俺と俺のマンツーマン
「ん...ん~ん?な、何だ...ここ...?」
俺は閉じた瞼の隙間から白い光が入ってきたので、目を擦りつつゆっくり開けて上半身を起こすと四方八方、全てが真っ白い部屋だった。周りを見渡してもドアや窓どころか小物も一つも無い宝箱のようだった。
「お、おいおい...何なんだよここ...?夢、なわけない。だって俺は...!」
「死んでしまったもんなお前」
突然、俺の後ろから男の声が聞こえ、驚いた余り飛び起き、その拍子に前の壁に引っ付くように寄りかかった。
「な、なな、何だお前!?....ってうえ!?」
俺はさっきと同様に驚いた。声のした奴を見ると、なんとそこに胡座をかいていたのは俺だった。黒髪でボサボサ、目には熊が出来てて、無精髭が生えてて、ジャージとトラックパンツを着た男、まさしく俺だった。だが何故かそいつが明らかに人ではないと直感で感じた。人形のように固まった表情から想像も出来ない突き刺すような威圧な目が俺を見つめていた。
「お、俺...?なんで俺が?...ドッペル?ご先祖?パラレルの人間?」
「いや、俺は君達の世界で言う神様だ。この姿はお前の鏡姿を依代にしているから案ずるな。」
俺が困惑していると俺はスパッとそう答えた。しかし、俺はますます困惑してしまった。それはそうだ。自分のそっくりが表情一つ変えずに突然、神と称すからだ。
「いやいや!!なんで!は?なんで俺の!?いやいや意味分からん!案ずるなと言われても無理に決まってる!!俺が神って!神が俺って!」
俺は完全にパニクってしまい、髪をくしゃくしゃにしながら口から次々と言葉が出てきた。それを見ていた無表情の俺は小さくため息を吐き、指を鳴らした。
「はぁ...少し落ち着け、小さき男児よ」
パチッ!
その直後、俺の頭の中が薄れるように消えていき、しまいには空気を抜かれたように全身の力が抜けいった。そして心も落ち着かされたらしく、俺は脱け殻のように壁に寄りすがって、崩れ落ちた。しかし俺は一つだけどうしても聞かなきゃいけないことがあり、潰れそうな瞼を強引に開き、重たい口を開けて聞いた。
「....俺は地獄に落ちるのか...?」
その言葉を聞いた神は立ち上がり、近づきながら話し始めた。
「男児よ、お前は恵まれている。ここはある者の夢の中とお前の魂の狭間、ここでお前にはある事を命ずる」
そう言って近づいた神は姿勢を低くして、俺に目線を合わせ、再び話した。
「ここの夢の者の器に居座り、第二の人生を過ごすのだ。」
俺は神の言葉にまたしても驚いたが、力が抜けてしまい、首を傾げるしかなかった。自分の前世の罪が裁かれるどころか、別の人生を進ませられるのだ。
「何で...?俺は同じ人間を...」
「あぁ知ってる。だがお前はその倍の人間に感謝されてるではないか。それにこれは薦めではない、命令なのだ。」
俺はそれでも首を横にふり続けた。いくら感謝されても、俺は多くの命を奪ってきた。そんな人間が人生を楽しめるわけない。
スタスタ...
「ふむ、どうやら我々の会話を聞きつけ、ここに着たらしい。」
「え...?」
俺は神が向いている方と足音の方を向くと、そこには金髪の小さな子供が俺達を見つめていた。身長からして10歳前後で、海外にいそうな奴だった。そんな奴が自分に気付いた俺に近づいて、俺の目を見て、口を開いて、俺にこう言った。
「....ユキが言ってたよ。貴方は幸せになってって...」
「!!...お、お前!なんでその名を...!」
その直後、俺の意識がまた消えかけていた。朦朧とする中、神が俺に向かって言った。
「お前はこの子とその子に感謝するんだな。せいぜい悔いの無いような人生を味わえよ。男児...いや、愛原情太...」
俺の名を最後に意識が途切れた。