドのモノになるからだろうけどね。


自分が死んだ後のコトはどうでもいいので、

もしカネが余ったらギルドに貯金しとこう。

……ま、当分はムリ。


ちなみに引き出す時に魔道具で

本人かどうか確認するから、

カードを奪ってどうこうは出来ない。

意外とセキュリティしっかりしてる。


話を戻そう。


受付嬢さんにお礼を言って、街に繰り出す。

ドブさらいから帰ってきている時に、

定食屋を見つけた。


まずは腹ごしらえだな。




木製のちょっとオシャレなドアを開くと、

カランカランとベルが鳴った。


「いらっしゃい!」


耳におかみさんの声が響いた。


目を付けていた定食屋の看板には

丸文字で『まんぷく亭』と書いてあった。

どうやら個人店らしく規模は小さい。


テーブルが4卓に、カウンターが8席ぐらいだ。


繁盛しているみたいで、

テーブルは3つ埋まっている。

俺はカウンターに腰掛けた。


テーブルに料理を運んでいたおかみさんが

こっちへ注文を聞きに来る。


「お客さん、ご注文は……

あれ? 昼のお兄さんじゃないか」


驚いた。

冒険者ギルドまでの道を教えてくれたマダムだ。

こんなにスグ会うコトになるとは。


「先程はありがとうございました、

本当に助かりました」


軽く会釈すると、マダムは笑う。


「だから気にしないで良いってば!

しかし不思議な縁もあるモンだねぇ。

それで、注文はどうするんだい?」


「オススメは何かあります?」


俺がそう聞くとマダムは木製のメニューに指を指す。


「ウチの看板メニューは

この『日替わりまんぷく定食』さ。

サラダにスープまで付いてくるよ」


価格は300ソル。

やっす。


「それでお願いします」


「はいよ。まんぷく一丁!

300ソル頂くよ」


マダムがオーダーを通すと厨房の方から

野太い声で、「あいよぉ!」と帰ってきた。


ポケットから100ソル貨幣を3枚取り出して

マダムに渡す。


「御夫婦でやってらっしゃるんですね」


「いつもは娘もいるんだけど、

風邪でも引いちゃったみたいでね。

ヘタに無理すると長引くから休ませてるよ」


なるほど。

家族経営ってヤツだ。


「はい、お水どうぞ。

すぐ出来るからちょっとだけ

待っててちょうだいね」


「はーい」




5分後。


「はい、おまたせ。

『日替わりまんぷく定食』だよ!」


マダムが持ってきてくれたお盆の上には、

実に美味そうな家庭料理が乗っかっている。


鶏肉か何かのソテーに、レタスのサラダ。

根菜のポトフ、そして大きめのパン。


「パンのおかわりは50ソルだよ。

何時いつでも声かけとくれ、それじゃごゆっくりね」


にこやかなマダムに、了承を返す。


「わかりました、ありがとうございます!」


ポトフとソテーは湯気を立てており、

実に食欲をそそられる。


「いただきまぁす」


もう腹がペコペコだ。

俺はパン、と手を合わせて飯に手をつけた。




「ごちそうさまでした」


うーむ、めちゃくちゃ旨かった。


レタスは新鮮で、鶏肉はめちゃくちゃジューシー。

パンは少し固めだったけど、

ポトフに浸して食べれば

むしろ丁度いいくらいだった。


「いい食べっぷりだったね、おかわりは?」


俺が食い終わったのを見計らって、

マダムが話しかけてくる。


「いやぁ、もう満腹ですよ。

すごい美味しかったです」


中々のボリュームだった。

そもそもが少食なので、

おかわりは遠慮させていただく。


朝メシも出来ればココで食いたいな。


「朝はやってるんですか?」


「あぁ、やってるよ。

大体、2の鐘くらいからだね」


ドブさらいの仕事を受けてきた時に受付嬢さんから

教えてもらったコトを思い出す。

この街では鐘が時間の基準らしい。

1日に合計7回鐘がなり、

ソレに合わせて起きたり休憩を取ったり、

仕事を上がったりするワケだ。


普通の仕事は3の鐘から始まるから、

まんぷく亭は早めに開けてるコトになる。

まぁ、労働者に合わせて食事を出すと

そういう時間になっちゃうんだろう。


あ、そうだ。聞いとかなきゃ。


「近くに雑貨屋さんと

古着屋さんってあります?」


石鹸と身体を拭く布、

それに着替えぐらいは最低でも欲しい。


俺の質問にマダムはスラスラと答える。


「あぁ、扉から出て右に2軒行くと雑貨屋、

ウォロのトコだね。

それで、左に3軒行けば古着屋、

サシュナのトコさ」


なるほど。

知らん名前だが、

まぁ大方それぞれの店主さんだろう。


「助かりました、ありがとうございます!

