表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からふるシーカーズ  作者: 白月らび
魔法世界の非魔法少女達
77/404

新たな王女 …………えっ?

「あーっはっはっは!! 食らいなさい! そして地べたに這いつくばって無様に泣きわめきなさい!」


 世にも恐ろしい笑顔で魔法を連射し続ける王女ネフテリア。

 手加減しているとはいえ、かなりの速度、かなりの量の空気弾が、絶え間なく2人を襲い続けている。


「くっっっそぉぉぉぉおおお!!」

「ぴぃぃぃぃ!! おたすっっおたすけをぉぉぉ!!」


 正に絶体絶命。もはや目の前の(かべ)で身を守るしか術がなく、数が多すぎて反射するタイミングも無い。

 訓練所に響き渡るネフテリアの高笑い。そして途切れることの無い空気弾の着弾音。かろうじて聞こえる2人の悲鳴は、ネフテリアの気分をさらに高揚させていた。


「いいねー、その情けない悲鳴♡ とってもお似合いよぉ」


 突如ネフテリアが攻撃を止めた。そして2人に歩み寄る。


「……そこをどきなさい」

「どきません!」


 男が勇気を振り絞り、命令を拒否した。

 ネフテリアが目を細め、ニィと口の端を歪める。


「そう……じゃあ吹き飛びなさい」


 そう言って、右手を大きく振り上げ……


「……何? 貴女も吹き飛びたいの?」

「ぅぅ…ぶえぇぇ……だめぇですぅ……ひぐっ」


 泣きながら抱き着いてきた少女に止められた。


「ふふ……そうまでして逆らうのね。いいでしょう、思いっきり吹き飛ばしてあげるわ!」

「に…逃げろぉっ!」


 ネフテリアの魔力が一気に膨れ上がる。そして泣きながらも覚悟を決めた少女は、男の方を向いて、精一杯の笑顔を見せた。


「パルミラぁぁぁぁぁ!!」


 男が叫び、少女が目を閉じ、ネフテリアが魔法を──


「いやいや! 待って待ってテリア様! そこまでやったら、あたし達完全に悪者なんですけど!!」


 放つ直前で、ミューゼが羽交い絞めにして止めた。


「もう、なんで止めるんですか、ミューゼさん」

「それはこっちのセリフですよ! なにやってるんですか!」

「何って、誘拐犯いぢめ?」

「さらっといぢめって言った!? そーじゃなくて、魔法で捕縛すれば良いんじゃないんですか? わざわざ泣くまで撃たなくてもいいと思うんですけどっ!」


 後ろから止めた事で、いきなり大人しくなった。テンションの切り替わりがおかしいネフテリアに対して、ミューゼは必死にツッコミを入れていく。


「えー……」

「そんな子供みたいに拗ねた顔しないでくださいよっ! 高笑いしながらこんな小さい子思いっきり泣かして、何がしたいんですか!?」

「シメたいなーって」

「シメ…………」


 さらりと言われ、もはや絶句するしかないミューゼ。

 ほんの少しだけ静かな時間が流れ、ネフテリアが可愛く首を傾げた。


「……駄目ぇ?」

「駄目でしょ!? とりあえず捕まえてアリエッタの場所聞きましょうよ!」


 ツッコミ疲れて、ぜぇぜぇと肩で息をするミューゼ。

 そこへ、ふと視線を感じ横を向くと、誘拐犯側の2人がミューゼをキラキラした目で見ながら跪いていた。


「……な、何してるんですか? おふたりとも」


 その異様な雰囲気に、思わず引いてしまう。

 しかし2人はそんな事を気にも留めず、ミューゼに向かって迫り、懇願した。


「貴女の様な方を待ち望んでいました!」

「ネフテリア様相手にも臆さない、ツッコミの数々!」

『お願いします! ぜひこの国の王女になってください!』


 2人の心が1つになり、必死の願いは一切の乱れ無く綺麗に重な(ハモ)った。

 そして少しの間、深い沈黙が辺りを支配した。


「…………はぇ?」


 迫られたミューゼから絞るように出たのは、間の抜けた声だけだった。

 言葉の意味を理解出来ずに固まっているその横で、静かに…しかし激しく魔力を燃え上がらせている存在がいる。


「ほっほおぉぉう? わたくしが王女なのがそんなにも不満なのかしら?」

「ぴええぇぇぇ!! だってだってえぇぇぇ!!」

「仕方ないじゃないですか! 目を離せば逃げ出すし、仕事で立場が違うだけで毎回この仕打ち! 今だって滅茶苦茶怖いですよ! 優しい王女様募集中です!」

「本人の目の前でそんなの募集するなぁぁぁ!!」


 先程とは違う怒りをあらわにするネフテリア。対する2人も、泣いたり震えたりしながら必死に応戦する。

 突然目の前で始まった騒がしい口論で、ミューゼは少しずつ意識を取り戻す。そしてようやく思考が戻ってきた。


「えぇぇ!? あたし!? 王女!? なんで!?」

「お願いしますお願いします! この際ネフテリア様でなければ踏まれても文句言いません!」

「ちょっと! そこまでわたくしを毛嫌いする!?」


 なんとかミューゼを王女に迎えたいという、訳の分からない想いを暴走させる2人は、後先考えずに泣きわめく。

 このまましばらく、4人で騒ぎ続けるのだった。




 しばらくして、すっかり落ち着いた訓練所では、ミューゼだけが立っていた。他の3人はミューゼの前で小さくなっている。

 気持ちを落ち着けたミューゼは、ネフテリアを見下ろしながら、アリエッタを取り戻す為に動き出す。


