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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
何も知らない転生少女
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少女の家は巨大なアレでした

 出発してすぐに、ミューゼが近くの木に蔓を巻き始める。巻いた蔓は切り離し、通った道の目印を作っていく。


(ほーすごいなー。これって魔法なのかな?)


 少女は口を開けて蔓が巻き付くところを眺めている。

 その表情が微笑ましく思えたミューゼは、ちょっと頭を撫でた。


(! そうだった、案内しなきゃ!)


 自分のやる事を思い出した少女は、目的の方向に指を向ける。すると、すぐにある物が見つかった。


「何なのよこれは」

「地面に……絵?」


 これまでに少女が描いた地面の落書きだった。

 ここはもう普段の少女の行動範囲内。迷うことなく、さらに指を差し示す。


「きっとこの子のラクガキね。もう目印は必要なさそうかな」

「一応目印は残しておくのよ。あっちにいくつも落書きが見えるのよ」

「あら本当。じゃあ残しておくね」


 進めば進むほど、落書きが増えていく。まだ新しいもの、足跡で削れているもの、雨で消えかけているもの。この状態の森を見て、2人は徐々に難しい顔になっていった。


「ねぇパフィ……」

「分かってるのよ。その事は後で話すのよ」

「うん」


 そしてそれほど距離を歩く事なく、目的地が見えてきた。

 落書きをしながらの少女の足ではかなりの時間を要するが、大人の足ではそれほど遠くはなかった。まだ昼まではかなり時間が残っている。


「ねぇあれってもしかして……」

「……どうみてもキノコなのよ」


 進んだ先に現れたのは、木の高さ程もある、大きなキノコだった。

 すぐ傍には小さな畑と焚火、キノコの側面をみると、ドアと窓がある。


「この子はキノコに住んでるの?」

「……そうみたいなのよ。その証拠に、凄く安心した顔になってるのよ」

(よかったー、ちゃんと案内出来た!)

「そうね、見た目もそれなりに可愛いし、愛着があるのかもね」


 その考えはすれ違っているのに、行動が一致しているせいで、疑問に思う事すら出来ないこの3人。いつの日か、伝え合える日は来るのだろうか。


「おじゃまするのよ」


 ドアを開き中に入ると、そこには小さなテーブル、小さな丸太椅子、ベッド、鏡、箱といった、()()()()()()()()()()()()家具が置かれていた。

 それを見て一瞬動きを止めるパフィだったが、すぐにミューゼにベッドへと向かわせた。


「小さいけど整った家ね……」

「そうなのよ……」


 内心やるせない気持ちを抱えた2人は、少女にはその表情を見せないように取り繕っている。

 そうとは知らない少女は、窓の外を見て、昼食の準備をした方がいいかと考え始めていた。

 しかし今は上手く歩くことが出来ない。


(申し訳ないけど、手伝ってもらった方がいいかな。さっきみたいにすればきっと大丈夫)


