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再会後3

 「おはよう」

 薪井の声がして、目を開けると本当に薪井がいて、

 眠った頭が現実に追いつくまで少し時間がかかる。

 

 「おはよう」

 自分の喉から出た声が少し掠れていた。それがなんとなく気恥ずかしくてぼくは咳ばらいをした。

 

 「疲れてたんだね。ノックしても返事がなかったから入ってきちゃったけど……」

 「それは全然大丈夫。ごめんね、もっと早く起こしてくれてもよかったのに」

 ぼくは言う。外はすっかり明るくなっている。

 

 「ううん、実はわたしもさっき起きたんだ。寝過ごしたーって思って降りてきたらまだ古池くんが寝てた」

 薪井はくすりと笑う。

 

 「お、お互い疲れてたんだね」

 「そうだね。こんなに眠れたの久しぶり。知ってる人の顔見て安心したのかも」

 「それならよかった。ぼくもだよ。あはははは」

 ちょっとした言葉に嬉しくなって照れ笑いをしていると、

 

 「ウー!」

 薪井の連れがぼくの自惚れを諫めるように唸った。

 

 「あ、お腹空いたんだね。ちょっと待ってて」

 薪井は背負ったリュックから食べ物を取り出して、彼に与えた。

 彼はそれを両手で受け取るともぐもぐと口へ運ぶ。

 

 「薪井はなにか食べた?」

 「ううん。まだだけど」

 「ぼくたちも朝ごはんにしようよ」

 そう言ってぼくは自分の荷物から、缶詰を数個取り出して薪井に渡そうとした。

 

 「いいって。もらえないよ。昨日ももらったんだし……」

 「大丈夫。まだあるから。それに一緒に行動するならこっちの方がきっといいよ」

 

 「……ありがとう。でも今日は大丈夫。手持ちのがなくなったらお願いするかもしれないけど」

 だけど薪井は固辞して、笑みだけぼくに投げかけた。

 

 見えない一線がちらりと見えたけれど、ぼくはそれに気づかないふりをして今日の予定について話し始めた。

 「じゃあ今日は食料探しながら、田露市に向かおうか」

 「ううん、悪いんだけどちょっと急ぎたいな。えっと、多分わたしまだ追われてるから……」

 「わかった。それじゃあ移動優先だね」

 ぼくは物わかりのいい人間を演じる。

 「うん、ごめんね」

 

 仮宿を出てから、道端に乗り捨てられていた自転車を拝借して、それを押しながら歩く。

 急いではいるが、自転車はあくまで荷物運搬用。

 なぜなら薪井の連れは自転車を漕げないから。


 ゾンビなんて呼んではいるが、薪井は彼を置き去りにする気はないらしい。

 一緒に行動していると愛着は湧くものだ。

 甲斐甲斐しく世話をしている様子からそれはわかる。

 

 そうして会話もなく三人で歩いていると、ふいに雨の匂いがした。

 サッと音がして、アスファルトに黒い点が増えていく。

 仮宿を出たときは晴れていたのに。

 

 「わっ、降ってきたね」

 「カッパは持ってる?」

 ぼくはリュックからカッパを取り出す。

 「あるけど、一回あそこに入ろうよ」

 薪井は民家の車庫を指した。

 ぼくたちは車庫の中に避難する。

 

 「ひどい雨だね」

 薪井が言った。

 しばらく降っていなかったからか、スコールのような強さだった。

 これではカッパを羽織ったところで、ずぶ濡れになってしまうだろう。

 さすがにこの季節にそれはまずい。

 

 「すぐ止むといいんだけどね」

 ぼくは言った。

 薪井は目の前の豪雨を見て、

 「すぐ止むかなあ?」

 「空が明るいから、にわか雨だと思うんだけどね」

 ぼくは適当なことを言う。

 

 会話が途切れて雨のざあざあいう音だけが車庫内で響く。

 こうなってしまうとやれることがない。

 集落にいたころも雨の日は室内待機が多くて、大した娯楽もないから暇でしょうがなかった。

 

 「薪井はさ、よくぼくのこと覚えてたね」

 ぼくはぽつりと口に出した。

 「え?」

 「いや、だって大して関わりもなかったしさ。よく顔見てわかったなあって」

 ときどき集落で元美容師のおばさんに切ってもらっていたとはいえ、最後に髪を切ってからしばらく経つし、昨日なんてひどい風貌だったはずだ。

 あごを触るとひげがざらつく。

 

 「ええ、それはひどくない?」

 薪井が言った。

 「ん?」

 ドキッとする。ぼくはまたなにか言ってはいけないことを言ってしまっただろうか。

 

 「さすがに忘れないよ。中学入って初っ端で一番インパクト大きかったもん」

 薪井が少し笑う。

 なんのことを言っているかわかって、顔が赤くなる。

 林間学校で脱走した件だ……。

 あれからお互いに一切触れることなく過ごしてきたけど、やっぱり覚えてたんだ! あたりまえだけど……。

 

 「あれは、その、ちょっとした気の迷いというか……」

 「わたしも別の学区から来たからさ、気持ちはわかったよ。わたし結構人見知りだし」

 「そうだったの? 全然そんな風には見えなかった」

 「だからさ、ある意味嬉しかったかも。ほかにも馴染めてない人いたんだ! って」

 薪井は冗談めかして言う。

 まさかそんな形で役に立っていたとは。

 

 「と、とにかく見つけてくれて助かったよ。あのままだと学年中に脱走者として名を知られていたと思うし」

 「どういたしまして。そんなわけだから簡単に忘れてはあげられないかな」

 薪井が笑う。

 

 風景が明るくなった気がした。

 それが空模様のためかはわからないが、雨は止んだようだ。

 軽口を叩きあいながら、ぼくたちは再び歩き始めた。

 

 雨は断続的に降ったり止んだりして、あまり距離は稼げなかったけど、それでもようやくぼくたちは田露市へとたどり着いた。

 いつものやり方で宿を取り、また一階と二階に別れて休息を取ることになり、その夜に事件が起きた。

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