「テリア様! アリエッタの所に行きますよ!」

「は、はい……ちょ…っとお待ちください……」


 地面から伸びた蔓に縛られて、正座させられているネフテリアが、足をプルプルさせながら立ち上がろうとする。


「お説教は終わりです! さぁ早く!」


 なんとミューゼに縛られ、説教されていたのだ。主に傍若無人な振る舞いと、子供の教育に悪いという事を、ネチネチと指摘されていた。

 その横には、誘拐犯側の少女も縛られ、正座している。男の方は埋められて、顔だけ出していた。こちらは任務だからって、やってはいけない事くらい考えろと怒られていた。

 その際に、アリエッタの境遇を説明し、罪悪感で顔色を悪くした誘拐犯達から主犯の事を聞き出していた。


「……ミューゼ様って、怒ると怖いんですね」

「でもお優しい……やはり王女様に──」

「なりません! とりあえず蔓は解いておくので、あとは自分達で出てきてくださいね! アリエッタの誘拐は怒ってるんですから!」

『はい! すみませんでした!』


 すっかりミューゼに対して従順になっている誘拐犯達。

 こっちはもう安心と、ミューゼはネフテリアの腕を引っ張り、無理やり立たせて走ろうとする。


「ひあぁ!? あしっ! しびっ…ミューゼさん待ってまってぇぇ!!」


 悲鳴が上がるが、自業自得という事で無視される。


「ええっと、アリエッタが連れていかれた場所に行くのに近道ってありますか?」

「へひぃ…き、キッチンを通っていけば回り道しなくていいですぅ……」


 痺れが取れてきたネフテリアは、少しずつ態勢を整えながら走る。こっちも少し従順になっていた。

 アリエッタの事とツッコミと説教で心が荒んでいるミューゼは、ネフテリアの案内でキッチンにたどり着き……扉を全力で蹴り飛ばした。


「急ぎますよ!」

「はい! 仰せのままに! ……あっ!」


 キッチンに入ったネフテリアが見たのは、何かを料理しているパフィをみつめるフレアだった。緊急事態を報告する為、慌てて駆け寄る。


「ぅおかあぁさまぁぁぁぁぁ!!」

「なんですか、騒々しい。今パフィちゃんに夕食を1品作っていただけているんですよ」


 何も知らないフレアは、ネフテリアを一瞥しただけで、すぐにパフィを見つめなおす。


「いやだから、そのパフィ()()()というのはやっぱり変なのよ」

「母親がサンディちゃんなのだから、娘の貴女もパフィちゃんと呼ばなければ、双方に失礼でしょう?」

「いやいや……」


 訓練所での出来事が嘘のように、キッチンは和やかな雰囲気に包まれている。

 ここまで走ってきたミューゼは、息を整え、パフィに助けを求める事にした。


「パフィ! 大変なの!」

「あれ? アリエッタはどうしたのよ?」


 ミューゼに気付いたパフィは、アリエッタの為に美味しいものを作ろうとしていた事もあって、すぐにアリエッタがいない事に気が付いた。

 ただならぬ様子の2人に、少し緊張する。そして慌てて縋り付いてきたミューゼから、とんでもない事実を知らされる事になる。


「アリエッタが攫われたの!」

「えっ……ええええぇぇぇっ!?」


 一瞬理解が追い付かなかったが、すぐに絶叫した。


「テリア! 何があったか手短に教えなさい!」


 事情を知ってしまったからには、料理どころではない。フレアも事情把握を急ぐ。

 ネフテリアは訓練所であった事を、簡潔に説明した。


「なんでお城で攫われるのよ! 兵士さんは何してるのよ!」

「落ち着いてパフィちゃん! 居場所は分かっているわ!」


 状況を理解したフレアには、犯人と居場所がすぐに分かった。何も分からないのは、事情を全く知らないパフィだけである。


「急いでアリエッタを取り戻すのよ! 攫ったヤツは全員切り刻んでハンバーグにしてやるのよ!」

「なにもそこまで……ヒッ!?」


 守ると誓ったアリエッタの危機に直面したパフィからは、本気の殺気が漲っている。危険生物に襲われたら殺り返す事に慣れているシーカーのパフィにとって、知らない敵を生かしておく理由は一切無い。

 フレアが小さく悲鳴をあげ、周囲の料理人達は本能的に恐怖を感じてすくみ上っている。


(これはまずいわ! 完全にパフィちゃんを敵に回してる! 一体何してくれてるのよあの子は!)

「パフィが本気で怒ってるから、早く行きますよ! テリア様!」


 ミューゼが急かすも、ここにきてネフテリアが躊躇している。何故なら……


「あ、あの……切り刻むのはまずいかと。その…犯人は一応、わたくしの()なので……」

ミューゼは おうじょたちを やっつけた。

ミューゼは おうじょを てなづけた。


パフィは ハンバーグづくりを ケツイした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※ 他の投稿作品 ※

【流され系魔女の無人島ライフ】

― 新着の感想 ―
[良い点] 誰であろうと叱れるミューゼはカッコいい! [気になる点] 兄は事件の犯人、妹はやりたい放題って…こんなのが次代のトップとかこの国の未来暗すぎじゃ無いですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