エピローグ
それからというもの、ぼくたちは国道一二八号線を歩き続けている。
ぼくの後ろを付いて歩くのは、さけちゃと猫のちゃちゃ。ぼくがさけちゃにあげたご飯を、なんの気まぐれか、さけちゃが近くを歩いてたちゃちゃにあげて、ちゃちゃはさけちゃに付いて来るようになった。
そういうややこしい関係だ。
薪井の言うところによると、さけちゃは昔から猫が大好きだったらしい。
薪井はというと、ぼくの前を元気に歩いている。
ぼくよりもずっと体力があるようだ。そういえばマラソン大会は毎回上位の方だったことを思い出す。ぼく自身のことは思い出せない。
「古池くん、もうすぐ海だから頑張って!」
薪井が死にそうなぼくを励ましてくれる。
なんでこんな寒いのに元気なんだろう。
ぼくよりずっと血色もいいし、声にも張りがある。
――結局のところ、あれだけお互いの気持ちを打ち明けて泣きながら道中を過ごしたにもかかわらず、薪井は感染していなかった。
それは嬉しすぎる誤算だった。
さけちゃの血を摂取したことは間違いないが、その血が何日も前のものだったことが幸いした……ようだ。
ぼくたちはCDHDがどういう病気であるかを正確には把握していない。
だから、一度空気に触れて時間の経った感染者の血液に感染力があるかどうかなんて本当はわからなかったのだ。
感染すると思い込んでいただけで。
だがその思い込みにより、薪井は命拾いをした。
「さけちゃの血を飲んでから前より健康になった気がするよ」
と、時折薪井は言う。
「それって思い込みじゃない?」
「プラシーボでもなんでも効けばそれでいいんだよ。さけちゃ……お父さんも言ってたし」
そういえばさけちゃはお医者さんだったんだっけ。
「そっか。じゃあ間違いないね」
ぼくが言うと、
「オオオ」
とさけちゃが相槌を打ち、ちゃちゃも真似して「オオオ」と鳴く。
薪井が感染していないとわかってからも、約束通り何度何度も話しかけ、話題はとっくになくなってしまっている。
仕方なくぼく自身の話まで始めて、周りを辟易させている次第だ。
そんな話にさえ、さけちゃは相槌を打ってくれるし、薪井も愛想笑いをしてくれる。
潮の匂いが鼻孔を掠め、薪井の言うように旅のひとまずの目的地は目前だった。
この先どうなるんだろう。
こんなときぼくはそう思わずにはいられない。
状況はなにも改善していない。
全然余裕はないし、明るい展望もない。
空は曇ってるし、とにかく寒い。
なのに少しだけ、景色が明るく見えるのはぼくの気のせいだろうか?
参考文献
○ティモシー・ヴァースタイネン、ブラッドリー・ヴォイテック『ゾンビでわかる神経科学』(鬼澤忍訳、太田出版)
○ロジャー・ラックハースト『ゾンビ最強完全ガイド』(福田篤人訳、エクスナレッジ)
○ダニエル ドレズナー『ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える』(谷口功一、山田高敬訳、白水社)
○『映画秘宝EX 映画の必修科目15 爆食! ゾンビ映画100』(洋泉社)
○伊東 美和、山崎 圭司、中原 昌也『ゾンビ論 』(洋泉社)
○マックス・ブルックス『THE ZOMBIE SURVIVAL GUIDE COMPLETE PROTECTION FROM THE LIVING DEAD ゾンビサバイバルガイド』(卯月音由紀訳 森瀬繚【翻訳監修】、エンターブレイン)
○マックス・ブルックス『WORLD WAR Z』(浜野アキオ訳、文藝春秋)
○ジョージ・A・ロメロ、ジョナサン・メイベリー編著『NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド 死者の章』(阿部清美訳、竹書房文庫)
○ジョージ・A・ロメロ、ジョナサン・メイベリー編著『NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド 生者の章』(阿部清美訳、竹書房文庫)
○ルイス・ダートネル『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(東郷えりか訳、河出書房新社)
○岡本健『大学で学ぶゾンビ学』(扶桑社新書)
○『ゾンビ映画大マガジン』(洋泉社)
○ノーマン・イングランド『【決定版】ゾンビ究極読本 GEORGE A. ROMERO'S SAGA OF THE DEAD』(洋泉社MOOK)
○かざまりんぺい、佐原輝夫『新冒険手帳【決定版】』(主婦と生活社)
○野口健『震災が起きた後で死なないために 「避難所にテント村」という選択肢』(PHP新書)




