表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からふるシーカーズ  作者: 白月らび
雲の大地と始まりの夢
88/404

神秘の夜空を眺めた

「副総長! 報告があります!」


 ファナリアのエインデルブルグ、リージョンシーカー本部。

 ピアーニャより留守を任されていたロンデルの元に、1人のシーカーが飛び込んできた。


「レウルーラの森に赤い光が!」

「何! まさか!」


 以前にもあったグラウレスタの異変。森の赤い光が、再び姿を現した。

 伝令としてやってきたニーニルのシーカーから詳細を聴き、一緒にやってきた受付嬢にシーカーを集めるよう指示を出した。さらに、


「この件は私も行きます。ニーニルの方からは、もしもの為に2人程足の速い者を選出するようバルドル組合長へ連絡を」

「はいっ!」

「それと、総長が今実家にいます。どなたかハウドラントへの連絡をお願いします」


 それぞれに指示し、ロンデル自身も出る準備をし始める。赤い光が現れた時に、塔が巨大生物に襲撃されたのは記憶に新しい。

 選ばれた腕利きのシーカー達も気合を入れ、本部のホールへと集合した。


(巨大生物と赤い光の因果関係、そしてレウルーラの森の謎。アリエッタさんの謎にも迫る事が出来るかもしれません……あの子の為にも、俺が絶対に手がかりを掴んでやる)


 ホールに向かいながら、名前すらも無かった銀髪の少女の事を想う。幼い少女の悲しい過去の秘密を見つける為、シーカー達を率いてリージョンシーカーを発つのだった。


「行きますよ」

『おうっ!』




 一方ハウドラントではランチタイムからしばらく経ち、のんびりと時間が流れる屋敷の庭に、少女の嬉しそうな声が響く。


「できた! みゅーぜ、できた!」(久しぶりにしては結構いい感じになったかも!)


 絵の描かれた紙を持って、ミューゼ達の元へと小走りで駆け寄った。


「アリエッタちゃんが喋ったぁ!?」

「まぁ今のは名前と『できた』だけなのよ」

「うんうん、結構長い間頑張ったねー。どんなのを描いたのかなー?」


 紙を受け取り頭を撫でる。すると、アリエッタは嬉しそうに目を細め、頬を染めた。


(褒められた……どうしてこんなに嬉しいんだろ。どうしてもニヤけてしまうっていうか……駄目だ幸せ過ぎて我慢出来ない!)

「撫でられてすっごく喜んでるよ。こっちまで嬉しく…パフィさん、凄くだらしない顔になってますよ?」

「そ、そんなこと無いのよ……んへへぇ♡」


 その可愛らしさに、パフィの顔が顔面崩壊レベルで力が抜けている。

 後ろや屋敷付近に控えているメイド達も、顔に出さないようにしているが、全身震えていたり、少し顔が紅くなっていたり、さらには一筋の鼻血を零す者もいた。


「よしよし……そんな笑顔になられると、変な気持ちになっちゃうわ♡」

「ミューゼ? 手を出すなら…私も一緒に──」

「いやそこは止めるべきでしょ!? いたいけな女の子に何しようとしているの!? あーもう、はやくソレ見せてください!」


 不穏な空気を察し、慌てて話題を絵に戻すネフテリア。


「それじゃあ見てみますか」


 受け取っただけで、まだ見ていない。どうせ驚くなら、パフィとネフテリアも巻き込んで一緒に驚こうという考えである。


「せーの」


 掛け声をつけて、手に持った絵を広げた。そこに描かれていたのは、アリエッタが真剣に見ていた屋敷と庭。

 薄い青空、影で模られた雲、綺麗に描かれた屋敷、そして雨と虹。それは水彩画のように優しく、鮮やかだった。


「はぁ~……凄い綺麗。あのお屋敷よね」

「こんな優しい絵は初めて見るのよ……ん?」

「………………」

「今回はミューゼが止まったのよ」


 ミューゼは絵に魅入っている。

 横からアリエッタが心配そうに服を引っ張った。


「みゅーぜ?」(もしかして、どこか失敗した?)

「はっ」


 我に返ったミューゼが、絵とアリエッタを見比べる。そしてパフィに向き直り、


「どうしようパフィ。褒めたいのにどう言えばいいか分からない……」

「私も分からないのよ。こういう時は行動で示すのよ」

「そ、そうよね! アリエッタ!」

「はい!?」(なになに!? びっくりした!)


 大声で声をかけられ、体を大きく震わせるアリエッタの頭を撫で、顔を近づけた。


(わ、また撫で…気持ちいい……ヤバイ、もっと撫でてほしい。凄く嬉しい♪)


 一瞬動揺するが、幼い体は撫でられると幸せを感じてしまう。そしてその幸せは、アリエッタの思考を鈍らせるには十分だった。

 その隙に、ミューゼは満面の笑顔に横から近づき、そのまま……


 ちゅぅっ

「にへへ…………へっ?」(えっ?)


 撫でられていい気分になっていたところに、突然の口づけ。何が起こったのか理解出来ず、アリエッタは硬直した。


「あっ、私もそのご褒美してあげたいのよ。こっちのほっぺ頂くのよ」


 ちゅ~

(!?!?!?!?)


 両方から抱き着かれ、頬にはやわらかい感触。

 アリエッタは混乱した!


