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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
ランページドリーマー
404/404

来客を無事?に帰します

 闇の中で1人、笑みを浮かべている人物がいた。


「これが、これこそが……うふふ」


 その人物の視線の遥か先、本来見える筈の無い壁の向こうに侵入者の男の気配が1つ、警戒心を(あら)わにした様子で周囲を見渡しているのが見えている。と言っても、人数やおおよその輪郭が分かるだけで、表情や細かい行動までは分からない。そういう魔法なのだ。


「んはぁ……カ・イ・カ・ン♪」


 監視者はうっとりとした声で、呟いていた。同行者2人にドン引きされながら。




「くそっ、一体どうなってる……」


 男は焦っていた。

 エルトフェリアに侵入したまではいいが、思うように調査が進まない。

 実力行使に出るのは最終手段とし、まずは人のいない場所で侵略の資料となりそうな物や、あわよくば主君に喜ばれるような服が見つかればいいと思っていた。だが、


(何故どの部屋からも物音がする? これでは下手に覗く事もできん……)


 隠密行動をしている為、『気配』を敏感に察知し避けなければいけない。それが原因で、何も調べられずにいた。


(他の奴らは大丈夫か?)


 侵入してしばらく経つが、仲間からの合図は無く、合流しにくる様子も無い。成功にしても失敗にしても、何かのアクションを起こす手筈なのだ。

 段々と焦ってきた男は、もう少し進展が無い場合は、強硬手段に出る事も考え始めていた。

 その時だった。


「……でねー」

「えーやだそれー」

「!」


 後ろの方、離れた場所から2人程の話し声が聞こえてきた。どうやら歩いてこちらに向かっているようだ。

 男は慌てず騒がず、冷静に逆方向へと静かに駆け出す。と同時に、急に目の前のドアが思いっきり開いた。


 バンッ

「ごっ!」


 当然、ドアに顔面を強打する。

 しかし男はプロである。痛みを我慢し、ドアを開けた人物を捕らえる為、ドアを掴んで瞬時に周囲を見る。しかし誰もいない。

 不思議に思いつつも、一旦隠れる為に部屋の中へと入っていった。

 男は気づかなかった。ドアの近くに落ちている千切れた糸に。


(今のはなんだったんだ?)


 暗い部屋の中に入り、物陰に身を隠す。注意深く入り口方向の気配を探っていると、声が聞こえてきた。


「お疲れ様です。横に飲み物置いておきますね」

「ああ、すまない」


 横から聞こえた労いの言葉に、反射的に返事をした。


「…………ん?」


 声がした方を見ると、隠れる前には何もなかった筈のテーブルの上に、お茶が入ったコップが置かれていた。

 男は慌てて周囲を見た。しかし、椅子、いくつかの木箱、布らしき物があるが、人はいない。テーブルが()()()()()()()()()のが少し気になったが、それだけである。

 それでも何か嫌な予感がして、すぐに部屋を出る事にした。しかしドアの向こうには人の気配がする。


(ならば窓だ)


 振り向いて窓へと駆け出す。しかしその時、何者かが男の足首を掴んだ。


「!?」

 ばたっ


 転んで物音を立ててしまった。

 男はすぐに立ち上がり、逃げる前に足を掴んだ犯人を見ようと辺りを見る。しかし誰もいない。隣にある赤いテーブルがやたら目に付くが、それだけだった。

 これ以上この場所にはいられないので、疑問を残しつつも窓を開けて外の壁に張り付いた。魔法を使って垂直に立てるので、下に落ちる事は無い。


(くそっ)


 男はそのまま走り出す。逃げるにしても再侵入するにしても、場所を変える必要があるのだ。

 壁伝いで店の裏側まで来た瞬間、男はその目を見開いた。


(……この店、植林なんてやってたか?)


 見覚えの無い霧がかかった林が存在している。それだけではない。


(あいつはっ!)


