第7章
俺はいつものように目を覚ました。
ダイニングに行くとお袋がいつものように朝食を作ってた。テーブルにはご飯と味噌汁と納豆と鮭の塩焼きが乗っていた。
「ゲッ、魚じゃん」俺は呻いた。
「そうよ、あなたお魚大好きでしょう?」
「俺魚嫌いだよ、こんなもの食えるかよ」
「エエッ、いつからお魚嫌いになったの?」
「俺は朝からこんなもん食って作業所いけないよ」
「ああ、せっかく作ったのに、嫌だったら食べなくていいわよ!」
俺はご飯と味噌汁と納豆だけじゃ足りないのでコンビニでおにぎりを買うことにした。バスの中で頬張った。
作業所に着くといつものように小林さんと田中さんが出迎えてくれた。
「おはよう」
「おはようございます。ああ小林さん、俺、今日もまた早退するかも知れないのでよろしくッス」
「仕方ないわね、病気になっちゃったもんね」と小林さんは残念そうに言った。
俺は幸田さんという40代位の男性利用者とペアで作業をする事になった。
検品してた時、ついうっかり商品を床に落としてしまった。
「ああ、君、もうちょっと商品を大事に扱ってもらわなきゃ困るよ」と幸田さんが眉間に皺を寄せていった。
俺はその言葉にムカっときた。
「ちょっとそういう言い方はないでしょう?」
「なんでだ、君が集中力を怠っていたのが悪いんじゃないか、私は注意しただけだ」
「そんな怒っていうことはないでしょう?」と怒鳴りつけた。
「なんなんだ、人がせっかく注意してやっているのに、文句をつけるのか!」
といざこざにになった。
「ちょっとやめなさい、2人とも」と小林さんが割って入った。
「峰君、ちょっとこっちにいらっしゃい!」
俺は面談室に呼ばれた。田中さんも立ち会った。
「峰君、ここは共同作業なんだから、そんな相手に因縁ふっかけちゃだめよ」
「因縁をふっかけて来たのはあっちです」
「それはあなたが商品をぞんざいに扱ったからでしょう、幸田さんはそれを注意しただけよ」
「そうよ、人の忠告はよく聞くものよ」と田中さんも小林さんに歩調を合わせた。
「ああ、あなた方はいつもそういう綺麗ごとをいって正義の味方ぶるんだ。じゃあ田中さんはいつも痩せたい痩せたい、ていってるのに俺が『ジョギングしたら痩せますよ』て忠告をしているのに、田中さんがそれを実行しないのは俺の忠告を無視してるんじゃないのか!?」
田中さんは「今はそういう話をしてるんじゃないの!」と口を尖らせて言った。
「同じ事でしょう、あなた方は俺たちの前じゃ善人ぶって自分たちの私生活じゃそれを応用しない、卑劣ですよ」
小林さんと田中さんは顔を見合わせた。
「こんな作業所もう今日限りで辞めてやる、どうも短い間でしたがお世話になりました」
「あなた、なんていうことを…」小林さんの声は震えていた。
俺は作業場に行くと「どうも皆さん、私は今日限りでここの作業所を辞めますので、どうも短い間でしたがお世話になりました」
作業所のメンバーはみんなキョトンとしていた。俺は大股で歩き、その場から去って行った。
家に帰り着くと、ちょうど親父の車があいていた。俺はドライブでもして気を晴らしたかったので、親父の車を運転し、海に向かう事にした。
みんななんで俺の事を分かってくれないんだ。どいつもこいつも勝手な事ばかり抜かしやがって…
俺は交差点を右折しようとして、ウインカーを出し、右に曲がった。すると直進車ががブブーッとクラクションを鳴らして突っ込んで来た。
車の左横は轟音を立てて大破した。俺は強く頭を打った。意識は遠のいていった。