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男の娘 第十九部 第五章

 それから俺たちは、ひたすらシェーンブルグ伯爵領に逃げ続けている。


 それしか助かる道は無いから仕方ないのだが。


 何しろ、完全にザンクト皇国の皇帝の敵に回ってしまった。


 何故か、凄く初代皇帝が俺を目の敵にしているし。


 とにかく、シェーンブルグ伯爵領に籠って撃退するか、もしくは籠城してグルクルド王国に使者を送って傘下に入る形で援軍を頼むしかないかもしれない。


 もしくは皇太子に頼んで同盟を結んでもらうか。


「はああああ? あんた、そんな事考えているの? 」


 姉が俺の心を読めるので驚いて叫んだ。


「は? 」


「何を考えているって? 」


 ゲオルクと父のシェーンブルグ伯爵が聞いてきた。


「グルクルド王国に援軍を頼んで同盟を結ぶんだって」


 姉が呆れたように呟いた。


「いや、だって、援軍の来ない籠城なんて負けるだけだよ? 」


 俺がたまらず姉の身体で叫んだ。


「いや、同盟って……。わざわざ助けに来るかな? 向こうのヤマト・ピュットリンゲン伯爵も倒しているしな。英雄だぞ? 彼はグルクルド王国の……」


 などと父のシェーンブルグ伯爵は冷静だ。


「いや、こちらの動きを見ればグルクルド王国を次に討伐するのは見えているんだし。何しろ、女神エーオストレイル様の復活だし。このままだと初代皇帝のあの性格だと絶対にグルクルド王国を滅ぼすと思う」


「それを理解できるかな? 」


「グリュンクルドがいるから」


 俺が姉の身体で言うと父のシェーンブルグ伯爵が驚いて納得していた。


「何しろ、ザンクト皇国からすると邪神だが、向こうの一部宗教では神の一柱でもあるのだ。真面目に説得力はあると思うし、ぶっちゃけ精神コントロールも出来る」


「それじゃあ洗脳じゃないの? 他の重臣もいるでしょ? 精神コントロールは多数には無理なんでしょ? 」


「それに関してはクォウ・ベルメールの話もあるし」


「クォウ・ベルメールの話をしてどうすんのよ」


「実は正体はアルメシアで女神エーオストレイル様に倒されたって話はグリュンクルドにさせたらインパクトはあるはず。どう考えても、こっちが終われば、次は自分達ってわかると思う。特にこちらの皇帝陛下はグルクルド王国がクォウ・ベルメールであるアルメシアに攻撃させたと思っているって話せば一発だよ」


 俺と姉が交互に姉の身体で話す。


「ああ確かに、ザンクト皇国としたら邪神を差し向けたって思うよね。結果は負けてしまったけど」


「いや、グルクルド王国と組むのか? 」


 父のシェーンブルグ伯爵が呟いたら、俺の馬車でまだ静養していた皇太子殿下が馬車の小窓を開けて叫んだ。


 どうやら聞こえたらしい。


「他に一緒に戦ってくれるものがいませんし! 初代皇帝が邪悪だと言うのは私達しか知りません! そして、女神エーオストレイル様が俺達を滅ぼすつもりなので、普通にザンクト皇国は完全に敵になると思った方がいいです! 」


 俺が姉の身体で叫んだ。


 皇太子殿下がそれで暗い顔になった。


 第一皇妃が必死になったのも皇太子殿下がザンクト皇国の皇帝になるためだったはず。

 

 それは確かに落ち込むと思うけど、このままだと、どのみち反逆者として負けてしまう。


「本当にザンクト皇国の父親の皇帝に皇太子殿下が真正面から反逆するの? 今の話では初代皇帝の事は誰も知らないから、そのあたりがお辛いのでは? 今、皇太子殿下が思ってらっしゃるのはお母さまの願いに反してしまうって事では……」


「いや、ざっくりと君側の奸を撃つて宣言したら良いと思うけど」


「それだと、この場合は俺じゃないか? 」


 父のシェーンブルグ伯爵がそれで苦笑した。


 確かに、それは言えているが……。


「そもそも、女神エーオストレイル様が敵に回る時点で終わりでは? 」


 ゲオルクも身も蓋も無い話をした。


「一応、グンツ伯爵家も皇太子殿下を通して巻き込もうと思っているんですけど」


 俺がとんでもないことを話す。


 修羅には流言とか専門にしているグループもいる。


 ヨハンも結構、そういうのが得意だし。

 

「いや、グンツ伯爵家は即座に謝って降伏すんじゃね? 」


「でも、そこまでザンクト皇国内が混乱すれば、グルクルド王国のあの国王なら援軍を出しやすくなると思いますけど。もともと、こちらのザンクト皇国を再度倒して自分達が完全に支配したかったのだろうし。後はグルクルド王国が援軍さえ出れば、そちらに女神エーオストレイル様が行く可能性もあります」


「いや、お前だけ狙うと思うぞ」


「どうして? 」


「今の話を聞いていてもお前の方が強敵だから」


「いやいや、そんなことは無いでしょう? 」


「女神エーオストレイル様が中にいるときにいろいろと見られてんだろ? それなら、余計にそうだよ」


 父のシェーンブルグ伯爵が失笑した。


 そう言われると困るのだが。


「ねぇ、エーオストレイルが近づいてない? 」


 グリュンクルドが怯えたように俺達に聞いた。


「近づいてるよ。だって、空を飛べるもの」


 実はこまめに索敵していた俺が身も蓋も無い答えを話す。


 当たり前の話だ、飛んでる方が早い。


「まさか、皇帝の近衛軍と一緒に来ていないのか? 」


 などと父のシェーンブルグ伯爵が動揺して聞いた。


「単独で来ているね」


 俺が索敵の結果をそのまま話す。


「じゃあ、こんな外れた道でシェーンブルグ伯爵領に帰るのでなくて、一直線に戻った方がいいんじゃないの? 」

 

 姉が俺に叫ぶ。

 

 確かにもっと早いシェーンブルグ伯爵領に戻る道はあるのだ。


 だが、今はこの道しかない。


「いや、いるでしょ? この先に……」


 俺が苦笑して先を指さして、グリュンクルドを見た。


「え? 」


 グリュンクルドが凄い動揺している。


「何が? 」


「ギースだよ」


 姉に聞かれて、俺が姉の身体でほほ笑んだ。


 その通りである。


 俺はシェーンブルグ伯爵領に一直線に戻るのでなく、邪神ギースがいる場所を通って戻っているのだった。


「そこまでする? 」


 グリュンクルドが凄い顔をしていた。


 助かる為には仕方ない。


 どちらにしろ、ギースもこのままだと滅ぶ運命なのだから。


 女神エーオストレイル様にギースをぶつけるのだ。

 


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