『キャーーーー!!』


 ついにメイド達が感情をむき出しにする事態となった。ネフテリアも、驚いた顔で顔を赤くしているアリエッタに目が釘付けである。


「ひゃわっ!? みゅっ…!?」

「この子、こんな照れ方するんだ……慌ててる顔も可愛いわ……」


 マトモな感想を漏らすネフテリアだが、近くにいるメイド達はちょっと違った。


「もう我慢できません、私ちょっとペロペロしてきます!」

「お待ちなさい! メイドとしての心得……くっ、私もうなじ吸引したい!」


 数名のメイド達は秘めた欲望を爆発させ、理性を保っているメイドに止められている。話が聞こえたネフテリアは、気持ち悪そうにメイド達を見た。


(何この人達。お兄様と同類?)


 しばらくの間、静かだった庭は騒然となる。そんな時だった。


「すみません! どなたか!」


 ざわつく庭に響く男の声。メイドの1人が門に向かい、問いかけ、礼をして急いで屋敷に入っていった。

 そして間もなく出てきたのは、ピアーニャ。


「どうした?」

「こちら、副総長からです」

「ふむ……」


 ピアーニャが手紙を受け取り、目を通す。内容は、グラウレスタに赤い光が発生、アリエッタの関係性も考慮し、ロンデル自身も調査に向かうというもの。

 少し考え、目の前の男に向き直る。


「ロンデルにまかせればダイジョウブだろう。なにかあったら、またレンラクをたのむ」

「はい!」


 帰っていく男を見送り、屋敷に戻りながら、ピアーニャは内心毒づくのだった。


(こんなトキにあかいヒカリとか、めんどうなタイミングだな、まったく。なにかつかめるといいがな……)




 時間がさらに経ち、空が暗くなってきた。

 ハウドラントには太陽という物が無く、昼は空が明るいだけの状態になっている。夜になっても特に星などが見える事は無い。その代わりに──


「そろそろ時間ねー」

「何かあるんですか?」

「ふふっ。わたくしね、夜のハウドラントが大好きなのよ。ちょっと冷えるから、アリエッタちゃんに少し暖かい服を着せてあげるといいわ」

「分かったのよ。ちょっと上着持ってくるのよ」


 アリエッタとピアーニャに上着を着せ、メイド達が庭に夕食の準備を始める。せっかく外で楽しんでいるから、野外でパーティをしようという、ワッツとルミルテの指示である。


「いや、だからな? なんでわちまで、おそろいのどうぶつポンチョなのだ!?」

「そりゃ可愛いからなのよ」

「アリエッタ喜ぶし」

「妹なんだから当然よね」

「くぉらぁっ!」


 幼女2人が着せてもらったのは、うさぎのような長い耳と猫のような長いしっぽがついた、動物イメージのポンチョだった。その姿を見て、メイドの殆どが手を止め、表情を崩している。


「ぴあーにゃ~」(可愛いなぁ~。撫でてあげなきゃ)

「なでるなっ」


 口先だけの拒否など、アリエッタに通じるわけがない。

 撫でられ、手を繋がれ、庭の中を散歩する姿は、どこからどう見ても幼い仲良し姉妹だった。


「うおぉ…うちの娘が可愛すぎる!」

「うふふ♡」

「わっ、とーさま、かーさま! みるなー!」

「嫌よ。この目に焼き付けるわ」


 ワッツとルミルテが外にやってきて、料理が運ばれてきた。パーティの始まりである。

 雲の椅子に座り、食事と会話を楽しみ、ピアーニャが全員から可愛がられる。


「なんでわちが!?」


 そうこうしているうちに暗くなり、ネフテリアが空を見上げた。

 太陽がない為、星なども無いが、暗くなると同時に浮かび上がった小さな雲が、辺りを照らしている。


「そろそろですね」

「ん? ああ、そうですね。皆さんこれからがハウドラントの神秘の時間ですよ」


 ルミルテが上を向き、つられてミューゼ達も上を向く。アリエッタもミューゼを見て上を向いた。


(上に何かあるの? 星とかないけど、何を見てるんだろう?)

「一体何が始まるんです?」


 ミューゼが聞いたその時だった。

 空の一点が輝き始め、その輝きが花のようにゆっくりと広がった。そのまま空一面を…世界をドームのように覆っていく。


「わぁ~~~」(すっごい! なんだこれ!)

「綺麗なのよ……」

「これがハウドラントの神秘……」


 輝きは曲線を描き、ゆらゆらとゆらめき、地平の彼方へと降り続ける。その美しくも神秘的な光景は、アリエッタ達に感動を与えた。

 途中、アリエッタが無意識にピアーニャの手を握り驚かれるが、口を開けながら目をキラキラさせているのを見て、ピアーニャも優しい目でアリエッタを見守った。


(これは…さすがにすぐに絵にする自信ないなぁ。CGとか無いし、手書きだと試行錯誤しないと。暇な時に何かしてみようかな……あれ?)


 絵の事を考えながら空を見ていたら、一瞬違う動きをする赤い光が見えた気がした。


(気のせいかな? まぁこの現象も不思議だし、気にするほどでもないか)


 アリエッタは気持ちを切り替え、空に広がるその光景を堪能するのだった。誰にも気づかれない赤い光が、背後に迫っている事も知らずに。

ケモミミポンチョの幼女姉妹は破壊力抜群だと思うんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※ 他の投稿作品 ※

【流され系魔女の無人島ライフ】

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