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20/22

その20 舞い込む難題

「うーん……」


朝の冒険者ギルドで俺は唸っていた。

原因は差し出された討伐依頼書だ。


『村近くの洞窟に住み着いた

ゴブリンの群れの討伐』


「お受けしていただけませんか……?」


受付嬢のセラさんは難色を示す俺に

眉尻を下げる。


トレシアさんを例のエルフに預けてから

2日が経った。


昨日の夕方の時点で

「あと1日はデータ取りに使いたいね」と

彼女は言っていた為、もしこの依頼を受けるなら

パーティーメンバーが1人欠けた状態となってしまう。

ここ2日はドブさらいで凌いでたっていうのに、

最後に嫌な話が舞い込んで来たモンだ。


「う〜〜〜ん」


腕を組んで依頼者を読み進める。


『村の女性や家畜が拐われており、

早急な対処が必要』


「他に受けれる冒険者はいませんか?」


俺の質問にセラさんはため息をつく。


「実力のある徒党パーティーは皆、出払ってまして……

キアンさん達には巨大蜚蠊ギガントローチ

倒した実績もありますから……」


他の初心者パーティーよりはマシだと。

セラさんは続ける。


「既に人的被害まで出てしまっているので、

このまま放置していると村が滅んでしまいます……

どうか受けていただけないでしょうか……?

ギルド評価を高くしますので……」


ヨシケルにポンと肩を叩かれる。


「キアン、受けてあげようよ。

ゴブリンに好き放題されるなんて許せない」


「オレも受けたいかなー。

弓の練習になるし」


リューナにしては珍しく乗り気だ。


器用なコイツは数日の練習であっという間に

『弓のコツ』スキルを習得してしまった。

本人が言うには実戦経験が無いと

これ以上は上手くなれないらしい。


俺は考えをまとめて、口を開く。


「……一旦、保留で」


ヨシケルは眉をひそめた。


「正気か、キアン?

ココで受けないと誰か死ぬんだよ!?」


「んなコトぁ、わかってるよ。

良いから少し落ち着け」


俺の答えに、ヨシケルは苛立ちを露わにする。


「そうかい……君がそこまで腰抜けで

非情なヤツだとは思ってなかったよ。

セラさん、僕だけでも受け、痛い!」


ヨシケルの言葉を遮るように

スパァン!と良い音を立てて

リューナのローキックが炸裂する。


あー、ありゃあいいトコ入ったぞ。


「おいバカ、待て。

オッサンにも考えがあんだろー?

話ぐらいは聞けよ」


脚をかばいながらカウンターにもたれるヨシケル。


「何も蹴らなくて良いじゃないか……

あいたたた……」


「あー、ヨシケルいいか?

一旦、例のエルフの所に行こうぜ」


ヨシケルは首だけをこちらに起こした。


「何の為にだい?」


決まってる。

メンバーが欠けてるのが

一番の懸念点なんだから解決策は一つだ。


「今日だけトレシアさんを返してもらおう。

向こうだって1日ぐらいなら待っててくれるだろ。

多分……」


ヨシケルはホッとしたように笑う。


「なぁんだ、ソレを先に言ってよ」


「お前が聞く耳持たなかったんだろうが」


こっちは言うつもりだったわ。


「決まったんならさっさと行こーぜ」


リューナに袖を引っ張られる。


「はいよ、セラさんまた来ます」


「はい! お待ちしております!」


ようやく笑顔が戻ってきたセラさんに挨拶して、

俺達はギルドを後にした。




「ゴブリン退治?」


紙に羽根ペンを走らせていたエルフが顔を上げる。

俺は人差し指を立てた。


「えぇ、1日だけトレシアさんを

返して頂けませんか?」


エルフはペンを置いてこちらへ視線を向けた。


「ふむ、群れの規模は?」


予想外のコトを聞かれて思わず間抜けな声が出る。


「へぁ? あぁ、村娘と家畜を拐う程度らしいです。

大体20匹前後と聞いてますね」


俺の言葉を聞いたエルフはブツブツと

考えを巡らせる。


「なるほど、小規模から中規模へと

成長しようとしている巣か……

フィールドワークねぇ、机上で考えているだけだと

手詰まりになりそうだし丁度いいかな。

おーい、シスタークン!」


いきなり立ち上がり叫ぶエルフ。

うわ何、こわいなぁ。


「え、あ、ひゃい! んぐ!?」


朝食のパンを食べていたらしいトレシアさんから

慌てたような返事が返ってきた。

どうやら喉に詰まらせたらしい。


「ほら、水」


「んぐ、ごぼ! げほげほ……

……ふぅ、すみません、リューナさん」


いつものように

トレシアさんの背中を擦るリューナ。


「アイツ、トレシアさんには優しいよな」


俺のボヤキにヨシケルが首を傾げた。


「良いコトじゃないか」


そうなんだけどさぁ……

俺達にも、もうちょっと手心というか……

エルフが話を再開する。


「シスタークン、良いかい?」


「あっ、すみません……何ですか?」


「今日はフィールドワークだよ。

出かける準備をしたまえ」


「え!? 今日は変な魔法を

かけられなくても良いんですか!?」


目を輝かせるトレシアさん。

一体、毎日何をされてたんだ。


エルフは楽しそうに

ゴミの山から荷物を取り出す。


「さぁて、行こうか。

うーん、ゴブリン討伐なんて久しぶりだよ!