 林の中央に、なにやら黒い柱が立っていた。しかも、その頂上には人の上半身が見える。

 ペアで行動していた筈の仲間の男だった。

 月光に照らされたその体には、無数の黒い手のようなものが纏わりついて見える。どうやら目と口を塞いだまま服を脱がそうとしているようだが……。


(なんなんだアレは! 他の奴らはどうした!)


 出来れば助けたいが、現象が正体不明過ぎてリスクしかない。

 ならば他の3人を見つけるのが先決と、再び内部に侵入する事にした。

 入れる所が無いか見まわしたところ、1階の窓が開いているのが見えた。


(あそこで何かあったのか?)


 こうなってしまっては、実力行使も含めて行動した方が良いと判断し、男は短剣を握って窓の中へと入っていった。


「リーダー!」

「む」


 聞き覚えのある声がし、そちらの方向を見ると、仲間の男女2人がいた。


「無事だったか」

「そっちも無事……? なんだそれは?」

「取れない……」


 ようやく合流できた男女の姿は、何やら上半身が白い真四角の壁のような物に覆われていた。顔と手足が封じられている訳ではないので、話すのと歩く事は出来そうだ。


「そっちから出るぞ」

『了解』

 ゴスッ


 上半身が四角になった2人が動くと、その角がどこかにぶつかり、音を立てた。


『………………』


 気まずい沈黙。


「行くぞ」


 仕切り直して、今度はリアクション無しで動く事にした。

 ドアから出ると、そこは明かり消えたキッチン。今入ってきたドアの他に、出口は2つある。片方は廊下に出られるドア、もう片方は店に繋がる出口なのでドアはついていない。


「……何してる?」

「いや、これが邪魔で……」


 出口を確認して振り向くと、横向きになって中腰で歩いてドアをくぐる姿を見た。四角の物体が固くて取れないせいで、歩く事すらままならない。もはや存在自体が邪魔になっている。


「店から外に出れる筈だ。出たら逃げるぞ」

「……了解」


 そんな2人と作戦を続行する事など出来ない。四角の物体はここを離れた時に解体を試みるしかない。

 ならば今から向かう先は、店の出口。四角の物体が大きくて、先程侵入してきた窓からは出られないのだ。

 どう考えても見つかっている今の状況で、これ以上のんびり隠密している訳にもいかないので、出来るだけ静かかつ迅速に、人がいたら黙らせる事にし、店への出口をくぐった。


 ゴォー

「ん?」


 出口を通り抜けた瞬間、頭の上から妙な音が聞こえた。同時に妙に熱を感じるリーダーの男。


「燃えてる燃えてる!」

「は? ぅおわっちゃおぅ!」


 なんと天井にくっついている金属のような物体から、男の頭に向かって火が吹き出していた。慌てて離れる男だったが、髪がチリチリになり、少し地肌が見えるようになってしまった。


