男の娘 第十九部 第六章
「あ、ギースが気が付いたよ」
グリュンクルドが失笑した。
『お前ら、何をやっているっ! 』
ギースが凄いテレパシーを浴びせてきた。
何をやってると言われても困るのだが。
「まあ、軍隊が自分の方に向かってきていて、その後方から女神エーオストレイル様が空を飛んで追撃してきていたら、何をしようとしているのかわかるよね」
姉がため息をついた。
「邪神は敵意の接近に敏感だから」
「いや、それなら、俺達敵意とか持ってないよね」
「だから、敵意を持っていない軍隊が全力で騎馬で向かってきていて、背後から敵意が最大のエーオストレイルが来ていたら、何をしようとしているのか気が付くよね」
俺が姉の身体で不思議そうに聞くと、グリュンクルドが呆れたような顔をした。
「どうすんのよ! 」
「まあ、でも、女神エーオストレイル様が自分の味方にはならないのはギースさんもテレパスで何度か接触して来ているから理解しているでしょ」
「やっぱり、お前を一番の強敵だと思うよな。初代皇帝も」
父のシェーンブルグ伯爵が苦笑した。
「まあ、えげつないことを平気でしますからね。貴族だの身分だのある連中はそういう手は思いつきませんし」
ゲオルクも同意した。
単にこの世界で育ったわけではないので、考え方とか視野が違うだけだと思うのだが。
「でも、悪いけど、ギースでエーオストレイルが勝てるかな? 初手のエーオストレイルなら別だけど、今は進化するアルメシアの力を得てしまったからなぁ」
「まあ、最悪、さらに女神エーオストレイル様がギースを吸収してさらに強くなる可能性もあるよね」
俺が姉の身体で一番懸念している話をした。
「何とか……何とか和解は出来ないんですか? 」
アメリアが必死な様子で話してくる。
「どうだろ? 女神エーオストレイル様が洗脳されているのは間違いないしね。普通に自分の旦那さんと俺達なら旦那さんを信じるんじゃないかな? 」
姉の身体で俺が冷ややかに話す。
「それでも、それでもです」
アメリアの気持ちは痛いほどわかる。
確かに俺もその気持ちはある。
だが、初代皇帝が信じられないのだ。
女神エーオストレイル様は初代皇帝に会って一緒に暮らした話をあれほど幸せそうに話していた。
俺が見た女神エーオストレイル様の映像では、初代皇帝の未来を見ている思想に凄く感銘を受けていた。
そんな尊敬すら抱いていたのが、今度の転生ではかって見たことも無い様な異様なえげつなさを見せつけるのだ。
いくらなんでも、変わり過ぎだと思うくらいだ。
女神エーオストレイル様を夫婦にまでなって初代皇帝が騙しきれるはずはないので、何か元の世界であったのかもしれないが……。
「ちょっと待って? あんたの思っている事が本当だとすると、初代皇帝は死んで転生してもう一度ってわけじゃないの? おかしいよね。この世界では亡くなられたはずだけど……」
「そう言えば……」
姉の身体で俺が言われてみればと思い返す。
「確かにおかしい。根本の計画は初代皇帝の計画だとしても、女神エーオストレイル様の過去に見た姿と性格と違い過ぎる」
「そうでしょ? あんたと魂を共有しているせいか、女神エーオストレイル様の映像を見たけど、初代皇帝って計り知れないところはあるけど、そんなに情が無いタイプには見えないんだけど……」
「んんん? そう言われてみれば……初代皇帝が考えた仕組みで、本人がやるはずが、まさか別の奴がやっているのか? それとも何かあったのか……。魂を転生させる技術があるのは間違いないのだけど、それが同一人物が使っているかどうかはわからないよな……」
俺がそう考えながら呟いた。
「いや、確かに、一度こちらで亡くなられているのは間違いない。一度だけ皇帝が口を滑らせたことがあったんだが、あの神殿に初代皇帝の魂が保管されているとか言う話だったんだがな」
「それは僕も皇帝の心を読んだときにちらりと読めたけど、そう思わせているだけのようにも見えたんだけどな」
父のシェーンブルグ伯爵とグリュンクルドが話し合っている。
何か、そのあたりに何かあるのは間違いないと思われたのだが。
「じゃあ、それだけでも女神エーオストレイル様に話してみれば……」
アメリアが必死だ。
「でも、洗脳されているから聞いてくれないと思う。地下の神殿でもそうだったから」
「グリュンクルドさんなら何とかできないんですか? 」
「いや、無理だったから。もうやってみたんだけど」
「くっ! 」
アメリアがグリュンクルドにも言われてどうしょうも無いので悔しそうだった。
「大変です! 何か、向こうに巨大なものがいますよ! 」
と先頭を走っていたゲオルクの騎士団の騎士がこちらに伝令に来た。
「ああ。ギースだ」
グリュンクルドがそう話す。
それで、背後からも修羅の伝令が来た。
「まだ距離はあるせいで空に小さく見えますが、空を飛んで女神エーオストレイル様がこちらに来ます」
空を飛べるから速いのはしょうがない。
でも、ギースのところまでは何とか連れてこれた。
そう思いながら、遠くを見た。
確かに巨大だった。
巨大だったけど……。
「ええええ? 単なるケルベロスじゃん! 」
そう姉の方が呟いた。
それは三つ首の白い巨大な巨大な30メートルはあるかもしれないオオカミの姿だった。
「ええ? ギースってケルベロスなん? 想像と違った! もっと強いのかと思ってた! 」
俺が姉の身体で失望して叫んだ。
だって、ケルベロスなんてゲームなんかでもラスボスですらない、雑魚だし。
「どうすんのよ! 全然強くないじゃない! 」
姉も同感なようだ。
「ああ、本当だ。せいぜい中ポスくらいだよな。ケルベロス」
父のシェーンブルグ伯爵もがっかりしていた。
「あの、こちらの話を聞いているよ? ギース。耳が良いんだから」
『ああぁぁあ? 』
グリュンクルドが呟くと同時に憤怒のテレパシーが来た。
「いや、三つ首の巨大な白いオオカミってちゃんとザンクト皇国の神話でありますよね」
そうしたら、一番切れたら怖いアメリアがブチ切れていた。
ザンクト皇国の神話もちゃんと読んでないのかって事だろう。
これはまた後で説教の時間がありそうだ。