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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
ランページドリーマー
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来客をもてなします

 ある夜、エルトフェリアの事務室で、報告書を読んでいたネフテリアがほくそ笑んでいた。


「ほほーう。これはこれは」

「どうなさいました?」

「ちょっと面白そうな事が出来そうかも」


 そう言って、報告書をナーサに見せた。


「……ああ、これはネフテリア様の好みの事案ですね」

「でしょー。どう料理しようかしら」

「お店は壊さないでくださいね」

「分かってるって」


 楽しそうなネフテリアは、次の日からエルトフェリア内を奔走し、転移の塔にも何度も足を運び、数日かけて何かを書き上げた。


「それじゃあ、よろしくね」

『了解』

「……りょーかい?」


 そして()()を実行に移す時になり、ネフテリアの前には密偵達を中心に、エルトフェリアの店員や警備全員、そしてミューゼとパフィとアリエッタが並んで、気合十分といった感じでエルトフェリア中に散った。


「ふぅ、ここまで頑張った」

「お疲れ様です。特にアリエッタちゃんに教えるのが大変でしたね」

「うん……まぁ失敗してもリカバリーは用意してあるし、問題ないない」

「では明日……」

「楽しんでもらいましょ」




 次の日の夜。

 静まり返ったエルトフェリアに、5名の影が忍び寄っていた。


「……情報通りだ」

「よし」

「……そこの家の陰へ」


 男女混合のその一団は、全身黒ずくめで、その上から魔法で黒い霧を纏い、闇夜に紛れるように駆け建物の影に潜む。

 エルトフェリアの近くに到着した時、各々任務の内容を頭の中で復唱した。


(我々の任務は、フラウリージェの店員の捕獲。もしくは服の強奪)

(最悪でも情報は持ち帰るべし)


 彼らは敵対国家の暗殺部隊である。フラウリージェを奪う為に侵入しようとしているのだ。

 ここまで来たら声を含めて音を立てるわけにはいかない。目線と手だけで会話をし、頷き合うと、5人が3グループに分かれ、それぞれの侵入先へと散った。

 そして誰もいなくなった場所の隅にある細く黒い布がもぞもぞと動き出す。それはだんだんと盛り上がり、細長い布では隠せない丸みを帯びた形になり、最後には赤色の人の形になった。ラッチである。

 クリエルテス人は不定形なので、地面でも壁でも棒状に変形して隠れるだけで、ほぼ見つからなくなるのだ。


「……目標は5人、3方向に分かれた模様リム」

『りょーかい』


 アリエッタの作ったコールフォンを使い、無駄にポーズを決めて内部のネフテリアに連絡。侵入者は最初からバレていたのだった。




 こちらは男女2人組の侵入者その1。店の裏側の2階の窓から侵入をする様子。

 男女でペアを組んでいるのは、エルトフェリアには女性しかいない為である。しかも全員が美女だという情報もある。客として店に入った時に、実際に見て実感(ドキドキ)した。

 もし男だけで見つかって変質者扱いされた瞬間、困惑と悲しみで戸惑ってしまうだろう。それは命取りになりかねない。さらに店には専門的な物や男ではよく分からない物も存在する。この任務にはあらゆる意味で女性が必須なのだ。


「どうだ?」

「……この窓なら少し開く」

「いけるか」

「余裕」


 窓の隙間から魔力の紐を伸ばして鍵を開けた。こうして2人は中に入る事に成功した。

 しかし大変なのはここからである。


「なんだこの部屋」

「星空? でもここは建物の中……?」


 部屋に入った筈なのに、上には星空が輝いている。周りを見ると草原が広がり、地平線が見える。

 困惑しながら見渡していた女がある方向を見て、即座にナイフの柄に手を添えて構えた。

 魔法ではなくナイフを使うのは、魔力を感知される危険性を少しでも減らす為。

 ここに住むのは、ファナリア人の中でも上位の実力者と言われる王女ネフテリアなのだ。見つかった時点で侵入は失敗と思っていい。


「なん……っ」


 それに反応した男の方も気付き、すぐに戦闘態勢に入る。

 向いた先の草原には、フラウリージェの店員と思しきお洒落な人物が立っていた。しかし即座に斬りつけるわけにはいかない。

 目的は店員の捕獲であって、命を奪ってしまっては達成不可能になってしまう。

 斬らなければ少々手荒でも大丈夫と、女の方が飛びかかる。が、


 ゴッ

「ヴォッ!?」


 顔から衝突し、口からおかしな音を漏らした。


「ちっ」


 何かされたのかと思った男が、注意を向けながら横に跳んだ。魔法で攻撃されたのであれば、動き回って攪乱しつつ、その攻撃の正体を見破り、接近する必要がある。


 ドスッ

「お゛っ!」


 しかし、横に跳んだ瞬間、何かにぶつかった。

 ここは草原。何も遮るものが無かった。そう思ったのだが、


「な、なんだ? 壁?」

「なに、これ……」


 平原の空に触れる……訳ではない。その風景自体が絵だった。そよ風が吹き、星が光り瞬く。しかし草は全く揺れない。地面と思っていた場所も、緑のカーペットだった。

 これは当然アリエッタの仕業である。アリエッタの描いた壁画は、光りはするが動かない。ネフテリアに描いてほしい風景を必死に説明され、この部屋に夜の草原の絵を描いたのだ。

