第一章
僕の名前は峰浩一、歳は28歳である。僕は軽い障害を抱えていて、IQが65しかないという、謂わば軽度の知的障碍者である。
僕は何をするにもマイペースで、普通よりもゆっくりしているのが特徴だ。
仕事といえばアルバイトでビルの清掃をやったくらいのもんである。障害者枠で仕事を探しても見つからず、今は作業所に通って月なん千円かの工賃を貰っているだけだ。今の作業所に行きだしてもう3年にもなる。作業所の作業はプラスチック用品の検品、梱包が殆どである。僕はバスで通勤し、毎朝タイムカードを押して、作業所の先生達に挨拶をするのである。
「小林さんおはよう、田中さんおはよう!」
小林さんというのは、作業所の所長で、40代くらいの痩せて眼鏡をかけた女性スタッフだ。田中さんというのは、まだ20代くらいの女性スタッフで、かなりの美人だ。作業所のマドンナ的存在である。
「峰君おはよーう、今日も元気がいいわね!」
「元気が僕のモットーです」
「あまり元気過ぎてパンクしないでね」
「フフフ… 可愛い!」
田中さんからそう言われ、僕は少し照れ臭そうに席に座った。
「おはようございます」
「富田君、おはよう、今日もなんかきつそうね…」
「そうですか?あ、はい…」
富田君というのは、僕と同い年位の精神障碍者で、いつも暗い顔をして、難しい理屈をブツブツ呟くにである。僕は富田君の事があまり好きでは無かった。作業所のスタッフや利用者も全員同意見なのである。
12時になった。昼の弁当の時間だ。
「すみません、私、今日はもう調子が悪いので帰らせていただきます」と、富田君は言った。
「あら、そう、気を付けてね」
とすごすごと帰っていった。富田君はいつもそうなのである。
僕はなんかズルい、僕だって早く帰りたいのに、自分だけ早退するなんて、と思った。
小林さんは「富田君、いつも顔色悪いし、いつも落ち込んでて、大丈夫かしら?」と言ってた。
翌日、僕はいつものように出勤した。なんか今日はスタッフ全員が暗い顔をしていた。
「今日はみなさんに大変悲しいお知らせがあります」と小林さんは言った。
「あの… 富田君が昨日家の事故で亡くなられました…」
一同が「エエ-ッ」と言った。僕も驚いた。
「私は、富田君の家にご焼香にいきますので、希望者は申し出てください」
もちろん僕は行かなかった。あんな奴嫌いだ。
その日は富田君の存在も忘れていつものように帰宅した。家に帰るとお母さんが夕食の支度をしながら出迎えてくれた。
「あら浩ちゃんおかえりー、何か変わったことあった?」
「何も無いよ!」とぶっきら棒に返事した。
夕食が終わり風呂に入って寝床に着いた。僕は夢を見た。なんと富田君が出て来た。
「峰君、僕は以前から君に憧れていた。僕は君と一体化したい」
富田君が僕に覆いかぶさった。富田君が僕の中に入ってきた。
僕は夢から醒め、汗びっしょりで目が覚めた。
呼吸が荒くなっていた。
今の夢はなんだったんだろう?