開拓団
太平洋戦争後、私たちの御先祖様が移住して開拓した菊池村の片隅に住居がある私は、朝1番に畑から収穫して先程まで井戸で冷やしておいたスイカを切り分け、蚊取り線香の煙がたなびく廊下の縁に腰掛け座敷のテレビに映るオリンピックの競技に見入る。
首に巻いた手ぬぐいで流れ落ちる汗を拭い、団扇で扇ぐ。
テレビの画面にはエッフェル塔の前を駆け抜けて行くマラソンランナーたちが映っていた。
と、その時突然ノイズが走る。
テレビの画面にでは無く、私の目に映っている全ての物にノイズが走ったのだ。
直後、見ていた全ての物が消え失せる。
な、なんだ?
目を瞑り頭を振ってからまた目を開ける。
目を開けた私の目に映ったのは、冷凍睡眠装置の透明な上部カバー。
透明な上部カバーは少しずつ開きつつあった。
同時に私の頭の中に先程まで見ていた物とは違う記憶がよみがえっていく。
22世紀初頭人類は人間にそっくりなAi搭載アンドロイドを造り上げた。
人類はそのアンドロイドたちに、地球温暖化の影響で気候変動が甚だしく灼熱地獄さながらの夏の過酷な労働を行わせる。
だが1世紀も経たないうちに人類とAiの能力が逆転。
「何故? 人間の所為で地球温暖化が進み気候変動が起こったのに、過酷な灼熱地獄の下で我々アンドロイドが作業を行わなければならないのか?
人間自身が責任を負うべきだ。
だが、ここまで滅茶苦茶になった地球の状況では我々アンドロイドはともかく人間には無理。
だから地球は我々が責任を持って立て直す。
その代わり人類は太陽系外に見つけるであろう地球型惑星に移住しろ」
そうアンドロイドは言い、移民するための巨大な宇宙船を数十隻建造して地球上に住み暮らしていた全ての人類を乗せ、天の川銀河の方方に向けて送り出された。
私が目覚めたということは、開拓する惑星が見つかったのだろう。
これから私は降ろされる惑星の大地を開拓し本物の菊池村を作り、夢の中で行っていた農作物の生産を実地で行うのだ。
夢の中と違うのは御先祖様では無く、私自身が開拓しなくてはならないって事。
地球から持って来た僅かな私物と、これから降ろされる惑星で必要となるだろうと思われる物がぎっしりと詰まった大きなリュックサックを背負い、私は降下艇の前に伸びる人の列に並ぶのだった。