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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
ランページドリーマー
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ニオが覚醒させます

 ディランは膝をつき、ニオの目線に合わせて熱い視線を送っている。なんならハートの幻が見えるくらいに。

 慌てふためいていたフレアが、その姿を見て冷静さを取り戻す。


「いけない、このままではニオが危ないわ」

「待ってお母様」


 ディランを止めようとしたフレアを、ネフテリアが制止する。


「どうして止めるのよテリア。急いで洗脳し直さないと、問題が起こってしまうわ」

「洗脳前提な方が問題では……。とにかく、ここはニオに任せましょう」

「それじゃあニオの身が……」

「大丈夫ですって。ピアーニャも直接被害にあってないでしょう?」

「た、確かに」

「年下趣味が行き過ぎてキモくても、社会的に大問題であっても、お兄様は紳士的で王子という立場をわきまえています。法改定は阻止すべきですが」

「そうね……」

「次期王に対する評価とは思えねぇですよ、しかも家族からの」


 後ろでネフテリアの話を聞いていたボルクスが呆れている。

 現在フレア達だけでなく、王城内総員でディランの洗脳…もとい教育をしている。

 というのも、ディランの恋愛のストライクゾーンがとにかく低すぎるのだ。見た目が3歳児にしか見えないピアーニャを筆頭に、明らかに10歳未満の女の子に対して真面目に声をかける時点で外聞が悪すぎる。さらに、王になったら結婚可能な年齢を極端に下げるという暴挙を本当に実現しかねない歪んだ真面目さもある。

 これだけなら最悪ネフテリアが王位を継ぐという手段もあったのだが、困ったことに次期王としての素養は歴代の王と見比べても高いと言われているのが、ガルディオ王達の悩みの種でもあった。

 こんな王子がこのまま王になったら絶対的な安心と危険が入り混じったおかしな国になってしまう……という意見が城内の全員から寄せられたという経緯があり、フレア主導での洗脳を経て、現在に至る。

 そんな王子が超がつくほどの美少女であるニオと邂逅してしまった。最早プロポーズは避けられないだろう。


「私の妻となり支えていただ──」

「早速プロポーズすんなぁっ!」

 バキッ


 ネフテリアの制止を振り切って、フレアが近くにあった椅子をディランに投げつけた。


「つっ……しかしお母様、これほど美しい姫君は見た事が」

「いや年齢! 高望みはしないから、せめて結婚適齢期から選んでほしいわ!」

「私は何の問題もありません」

「社会的に大問題なの!」


 次代の王の妻が未成年というだけで、色々な意味で問題である。しかもニオは8歳。成人である王と並んで王妃の玉座に座るには若すぎるだろう。


「ではやはりピアーニャしか……」

「それはそれで大問題だからっ」


 ピアーニャは100歳を超えているが、ファナリア人基準での見た目が3歳程度なので、問題を越えて違和感しかなさそうである。

 王子と王妃のやりとりを間近で見ているニオは、先ほど言われた事と今の状況を見て、ちょっと困っていた。


(あのえっと、テリアお姉ちゃん? これ、うちはどうしたらいいの?)

「あ~……」(どうしよう)


 ニオから視線で疑問を投げかけられたネフテリアもちょっと困っていた。

 洗脳をしていた事は知っていたが、まさかあっさり洗脳が解けるとは思っておらず、説明する前に事態が変わってしまい、完全に予定が狂ってしまったのだ。

 こうなったら仕方がないという事で、ネフテリアはニオに合図を送った。ディランを指差し、手でハートマークを作った後、親指を下に向けて降ろし、頷く。


(よし、やれ)

(は、はい……)


 サインの意味をくみ取り、ニオが了承した。そのまま可哀そうな人を見る目で、ディランを見つめる。


(この王子様、自分よりちっちゃい子しか好きにならないアレだから、うちが任されたんだね)


 ニオはディランの事を完璧に理解していた。だからこそ、自分に向けられたディランの異常に熱い視線を嫌悪する事もなく、正面から涼しい顔で受け止めていたのだ。


(でもやっぱりちょっと恥ずかしいなぁ。王子様カッコいいけど……)


 前世が男性魔王だったからといって、魂を必要以上に清められて完全に生まれ変わっているので、異性に対する嫌悪感は無い。さらに記憶のせいで、今の年齢でも人の性癖をおおらかに受け入れる事が出来てしまう。もしかしたら異性に対して多感になる思春期は、生まれた時点で過ぎている状態になっている可能性がある。


(こういう人って、絶対うちみたいなのには優しくしてくれるから、本当にお付き合いをしてもいいんだけど、テリアお姉ちゃんに「絶対に断れ」って言われてるし……ごめんね)

(ニオったら、放っておいたらそのまま即結婚しそうだから怖いわ……『良い子』にも限度ってもんがあるでしょーに)


 神に清められ過ぎたニオは、ひたすら善性である。それを知っているネフテリアは『悪い事以外は断れない性格』とも評している。

 そんなニオが、まずはフレアに近づいた。


「フレアさま、うちは大丈夫だから、まかせてください」

「え? え? えっと……大丈夫じゃないのよ? この男に何されるか分からないのよ?」

「お母様……もう少し息子を信用してくださいませんか」


 実の母親とは思えない程辛辣である。

 それでもニオは尊敬するようになった姉分であるネフテリアの指令を最優先に、フレアを説得した。


「あの、本当に大丈夫だから……」

「はぐぅっ」


 涙目上目遣いでフレアを見て、胸元で手を組みながら首をコテンと傾げた。その瞬間、間近で直視したフレアの心と膝が折れた。もはや説得というより可愛らしさでぶん殴っているようなものである。

