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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
ランページドリーマー
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目覚めたら楽しく働きます

 騒がしい一夜が終わり、ミューゼとパフィがエルトフェリアから自分の家へと帰宅した。

 寝室にはアリエッタ。そしてクリムとニオが一緒に眠っていた。


「ニオがうなされてるのよ」

「だよねー、可哀そうに」


 アリエッタとニオを一緒に放り込んだ張本人達が何か言っているが、作戦会議と罠の練習で遅くなってしまったので、侵入者と鉢合わせするかもしれない中で帰宅させる事が出来なかったのだ。


「ん~? 終わったし~?」

「うん。なんかケインがお持ち帰りしたって」

「うわぁ……」


 エルトフェリアに敵対国家からの侵入者を誘い込む作戦が決まった時、ミューゼとパフィは実働部隊となった。戦闘力と汎用性の高い能力を持っているので、何かミスがあっても自己防衛とフォローを任せられるからである。

 しかしアリエッタを一緒に行動させるわけにはいかなかった。説明するのが難しく、何をするのか分からない。それに子供を敵のいる所に連れていくのは絶対に良くない。何より実行するのは深夜なので、子供は寝る時間である。

 なので、実戦経験がほぼ無いクリムに子守を任せ、家で寝かせたのだ。仕事と準備の手伝いで帰りが遅くなったニオは、ただ巻き込まれただけ。


「でもなんでアリエッタがニオの手を握ってるの?」

「震えるニオを見て、アリエッタが優しさを見せたし」

「おぉ、それはそれは……」

「可哀そうに……」


 逃げられない部屋の中で恐怖の根源から優しくされて、一体ニオはどうしたら良いのだろうか。それは大人達にも分からない。


「ふあ~ぁ……流石に眠いわ」

「寝るし? じゃあボクはこの子達が起きたら朝食にするし。そのままお店で手伝ってもらうし」

「うん、お願いなのよ」


 徹夜していたミューゼ達は、これからが睡眠時間。

 クリムとフラウリージェの半数は、ちゃんと寝ていたので通常通りの運営である。




「で、なんでミネアルがまだ起きてるし?」

「昨晩が楽しすぎたので、全然眠れないんです!」


 ユオーラの王女であるミネアルは、ハイテンションのままクリムの手伝いをしていた。なんだか危なっかしいという事で、シャンテが一緒に働いている。


「何してたし?」

「私室からお客様の魔力を感知して、遠隔で別の部屋の壁とかドアをドンドンしてました」

「悪質だし」

「最高でした。いやがらせがこんなに気持ちいいだなんて」


 ミネアルが不穏な方向に目覚めたのが気になるが、本日もお店は大盛況。王女という立場は伏せて、楽しそうに接客をしている。

 アリエッタはシャンテと一緒に別の接客中。今は寒いので、露出は少ないがとても可愛らしいフワフワした格好でチョロチョロ動いているので、客の視線を常に集めている。


「いらっしゃいませ! なに、たべるますか?」

「はうっ! あの、この子食べちゃっていいですか?」

「ダメですよ。ご注文をどうぞ」

「! ごちゅーもんを、どうぞっ」

 バタッ

「ダメモウムリシネル……」


 アリエッタは客を倒した。


「流石はアリエッタちゃん。私はまだ1日5人が最高なのに」

(シャンテたんも大概だよチクショウみんな可愛いなぁもう!)


 ちなみに倒した客の数も記録されている。大人が対応した場合は流血もカウントされている。

 倒した数ではアリエッタがダントツで1位で、2位はネフテリア。本物の王女と対面という緊張感が精神的に負担を与えての加点だったのだが、最近では慣れてきたニオが柔らかい笑顔を見せられるようになり、その勢いでアリエッタとネフテリアの間に割り込んでいた。当人はこれが原因でアリエッタの不興を買わないか戦々恐々としているが。

 ちなみに流血の1位はノエラとパフィで争っている。注文時に目の前に躍り出る物の大きさのせいだろうか。

 このようなランキングを作ってしまったせいか、最近のフラウリージェ店員達の悩み……というか課題は、どうしたら客を倒す事が出来るか、どんな服を着たら気を引けるかという、ある意味危険な領域に足をつっこみ始めている。時々隠れている密偵を呼びつけて、服やポーズの意見を聞くなどしているせいで、その日の密偵は幸せそうに死にかけながら帰り、数日は使い物にならないので困っているという。

 そんな感じで、ある意味恐ろしい店となっているが、倒してしまった客はまともに注文出来なくなってしまうので、そういう人に対しては固定メニューが前もって決まっている。


「それじゃあこの人は『敗者の晩餐』ね」

「はいしゃのばんさん、ありがとなのっ!」

(相変わらず名前が酷い)


