男の娘 第十三部 第三章
「いや、アメリアさん。申し訳ないが、今はバーキラカがどう動いてくるのかの方が大事じゃないかな? 」
こういう時に言いにくい事とかをはっきりと言う性格をしている人間がいるのは良い。
父のシェーンブルグ伯爵がもしもの襲撃を考えて、ドアを開け放していたので、その外からヨハンが声をかけてくれた。
「アメリア殿、ヨハンの言う通りだと思うが……」
ゲオルクがそれに続く。
「くっ! しかし、女神エーオストレイル様の降臨を先触れで知りながら、しかも、それの為に動いていて、それなのに、その神話を全く知らないとか、どういう事なのか……」
アメリアが怒りで震えていた。
いやいや、父のシェーンブルグ伯爵も神話を知らないとは思わなかった。
でも、こういうのも親子と言うものだろうか。
などと少し自分でほのぼのとしていた。
そうしたら、俺の身体で女神エーオストレイル様が深い深いため息をつかれた。
いやいや、良くない事だけど、なんとなく俺の冷え切った家族だった前世からすると嬉しいから……。
多分、こちらの心は読めるようだから、そう心で思った。
それで仕方ないなぁと言う感じで受け止められたと何となく感じる。
徐々に女神エーオストレイル様と心が通じ合えているような気がする。
それがどういう意味なのかは分かんないけど。
「まさか、封印の場所から離脱したのに、同じ場所にいるとは思えないから。だから、ボン……いや、皇太子妃に索敵してもらいましょうよ」
そうヨハンが無茶振りして来る。
「いや、索敵って言うけど、俺は人間の索敵しかしたこと無いんだけど……あ、私か……」
ポンとかヨハンが言うから、つい俺って言ってしまった。
なかなか、昔の癖は難しいな。
何しろ、修羅……名前を言うのいまだに恥ずかしいけど……を育てたり、武芸を習ったり、ヨハンと師匠のゲオルクとは隙を見ては一緒にいたから、ついついと昔の口癖が出てしまう。
「いや、ボン……皇太子妃の話だと、最初は悪意と害意と殺意の把握からだったでしょ。敵は敵なのだから、変わらないと思うんだけどな」
ヨハンが昔の口調で続けて聞いてきた。
ヨハンの喋り方が砕けた感じになるのは、戦闘時に多い。
バーキラカと戦う気満々だと言う事だ。
「どちらにしろ、帝都の皇帝のお住まいになる城で戦闘が始まれば、ただでは済まないですし。ここは迎え撃つのではなく先に攻めるべきだと思います」
ゲオルクもそう続く。
たしかに、頑丈な城だが、対人間で作られたものでしか無いし、敵が邪神だと言うのなら全く意味をなさないのは勝手に謁見の間に現れたグリュンクルドを見ても分かる。
彼らからしたら全く意に返さないでも済むような脆い防御なんだろうな。
考えるだけに頭が痛い。
そして、ここは帝都の人間だらけだと言う彼らの餌の集まりである。
それは彼らにとって美味しいとこだらけだろう。
「バーキラカは封印から出たばかりで、栄養をとらないと駄目な状況だとしたら、帝都に攻め込まれるだけで彼らを強くさせてしまう」
俺がポツリと呟いた言葉で、父のシェーンブルグ伯爵もアメリアもぞっとしたようだ。
ここは餌の塊なのだ。
「そうでしょうね。だから、逆にここに来る前に叩かないと仕方ないと思いますよ」
「敵を太らせるべきでは無いしな」
「でも、封印を離脱したばかりでここにすぐに直接来ますかね? 」
ヨハンとゲオルクの言葉にニーナが疑問を抱いたようで兄のヨハンにそう声をかけた。
「来ると思うよ。さっきの蛇は多分、こちらの存在の確認だと思う。となると戦えるだけは回復しているって事になるけど……どうなんでしょうかね? 」
俺が自分の身体にいる女神エーオストレイル様に聞いた。
「残念だが、私も転生して来たばかりで、かってのように封印と深くつながっているわけでは無い。だが封印をバーキラカが力で抜け出したのだけは分かる。だから、こちらと戦うだけの回復はしていると思う。封印されて動けないのにどうやって回復したかは知らないが……」
「眷属がいれば人とか攫って来れるのでは? 」
「あ……」
俺の身体で俺と女神エーオストレイル様の会話が続く。
あ……って言ったまま女神エーオストレイル様が黙っちゃっだけど、ええええええええええ?
「ガバガバですやん……」
「いや、転生してやっと動き出したばかりでは、流石にどうしょうも無い。一応、封印の木とは別に見張りや防御の木々もあったのだが……よく考えたら封印の木は寿命が長いが、見張りや防御の木は流石に枯れているだろうな。あれから長い年月が経っているのだから……」
などと、女神エーオストレイル様に今更な事を言われてしまった。
「とにかく、封印の丘から距離はありますから、今ならまだどこにいるのか皇太子妃様ならば分かるのでは? 」
などとアメリアも無茶振りして来た。
「距離があると難しいと思うのだけど」
「私が手を貸そう」
などと女神エーオストレイル様が話す。
いや、この権能はお持ちでないのか?
とすると、俺の独自の権能と言う事になる。
いやいや、俺が初代皇帝の行った最大の呪術の中核と言うグリュンクルドの話が本当になってしまう。
ちょっと、それはあまり嬉しくないんだけどな。
特に、最後は悲劇的なラストになりそうで怖い。
せっかく、家族と言うものを得たような気がしているのに……。
「……心配するな。お前には私がいる」
などと女神エーオストレイル様に言われたけど、結構無茶する御方だと分かったので、ちょっと微妙だったり。




