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その19 神頼み

パン屋を後にした俺達は大通りを歩いていた。


「で、次はドコ行くんだー?」


リューナの質問に少し考える。

エルフの注文で残ってるのは飲み物と日用品か。


「飲み物は重いから最後だとして、

日用品ならウォロの所かねぇ……」


「あぁ、あの胡散臭い店主の雑貨屋だよね?」


「アイツのとこかー……」


微妙そうな表情の2人。

まぁ言いたいコトはよく分かる。

値段も安いし、モノは良いんだが

なんかどうにも腹立つんだよな、アイツ。


ウォロの所も最初に行ったのは

転生2日目だった気がする。

石鹸とか買いに行ったんだっけ。


「あそこだ」


そんな考えにふけっていると、

『ウォロの何でも屋』と書かれた看板が

すぐそこまで来ていた。


「いらっしゃあい」


扉を開けると若い男の声が

店の奥から聞こえてくる。


「相変わらず気の抜けたヤローだな……」


せめてカウンターに座ってろよ。


「やぁやぁ、お待たせぇ」


小さい丸眼鏡をかけた背の低い男、

ウォロがガタガタと音を立てて出てくる。

またしても棚にぶつかっているらしい。 


「ウォロさん、泥棒とか大丈夫かい?」


心配そうなヨシケルにウォロはへらへら笑う。


「だいじょぶ、だいじょぶ。

盗まれて困るモノは奥に置いてあるから。

すぐ盗れるのはガラクタだけだよ。

まぁこの店の商品なんて殆どガラクタだけどねぇ」


じゃあ商品盗まれてんじゃねぇか。


「でもコレ、盗みにくいなー。

片手で持てるモノが入口のすぐ近くにないぞ」


感心したような声を出すリューナ。


そなの?

元盗人目線でも意外と

セキュリティがしっかりしているらしい。


「それで、今日は何の用かな?」


ウォロの声に目的を思い出す。


「あぁ、そうだった、日用品が欲しくてさ。

なぁ、あのエルフなんか細かく言ってっけ?」


「いや、日用品としか言ってなかったハズだよ」


「オレも聞いてねー」


2人の答えにうーむと考えこむ。

まぁ、石鹸とタオルぐらいか?

するとウォロがのんびりと口を開いた。


「あのエルフって、もしかして

町外れに住んでる学者さんのコト?」


「あれ、知ってんの?」


魔術師ウィザードだと聞いていたが、たしかに

学者という方が表現としてはピッタリだろう。


「ちょっと『ココ』がイカれた人でしょ?

知ってるも何もお得意様だよ。

不思議な縁もあるものだねぇ」


頭に指を差すジェスチャーをして、

何か納得したのかうんうんと頷くウォロ。


「彼女だったらいつも買っていくモノは

決まってるからまとめて包んどくよ。

ま、端数はおまけしてちょうど5000ソルかな」


「リューナ、あといくら余ってたっけ」


「んーと、10000ソルが1枚に、

1000ソルが……いち、に、さん……

8枚に小銭がいくつかだなー。

細かいのはオッサン数えてくれ」


カネの入った巾着袋を渡される。

えーと……18460ソルか……


ま、ココに来るのも初めてじゃあないし、

ボられるコトもそうそうあるまい。

そもそも俺達のカネじゃないし……


「よーし、買った」


「はい、毎度あり。

用意するからちょっと待っててねぇ」


再び店の奥へ引っ込んでいくウォロ。


「んじゃ、後は飲み物だけか」


「僕らいつも井戸水で済ましちゃうから

どこで買えば良いのか知らないね」


「テキトーに瓶だけ買って水汲んどきゃ

いーんじゃねーの?」


「そういうワケにもいかんだろ」


仮にもカネもらってんだし、

言われたモンは持って行かないとダメだと思うの。


「じゃあどうすんだよー?」


「なんか良い店ないかウォロにも聞こうぜ」


「それが良さそうだね」


3人でごちゃごちゃとくっちゃべっていると、

ウォロが袋を2つ持って帰ってくる。


「じゃあしめて5000ソルだよ」


財布から取り出した1000ソル札を5枚渡す。


「はぁい、確かに。

何かご入用があればまたウチに来てねぇ」


軽い方の袋をリューナに渡しながら、

ウォロに聞いてみる。


「なぁ、良さげな飲み物売ってる店ない?

