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男の娘 第十九部 第二章

「どうするんだ? どうしょう? 」


 いつもは冷静な父のシェーンブルグ伯爵が動揺していた。


 それのせいでシェーンブルグ伯爵家の騎士団も少し動揺していた。


「お父さん、しっかりしないと! 指揮官が動揺したら、皆が動揺するし」


 姉さんがズバリと言い切る。


 まあ、それは本当の事だ。


 でも、父は元々仕事人間で皇帝陛下の側近として頑張っていただけだから、自分の忠節のよりどころが無くなって動揺が止まらないらしい。


 横でシェーンブルグ伯爵家の騎士団を率いるゲオルクも困っていた。


「ぶっちゃけ、父さんはどうしたいんです? このままシェーンブルグ伯爵家が降伏したとしても、処刑は免れないと思います。どう見ても女神エーオストレイル様も皇帝陛下の御様子もおかしいのでしょ? 操られているような雰囲気は女神エーオストレイル様にもありました。多分、初代皇帝か近い人物がコントロールしていると見ておかしくないと思います。父さんとしては操られたままの皇帝陛下に滅ぼされるのは不本意じゃないですかね? ここは例え反逆と決めつけられたとしても、皇帝陛下や女神エーオストレイル様を操っているものを滅ぼすのが正しいのではと思いますけど。このまま逮捕されてシェーンブルグ伯爵家も滅ぼされたら、誰か別の人物に操られたままの皇帝陛下と女神エーオストレイル様のままになってしまいますよ。それは皇帝陛下の側近として誇りを持っていたシェーンブルグ伯爵家の当主としてどう思いますか? 」


 姉さんの身体を使って、俺がそう言い切った。


 父が皇帝陛下に忠節を尽くしていたように女神エーオストレイル様は俺の中にいた。


 あの御方の優しさも、初代皇帝に対する恋心も本物だった。


 それを例え初代皇帝だとしても、その気持ちをゆがめて良いはずがない。


 だから、俺はそれを何とかしたい。


 何としても、このままにしていたくない。


「まあ、私も賛成だわ。このまま反逆者として処刑されるくらいなら、戦うべきだと思う。それに、これは操られている皇帝陛下や女神エーオストレイル様を御助ける事にもなる。一時の汚名なんてどうでも良いと思うけど」


 姉さんもそうはっきりと言い切った。


 父のシェーンブルグ伯爵の動揺が止まった。


 そして、大きく息を吸って吐くと心を決めたように俺達を見た。


「ありがとう。動揺してしまった。持つべきものは頼りになる子供達だな。良し、戦おう」


 そう父のシェーンブルグ伯爵が宣言した。


「良し、シェーンブルグ伯爵家は皇帝陛下を操る者どもと戦うぞ! 」


 それでゲオルクが騎馬で絶叫した。


 ゲオルクのシェーンブルグ伯爵家の騎士団がバラバラで統率された動きをしてなかったのが、一気に騎士団と言う軍隊として動き出す。


「まあ、うちは皇太子妃殿とそのまま戦うだけだから。このまま戦うぞ! 」


 ヨハンもそう剣を上に突きあげて叫んだ。


 そこへ、皇太子殿下がアレクシス派でない近衛とともにこちらに駆け寄って来た。


 もちろん、アレクシス派と戦いながらである。


 そのアレクシスは確かに第一皇妃の側近でもあるが、保険はかけていたようだ。


 皇太子殿下の近衛の団長のアレクシスとは別に副団長のクラウスさんと仲間が皇太子殿下を今は守っていた。


 アレクシスさんがもしも裏切れば、皇太子殿下を守るものがいなくなる。


 それで、もしもの時はとクラウスさんを副団長に任命して頼んであったようだ。


 アレクシスさんは団長なんで全てを指揮する立場だが、副団長にも直属の近衛の部下を持たせてあって、分離しても戦えるようにしていたらしい。


 このあたりの第一皇妃の慧眼は流石だと思う。


 皇帝陛下も意外と公爵家に気を使って、あまり第一皇妃を表立って守ってはいなかったから、第一皇妃としたら余計に保険を掛けてあったのだろう。


「あ、あの……皇太子妃は? そして母は? 」


 皇太子殿下が動揺してシェーンブルグ伯爵と俺に話しかけてきた。


 すでに皇帝陛下の直属の近衛軍とシェーンブルグ伯爵家は戦闘状態に入っていて、ここで父のシェーンブルグ伯爵に話しかけるのは危険があるのだが、それでもと必死に切り抜けて、話しかけにきたのだろう。