「おのれ……何だあれは、新手の魔道具か?」

「リ、リーダー、あっち……」


 髪の恨みを晴らしたいところだが、それよりも気になる事が、店内のテーブルの1つで繰り広げられていた。


「やだ。やだぁ。もう殺しなんて……いやぁ……」

 ザクザクザクザク


 残る1人の侵入者の女が、泣きながら野菜を丁寧に切り刻んでいた。


「次はアたしだなっ」

「そんなっ、貴方さっきあんなに楽しそうに美味しいお店の事教えてくれたじゃない!」

「オ礼は千切りでよロしく」

「そんな……うっ、うぅ、ぐす……」

 ザクッ

「死んじゃう、みんな殺しちゃう……シナナイデ、モウコロシタクナイ……」

「はっ! おい! 気をしっかりもて!」

「アハハハハハ」


 状況を飲み込もうとして様子を見ていたリーダーが、流石にここで声をかけて止めた。

 ネマーチェオン人に捕まっていた女は、意気投合した野菜を切り刻む事で命の大切さをその心に刻んでいた。ついでに正気も切り刻んでいた。


「おい、逃げるぞ! ここは危険だ! コイツを持て!」

「1人足りないが」

「……無理だ」


 流石に黒い柱に捕まった仲間は見捨てる事にした。今ここにいるメンバーだけでも逃げるしかない。今の4人だけでも問題だらけなのだ。奪還作戦など不可能である。

 店中にいる喋る野菜からの声を無視し、3人は正気を失った女を抱え、出口へと向かった。店のドアだけあって大きいので、四角形がついた2人も普通に通れそうだ。


 バンッ

「ごがばっ」

「んぶぶ」


 外に出た瞬間、水の塊に飲み込まれた。その水自体が回転しているのか、少しだけ塊の中で流され、外に放り出された。


「ぐぅ……何なんだ一体」

「へへ、へへへ」

「重い……」

「なんだこれ、水を含んだのか?」


 2人の上半身を覆っていた四角形の物体(ラザニア)が水を吸収し、少し大きく膨れ上がっていた。その分重量も増している。

 これで見られていて攻撃までされていると確信した侵入者達は、頷き合って一目散に駆け出した。正気を失った女はもちろん抱えたままである。

 正門目前で、上から1人の女が降りてきた。


「あら、もうお帰りですか? 残念です」

「誰だっ」


 煽情的な姿の美女である。周囲には金属のような塊が浮かんでいる。それが自分の髪を焼いたあの不思議な物体に似ている事を悟ったリーダーは、仕返しがてら拉致する事に決めた。


「悪いな、一緒に来てもらう」


 店の関係者を攫うのは目的の1つである。服の作成、情報の確保、店への脅迫など手段は色々あるが、これで完全な失敗ではなくなるので一安心である。


 むにゅん

「あん」


 色々大きいので、抱えれば色々な所が当たる。その感触でリーダーの顔が綻んだ。


(よし、嫁にしよう)


 目的がいきなり変わった。

 捕まえた女は全く抵抗しないので、スムーズに町の中を走っていく。

 このまま町の外にでも逃げだせば、この後の事をゆっくり考える事が出来るので、ひとまず作戦成功と言えるだろう。

 しかしそう上手くはいかない。


「うあっ」

「がっ」

「はっはっは!」

「!」


 後ろから苦悶の声と笑い声が聞こえた。

 何事かと振り向く前に、何かがリーダーの横を通り過ぎ、立ち止まった。


「遅いぞ! 筋肉が足りんな」

「何者──」

「キャー! 素敵ー! 上腕二頭筋もっと見せてー!」

「ふん!」


 可愛らしいフリル付きのトップスと、パニエで広がる大きなリボン付きミニスカートを纏った筋肉の塊ともいえる男が、ポーズを付けてゆく手を塞ぐ。その足元には3人の仲間が倒れている。

 敵。しかも全員女性であるはずのフラウリージェの店員ではない。ならば仕留めるのみ。

 そう瞬時に判断したリーダーは、左手に魔力を溜めながら、短剣で斬りかかった。


「ふっ」

 ザドンッ


 短剣が当たり、さらに魔力弾を至近距離で打ち込んだ。

 しかし筋肉の男は無傷で、微動だにしない。


「効かんよ」


 そう言って、リーダーを左手で掴み、腹部に右拳を叩きこむ。たった一撃でリーダーは沈んだ。しかしまだ意識はある。


「案ずるな。()()全員、命は保証する。だが……」


 筋肉の男が地面の影に手を突っ込むと、そこから黒い柱に捕まっていた仲間の男が、可愛らしいドレスを着せられた状態で引きずり出された。


「今夜は全員寝かさないぜ☆」


 深夜の今から昼頃まで、魔法によって防音処理されていた筈の1件の建物から、悲痛な叫び声がうっすら漏れていたとかいなかったとか。

ケインは超雑食です(

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