 この部屋の意味が分からない2人は、少しの間その場で立ち尽くす、その時だった。


「そこにいるのは誰?」


 壁に衝突した物音に反応したのか、ドアが少し開けられ、エークタルトが覗いていた。

 見つかった。その瞬間、2人は反射的に動いていた。


『捕える』


 現時点で選択肢は1つだけ。ここで逃げだせば他の仲間が動きづらくなってしまう。捕えるのに失敗しても同様。静かに捕える事さえ出来れば何も問題は無い。

 エークタルトはすぐに顔を引っ込め、逃げ出した。しかし訓練された2人はすぐに部屋の外へ出た。

 そして紐に躓き、倒れ、蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸に絡まった。


『ぬあっ!?』


 しかし冷静さは失わず、すぐに腕と全身を捻って身体に纏わりつく糸を切った。

 そこへ廊下いっぱいに転がってきた大きな白い小麦粉生地(かたまり)に巻き込まれ、埋まって身動きが取れないまま廊下をゆっくり転がっていった。


『おおぉぉぉぉぉぉ……?』




 もう1つの男女2人組の侵入者。こちらは1階の窓からの侵入に成功していた。


「ここは……食糧庫?」

「野菜か」


 ヴィーアンドクリームのクリムが使っている冷蔵倉庫だった。今の季節は寒いので、外の気温を活用して室内を冷やしている。

 こんな場所には用は無い。2人はすぐに部屋のドアに向かう。が、後ろから手を引かれ、動きを止めた。


「くっ、みつかったか」


 ナイフを構え、後ろを振り返る。しかし誰もいない。

 よく見ると、腕に紐のようなものが絡みついていた。


「なんだ?」


 それは底の浅い箱に山盛りになったニンジンから伸びた蔓だった。

 気味が悪いと思いながら蔓を切ろうとした所で、気が付いた。そのニンジンが2本足で立っている事に。


「これはっ……」


 最近増えた異世界の者だ、と女に注意しようとしたが、さらなる驚愕で声が出なかった。

 いつの間にか動く野菜に囲まれていたのだ。そう、部屋にあった大量の野菜のほとんどがネマーチェオン人だったのだ。


「ふふふ……」


 ゴボウ型のネマーチェオン人の1人が、笑いながら寄ってきた。

 フラウリージェ店員でないのは確かなので、始末しても問題無い。しかし、数が多すぎて下手に動けない侵入者2人。

 そんな警戒心に満ちた2人に対して、ゴボウが話しかけた。


「へい、おふタりさーん。ちょっとアたしをかじらなイかーい?」

「………………は?」

「細く切り刻んデ焼いて良シ、煮て良し、漬ケて良しのコのボディ。健康や美容にイいんダぜぇ?」


 なんとナンパであった。現在ネマーチェオン人の間で、ナンパが流行っている。目的はもちろん()()()()食べてもらう為。

 少しずつ活動するリージョンを増やし、今ではヨークスフィルンで特注のセクシーな水着を着て男女問わずナンパ、仲良く談笑した相手に包丁をプレゼントし、その刃に自分から飛び込むのがトレンドだという。色々な意味でホラーである。


「くそっ、そんなに切られたいなら」


 男はゴボウを切り刻んだ。周囲の野菜から拍手喝采である。


『えぇ……』


 ドン引きして後ずさりした侵入者2人は、急いで部屋の窓へと逃げ出した。こんなに大量の喋る野菜に見つかってしまっては、任務続行不可能である。


「アっ、ゴボウ忘れてマすよ!」


 いらんとツッコみたいが、それどころではない。侵入してきた窓を破って逃げる事が先決。

 しかし、ネマーチェオン人が総出で蔓を伸ばし、女の足を捕まえた。


「いやあっ!」


 その道のプロといっても流石に大量の野菜に引きずり込まれるのは怖かったのか、思わず叫んでしまう。ネマーチェオン人は容赦なく足を引っ張り、手を縛り、ゆっくりとドアの向こうに広がる暗い空間(キッチン)に引きずり込んでいった。

 一方、窓を割って飛び出した男は、芝生を転がり急いで立ち上がった。


「くそっ、隊長にっ」


 捕縛された仲間を直ちに助けに戻るのは悪手である。しかも多勢に無勢。すぐに諦めて1人で動いている筈の隊長を目指す事にした。が、


 ずももっ

「っ!」


 突如周囲に木が大量に生えた。さらに霧が発生。見通しが悪くなり、どの方向に逃げればいいのか判断が難しい状況に陥った。

 迷っている間に木々が異様にざわめく。


「?」


 その不自然な音に眉をひそめながら上を見た隙に、今度は地面から黒い手が無数に生えてきた。


「んなっ」


 実際には手ではなかった。手の形をした影である。そんなものを今の状況で見てしまっては、冷静ではいられない。

 さらに上から大量の蔦が蠢きながら下りてきた。その蔦にはフラウリージェの服を着せた人の形をした物(マネキン)が首を吊った状態でぶら下がっている。それも10体以上。上下からそんなものに挟まれてしまった男は、精神の限界を超えて錯乱してしまった。


「うわあああおおおおおおああああ!!」


 ナイフを振り回し、魔法で手や蔓を撃ち、林の中を走り回る。だいぶ走った気がするのに、外に出る事が出来ない。首吊り人形に追い立てられて、どこに向かって走っているのか分からない。

 肉体的にも精神的にも疲弊し、傍にある木の幹に触れた瞬間、地面の影から伸びる影の手に全身を掴まれ、目と口を塞がれたまま影に飲み込まれ、姿を消した。

さぁ、どれが誰の仕業かな。

さて幕張メッセ行かねば。

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