再会後2
三人ともむっつりと押し黙って、大きな車道から外れた細い生活道路を進んでいく。
最初に沈黙を破ったのは薪井の腹の音だった。
「そろそろ休憩しよっか」
薪井が少し照れながら言った。
「わたしもだけど、この子にもなにか食べさせないと」
薪井の連れは表情こそ変えないが、涎をたらたら垂れ流していた。
「長い間空腹にさせるのはよくないから」
「そ、そうなの」
ぼくは少したじろいだ。
近くの古いアパートの軒先に座り込んで薪井は手荷物から食料を取り出す。
「古池くんもなにか食べ物持ってる?」
「うん、あるよ」
ぼくは自転車の荷台に乗せたリュックの中から色々と取り出す。
「へえ、こんなにたくさん!」
「薪井の方はあまり残ってないの?」
「着の身着のまま逃げ出したからね。道中もなかなか手に入らなくて」
「食べる?」
「そんな、もらえないよ」
「いいって。昨晩泊まった空き家でたまたま見つけたんだ」
「へえ、まだそんな場所があるんだね」
「うん、全然荒らされてなかった」
「古池くんは日ごろの行いがいいのかもね」
「そうかな」
いいわけがない……。そんな心苦しさを打ち消すように、ぼくは紙皿に缶詰の中身を出して薪井の連れの方へよこした。
彼は嬉しそうに唸って、鶏肉にがっつく。
素直な反応に、あれほど恐れていた感染者が可愛く思えてきた。
「ありがとう」
薪井が代わりに礼を言った。
お腹が膨れて、ささくれだった気持ちがいくらか穏やかになってきた。
「これからどこへ行くつもりなの?」
「海に向かおうかなって」
「海?」
「だってCDHDは哺乳類以外には感染しないから」
「ああ、それ聞いたことあるね。本当なのかな」
村にいた頃、聞かされたことがあった。話の出どころははっきりわからなかったが。
「わたしも噂で聞いただけだけどね。でも感染したの見たことないでしょ」
「たしかにね。鳥は元気だよね」
夕方になると、街の上をカラスが覆いつくすこともあった。それに対してなんとなく不吉な雰囲気を感じてしまっていたが、それは単に力尽きた患者が増えたことを意味していたのかもしれない。
カラス以外の鳥にしても、妙な飛び方をしていたり不自然な死に方をしていたりといった様子は見られなかった。
「あの話が本当なら、もうそれしかないと思って」
「村でも一応川魚を釣ったことがあったよ。すぐ獲れなくなったけど」
「大丈夫だったの?」
「うん、ぼくも食べたことある」
「うん。やっぱり海へ行こう。みんな同じこと考えるかもしれないけど」
たしかに海へ逃げようという話は何度か俎上に上がったことがあった。その度に、大人数での移動は現実的ではないということになって、立ち消えてしまってはいたが。
「それでもいい考えだと思う。このままだとどうせ行き詰まるし」
そこまで言ってから、少し考える。
「けど海までかなり遠いね」
流湖市は内陸都市なので、最短で海を目指すなら南下して田露市を通り抜ける必要がある。
「うん。でも行ってみない?」
ちょっと遠くへ出かけない? とでもいうように薪井はささやいた。
「……うん、そうだね」
どちらにせよほかに道はないのだ。
それなら、たとえ無理だとしても少しでも希望が見える方に歩いていくしかない。
ぼくたちは立ち上がってお尻についた砂利をパンパンと払った。
朝から続いた慌ただしさは午後にはすっかりなりを潜め、ぼくたちは死んだ街を踏みつけるようにして進んだ。
先日の反省を生かして、まだ日の高いうちにその日を宿を求めた。
馬鹿正直に玄関から入ろうとさえしなければ、どこへでも入居が可能であることに気がついたぼくは、空が陰るころにはもうベッドに深々と腰かけていた
先日の住宅とは異なり、ここでは新たな食糧は見つからなかったが、天井と壁、それからベッドまであるのだから十分だった。
薪井とその連れはそれぞれ一階の別の部屋を、ぼくは二階の部屋を使うことにした。
二階では有事の際、逃げるのに不自由だと思ってバカみたいな騎士道精神を発揮したのだ。
一番いいのは全員一階に滞在することだが、なんとなくそれは憚られた。
そこに他意はなくとも、断られると拒絶される感じがする。
それが嫌で、そうなる前に自分から言い出しただけなのだが。
天井の薄暗闇に千路くんの顔が浮かび、下した決断に胃が重たくなった。いくら心の中で謝っても罪の意識は消えなかった。ぼくは本当にこのままでいいんだろうか。そんな考えが決断の前後を何度も行き来する。
助けてもらったのに、ぼくはみんなを見捨てるのか……。
悩みの種はリュック一杯ほどもあったけれども、疲れもあったのだろう。
眠気がそんなもやもやをも覆い隠していく。
慌ただしい一日が終わろうとしてい




