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男の娘 第十九部 第七章

 シェーンブルグ伯爵家の騎士団が進行方向の中央にいるギースを避けるように大きく間を空けて、その左右を流れるように通り過ぎていく。


『俺になすり付ける気かっ! 』


 ギースが怒り心頭だ。


 まあ、そうだよな。


 せっかく女神エーオストレイル様に距離を置いて近づかないようにしていたのに、それが台無しなのだろう。


 なんで応援に来ないのか不思議に思っていたが、なるほどなるほど、ケルベロス如きが女神エーオストレイル様と戦えるはずもなく。


 何しろ、空を飛んでる女神エーオストレイル様に攻撃できないし。


 絵のテーマの龍虎の戦いみたいなもんだ。


 龍が降りてこないと虎は戦えないのだ。


 だから、その降りて来た時を待って待って、ギリギリ近づいて来た時に渾身の力でジャンプして攻撃をすると言われていた。


 だが、これには問題がある。


 多分、昔の人は気が付かなかったのだろうが、その空を飛ぶ高度から垂直に降下して加速して攻撃するとか言う考えが分からなかったのだろう。


 女神エーオストレイル様のさらにやばいのは、その上で手が使える事だ。


 槍や剣を持てるのだ。

 

 実は人間が動物の頂点に立ったのは手で道具を使えるからだ。


 石だって馬鹿にするが、投石器を使って投げると小口径の拳銃とほぼ同威力になるそうな。


 そりゃ、甲斐の武田信玄が鉄砲隊より安価な投石部隊を重用していたはずだ。


 さらに龍虎が戦うって考えていた時代には、相手が降りてこないで上から武器を投げて攻撃してくると言うやり方が頭に無かったのだろう。


 実際に、真珠湾攻撃で空爆と呼ばれるようになる、高度からの爆弾を落とす攻撃で異常な戦果を挙げたのは知られている話だし、空のその高さこそ最大の武器なのだ。


「いや、何の話か分からないけど、良いの? 」


 グリュンクルドが姉の中で考えている俺に突っ込んできた。


 相手の心が読めると言うのは厄介だ。


「あんたの話からすると、ギースは無視されるんじゃないの? 」


 同じ身体で思考をある程度共有する姉まで突っ込んでくる。


 そう全ては計算外だったのだ。


 ちゃんと神話を読んでおけば良かった。


 まさかのギースがケルベロスとは。


 邪神でアルメシアとバーキラカと並び称されるギース。


 最強の一角と聞いていたから深く調べなかったのが間違いだった。


 俺の考えが甘かったのだ。


 地獄の門番と言われるケルベロス。


 ギースが3つ首の巨大な狼のケルベロスだったとは。


 ここで問題になるのが、そう、ケルベロスは地獄の門番なのだ。


 何かを守るのは強いんだけど、自分から攻めるのは強くないのでは?


 まして、空間と高度を大きく使える空を飛んでいて、武器を使用できる女神エーオストレイル様と戦うなんて、お話にならない。


「お話にならないんだ」


 グリュンクルドが凄い顔で突っ込んできた。


「まあ、空は飛べないし、確かに構造的に見ても頭が3つもあったら重くて高くジャンプできないよね」


 などと姉まで言ってしまう。


「女神エーオストレイル様からしたら単なる的でしかないよ」


 俺が姉の身体で話す。


「ちょっとちょっと、聞いてるわよっ! 皇太子妃様っ! ギースが聞いてるからっ! 」


 などとアメリアが突っ込んできた。


 確かに凄い顔でこちらを睨んでいた。


 その瞬間、ひゅんと言う音がした。


 その瞬間、姉の後ろを騎馬で走っていた修羅とシェーンブルグ伯爵家の騎士が騎馬ごと崩れ落ちた。


 そして、槍がその数名を貫いた後で、全く勢いを落とさず、姉にも刺さるとこだった。

   

 だが、流石の最強の黒騎士である。


 姉が剣を一閃して飛んできた槍を地面に向かって受け流して、それを避けた。


 その槍は地面に深々と柄の真ん中あたりまで突き刺った。


 高度も使った攻撃の為に異様な威力だ。


 普通に鎧を着た人間を何人も貫いたら、相当威力は落ちるはずなのに。


 そして、だからと言って、それだけの威力のある槍を平然と剣で流して斬り落とす技量。


 流石の姉だ。 


 俺が身体を使っていたら、とっくに死んでいるだろう。


 そうしたら、女神エーオストレイル様は槍を何本も持っているらしくて、それがひゅんとさらに姉に向かって飛んでくる。


 それで姉が避けたら、前の騎馬の騎士を馬ごと数騎を槍が次々と貫いた。


「ちょっと、父さん。私が女神エーオストレイル様をひきつけるわ。ギースを相手にしてないようだし」


 そう言うと、姉が修羅と父のシェーンブルグ伯爵家の騎士団から一騎で側面の山の方に離脱した。

 

 このままだと、巻き添えで騎士団と修羅の被害が凄いと見たらしい。

 

 それに、横には俺が乗っていた馬車が並走していて、そこには皇太子殿下が乗っているのだし。


「死ぬなよ! 」


 父のシェーンブルグ伯爵家が真剣な声で姉と俺に話しかける。


 実際、父は戦事はからきしなんで、そう言うしか無いのだろう。


 かくして、ギースは全然囮になりませんでした。


「擦り付けるどころか相手にされて無いんじゃ仕方ないな」


「本当よ。たかがケルベロスじゃ仕方ないわよね」


 などと姉の身体で本音で俺と姉がため息をつく。

 

 ああ、やっぱり、こっちに来るのか。


 姉が山の方へ一騎で離脱すると、女神エーオストレイル様が俺達の方に上空から追ってきている。


 たった一騎なのに、とにかく姉の肉体の中の俺だけを狙っているらしい。


 どれだけ、初代皇帝? とやらに嫌われているんだろうか、俺は……。


「まあ、しょうがないわよね。実際、最後のラスボスみたいなところあるし」


 そう姉が苦笑した。


 でも、よく考えれば、そうか。


 俺達はいわば悪の組織に身体の改造だけはされている存在かも知れない。


 つまり、悪の組織で作られたのに、悪の組織と戦う仮面ライダーみたいなポジションなのだろう。


 だから、彼らの技術で作られているが、自分の意志を持っているので彼らにとっても危険なのだ。

 

「あんた……次々と槍が頭上から飛んでくる状況で、よくもまあ呑気に……」


 姉が絶句していた。

 

 まあ、絶望的な状況なので、余計に自分の心を誤魔化したいだけなのだが……。


「まあ、そらそうだけど……」


 姉が呆れたように答えた。


 そして、山の森の中に姉が騎馬でそのまま入ろうとした。


「いや、森には入らないで。多分、女神エーオストレイル様はこちらの気配と場所を読めると思う。木々の中を走ると、こちらのスピードが落ちて、木々が邪魔して姉さんも剣で槍を落とせなくなるし」

  

「ええええ? また、面倒くさいのに……」


 などと姉が不満を漏らした。


 その瞬間だ。


 邪神の最強の一角と言われていたギースが咆哮をあげた。


 俺達に馬鹿にされて、女神エーオストレイル様もスルーしたので、それで激怒したらしい。


 もの凄いスピードでこちらに向かってくる。


 いやいや、困ったもんだ。


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