ごちそうさまでした!」


明日も来ますね、と言いながら席を立つ。


「あぁ、待ってるよ!」


マダムは快活そうに笑って送り出してくれた。




「コレだな」


『ウォロの何でも屋』と書かれた看板を横目に、

ドアノブを捻る。

所狭しと並んだ棚に雑多な商品が並べてある。

ウェスと石鹸……駄目だ見つけられん。


「いらっしゃあい」


店の奥から若い男の声が届いた。

丁度いいや。


「石鹸と身体を拭う布切れを探してるんですが、

置いてありますか?」


「ちょっと待ってて、今そっち行きま〜す」


なんか気の抜けたヤローだな。

すぐ出てこないと何か盗まれるぞ。

いや、俺は盗らないけどさぁ。


棚か何かにぶつかってるんだろう。

ガタガタと音を立てながら、

丸眼鏡をかけた背の低い男が出てくる。


「はいはい、石鹸と布切れでしたね」


俺の隣をすり抜けて、

入口横の棚をゴソゴソと漁る男。

いや、『ウォロ』とか言ったか。


「よし、あったあった」


ウォロは腕に抱えた商品をカウンターに並べる。


「えーと、コレがここで一番良い石鹸とタオル。

それぞれ800ソル」


たけぇ。

俺の日給が1000ソルだぞ。

石鹸は透き通っていい匂いがしそうだし、

タオルも日本で使ってたやつよりふわふわだが、

2つとも手が出るワケがない価格帯だ。


そもそも身体を清潔にしたいだけだから、

高級品は一切求めていない。


「もうちょっと安いのは……」


「あ、そう? こっちが一番安いね。

布切れが50ソルで、石鹸が100ソル!」


今度は質が悪すぎる。

ハンドタオルぐらいのサイズで

手触りがガサガサの布に、

穴だらけでちょっとカビの生えた棒石鹸。


これじゃ、頑張って洗顔ぐらいが関の山だ。

あとせめてカビは生やすな。


難色を表情で示した俺を見て、

ウォロが更に商品をカウンターに置く。


「んで、コレが一番売れ行きのお買い得品。

タオルが100ソルで石鹸が200ソルだよ」


「なぁんでハナっからソレ出さないかな」


「あはは! いや、失敬!」


思わずツッコんだ俺に、

ウォロはケラケラと笑う。

コイツの相手してるとなんだか調子が狂うな。


それなりの質のフェイスタオルに、

普通の手洗い石鹸。

こういう工事の引き出物で配られるくらいの

薄っぺらいタオルが一番使い勝手はいい。


ただ、現在の所持金額が200ソル。

両方買うには足りないし、石鹸を買っちゃえば

文無しオケラにまっしぐらだ。


明日の朝飯の分くらいは

残しとかないと辛いだろう。


まんぷく亭でおかわりのパンが

50ソルだったはずだから、100ソル残しとけば

腹ペコで動けなくなるコトはあるまい。


よし、決めた。


「タオルだけください。

石鹸も欲しいんですが、

持ち合わせがありません。

取り置きとかできませんか?」


「取り置きも何も売れ行き商品だからねぇ。

いつ来ても置いてあるよぉ」


へらへら笑うウォロ。

ならますます最初に出せよ。


ポケットの中からコインを一枚渡して、

タオルを受け取る。


「はい、毎度あり。

財布も売ってるから、そのうち買ってねぇ」


うるせーこのヤロー、余計なお世話だ。




古着屋も覗いて行く予定だったけど、

カネも気力も無くなってきたので

諦めて帰路につく。


ただでさえドブさらいで疲れてんのに、

ウォロの野郎のせいで気疲れまで加わってやがる。


冒険者ギルドの裏手の馬小屋に辿り着き、

空いているスペースに寝藁を放り込んだ。


ドブさらいから帰ってきた時に水も浴びたし、

このまま寝てしまおう。

寝藁に転がると首筋にチクチク刺さってくる。


タオルを畳んで枕代わりにすると治まった。

……早くまともな家に住みたい。


干しておいた上着を掛け布団代わりに

身体に乗っける。

風通りが良いらしくもう乾いていた。

ぶっちゃけちょっと寝心地は悪い。


こんなんで寝れるのかと思ったが、

労働によってくたびれた肉体は

俺が思ってたよりも休みたがっていたらしい。

すぐに目蓋が落っこちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