 ついでにネフテリアは顔を赤くし、フレアの隣にいたディランはちょっと魂が抜けかけている。


「ちょちょちょちょっと! 何か始めようとしている前に色々終わりかけてますぜ!?」


 ギリギリ無事だったボルクスが慌てて叫ぶと、全員の意識が戻ってきた。


「ふぅ、危なかった。アリエッタちゃん(あのこ)と同じで影響力がでかいわ」

「ここまで可愛いと最早歩く兵器よ……」

「えっとあの……?」


 自分のしでかした事が分かっていないニオは、周りの反応に困惑している。


「気にしないで。ほら頑張って」

「う、うん……」


 本人に説明が難しいので、ネフテリアは強引に進める事にした。ニオの背中を押して、ディランにけしかける。


「あのっ、お願いがあるんです!」

「ああ、なんでも言ってくれて構わない。その前に、自己紹介をさせてくれないか」

「あっ、すみません……」

「いい、全てを許そう。私はディラン・エインデル・エルトナイト。この国の王子だ」

「えとその、うちはニオ・ホロアです。王子様にお願いがあってきました」

「なんだい? 女王の座であればすぐにでも用意出来るが」

「こらこら……」


 本当に用意出来てしまうので質が悪い。

 普通に何言っているのか分からなかったニオは、そのまま頼み事を口にした。


「実はその、ヨークスフィルンで魔法至上主義っていう人達が悪い事してるみたいなんです。助けてあげてほしくて……その……ごめんなさい」

「……結構気が弱い子なんですかね?」

「それもあるけど、ものすっごく良い子だから、危険な事は頼み辛いんだと思う」


 コソコソと聞いてくるボルクスに、ニオの事を解説するフレア。

 ここまでお願いしたので、後はネフテリアが補足する。どこかの国がヨークスフィルンで迷惑をかけている事、現地でオスルェンシス達が先行調査を行っている事を伝えた。


「今後の外交問題にもなると思うから、お兄様には実際に調査してもらうのもアリだと思うの。一応危険だから、方法は任せるけど」

「いいわね、ボルクスも連れて行って調べてきなさいな」

「えっ、オレもっすか!?」

「当然でしょう、護衛なんだから」

「あ、ハイ」

「まともに話を聞けるのはファナリア人だけだと思うから、アデルやツーファンは連れていけないわ」

「しゃーないっすね」


 アデルはハウドラント人、ツーファンはラスィーテ人なので、魔法至上主義国家の住人の前に連れていくだけで目立ってしまうのだ。

 これで目的は伝えた。内容にはフレアも納得している。これで事態が動くのを待つだけとなった……のだが、危険な事を頼んだニオの胸中は、罪悪感でいっぱいになっていた。

 そして、意を決したように顔を上げ、ディランに声をかける。


「あのその、王子様!」

「む、なんだい?」

「えっと……ん!」


 少し迷ったニオがとった行動は、ディランを見上げて両手を上げる事。


「うおおおおっ」(これはもしや、伝説の『抱っこしてポーズ』!)


 まさかの行為に、ディランの方が眩しいモノを見るようにたじろいだ。

 フレアとネフテリアも動揺し、小声で話し合っている。


「ちょっとテリア! あの子に何させてるの!」

「わたくしも知らない! ニオ一体どうしたの……」


 計画には無かったようで、ニオが何をしたいのかがネフテリアにも分からない。


「んっ」(は、恥ずかしい! はやく抱いて!)


 口に出した時点でこの場が色々アウトになりそうなセリフを心の中で叫びながら、ニオは待った。

 ディランが震える手を伸ばし、ニオを持ち上げる。求められるのが初めてなので、本当に良いのか不安になり、思わず体から少し離して持っている。

 しかしニオの方からディランを掴み、抱き着いた。


「!?」


 ディランが昇天しそうになるが、ニオを落とすわけにはいかないので、なんとか耐える。

 しかしそんな頑張ったディランの耳元で、ニオが囁いた。


「こんな事しか出来ないけど、頑張ってください、王子様……」


 そしてそのまま頬に口を近づけ……キスをした。


「そっそこまでええええ!」


 慌ててネフテリアが、あまりの事に硬直してしまったディランからニオを取り上げ背を向ける。


「ちょっとニオ、そこまでしなくてもっ」

「だってぇ……」


 叱ってはいるが、ニオなら罪悪感を持つだろう事は予想していた。だからこそ近づくのを止める事はしなかったのだが、まさかの口づけとは思わなかったのだ。

 ここで背を向けたディランの魔力が膨れ上がっていく事に気づく。振り向こうとした時、ディランから一気に魔力が放出された。


「ふっふっふ、任せたまえ。私が……」


 何かを言い始めたので、慌てて振り向くと、ディランの体から燃えるように魔力がほとばしっている。屋内で風もないのに、髪も服も勢いよくはためいている。


「私が全て解決してみせようではないかあああああ!!」

 どっごおおおぉぉん


 叫びと共にほとばしる魔力の勢いを爆発させたディランは、迷わず()()()()転移の塔へと飛んでいった。


「ちょっとディラン様!? 壁壊してぶっ飛ばないでくださいよおおおお!!」


 置いて行かれたボルクスが慌てて追いかけていった。

という事があったのさ。


主人公とか差し置いて、たぶん無敵です。

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