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その14 プリーズ・トゥー・ミー・加護

目を開くとそこは謎空間だった。

転生の時に呼び出された所だ。


確かいつも通り、馬小屋で寝てたはずだけど。


「あら、どうもお疲れ様です」


ミカンを剥いている美女が、

おやまぁ、という感じで口を開いた。

気がつけば俺はちゃぶ台の前に座っている。


「アンタが呼んだんじゃないのかアンタが」


なんで予想外みたいな反応なんだよ。


「いやぁ、いきなりチャンネルが

繋がったモノですから」


誤魔化すように、うふふと笑う美女。

女神クローディアだ。

チャンネルって、

そんなラジオみたいなシステムなのか。


「あ、食べます?」


ミカンを差し出されるが首を横に振る。


「果物苦手なんで遠慮しておきます」


じゃあお菓子でも、といつの間にか

横に置かれた冷蔵庫を開ける女神。


プリンが差し出された。

ご丁寧にプッチンまでしやがって。


一応お礼を言ってスプーンを差し込む。


「それで、調子はいかがですか?」


ニコニコと聞いてくる女神に、

プリンをついばみながら聞き返す。


「どうですかって見てたんじゃないですか?」


腐っても鯛だ。

下界のコトなんか

手に取るように分かるイメージだけど。


あ、このプリン不思議。

見た目はプッチンプリンなのに

味はサイゼのやつだ。


「いやぁ、お恥ずかしながら

もうそんな力も残されて無いんですよねぇ。

こうやって貴方と会えているのも、

祠を作ってくれたおかげで少しだけ力が

使えるようになったからなんですよ」


クローディアは、たはは……と笑う。


「マジすか」


異世界に人を呼べる程の女神がそこまで

してやられるとは信じがたいけど。


「大マジです。

だからこそ貴方をこの世界に呼んだワケですよ」


そういや転生させられるとき、

私の運命もかかってるとか抜かしてたなぁ。


「呼んだといえば、俺をココに呼び出してるのは

大丈夫なんですか?」


この謎空間まで俺を連れてこようと思ったら

結構面倒臭そうだけど。

あんな水と飼い葉のお供え物だけで

賄えるんだろうか。


「えぇ、魂だけ呼び出してますからね。

わかりやすく例えるならオフラインで

めちゃくちゃ画質の荒いマインスイーパーを

遊んでるぐらいの負荷しかかかってません」


人の魂を低容量みたいに言わないでくれ。


「じゃ、逆に転生の時は結構使ったんですか、

神様パワー的なサムシングを」


この話の流れなら、肉体ごと転生させると

かなり大変そうだけど。


「いえいえ、そんな余裕ありませんでしたよ。

転生先で同じ肉体をコピーして、

魂を移動させただけです。

感覚的にはFAXを送るのに近いですかね?」


脳みそまで新しいモノになってしまってるなら、

それは本当に俺が俺なのか怪しいのでは。

『テセウスの船』という寓話が脳裏をよぎる。

……深く考えるとドツボにハマりそうなので

取り敢えず横に置いておこう。


「じゃ、もとの身体はどうしたんですか」


家に死体だけ残ってるとか止めてくれよ。


「安心してください、

ちゃんと無痛デリートしました!」


なにそれこわい。

怯える俺をヨソに、女神が思い出したように言う。


「そうでした。

どうです? 異世界での生活は?

上手くやれそうですか?」


目をキラキラさせる女神クローディア。

気の毒だが、現実を告げねばなるまい。


「ドブさらい」


ボソリと言った俺にクローディアが聞き返した。


「はい?」


もう一度言ってみる。


「転生してしばらくはドブさらいでした」


慌ててフォローする女神。


「ま、まぁ、冒険者の一番最初なんて誰でも

そんなモノですよ! どんな英雄だって最初は

ジャイアントラットからですから!」


「ジャイアントラットには殺されかけてます」


「えぇ……」


困惑する女神へ更に現実を突きつける。


「職無し」


「え?」


「才能値が低すぎてジョブが選べません」


クローディアは目を泳がせた後に、

どうにか明るく言葉をひり出した。


「……ま、まぁ、職無しは様々な能力を

手に入れられますから!

スキル構成を工夫すればなんてことないです!」


「魔力が0、運がマイナス18でした。

あとついでに器用が5です」


スキルの覚えやすさは

適切な職能ジョブを得てるかどうかと、

対応する才能値の高さによって決まる。

つまり、職無しの上にほぼ全てのステータスが

壊滅的な俺はスキルすら覚えにくいというコトだ。


「……」


言葉をつぐんで、うつむき目を伏せる女神。


「俺の肉体を再構築した……

みたいなコト言いましたよね?」


「……はい」


座布団の上で小さくなっていく

ポンコツを問い詰める。


「どうしてその時に

才能値を確認しなかったんですか?」


「……テンション上がっちゃって」


「どうして魔力を多少なりとも

付けなかったんですか?」


「……地球人が魔法を使えないコト、忘れてました」


「どうして神様が付いてるのに、

運がマイナスなんですか?」


「……加護を付けるのって割とコスト重いんです」


逆に何の役に立つんだアンタは。


「わ、わかりました!

今から加護をつけましょう!

大したモノはありませんが……」


「例えばどんなのが?」


「『安眠の加護』『快眠の加護』

『寝付きの加護』とかですね!

どれが良いですか!?」


ほんとにしょうもねぇな、オイ。

どこでテンション上げてんだ。


「何故こんなに寝るコトに特化してるんスか」


「あぁ、言ってませんでしたっけ?

