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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
食べ物と悪魔の世界
42/404

闇と夜空の小籠包

 リエージュマウンテンの(ふもと)にある野営地。

 光が消えた事で慌てて撤退してきたシーカー達は、アリエッタから紙を奪い取った男をミューゼの蔓で近くの木に縛り、とりあえず全員でジト目で睨みつけてみた。


「うぅ……悪かったってばよぉ~……そんな目で睨まないでくれよぉ~」

「お前なぁ、あの現象に驚くのはわかるが、子供から奪い取るとか何考えてんだ。泣くような子じゃないから良かったものの……」

「そんな事したんだー、サイテー」

「うぐぐ……」


 シーカー達による総攻撃(精神面)がしばらく続き、男はあえなく撃沈。蔓が解かれた後は、情けない顔のまま細々と全員分の食器を洗わされていた。

 最後にパフィが言い放った「アリエッタに関わる事だから、総長に報告しないといけないのよ」という、シーカー達にとって最も恐るべき相手の名が出たのが特に効果的だったようだ。


「すっかり大人しくなったし」

「そりゃそうよ。総長に『おまえクビ!』って言われたらおしまいだもの」


 傍観していたクリムと女性シーカーの会話が聞こえた男は、ビクッとしながらも淡々と洗い物を終わらせていった。


「さて、それじゃあ一応聴くが、その子は一体なんなんだ? おっと、バックに総長がいるようだから、無理に答えなくていいぞ。ただ、さっきの光には頼りたいと思っただけだ」


 リーダー格の男がパフィに向かって問いかける。太陽の絵の光があれば、この状況を打開出来るかもしれないと考えたからである。

 他のシーカー達も同意見で、ミューゼとその隣に座って水を飲んでいるアリエッタをジッと見ている。


(なんかすっごい見られてる……何で?)

「まぁ何を考えてるかは分かるのよ。私としても、早く解決するにはアリエッタの力を借りるしかないと思うのよ」

「では……」

「でも待つのよ。こんな何も分からない小さな子を、危険地帯に連れ込むのよ?」

「あの紙だけを持って行くという事は出来ないのか?」

「それが出来ないのよ」


 絵だけを持って辺りを照らすという意見は、あっさり却下された。

 パフィも里帰りする前の数日、ただ過ごしていただけではない。アリエッタとなんとかコミュニケーションを取り、通行禁止の絵の使い方をミューゼと一緒に検証していたのだ。

 その際に単語を少し覚えさせながら、いくつか確証が持てた事がある。


・絵の力を発動出来るのは、アリエッタだけ。

・絵が描かれた紙をアリエッタが触れていないと、動かした時に効力を失う。

・絵を動かさなければ、アリエッタが触れていなくてもその効力を失う事は無い。

・アリエッタは絵を描く時と、絵に触れて発動している間、力を使い続けている様子。疲れたら寝る。


「という訳なのよ」

「まるで魔法だな……」

「でも魔力は感じないから、全く別の能力だと思う」


 そしてその観察と調査も含め、しっかり保護しておく事が総長からの任務でもあると伝えると、男は難しい顔で唸り始めた。


「そりゃ連れていけねーよなぁ……なにしろ言う事を聞かせるとかも出来ん」

「言葉が分からないと無理だもんな」

「何かあって『逃げて』って言っても、この子には意味が分からないのよ」


 ミューゼは物の名前を教える事は出来ているが、行動の名前を教える事に非常に難儀している。だから今も、会話が成り立っていない。

 アリエッタが賢いという事は分かっている為、ある程度好きにさせているが、会話が出来ない以上、何をするのかが分からないでいるのが現状である。

 今回の事も、アリエッタ以外からしてみれば、偶然や奇跡といった出来事でしかないのだ。


「これは一度総長に報告した方がいいかもしれんな。悔しいが、俺達だけだと宵闇の悪魔に対して何をしたらいいのか見当もつかん」

「それじゃ、そろそろ暗くなるから朝になったら出発するのよ。ミューゼ、クリム、良いのよ?」

「うん」

「分かったし」

「あぁ……クリムちゃんの美味しいゴハンが……」


 すっかりクリムの料理の虜になっている女性が、心底別れを惜しんでいる。しかし夜のうちに、数日分の弁当を作っておくと言って、あっさり宥めてしまった。

 ちなみに太陽の絵でちょっと疲れていたアリエッタは、パフィ達の話が長くなった事もあり、途中からミューゼに膝枕されて眠っていたのだった。




「ん……」

「…ぅん? アリエッタ、起きたの?」

「……といれ」


 すっかり暗くなった夜の野営地で、アリエッタはミューゼに連れられ、少し離れた木陰へと移動する。

 この旅で初めての野宿も、もう3日目。どれだけ恥ずかしがろうとも、子供の身では1人でトイレに行く事は許されないという、野宿の大変さを身をもって知ったアリエッタ。今回も恥ずかしがりながら、ミューゼの前で用を足す。


(う~、そんなに見ないで……)

「終わったねー、はい拭いてあげるからねー、よしよし」


 どんなに恥ずかしがろうとも、外では保護者の付き添いは絶対である。元大人だからこそ、ミューゼやパフィを心配させないようにする気遣いは出来ていたが、その為に毎回羞恥心と戦うハメになっていた。

 しかしそれだけなら耐える事は出来たが、今回は違った。


「それじゃ、あたしも……」

(!?)


