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男の娘 第十八部 第九章

「ヨハンっ! ボウガンを矢と一緒にこちらに投げろっ! 」


 姉の身体を強引に俺が使って叫んだ。


「ちょっと、私が使っている時は勝手に身体を使うなっ! 」


 姉さんがヨハンに渡された長剣を持ちながら叫ぶ。


 ヨハンが即座に自分の持っているボウガンを矢筒とともに一セット滑らせるように投げて来た。


「これをどうするって言うの? 女神エーオストレイル様を攻撃するって言うの? 」


 姉が足元に転がって来たボウガンを見て俺に話す。


 そうじゃなくて、一応、調べときたいんだけど……。


「何? 」


 ボウガンを女神エーオストレイル様に撃つように見せて、奥の神殿に撃てる?  


「なんで、そんな事を? 」


 いやどうしても知っておかないといけないことがあって。


 女神エーオストレイル様はあの神殿を中心にしたドーム状の、恐らく絶対安全圏で剣を振るって攻撃が出来ていた。


 それは姉さんも変わらない。


 許されたものしか攻撃とかできないのは間違いないようだけど、それ以上の事が出来るのかを知りたいんだ。


 特に恐らく要に当たる神殿を俺達なら攻撃できるのかどうかを。


 もし戦うなら、神殿を破壊するのが必須になるし。


「あんた……凄く……恐ろしい事を考えるね……」


 俺の心を読んでくれた姉さんが絶句した。


 多分、姉は信仰心の深い家庭に居たのだろうが、俺はそんなの信じていない家庭に育っていたから、余計にそういうのに対する考えが違うのだと思う。


「本気でするの? 」


 姉が呟いた。


 確認したい。


 結局、初代皇帝と戦うのなら、地下の神殿を破壊するのは必須だから。


 ヨハン達の矢は神殿に当たるところで全部弾かれていた。


 女神エーオストレイル様には矢が当たっていたのにである。


 何かの防御の法則があると見た。


 それがここに居る許可を持つ俺達だと、矢を神殿に射ると、どうなるかを確認したい。


「わかった」


 姉がボウガンを構えた。


 普通の兵士はボウガンの弓を張るのが足を使って背筋を使ってやったりして大変なのだが、平気であっさりと手で引くだけで、それをやってしまうのが姉さんらしい。


 戦うために強化されているからだと思う。


 女神エーオストレイル様を狙って外れたように見せて、神殿に撃ちこんで欲しい。


 向こうに神殿の防御を試していると気が付かれないように。


「わかった。あんたの身体は良いの? 」

 

 現状で女神エーオストレイル様から身体を取り戻す方法はないから仕方ないと思う。

 

 多分、ヨハン達が女神エーオストレイル様にあれだけ打ち込んでも全部身体が再生されて肉が盛り上がって刺さった矢が下に落ちているから、どうやったって死なないと思う。


「頭を撃っても? 」


 それも、ここにある現状の武器では無理じゃないかな?


「厄介だね」


 そう呟きながら、女神エーオストレイル様が矢を剣のような鞭で弾けないように、足のあたりを狙うようにして神殿に姉さんがボウガンで矢を打ち込んだ。


 そして、その矢は神殿に刺さった。


 良かった、当たるようだ。


「どう言う事? 」


 多分、俺達なら地下神殿は破壊できるんだと思う。


「……本気でするの? 」


 しないと初代皇帝には勝てないと思う。


「でも、所詮、矢だよ? 」


 火薬なら爆破出来る。


「そういや、そんなの開発させてたよね。あーあー、本気で反逆者じゃん。まさか、あんたその為に修羅を作ったんじゃないよね」

 

 姉さんがそう俺に真顔で聞いた。


 そういうつもりはなかったんだけどな。


 戦う相手は公爵家でザンクト皇国の超大物だから、国家と戦うに等しいから、相手の身分ごときでビビるような兵士じゃ戦えないから、それで作ったんだけど……。


「それで神と戦うと……」


 他に良い手があれば良いんだけど。


「え? 」


 女神エーオストレイル様が驚いたような顔で呟いた。


 そして、神殿の方を振り返って見た。


 何かを唖然とした顔で見ている。


 どう見ても、その先にあるのは姉さんが神殿に撃ちこんだ矢だった。


 それでこちらを呆然として見ていた。


 まずいな。


 俺がした事が女神エーオストレイル様に指示している初代皇帝か誰かにバレている。


「どうすんの? 」


 逃げよう。


煙筒(けむりづつ)を持ってきているか? 」


 俺が姉さんの身体を使って再度叫んだ。


 そうしたら、ヨハンの周りが筒みたいなものを腰から出した。


 元々はバーキラカと戦うために持たせていたものだ。


 まさか、女神エーオストレイル様に対して使用すると思わなかった。


 次々と火をつけて、通路を滑らす様にヨハン達がそれを投げ込んでくる。


「あれ、唐辛子とか入ってんだよね」


 そう姉さんは言い捨てると全力でその投げ込まれた煙筒を飛び越えてヨハン達の方へ走りだす。


 地下を燻してバーキラカを引きずり出す為に開発したものだから、想像以上に目とか呼吸器とかにダメージが来るはず。


 何しろ、人間相手でなくて邪神用に作っていたのだから。


 姉さんのその時の移動速度は半端無かった。


 そして、女神エーオストレイル様は追って来なかった。


 この煙筒のせいと言うよりは、俺が神殿を破壊できるか試したという事を誰かに聞いた事でショックを受けたのだと思う。


 つまり、本気で女神エーオストレイル様と戦う方向に俺達が動いていると言う事がわかったからだ。


 俺を殺そうとしていて女神エーオストレイル様は操られていた感じだったが、まだ、女神エーオストレイル様の本来の心は残っているようだった。


 だけど、もう俺達も引くに引けないし。


 これでザンクト皇国の信仰の中心である女神エーオストレイル様と戦うのはほぼ間違いなくなった。


 ヨハン達と合流すると、新たに現れた修羅の部隊が煙筒を女神エーオストレイル様のいる地下に次々と投下していく。


 時間稼ぎの為だ。


 早く父のシェーンブルグ伯爵に会って今後の事を話さないと。


 まあ、シェーンブルグ伯爵家謀反とか言う感じになるのかな。


 今度は救国の英雄から反逆者である。 


 とうとうやってしまった。

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