どの魔術を使おうかな?」


「へ? あ、来るんスか?」


思わず出てしまった俺の言葉に、

エルフは眉をひそめる。


「なんだい、ボクは仲間はずれかい?

この大天才魔術師を無視だなんて

あんまりじゃあないか。

それに、魔術の指導だって

実際のモノを見るのが一番なんだよ?

シスタークンの実戦も見てみたいし……

これは一石二鳥、いや、一石三鳥の

実に素晴らしい案というワケだよ!

わかるかい?」


何か火をつけてしまったらしい。

ヨシケルに肘で小突かれる。


「キアン、こういう時は

助かりますって言わないと」


慌ててフォローを入れる。


「あ、いや来てくれるなら万々歳ですよ。

予想外だっただけで」


リューナが俺の言葉を継ぐ。


「魔法使いが増えるんなら

だいぶ楽になるもんなー」


ココ数日の印象で学者だと思ってたけど、

そういえば魔術師ウィザードなんだっけ。


「良おし! そうと決まれば善は急げだね!

さぁ向かおうじゃあないか!」


手をブンブンと振るエルフ。

なんでそんなに乗り気なんだよ。




「ここか」


乗合馬車に揺られるコト1時間。

のどかな農村へ辿り着く。


ヨシケルは感慨深そうに言う。


「ウチの村を思い出すなぁ」


そういや農村の生まれって言ってたっけ。


「まずは村長さんに挨拶しましょうか……」


トレシアさんの言葉に頷く。


「あぁ、そっスね。……どの家だろ」


「アレじゃあないかい?」


エルフが指を差す。

そこには素朴ながらも屋敷と呼べる

家屋が建っていた。


「ごめんくださーい、

冒険者ギルドの方から来たものですが」




「初めは野菜を盗まれるぐらいだったけンども、

最近になって娘っ子や家畜ベコまで

拐われるようになってしもうて……

もうどうしたらええモンか……」


おじいちゃん村長は

疲弊した様子でこんこんと語る。

コップを握る手は震えていた。


「村長さん、安心して!

僕らが一匹残らずゴブリンをやっつけるよ!」


ヨシケルがドン、と胸を叩く。

ほっとしたように息を吐く村長に質問を投げた。


「洞窟の場所ってわかります?

あと、デカいやつがいませんでした?」


受付嬢のセラさんに教えてもらったのだが、

ゴブリンには巨大な体格の先祖返ホブ

魔術を扱う呪術師シャーマンなどの上位種が存在するらしい。

冒険者の職能ジョブみたいなモノだろうか。


「へぇ、ウチの若いモンに案内させます……

ゴブリンを見かけたのもソイツですから、

細かいコトも説明できますじゃ。

おぉい、ジャサを呼んでくれぇ」


5分程待ってヨシケルと丁度タメくらいの

若者が村長宅にやってくる。


「木こりの、ジャサ、と言いまス」


挨拶もそこそこに、情報を渡してもらう。

彼が見たのは、ホブゴブリンが引率する

5匹程度の群れだそうだ。


「ホブが見回りねぇ……」


エルフは、ふむ、と腕を組む。


「何かありました?

確かにホブゴブリンがいるのは面倒くさいですが」


「いや、そうじゃあないよ。

ただ『変』だと思ってね」


変?

エルフは唐突に質問をしてきた。


「キミ達、ゴブリンの討伐は何回目かな?」


「初めてですね」


「ネズミとゴキブリだけだったからなー」


「基本はドブさらいだしね……」


「私もゴブリンは初めてです……

教会では不死者アンデッドの浄化ばかりだったので……」


上から俺、リューナ、ヨシケル、トレシアさんの

反応である。


「なるほどねぇ。

運が良いのか、悪いのか……

いいかい? ゴブリンっていうのは、

基本的に不真面目なんだ。

特に上位種ともなれば尚更ね。

そのホブが真面目に巡回してるとなれば?」


なるほど。

俺はエルフの言葉を引き継ぐ。


「ホブより上のヤツがいる、と」


エルフは銃口のように人差し指をこちらに向けた。


「そういうコトさ。

小鬼王ゴブリンロードが妥当な所だけど、

とんでもない化け物が潜んでるかもねぇ」


ひぇえ、と震える村長。

しかしこのエルフやたら詳しいな。


「詳しいッスね」


「あれれ、言ってなかったかい?

