男の娘 第十九部 第一章
姉さんがヨハン達と一緒に通路を走って、地下から外へ出るために第一皇妃の怪物が破壊した通路から、上へ登っていく。
ヨハンも移動が早いがさすがは姉さんだ。
パルクールでもやっているように登っていく。
ぶっちゃけ、前にヨハンに聞いた時に、この世界だと冒険者とかになると、相当やばい場所を通って移動するようになるので、段々とこんなのが普通になるとかで、修羅は冒険者あがりも多いので手慣れている。
まあ冒険に遺跡とか行くと、飛び降りたり、掴んで上へ登ったりが当たり前の環境になるのだから仕方ないのだろうけど。
「いや、あんたがぶつぶついろいろと思っているのは良いけど、父さんにどう説明するのか考えているの? 」
姉さんが俺に聞いた。
「俺達は最初から一蓮托生のつもりですから、皇太子妃というかマクシミリアンのボンがやる方向に全力で乗りますけどね」
ヨハンがよじ登りながら苦笑して話してきた。
横にいる修羅も同じらしく全員が深く深く頷いてた。
「あーあーあーあー、そりゃあ、修羅はあんたが作った軍隊だからね。皆がそう言うと思うけどさ。どうすんの? ザンクト皇国と戦う事になるかもしれないよ? 」
姉さんが呆れたように呻く。
元々、もはや、それしか無いようなコースになってるからどうしょうも無いとは思うけど。
そもそも、何で、あんなに初代皇帝は俺を敵視しているのか良く分からん。
「そりゃあ、神話の時代に初代皇帝が女神エーオストレイル様と邪神を倒した後は功績に応じて貴族にしたりして、きっちりと全てに身分制度を取り入れた後に、それは壊せないようなものにしたからね。だから、下の身分が上の身分に反逆とか絶対に出来なかったし、貴族は平民が殺すのが平気な世界で、皇帝に命じられた騎士ならともかく、あんたが平民上がりの兵士が貴族を殺す無茶苦茶な軍隊とか作るから……この世界を破壊するものと思われたんじゃないの? 」
姉さんに呆れたように言われるが、相手はザンクト皇国を支配している最高位の公爵達と戦わざるを得ないのだから、そりゃ金はあるとしてもシェーンブルグ伯爵家程度では、そうしないとしょうがないと思われ。
「父さん、多分、ショックを受けて動けなくなるくらいになるんじゃないの? まあ、心配しないでも私達を見捨てるような事はしないと思うけど……」
それは同意だ。
そう言う意味で今の家族は本当に素晴らしいと思う。
昔は父さんは冷血に見えたが、結局、皇帝陛下の側近で何でもかんでもやらなくちゃいけなくて、疲れているだけだったし。
だけど、父さんが何かにコントロールされていたらまずいのだけど。
「父さんが何かやられる可能性は凄く低いと思うよ。慌てて行ったから皇帝にお話を伺ったらすぐに戻ってくるでしょ……と思うんだけどな……前から何かあったらわかんないけど……」
そう言いながらも、ちょっと姉が不安そうに話す。
誰か女神エーオストレイル様に助言していた存在がいたし、あの優しかった性格の異常な変貌は目の前で見ているので不安になるのは確かだ。
「何かあった時はどうしますか? 」
ヨハンがちらと聞いてきた。
「とにかく、その状況に合わせて対応するから、ヨハン達は警戒して欲しい。何が起こっているか分からない。あらゆる状況を視野に入れて欲しい。女神エーオストレイル様に話しかけてた奴がいる。それが誰か分かるまでは油断が出来ない」
「ちょっと! だから、私が使っている時は、私の身体を使うなと言うのにっ! 」
俺が無理矢理に姉さんの身体を使って話をしたせいで、姉さんがブチ切れていた。
「まあ、喋り方でどちらかは分かりますがね。とにかく、修羅の集結を急ぎましょう」
ヨハンがそう苦笑しながら、ようやく地下から外に出た。
そうしたら、外は地獄に変わっていた。
激しい戦いが目の前で繰り広げられていた。
一番目立つのは身分とか無視して暴れまくる修羅だった。
どうやら、皇太子の近衛のアレクシス派と激しい激闘になっているらしい。
その上で、何故か皇帝陛下直属の近衛軍まで出て来て戦いに参加しているようだ。
それも修羅やシェーンブルグ伯爵家の騎士団の敵としてだ。
何が一体あったのか分からない。
ちらと見ると奥の方では皇太子殿下とそれに従っているアレクシス派では無い近衛の騎士達が皇太子殿下を守るようにして、石造りの建物を背にして戦っている。
そちらの方は皇帝陛下直属の近衛と小競り合いしている感じだ。
「な、何が一体」
姉さんが唖然としている。
殆どバトルロイヤルである。
修羅とシェーンブルグ伯爵家の紋章を付けた騎士達は味方だと思うのだが、アレクシス派の皇太子殿下の近衛軍だけでなく、皇帝陛下の近衛軍と激しく戦っている。
「なんで、皇帝陛下直属の近衛軍が出しゃばって来てんですかね? しかも、どうもシェーンブルグ伯爵家の敵側ですよ? 」
ヨハンが姉さんに聞いてきた。
というか、姉さんの中の俺に聞いているんだろうけど、そんなの分かるわけ無いし。
その時だ。
ゲオルクと数騎に守られたシェーンブルグ伯爵である父さんが騎馬でこちらに向かって来る。
「皇太子妃……マクシミリアンは? 」
父さんが泣きそうな顔をしていた。
ある意味、ここに女神エーオストレイル様がいないので、俺が死んだのかと思っているらしい。
「私の中にいるよ。第一皇妃がマクシミリアンを守るために無理矢理に魂だけ私に移動させたらしい」
「ここに居ます」
俺が姉の身体を使って軽く手をあげた。
「また、私が話している最中に勝手に身体を使う! 」
姉さんが怒るが仕方ない。
「そんな、器用な事が出来るのか……」
父さんが呆れると同時にほっとしていた。
「ひょっとして、皇帝陛下の所に行ったら拘束されそうになった? もしくは、殺されそうになったとか……」
俺が勝手に再度姉さんの身体で聞いた。
「良く分かったな。その通りだ。突然、皇帝陛下が何かと話されて豹変なさってなな。我々を殺せとまで言われて、流石にこんな事は今まで無かったから、何かの間違いだと思って慌てて一旦逃げて来た。でも、逃げない方が良かったのかな。まさか皇帝陛下直属の近衛軍まで出てくると思わなかった」
ちょっと、自信なさげに父さんが呟いた。
皇帝陛下も初代皇帝のコントロール下だったんだ。
それで俺が絶句して何も言えなくなった。
それは、今まで当然だと思っていた景色が全部変わっていたような衝撃だった。