 その名を聞いた客達が内心ツッコミを入れるような仰々しい名前になった料理だが、出てくる料理は普通……に見せかけて、見た目とは全く違う味付けをしてある。

甘いパンケーキにみせかけて辛口、葉野菜にみせかけた肉、湯気が出てるのに飲んでみるとかなり冷たいお茶だったりと、食べた人に混乱を与えて意識を取り戻させる内容となっている。任意で注文する事も可能で、その不思議さから意外と人気がある。


「おまたでしました!」

「ぐふっ」

(ふっ、注文と配膳はもう完璧だな)

(アリエッタちゃん、その間違いはよくない、よくないよ)


 アリエッタは店の手伝いも、言葉の練習の機会としていた。

 接客のたびに言葉が上手くなっていくので、その成長を見守りに来店する客もいたりする。

 さて、そんな接客に少々対抗意識を燃やしている人物がいた。


(なんという可愛さ。あれに勝てるとは思わないけど、年上のわたしなら別のアプローチが出来るはず。せめてテリアお姉様には追い付きたいわね)


 ネフテリアを姉分として認めたミネアルである。

 人の前に立つ事に慣れているので、ファッションショーでも恥ずかしがる事なく、自分の姿を見せびらかしていた人物なので、自己顕示欲が出てしまうのも無理はない。しかし行動があからさまになると不審に思われるのではという抑制も出来るようで、接客しながらどれくらいの距離感やしぐさがいいのか、計算しながら行動するようになった。

 その結果、


「おすすめですか? ……これはいかがでしょう?」

「ふぉっ!? は、はひっ、これでっ!」


 自分からではなく、客からおすすめを聞かれたら、さりげなくメニューをのぞき込むようにし、至近距離でささやくというシチュエーションを編み出した。これによって気の弱い客は意識がトびかける。


(ふむ、思いつきにしてはいいセンいってるみたいね)


 あとは研鑽あるのみ……という感じで、1国の王女は人を惑わす小悪魔となっていく。


「いやまぁいいけど、やりすぎて密偵のいない所で襲われないようにね?」

「あ、はい……」


 裏でネフテリアにちょっと怒られた。ミューゼより少しだけ年下とはいえ、自分の意思で働きに来たので、結果がどうなっても自己責任ではあるのだ。




「ニオー!」

「きゃあああああ!!」


 昼過ぎ、起きてきたミューゼが迎えにきたので、アリエッタの仕事は一旦終了。フラウリージェにニオを迎えにきた。

 驚いたニオは、ルイルイに抱き着いて震えている。


「おわた!」

「おわった……」

「……あの、これは同じ事言ってるんじゃないですよね?」


 アリエッタにとって、ニオは同年代の親友という認識になっている。何しろこれまで一緒に店を手伝い、一緒に冒険し、一緒にお風呂に入り、一緒に寝たのだ。もはや距離感などゼロである。それを実感した時、アリエッタの世界にまた1つ光が増えた。


(ふむ、ニオは仕事中か。なら手伝わないとな)


 親友のニオの為に自発的に動くアリエッタ。しかし表立って仕事しないように制限されているので、店の裏手で絵を描いたり、刺繍のパターンを思い出す為の実験をしていた。


「はぁ、凄いわねぇ」

「ぬふー」


 ここ数日、ミューゼとパフィとノエラ以外には内緒で進めていた刺繍がある。それが本日ついに完成し、お披露目する事になった。


「うわなにこれすごっ……」

「糸で塗った? なるほど」


 アリエッタは刺繍の技法の1つであるサテンステッチを思い出していた。かすかに覚えてはいたが、その方法がどうしても今まで思い出せなかったのだ。

 完成したのはニオをイメージしたデフォルメキャラクターの刺繍。それを見たニオも、アリエッタの事を忘れてただ感動している。


「ニオ、どーぞ!」

「ひぃっ、あ、ありがとう……すごい……」


 恐怖と感動が入り混じった感謝の言葉をもらったアリエッタは、なんだか照れ臭くなってミューゼの後ろに隠れた。


「もうニオとアリエッタちゃんは、かけがえのない友達ね」

「………………」


 アリエッタだけでなく、周りからも2人は親友という認識になった。そんな一生離れられない程の距離の近さを実感した時、ニオの目から光が失せた。

この2人はこのまま突っ切ればいいと思うんです。いや微笑ましい。

光の邪神と闇の聖女みたいなデコボコっぷりですね。

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