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男の娘 第五部 第三章

「何で、グルクルト王国の御付きとしてザンクト皇国から追放されたようなものになったピュットリンゲン伯爵家が、ツェーリンゲン公爵家の反乱の手伝いをしないといけないのか? しかも、ヴァンガゥ城のギード・エックハルト・ツェーリンゲンって、ツェーリンゲン公爵一族の一番の糞馬鹿とか言われてた奴だろ? 」


 そう、ヤマト・ピュットリンゲン伯爵がブチ切れた。


 彼は黒髪で黒い目をした、この世界では少し珍しい容姿をしていた。


 容貌こそ、白人系のハンサムであるが、代々転生者を産んだせいで、その転生する前の国の特徴が出たとか噂されている。


 年齢は30歳を超えているのだが、まだまだ若々しかった。


 それゆえ、グルクルト王国では何も言われないが、ザンクト皇国では陰から馬鹿にされていて、グルクルト王国の目付でもある立場のせいで子供の時にザンクト皇国に使いとして行ったときに受けた仕打ちが許せなくてグルクルト王国に寝返って、ザンクト皇国に歯向かったとされている。


 それで、そのザンクト皇国を体現するツェーリンゲン公爵家の援軍をなどとジン国王の親書で命令されたものだから椅子を蹴り上げてキレていた。


「しかし、すでにジン国王の要請も来ておりますし、わがグルクルト王国の筆頭的立場にもなっているピュットリンゲン伯爵家が動かないわけにはいかないかと」


 そう武官として常にピュットリンゲン伯爵に付き添っているエッカルトが答える。


「筆頭的立場ではあるが筆頭ではない。もともと、国王陛下はナンバー2を作りたがらない。そして、それが股肱之臣とは言えないザンクト皇国から来たピュットリンゲン伯爵家がそうなる事はない」


 その辺りはピュットリンゲン伯爵は冷静に判断していた。


 彼は明確に理解していた。


「おそらく、ジン国王は私の力を削ぎたいのだろう。わざわざ、こんな所でザンクト皇国の内乱に介入せずとも、もっと潰しあってから介入した方が効率がいいのに」


「それは確かにおっしゃる通りですが……」


 ピュットリンゲン伯爵はまだ女神エーオストレイルが降臨しているのを知らなかった。


 知ればジン国王の介入せざるを得ない気持ちも理解できたかもしれない。


 だが、ザンクト皇国出身のピュットリンゲン伯爵家にそれは知らせることが出来ない大きな話であった。


 それほど、女神エーオストレイルが降臨しているのは大きな話だった。


「やはり、報告の通りなのか? 」


「はい。どうやら、皇太子側に転生者が集まって戦ったようで、シェーンブルグ伯爵家も転生者の部隊を出しました。皇太子妃と正体不明の黒騎士が転生者ではないかと言う噂も出ています」


「そうか……。ならばグルクルト王国の立場からしたら、皇太子側に応援を出すべきではないのか? 」


「ですが、すでに、ヴァンガゥ城の城主のギードの馬鹿にジン国王の国書と誓約の書面も届いているようで……」


「ちっ……」


 ピュットリンゲン伯爵が舌打ちをした。


 これで応援に行かなければ反乱とみなされる。


 ピュットリンゲン伯爵家は元はザンクト皇国の目付でグルクルト王国に来た過程もあり、独立に多大な功績はあるが、あまりグルクルト王国では好かれておらず仲間が多いわけではなかった。


 所詮、よそ者扱いである。


 だからこそ、ピュットリンゲン伯爵家が反乱とみなされれば、双方の国から敵国とみなされる。


 裏切り者は裏切り者で功績があったとしても、難しいものなのだ。


「ん? 何かギードの馬鹿が言ってきたのか? 」


 エッカルトの困ったような顔から、ピュットリンゲン伯爵が気が付いたように聞いた。


「実は、帝都に向かう皇太子を討つとすでに軍備を整えて出発するそうで……」


「は? 」


「もう出ていくみたいです」


「え? 反乱を起こして、皇太子側がヴァンガゥ城を囲んだ時に、我々がその背後から攻めるんじゃないの? 」


 ピュットリンゲン伯爵の顔が歪んでいる。


「違うみたいです。それでは帝都に皇太子が逃げてしまうと……」


「いやいや、誘い込めばいいだろ? 確かにヴァンガゥ城はグルクルト王国に接する要所の城だし兵はいるが、それ以上に籠城すれば単体で撃退できるくらいの堅牢さはあるのに」


「……あの……騎士たるものは正々堂々ととかで……」


 エッカルトの言葉を聞いて、ピュットリンゲン伯爵が書斎の机を蹴り上げた。


 彼はブチ切れていた。


「ふざけんなよ! それで弓兵に負けてグルクルト王国の独立を許して、今度は皇太子に雑兵に数で囲まれて負けたんだろう? すでに時代は騎士の時代が終わってることに、まだ気が付いてないのか? 」


「みたいですね」


 書斎は敵の城の動きが見えるように、城の塔の一角に作られていたので、そこからギードの騎士団が次々と出発して皇太子にわざわざ攻撃をしに行くのが見えた。


「馬鹿なのか? 」


「……前から確かに馬鹿ですけど……」


「いや、皇太子も城を守る兵は残すとして2000くらい兵を連れてるし、シェーンブルグ伯爵家だって2000くらい兵を連れているはずだ。ギードの馬鹿の事だから、全部ヴァンガゥ城の兵を全部連れて行ってるとしても、あの城と多分近隣の城も計算に入れてるのだろうが、守備兵を最低限残すのなら、せいぜい5000から6000くらいだろうに? 万単位の兵でツェーリンゲン公爵家が負けたのを忘れているのか? 」


「多分、こちらの5000も計画に入れているのでは。さらに、クオウ殿もグルクルト王国から援軍を連れてくるとか言っているので……」


「クオウはいつも調子がいい事を言って、実は何もしないことが多いじゃないかっ! 」


「ですよね」


「じゃあ、あの馬鹿、うちと自分の兵で勝つつもりか? 正体不明の山賊とやらだって2000から3000くらいいるんだろ? 」


「そういう報告は出てますが……多少はツェーリンゲン公爵家との戦いで皇太子の兵もシェーンブルグ伯爵の兵も減ってるとか希望的観測もあるんだと思います」


「今まで、良くヴァンガゥ城が落ちなかったな」


「ツェーリンゲン公爵家の付けた者が優秀でしたから。ただツェーリンゲン公爵家の没落で、それらの制止を聞かないようになったようで……。何よりもヴァンガゥ城は要衝ですから、良い城ですし」


「じゃあ、籠城して誘い出すのが常道だろうに」


「馬鹿ですから」


「くそっ! 」


「どうしますか? 」


「一緒に戦うかは別にして、ついて行くしか無かろうがっ! 」


 ピュットリンゲン伯爵がブチ切れて蹴り上げていた机を剣で両断した。


「じ、実は……」


「なんだ! 」


「国王の書簡に誓約と書かれていたそうで、兵糧とかこちらが用意して持っていくそうです」


「あああああああああああああああ! 」


 ピュットリンゲン伯爵がブチ切れて壁も斬りまくっていた。


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