男の娘 第十二部 第一章
ずっと皇太子殿下は俺を抱きしめたまま離さなかった。
「君の性別は関係ないから」
酷い状況が続いて混乱していると思うのだが、それを呟き続けていた。
「大丈夫。女神エーオストレイルの神の面子にかけても女性にして見せる」
そして、空気の読めない女神エーオストレイルが俺の身体を使って、ちょっとヤバい発言をそれに混ぜる。
そして、また最初の言葉の「君の性別は関係ないから」が皇太子殿下の口から洩れる。
皇帝陛下と姉はそれを聞いて、鼻血が止まらず、全身を痙攣させだしたので、緊急に隔離病棟に連れて行かれたとか。
そして、皇太子付きの武官で側近のアレクシスの皇太子への説得が続く。
どうしても皇太子殿下が俺を抱きしめて離さないからだ
俺は俺で、女神エーオストレイルが身体を使って大丈夫だからと言う以外は赤面して動けない。
いや、自分の人生でここまで愛された事は初めてで、それで何となく受け入れてしまっているんだと思いたい。
たが、そうじゃないのかもしれないと言う、ちょっと困った気持ちも出てきて、本当に困っている。
「殿下! いつまでも抱いておられていては、皇太子妃殿もお困りのはず! 生理現象とかもあるのですから! そろそろお考えいただきたい! 」
などとアレクシスが女性に言うとは思えない言葉を発して、やっと皇太子殿下の俺を抱きしめる手が離れた。
正直、トイレとかは良いのだが、身体が外骨格の昆虫のような身体になってしまっているので、そちらの方が抱きしめられて気が付かれたら、引かれるのでは無いかと心配してしまった。
何しろ、皇太子殿下が甲冑だと思っているのは、俺の身体のそのままなのだ。
そんな事を気にしてしまう自分もどうかしていると思うけど。
まずいな。
前世でも恋愛経験とかしてないから、余計に免疫が無いのかもしれない。
察知索敵スキルがあるせいか抱きしめられたせいで、ダイレクトに何故か皇太子殿下がどれほど自分を大事にしているか分かる……分かってしまうのだ。
「皇太子妃もしばらく静かに落ち着きたいでしょうから」
などとアレクシスが必死に説得して、やっと皇国の帝城の皇太子妃として自分にあてがわれた部屋に戻れた。
そばにはアメリアとニーナが控えてくれて、やっと甲冑の部分を外す。
先ほどまでは興奮していたが、冷静になって自分の肉体が変化している事に衝撃を受けた。
「ベットで寝れるのかな。この身体で……」
「人間にもう一度戻れないのですか? 」
ニーナが聞いてくれた。
「いや、女神エーオストレイル様はどうなんですか? 」
変な話だけど、自分の中にいる女神エーオストレイルに話しかけた。
肉体の変異とか人生で初めての事なので、流石にどうしたらいいのかわからない。
「出来ないこともないが、急速な変異から元に戻すと次の変異がしにくい。戦いがどうなるか分からないから、変異は解けない」
「つまり、アルメシアが攻撃を仕掛けてくるかもしれないと……」
「グリュンクルドが夜這いに来るかもしれない」
「は? 」
はたから見たら異様だろうが、全部自分で話して自分で返事していた。
同じ身体を使って、俺と女神エーオストレイルが会話しているから仕方ないが。
だが、すでにずっと傍にいたせいか、アメリアとニーナは普通に受け入れてくれた。
「そうか……。皇太子妃に化けて謁見するくらいだから、それが一番危険ですね」
アメリアが唸る。
「既成事実って奴ですか。確かに、マクシミリアン様はあのグリュンクルドの姿に動揺していた御様子。そんな女性が夜這いに来たら危険ですよね。もし、それに手を出してしまったら、今と同じ気持ちでいられるかどうか」
ニーナも俺がちょっと前世の超人気アイドルの西園寺翠の姿を見てファンだったせいで動揺してしまったのを正確に把握してしまっている。
「それはいかんな。とりあえず、騎士団でこの皇太子妃の部屋の近辺は厳戒態勢で見守るから」
などといきなり入室してきた父のシェーンブルグ伯爵に言われる。
「じ、女性の部屋ですよ! 何で、平気で入ってこれるんですか? しかも、すでに皇太子妃で、シェーンブルグ伯爵の貴方様よりも格上の扱いになりますが! 」
「そのとおりですよ! 」
などと不躾な事をした父のシェーンブルグ伯爵にアメリアとニーナがブチ切れた。
「緊急なんだ」
「? 姉上に何か? 」
「いや、鼻血を流しすぎただけで、元気だが? 」
「では皇帝が? 」
「皇帝はちょっとヤバいけど、別の意味ヤバくて」
「別の意味? 」
「男の娘が実現したもんで喜びすぎておかしくなっちゃって……」
「は? 」
「え? 」
俺だけでなく、アメリアとニーナも唖然としていた。
「皇帝陛下には今の現在のお前の顔を見せたことなかったろ。お前の顔は、まんま姉と同じの美少女の顔だからな。理想なんだと。皇帝陛下の……」
「いや、それは皇太子殿下が聞けば血の雨が降るのでは? 」
「だろうな。だから、側近たちも変なこと言わないように見張っている。まあ、自分の息子の嫁を寝取ることはないけど、お前が皇太子と結ばれるのを完全に夢見ちゃったから、変な間違いがあればシェーンブルグ伯爵家の存続の方がヤバい」
父のシェーンブルグ伯爵の言ってることが無茶苦茶だけど、確かに皇帝がヤバいのと、シェーンブルグ伯爵家の存続が俺にかかっていると言いたいらしい。
「あれはあっちの時のスーパーアイドルらしいな。まずいわ。グリュンクルドに夜這いなどされては……」
父のシェーンブルグ伯爵すら俺が不貞をやらかすと心配していた。
「いや、大丈夫じゃ」
そして、俺の身体を使って女神エーオストレイルが太鼓判を押す。
まてまて、俺は言ってないし。
邪神達との戦いが……じゃないのかよ。