私、昼寝の女神なんですよ」


えぇ……

ちなみに俺はそもそも寝付きが良く、

長時間安眠できるタイプである。

加護を貰っても完全に腐ってしまうだろう。


「なんかもっと役に立ちそうなヤツないんですか」


「んー、ちょっと待ってくださいね」


クローディアがしなやかな指をパチンと鳴らした。

『女神カタログ』と背表紙にオシャレな字体で

書かれている百科事典のような本が

どこからか出現する。


「うぉ、ビックリした。なんですか、ソレ」


「女神カタログです。細かい仕様とか、

許可されている加護とかが書いてあるんですよ。

あ、良かったら読んでみます?」


「それはありがたいですけど、

俺が見ちゃって大丈夫なんですか?」


「見てはいけない部分は

勝手に読めなくなりますから大丈夫です!」


すげぇな女神デバイス。

2冊目の『女神カタログ』が俺の前に置かれる。


パラパラとめくってみると、

確かに7割ぐらい読めない文字で書いてある。

文字化けや暗号ともちょっと違う、

なんとも説明し難い不思議なカンジだ。


「神としての権限が増えると読めるページが

増えていくんです。

私も3割ぐらいは読めません!」


アンタは全部読めてくれよ、頼むから。


『加護について』と題名がついたページを

ようやく見つけ出し、俺は手を止めて

細かく活字を読み込んでいく。


「神の力の使い道の1つ、

『加護』は天界規定で許されている

地上に干渉する数少ない手段の1つです……

ただし、力をそのまま分け与えるのではなく

神ポイントを消費する点には注意しましょう。

この規則を破って神格を地上の者に与えると、

最悪の場合は天界を追放されます。

用法用量を守って楽しい『加護』ライフを……」


神ポイントってのは何なんだろう。


「神の力が上がる度に貰えるポイントです。

色んな賞品と交換出来るんですよ!」


そんな俗世的なカンジなの? 神って。


ふーん、と相槌を打ちながら

カタログとやらを読み進めていく。


『聖剣の加護』とかのバチクソ強そうなのもあれば、

『唐揚げの加護』とかいうめちゃくちゃ

しょうもなさそうなのもある。


「アレ?」


そこであるコトに気付いた。


「トレシアさんの冒険者カードにはこんなに

細かく書いてなかった気がするんですけど」


『地母神の加護』とだけ書いてあって、

詳細どころか加護の名前も記されていなかった。


「あぁ、地上の魔道具だと

『どの神からの加護なのか』という所までしか

わからなくなっているんです」


「なんでそんな面倒くさいシステムに?」


「こう、ナントカの加護とか書いてあるより、

神の加護!って書いてあった方が

有り難みがあるじゃないですか」


へらへらと女神が笑う。

そんな理由なのかよ。


「神の力の源は信仰ですから、

そういう箔付けもとっても大事なんですよ?」


そう言われると一理あるような気も……


そんなおしゃべりをしながら

カタログを眺めていると1つの加護が目に付く。


「才能増強の加護……」


「あぁ、それは文字通りに

才能値を上げる加護ですね。

弱いモノは2割増、

強いモノだと倍から3倍とかになります」


つっよ。


いや待てよ、倍率式?


「てコトは、元々の才能値が低いと……」

「効果は薄くなっちゃいますね……」


俺の才能値で一番高いのは、精神の19だ。

しかし、魔法が使えないせいで

ほぼ腐っているステータスを

強化しても何の意味もないだろう。


他に何か無いのかと目を皿にして隅々まで探す。


才能系の加護が記されているページの一番端、

隅っこの方に書いてあったソレに目を留めた。


「コレは……?」


「『才能付与の加護』ですね。

あんまり人気無いやつです。

先程の『才能増強』が掛け算だとすると

こちらは足し算になっていて、

コストの割に才能値が増えないんですよ」


なるほど。


「+1の加護でも、×1.2のモノより

女神ポイントがかかりますからね……」


才能値の平均が10だから、

普通に考えれば『才能増強』だと12まで増えるのに、

『才能付与』だと11にしかならない。


だが、コレは使える。


「魔力に+1の加護を貰えます?」


「へ?」


ポカンとする女神。


今喉から手が出る程欲しいのは魔力だ。

これさえあれば19の精神と17の知能が

ようやく活かされるワケで。


そもそも筋力とかの物理的な

才能値も壊滅的なんだ、

例え数値が1だとしても魔法職を目指した方が

まだ未来があるだろう……たぶん。


「あー、そういうコトですか……

私としては『オフトゥンの加護』とかが

オススメなんですけど……」


唇をとんがらせる女神クローディア。

なんだその加護はちょっと気になるぞ。


「神ポイントは……あっ、ちょうど足りてます」


白魚のような指が女神カタログの文字を

2回タップする。


タブレットみたいな使い方できるのかコレ、

便利だな。


ペポン!と効果音が響く。


「これで加護が付いたはずです!」


だが特に身体の変化は見受けられない。


「今は魂のみの状態ですからね。

目が覚めれば分かりますよ」


にゃるほど。

あ、プリンまだ残ってる、食べちゃえ。


「アレ?」


スプーンを握ろうとすると、

手が透けているのに気付いた。


「あら、もう夜明けですか」


クローディアが頬に手を当てる。


「マジすか」


慌ててプリンを掻っ込む。


「目が覚めれば、加護の恩恵を受けられるはずです。

それでは頑張ってください!

あ、お供え物なんですけど

葡萄酒ワイン麦酒エールだと嬉しいです!

よろしくお願いしまーす!」


ひらひらと手を振る女神へ

『贅沢言ってんじゃねぇ』と

ツッコもうとした所で意識を失ったのだった。

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