 なんとミューゼがアリエッタの手を握ったまましゃがみ込んだ。魔法を主体とするミューゼは腕力が弱いとはいえ、外で戦う事もある大人の力は子供のアリエッタにどうこう出来る訳が無い。

 野宿慣れのせいか、まったく遠慮しないミューゼに対し、手を握られたままアワアワするアリエッタ。


「恥ずかしがっちゃって、可愛いなぁもう」

(ごめんなさい見てません! ごめんなさいごめんなさい!)


 終わったミューゼがアリエッタの目の前で立ち上がると、アリエッタが真っ赤になって完全に凍り付いてしまった。


「ふぅ……おまたせアリエッタ…って、大丈夫? 仕方ないなぁ、やっぱりまだ人といる事に慣れてないのかな」


 まったくもって違う。

 すっかり固まってしまったアリエッタを抱え、ミューゼはパフィ達の元へと戻る。しかし、()()は戻っている最中の短い距離の間で起こった。


「うぇっ!? なに!?」

「ミューゼ!? アリエッタ!!」


 黒い何かがミューゼとアリエッタに絡みつき、2人が空中に浮かび上がる。


「何だありゃ!?」

「何かに捕まってるぞ!」

「どこから現れた!?」


 黒い何かは、夜の闇の中から伸びているように見える。

 全員が注目している中で、それは焚火の明かりに照らされ、うっすらと姿を現した。


「あれって悪魔だし!」


 クリムの叫びを合図に、悪魔とミューゼ達は夜へと溶け込むように消えて行く。


「パフィー!!」

「ミューゼ! アリエッタ!!」


 パフィは叫ぶミューゼの元へナイフを持って駆け寄るが、そこにはもう何もなかった。

 呆然と佇むパフィ。


「そんな……」

「パフィ……」


 2人が消えてしまった事で、シーカー達は騒然とする。そして慌てて戦闘準備を始めた。


「急げ! 状況はどうあれあの子が消えたのは事実だ! 相手が悪魔だってんなら手がかりはこの山しかねぇ!」

「クソッ、総長の庇護下の子供だぞ! バレる前に助けないと、俺らが総長に殺されちまう!」


 なんとも情けない理由にクリムは呆れるが、それでも何もしないのとは雲泥の差である。

 そんなシーカー達の会話が聞こえたパフィが、弾けるように走り出した。


「ちょっとパフィ! どこに行くし!」

「決まってるのよ! 2人を助けに行くのよ!」


 誰かが止める間も無く、パフィは野営地を走り抜け、山へと入ろうとする。しかし──


「待ちなさい」


 突如パフィの前に立ちはだかる人物が現れた。

 見知った顔にパフィは驚き足を止めるが、必死の形相で睨みつける。


「そこをどくのよ。()()()!」




 真っ暗闇の中、ミューゼはアリエッタを離さないようにギュッと抱きしめている。

 夜に飲み込まれてから少ししか経っていないが、何も見えず何も聞こえない中では、長い時間のように思えていた。


「アリエッタ、大丈夫?」

「だいじょうぶ……」


 アリエッタの声が聞こえてホッとするも、抱きしめる以外に出来る事は何もない。アリエッタを助ける為に何か出来る事はないかと、考え始めたその時だった。

 突然闇が晴れて、明かりに照らされる。


「わっ……夜空?」


 ミューゼとアリエッタが見たのは、美しくも幻想的な星空だった。


(凄い……月じゃないと思うけど、ピンク色の三日月っぽいのに、青色の惑星みたいなのもある。日本から見えてた星空とは全然違うなぁ)

「綺麗だねー。ここドコだろう……状況から考えると、パフィ達の言ってた悪魔の仕業としか思えないけど」


 星空の他に目につくのは、紫色の炎とそれに照らされた壁である。壁はそれなりに高く、囲まれた範囲はかなり広い。天井が無いお陰で、星明りに照らされて辺りがよく見渡せていた。

 2人が壁や炎、そして星空を見ていると、背後から何者かが2人に近づいてきた。

40話目です。ヤッタネ。

50話記念でも用意するべきでしょうか。

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