 少女はミューゼの肩を叩き、ドアの方を指差す。


「ん? どうしたの? 外?」

「そういえば外に鍋と焚火があったのよ。昼までには何か作るのよ」

「うん、とりあえず出て見ましょ」


 外に出ると、今度は畑と鍋を交互に指差し始めた。


「……これを使って作って良いって事なのかな?」

「怪我してるこの子には無理だから、私が美味しい物を作るのよ」

「そっか、ありがとうね。美味しいごはん作ってもらうからね」


 ミューゼは腕の中にいる優しい少女の頬にキスをした。

 恩人に食材を提供しただけの少女は大慌て。顔を真っ赤にして、目を回して俯いてしまった。

 もちろんミューゼはそんな可愛い表情を目にしてご満悦。怪我に触れないように、抱きしめる力を少しだけ強めたのだった。




 いくら元気を取り戻したとはいえ、怪我は治っておらず、ましてや小さな体では体力が無い。昼食が終わり少女をベッドに運ぶと、すぐに寝息を立て始めた。

 ミューゼとパフィの2人は、コップと水を出してテーブルで一息ついていた。


「あんなにすぐに寝ちゃって……あたし達がいても安心してくれてるんだね」

「……ちょっとホッとしたのよ」

「……そうね」


 普通ならば、自分を斬った相手を怖がるところだが、無防備に眠っている少女には、そんな感情は見られない。

 それどころか、言葉が分からないにも関わらず、安全な家と食材まで出してくれるというお人よしっぷり。


「あたしだったら、絶対怖くなって逃げてると思う」

「私だって警戒を解かないのよ」

「無邪気で頑張り屋さんで、とっても良い子なのかもね」

「……そう思えるから余計に落ち込むのよ」


 パフィは深いため息をついた。

 そしてお互い苦笑し、辺りを見回す。


「外の落書きを見てからも思ってたけど……」

「そうなのよ……あの子1人しかいないのよ」


 落書きなら親や身内が止めるはず。少なくともまともな大人は近くにいないと思った。さらに家には子供1人分の家具しか無い。つまり周囲に人の気配が一切無いという事。

 2人とも、同じ結論に達していた。


「危険な獣がいる森で、小さな子が1人で暮らすって、どういう事なのよ……親はどうしたのよ」

「あの子、あたしの魔法を見て驚いてた。魔法を知らないなんてあり得ないと思ってたけど、言葉も知らずにこんな森に住んでたら、知らなくて当たり前だよね……」

「鏡や野菜があるから、ただ捨てられたんじゃないと思うのよ。明らかに大人が用意するような物があるのよ」

「それあたしも思った。あたし達の言葉が通じないだけで、何かの言葉は知ってるみたいだったし、考えても分からない不自然さが多すぎるよ」


 様々な憶測を立てていくも、このような状況になった原因を想像出来ないでいる。

 ただ、このままここに放っておくという選択肢だけは、あり得なかった。

 彼女達の中では、自分達には想像も出来ない類の悲劇に見舞われた少女、という位置づけになってしまっていた。

 当の本人は、人に会えた喜びもあって、幸せそうに眠っている。


「あの子の事は絶対に連れて帰る方向で、なんとか意思を伝えましょ」

「当然なのよ。もう1人ぼっちにはさせないのよ」


 2人は強く誓いあった。


「ところで、さっき食べた野菜ってなんなの? 初めて食べたけど美味しかったよ」

「私も気になってたのよ。芋に似た食べ物と葉野菜だったから、同じ様に調理してみたけど、正解だったのよ。食べちゃったから一部だけ持って帰って、調べてもらうのよ」


 言いながら、畑を見るためにドアを開けた。


「えっ……ウソ……」


 パフィがドアを開けたまま、硬直した。


「どうしたの?」

「さっき採った野菜が……」


 パフィの視線の先にある畑、そこには……


「もう次の実が出来始めてるのよ……早すぎるのよ」


 小さな芋のような実が実り始め、その横では新たな葉野菜の芽がすでに顔を出し始めていた。


「不思議ね。でもこれで食料には困らなかったって事か……」

「ラスィーテでも見た事ないのよ。これ持って帰りたいのよ」

「あたしもそう思うけど、先にあの子の事からね」

「当然なのよ。さ、戻るのよ」


 ドアを閉じて振り向いた先には、安心した顔で眠っている少女がいる。

 一体どんな暮らしをしていたのだろうと思いを馳せながら、荷物の整理をしたり薪を集めたりと、泊る準備を始めていった。




「ん……」

「あ、起きた?」


 昼寝から目が覚めた少女が最初に見たのは……


「………………」

「………………」


 ちょっと動いただけで顔同士が触れてしまいそうな……


(…………えっ? えっ?)


 ミューゼの顔だった。


(ちちち近い! おねーさん近い! 近すぎる!)

「あっと、急に動いちゃ駄目よ。驚かせてごめんね」


 慌てる少女を優しく抱き寄せると、すぐに落ち着……かなかった。


(ダメだって! おねーさんのが顔に当たってるから! 控えめだけど柔らかいから!)

「ふふっ、照れちゃって可愛いなぁ」


 イケナイ事をしてる気分にしかなってない少女の気持ちには気付かず、遠慮なく抱きしめる。

 これでも怪我をしてるのを気遣って、控えめに愛でているから困ったものである。


「ちょっと、怪我の具合から診てあげるのよ。あまり驚かせないでほしいのよ」

「あぁ、ゴメンゴメン。今手当ての続きするからね。ってどうやって伝えたらいいんだろうね」


 とは言いつつも、少女を優しく横たえ、肩の包帯をゆっくり外していく。


(あ、怪我の様子を診てくれるんだ)


 理解した少女は、大人しく身を任せる。


「……賢い子ね、行動で理解してくれてるみたい」

「そっか、じゃあ意思疎通は出来そうなのよ。名前聴けないか試してみるのよ。」

「手当て終わったらやってみるよ」

(この人達、やっぱり良い人達だ。ここから連れ出してくれないかなぁ。ついていったら迷惑かな?)


 お互いの意思こそ一致しているものの、全く伝わらないもどかしい状況はまだ続くのだった。


(ところで……暗かったり近かったりしたから見えてなかったけど、大きい方のお姉さんの頭の上に浮いてる、小さいバナナみたいなのは何だろう……)

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