ボクは魔物の研究家なんだよ。

ゴブリンはその中でも得意分野さ。

読書家のゴブリンが弟子にいるからねぇ」


そんなヤツまでいんの?




兎にも角にも敵を知らなきゃ策の立てようもない。


取り敢えず、ゴブリンの巣穴に行ってみようと

話が決まった。


「このあたりでス」


「ありがとう、ジャサ! 助かったよ!」


「そこまで遠くねーな」


山登りにも余裕そうな肉体労働コンビに比べ、

大人組は疲労が隠しきれない。


「ぜひゅ、がひゅ、し、しぬ……しんでじまう……」


「陽の光が……地母神さま……か弱い私を……

お守り、ヴォエっ……」


「くそ……このボクの天才的な脳へ酸素が

届かなくなってしま、げふごほがへ!」


えづくトレシアさんに、むせるエルフ。

リューナが呆れて肩をすくめた。


「んだよ、だらしねーな」


「冒険者は体がシホン? らしいよ!」


にこやかなヨシケルに返す。


「だから俺は頭脳派なんだってば……」


俺に続いてエルフはため息をついた。


「それにはボクも大いに同意したいね……

山登りなんて何十年ぶりかなぁ……?」


「あつい、いたい、つらい……」


トレシアさんはうわ言のようにそう呟く。

大丈夫かな、成仏しちゃわない?


「巣穴の様子見てみる」


息を整えている俺達を尻目に、

リューナは木にスルスル登っていく。


「どんなカンジ?」


「あー、見張りがいるなー」


まだ100mぐらい離れてるみたいだけど、

よくまともに見えるな。


「索敵スキルにも反応があるなー。

2匹で見張ってて、中に、1、2、3……

うわ、なんかすげーいっぱいいるぞ」


ヨシケルが目を見開いて聞き返す。


「本当に?」


「ウソなんかつかねーよ。

オッサン、20匹って2が10コだったよなー?」


最近、リューナは数字を覚えた。

子どもは飲み込みが早い。


「合ってるぞ。 4匹が5コでもいい」


「見えるだけでも、5匹が10コより

いっぱいあるぞー」


50匹超えるん?


「ふむ、そこまでいってしまうと、

大規模な巣になってくるねぇ」


エルフは何が楽しいのかくつくつと笑う。

俺にとっては笑い事じゃない。


「ムリだな、帰ろう」


「村の人はどうするんだい?」


眉をひそめるヨシケル。

悪いようにはしねぇよ。


「一旦避難してもらおう。

応援を呼んだ方がいい」


50匹以上いるなら計算では1人10匹以上

ゴブリンを倒さなきゃいけないコトになる。

さらに弱い下水道の魔物だって1日5匹が

いつものペースだってのに。


「村長さんに僕が倒すって

言っちゃったんだけど……」


「しょうがねぇよ。

最初と事情が違うんだ。

ウソをついたワケじゃない。

流石に『芽』の俺達には無理だ」


ギルドの冒険者には、

階級ランクというモノがある。

S級A級とか、なろうでよく見るヤツだ。


ただ、ココでは呼び方が少し特殊で下から

『種』『芽』『葉』『枝』『幹』『若木』『成木』『大木』『世界樹』

となっている。


そんで『枝』から上が一人前、

『成木』から上が実力者と扱われる。


俺達は下から2番目の『芽』で、

魔物を1匹でも倒せば自動的に昇格できるので、

実質的には最低ランクだ。


「まぁ待ちたまえ、キミ達」


顔を突き合わせて相談して入る所に、

エルフの声が突き刺さる。


「はい?」


「撤退する必要は無いよ、ほら」


差し出された小さい板を受け取る。

冒険者カードだ。


階級ランク『大木』


ソコには、立派な木のイラストと共に

そう書かれていた。

上から2番目の上位実力者の証である。


「……マジすか?」


驚愕する俺にエルフは飄々と言う。


「冒険者カードの偽造は大罪だよ。

ボクはそんなバカなコトするつもりはないねぇ」


「エルフのねーちゃん、そんなに強いのかー」


木から降りてきたリューナが俺の手元を覗いた。


「おー、でっかい木が描いてある」


「僕にも見せてよ!」


字が読めなくてもなんとなく凄さは伝わる。

盛り上がる俺達にエルフがさらりと言う。


「コレで実力の心配はいらないね?

キミ達の命はボクが保証しようじゃあないか」


おぉ、カッコいいセリフ。

俺は手のひらをひっくり返す。


「先生と呼ばしてください」


頭イカれてるとか言っちゃってごめんなさい。


「おや、懐かしい響きだねぇ。

いいとも、好きなだけ呼んでくれたまえ」


「先生!」

「先生!」

「センセー!」


盛り上がる俺達に蚊の鳴くような声が投げられた。


「え、あ、引き返さない、んですか……?」


トレシアさんは完全に帰る準備をしていたらしい。

聖職者ェ……

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