酒じゃなくて、果実水とかそういうの」


完全に偏見だけど

エルフは果物とか好きそうだし……


「それも入れてあるよぉ。

あの学者さんはいつも

同じハーブ水を買ってくからねぇ」


ウォロの答えに顔を見合わせる。


「……帰るか」


「そうだね」


「ま、ラッキーだったなー」




パンを齧りながら街の外れへ辿り着く。


「また鍵開いてるな……」


「不用心っていうより、バカだなー」


「しっ、聞こえるよ」


明け透けなリューナをヨシケルがたしなめる。


「戻りましたー」


そう呼び掛けながら廊下を進んでいく。

ちなみにこの家は玄関で用意された上履きに

履き替えるシステムだ。


異世界だからってどこも土足じゃないんだね。


「あぁ、キミたちか。入りたまえ」


「お疲れ様です。どうすか?

トレシアさんの方、は……」


「シテ……コロシテ……」


俺達の大事なパーティーメンバーは、

敷かれた布団の上でビクビク震えていた。


「ちょお、何をやってんの!?」


動揺する俺にサラリと答えるエルフ。


「ん? 耐性の研究だが?」


「だが、じゃねぇんだわ?」


「今は精神錯乱の魔術をかけた所だよ。

勿論ごく弱めてあるから安心したまえ」


一体どこに安心する要素があるのだろうか。

リューナがトレシアさんの頬をペチペチ叩く。


「おーい、シスター大丈夫かー」


「……アパロクロサッチ……ヘベロカレタッチ」


「ダメそうだね……」


ダメなんじゃねぇか。


「基本的に神官プリーストは精神関与系の魔術には強いハズなんだけどねぇ。

ボクの仮説では、魂がすでに呪いに抗っている為に抵抗力を失っているというのが本命かな」


「じゃあその魂を更にいじめたら、

本当に不死者アンデッドになりかねないんじゃ?」


カゼ引いてるヤツに無理して運動させたら

余計カゼは酷くなるんじゃない?

大丈夫?


エルフは顎に手を当てる。


「ふむ、普通に考えればそれもあり得るかもね。

呪術的な観点では安定した状態には

見受けられるけども、魂を焦点にあげるとすれば

中々不安定な状態と言えるかもしれない」


「あり得るんなら、今すぐ止めてくれません?

どうすんの、本物の不死者アンデッドになっちゃったら」


人殺しもいいトコだぞ。

しかし、そんなコトなんて気にしないで

飄々と話し続けるエルフ。


「キミ、話は最後まで聞くものだよ。

あくまで『普通に考えればあり得る』だけだ。

彼女の状態はどう見たって普通じゃあない。

不死者アンデッドという、善神からは毛虫の如く嫌われている存在にも関わらず、

地母神は彼女を見放していないどころか

通常よりも強い加護を与えている。

つまり、神から見ても彼女は『人間』なんだよ」


人間、ねぇ。

話し込む俺達の後ろでは、

引き続きリューナがトレシアさんの頬を

軽く引っ叩いている。


「シスター、返事しろー」


「んぅ、あぅ、うぅ、いたっ、リュ、さ、やめ」


「止めてって言ってないか?」


どうやらトレシアさんは正気をとり戻したらしい。

良かった良かった。

エルフが人差し指をピンと立てる。


「彼女の精神耐性は中々不思議だ。

異常状態への抵抗レジストがほぼ無いのにも

関わらず回復だけはずば抜けて早い。

おそらく、肉体や脳まで

異常が染み込まないからだろうね。

ボクも結構長く生きてるハズだが、

こんなコトは初めてだよ。

興味深いのは肉体反応は完全に不死者アンデッドのモノだと言うコトだ。

つまり、『不死王の呪怨』と高位神官アークプリーストの性質が上手い具合に均衡している。

もはや芸術作品と言ってもいいね!」


興奮した様子で捲し立てられる。

この人怖いんですけど。

俺は本題の方へ話を持っていく。


「で、治し方、とかはわかります?」


エルフはため息をついて答える。


「そうそう結論を急ぐんじゃあないよ。

この問題はかなり複雑なんだ。

ボクでも解決に時間を要するほどにね。

ただ、今の時点でも一つだけやり方はあるねぇ」


「やり方?」


治し方、じゃなくて?


「『神頼み』さ」


「スピリチュアル」


マッドサイエンティストみたいなカンジなのに。


「これでも結構真面目に言っているんだよ。

神は彼女を見放していない。

祈っていれば上手い具合に

解呪してくれるかもしれないじゃあないか?

それに、シスターなんだから

祈るのは得意だろう?」


そう言い切って彼女はニヤリと笑った。

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