男の娘 第十九部 第四章
ヨハンが皆を止めて、地面に耳をつけた。
彼の特技で、追ってくる音とかを聞き分けれるらしい。
俺もすでに索敵で確認していたのだが、間違いなく皇帝の近衛軍などが追ってきているようだ。
今は、俺が前と違い身体が違うので、 間違いがあってはならないので父のシェーンブルグ伯爵が確認の為にヨハンにやらせていたのだ。
「やはり来てますね。相当な数だ」
「どうします? 」
ヨハンとゲオルクが聞いている相手が父のシェーンブルグ伯爵ではなく、姉の中にいる俺なのが困る。
「いや、そこは父に……」
「お前に一任するわ。俺は戦闘は下手だし」
などと父のシェーンブルグ伯爵が言いきっちゃうのが凄い。
いや、それはどうなんだ?
「ぶっちゃけ、エーオストレイルの気配もするんだけどね」
「索敵では来ているよ」
「あちゃー」
グリュンクルドが頭を抱える。
戦闘向きでないらしくて、だからこそ前回見逃されたらしいけど、今回は本当に初代皇帝の邪魔をしまくってしまったので、グリュンクルドも許されないだろうな。
その辺は俺と同じなんだけどさ。
「いや、分かっているなら、どうしょう? どうしたらいい? 今回も許してねって無理だよね。絶対に……」
グリュンクルドが姉の中にいる俺の考えを読んだらしい。
すごく動揺していた。
「確かに、あんたの能力って戦闘向きじゃ無いもんね。女神エーオストレイル様と戦ったら瞬殺されると思う」
そう姉が重ねてグリュンクルドに言ってしまう。
「でも、使いどころが合えば、ひょっとしたら、初代皇帝を駆逐すらできるかもしれない能力なんだよね」
「そうなの? 」
俺が動揺しているグリュンクルドを少し元気づける為に話したら、本人が真顔で聞いてくる。
「いや、心の中を覗けるのと、相手の気持ちをコントロールできるって使いどころでは最強の武器でしょ? 」
「でも戦えないよ? 」
「そう言うのじゃなくて戦いの最中として見ればということで……」
「ああ、分かりますわ。相手の指揮官をコントロールすれば突撃のタイミングを外すこともできますしね。そういう意味ではインチキ的な凄い力ですよね。相手の戦いの機を外せるわけですから」
俺とグリュンクルドの話を聞いてゲオルクが納得する。
「その上で簡単な精神コトンロールも出来るとくれば使い方次第では相当なものだよ」
「でも、女神エーオストレイル様には効かないんでしょ? 」
などと折角元気づけたのに姉があっさりととどめを刺す。
グリュンクルドがコクリと頷いて黙った。
そら、昔に邪神達を壊滅させた女神エーオストレイル様を出したら話にならないし。
「正直、あんたは勝てるの? 」
「エーオストレイル様に? 」
「うん」
「無理じゃね? 」
姉の身体で言い合いになったが俺も即答した。
あの元々の昆虫と植物の複合スペックに今はアルメシアの相手からの能力を奪う能力まで持ってしまった。
「どうすんだよ? 」
指揮官であるはずの父のシェーンブルグ伯爵が困り果てたように聞いてくる。
そう言われても、実際、神と呼ばれた存在と単なる転生者だもんな。
しかも、身体は奪われたし。
「まだ、シェーンブルグ伯爵領まで逃げれれば、いろんな準備してたものが使えるけど、ぶっちゃけ、準備した時が女神エーオストレイル様が俺の身体にいた時だからね。ヨハンとかが独自で準備した奴しか駄目かもしれない」
「ああ、そうか。全戦術とか身体の中から見られちゃっているわけだよな」
父のシェーンブルグ伯爵が気が付いて呻いた。
「大半は知られているってことですよね。ぶっちゃけ」
ヨハンが苦笑した。
「俺の中にいたもんね。女神エーオストレイル様が。そりゃあ全部見ているよ。多分、初代皇帝が俺を危険視するのも、その話を女神エーオストレイル様から聞いているからかもしれないんだけど」
俺が姉の身体で、そうため息をついた。
まあ、戦術としたら古い古い騎士の戦いの時代に身分とか無視した戦術を持ち込んでいるから、それは警戒するよね。
ハンニバルなんて後世では普通の包囲殲滅作戦を行っただけでローマを追い詰めたし。
こんな時代にゲリラ戦とか反則だもの。
「それなら、何とかなるのかな? 」
俺の心を読んでグリュンクルドがばっと明るくなった。
「いや、女神エーオストレイル様の存在自体がもっと反則だから」
俺が身も蓋もない話をしたのでグリュンクルドがもっと落ち込んだ。
「というか。貴方達は本気で女神エーオストレイル様と戦う気なんですか? 」
凍るような夜叉のような顔でアメリアが馬上で宣った。
その殺気に皆が震える。
女神エーオストレイル様のザンクト皇国の最大の神殿の神殿長の娘にして元神殿の武装女官である。
そんな身分で女神エーオストレイル様と戦うというのはいろいろと心に負担がある話なのだろう。
「戦わなければならない」
そう断言する声がした。
それは俺が皇太子妃として移動に使っていた馬車の方からだ。
皆が見ると首を振りながら皇太子殿下が降りていらっしゃっている。
クラウスさんが皇太子殿下を横から支えていた。
「かっての女神エーオストレイル様ならともかく、今は違う。初代皇帝が敵なのかどうかはわからないが、あまりに邪悪すぎる。我々は我々の世界を守らないといけない」
そう皇太子殿下がそう決意表明をした。
だが、フラフラである。
『あんた殴り過ぎじゃない? 』
と心の中で姉が突っ込んできた。
しょうがない。
だって加減が分からなかったんだもの。
俺は戦闘タイプじゃないし。
皇太子殿下は覚悟を決めた顔をしていた。
そして、アメリアはそんな皇太子殿下を睨んだままだった。
本来はやってはいけない無礼な行為だが、女神エーオストレイル様をずっと信仰していた身だから、そうなるのもしょうがないかもしれない。
これがのちの戦いで悪い方に出ないと良いけど。