 

 それで父のシェーンブルグ伯爵が姉さんを見た。


 何があったか説明しなさいと言う事だと思う。


 でも、黙ったままだ。


 「皇太子妃のお前が御説明してさしあげなさいっ! 」


 小声で姉が囁いた。


 ええと、俺が説明するんだ。

 

 確かに当事者だけど。


「すいませんでした。第一皇妃を守れませんでした。本当に申し訳ありませんでした。逆に私を守るために第一皇妃は女神エーオストレイル様と戦ってくださったのですが、身体を完全に私が女神エーオストレイル様に奪われていて抵抗できずに止めれませんでした」


 それを聞いて皇太子殿下がぐらっとした。


「駄目だったんだ……第一皇妃には幸せになって欲しかったのに」


 いつの間にか横にいたグリュンクルドが悲しそうに呻く。


「で、では、皇太子妃は……」


「私は姉さんの身体に居ます。第一皇妃が命をかけて女神エーオストレイル様に奪われた身体から、私の魂を姉の中に移動してくださいました」


 そう俺は言うと姉の身体で頭を下げた。


「魂を移動させれたんだ? 」


 グリュンクルドが驚いたように聞いた。


「第一皇妃がしてくださいました」


「そうか……彼女は最後まで優しかったんだな」


 そうグリュンクルドが泣きそうな声で呟いた。


 それで皇太子殿下が顔を覆った。

 

 士気に関わるので声を出して泣きはしないが……。


 それでも、その気持ちは良く分かる。


 でも、このままではまずい。


「何が? 」


 姉が聞いてきた。


「女神エーオストレイル様がこちらに追撃してくるはずです。ここで戦えば我々は皇国の国民からしたら、背教者になってしまう」


 俺がそう姉の身体で皆に告げると父のシェーンブルグ伯爵と姉さんとヨハンとゲオルグは即座に気がついた。


 ここで女神エーオストレイル様と戦えば、ザンクト皇国に皇帝に反逆しただけでなく、神に逆らうものの烙印を押されてしまう。


「即時撤退だ! シェーンブルグ伯爵領へ引く! 」


 父のシェーンブルグ伯爵が叫んだ。


「皇太子殿下も宜しければ御一緒に……」


 俺がそう皇太子殿下に告げたが、皇太子殿下は黙って動かなかった。


 ここに残って父の皇帝陛下に抗議するつもりらしい。


 顔にそれが出ていた。


「皇帝陛下は洗脳されています! 今の流れだと間違いなく殺されますよ! 」


 そう俺が告げるが動かない。


 少なくともここに残れば皇太子殿下の魂は入れ替えされる可能性がある。


 「ごめんなさい」


 皇太子殿下が一緒に逃げてくれないので、仕方なく俺が殴って気絶させた。


 どうも、精神的にも弱っていたのと、姉さんの身体が凄いのか一撃で皇太子殿下はその場に崩れ落ちた。


「わぁぁぁぁぁあああ? お、お前ぇぇぇぇ! 」


 父のシェーンブルグ伯爵がそれを見て驚いて叫ぶ。


「時間がありません! さあ皇太子殿下を御連れしましょう! この場に置いておいたら絶対に殺されます! 魂を入れ替えられるかもしれない! 」


「無茶苦茶するよね……まあ、しょうがないけどさ……」


 俺が姉さんの身体で言うと、姉さんが深いため息の後に愚痴りながら皇太子殿下を肩に持ち上げた。


「クラウスさん達はついてきてください! 」


 俺がさらに姉の身体で叫ぶと皇太子殿下の近衛の副団長のクラウスさんは驚いた顔をしたけど、それでも皇太子殿下を守るようについてきた。


「完全にこれじゃあ悪役だよ」


 そう父のシェーンブルグ伯爵も愚痴りながら馬を走らせた。


 女神エーオストレイル様の追撃から逃れる為に。


  

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