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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
ランページドリーマー
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筋肉を相手にします

 ブロマイドを見て目を輝かせたのは、密偵達だけではなかった。


「もしよろしければ、ケイン様のぶろまいど?とやらを、作っていただけませんか?」

「えぇ……」


 筋肉大好きエンディアである。

 一瞬拒否しようとしたネフテリアだったが、エルトフェリアで出せるブロマイドは女性限定だという事を思い出した。ケインを見ると、決して男物の服を着ない露出癖のある変態だが、顔は決して悪くなく、エンディアのような特定の層に人気がありそうな立派な筋肉がある。


(素材は良いのよね、素材は……)


 問題は、絵を描いているのがアリエッタだと外部の人に知られる事。そしてアリエッタが描きたがるかどうかという事。


(変態女は分からないけど、ケインは人格だけは問題無い。ケインが言い聞かせれば変態女(そっち)も問題無いハズ。あとは念を押しておけば……いやそれよりも……)


 どうするべきか考えていると、ケインが豪華なセッティングの前でポーズを取り始めた。すると、アリエッタがトコトコと歩み寄る。そして、


 ベヂッ

「ほごっ!?」


 何の躊躇もなく、ケインの股間をビンタした。


「アリエッタ!?」

『えええええええええ!?』


 悲鳴と驚愕の叫びが部屋の中に響く。その中でニオだけが内股で青ざめていた。

 ケインが倒れると、ミューゼが慌ててアリエッタを回収しようと駆け寄る。


「何してるのアリエッタ!?」

「めっ」(まったく教育に悪いったら)


 全く悪びれもせず、今度はニオの方を向いて、笑顔で親指を立てた。


「ニオ、だいじょうぶ!」

『何が!?』


 アリエッタはただニオの情操的な教育的な何かを守ろうとしただけだが、それが伝わらないその場の全員が叫んでいた。

 この後、ネフテリアはアリエッタとニオに、ケインとエンディアの事をしっかり覚えさせた。ブロマイドの件もあるが、この2人が反面教師になったらいいなという、淡い期待もある。

 まずはこの場にノエラを呼びつけた。


「どうなさいましたの?」

「このエンディアを着飾らせてあげて」

「あら、よろしいんですの? サイロバクラム人なのでしょう?」

「ここに来る以上、服に少し慣れてもらえたらなって」

「よ、よろしくお願いします」


 エンディアは覚悟を決めた。元々交流の為には服を着る事も大事だと理解していたのだ。


(恥ずかしいけど、今後もケイン様と出歩く為。がんばるぞ)


 不思議と、凶暴な獣達の群れに放り込まれた小動物のような気分になりつつも、大人しくノエラについて行く。その気持ちがよく分かるアリエッタとニオが、心配そうに見送った。

 ここでネフテリアがアリエッタに提案を始める。この部屋はフラウリージェのプライベートルームでもある為、密偵達にコッソリ見ないようにと警告しているので、話の内容がバレる事は無い。念のため魔法で防音をし、話し始めた。


「アリエッタちゃん、ケイン、描く?」

「ケイン、描く?」(この人描いてほしいの?)

「うんうん、お願い出来るかな?」

「!」(む、『おねがい』か。テリアの頼みなら頑張らないとな)


 アリエッタは『おねがい』を覚えていた。

 日頃からミューゼやパフィの役に立ちたいとも思っているのもあって、頼られる事に喜びを感じるようになっていたのだ。今の所、身近な人物達からお願いされたら、断るつもりは一切無い様子。


「はいっ、描く!」

「ありがとね」

(ケインはマッチョなオネエさん? でもお淑やかにしていた事は無いし、仕草はいつも男らしいから、かっこよく描けばいいかな?)


 ケインとは何度も顔を合わせているので、ある程度イメージしながら描く事が出来る。顔と体格のラフさえ描ければ、仕上げるのはアリエッタにとって造作もない事である。

 さらに、ネフテリアはクォンを呼んだ。アーマメントにあるプリント機能で、ケインを撮影するのだ。画質は荒いが、アリエッタにとって立派な資料となる。


「これでいいですか?」

「ありがと。十分よ」

「ふぅ、ずいぶんポーズを決めてしまったぜ……」


 これだけ資料があれば、アリエッタがブロマイドを作っている姿を直接見られる事は無い。

 ブロマイドの依頼をいくつかしてきた事で、アリエッタへの依頼に必要なモノと言葉をだんだんと理解してきたネフテリアは、今度は依頼料を考え始める。利益が大きすぎる以上、タダで描いてもらい続けるのは気が引けるのだ。


(それもまずは、会話を人並みに……あぁそうか)


 アリエッタも望んでいる『会話の習得』が、今は何よりも報酬になる。これまでミューゼ達に任せっきりだった言葉の勉強に、自分の方からも積極的に参加する方が良いと考えたのだ。

 既にある程度意思疎通可能なので、最初の頃のような難しさはないだろう。勉強の方法も、アリエッタが勝手に作り出す事があるので、それを上手く使いながら対話を試みればいい。


「という訳で、アリエッタちゃんのお勉強、エルトフェリア総出で手伝うから」

「えっ、なんでそんな話に?」


 急に思いつきの計画を聞かされたミューゼは、唖然としている。

 それはさておき、当のアリエッタは、怯えるニオをガードしながら、ケインのポーズを凝視していた。


(ケインのポーズは参考になるけど、体が大きいせいかニオ怖がってるし、守ってあげないとな)

(ケ、ケインおじさん、たすけてっ)


 ニオが怯えているのは、すぐ近くにアリエッタがいるからで、ケインは関係ない。

 そんな勘違いをしながら、入念にケインの筋肉の動きや服の揺れ、一番映えるアングルを探っていった。


「そんなに見つめないでくれないか、興奮しちゃうじゃないか♪」

「変な事言いながら腰を突き出すな!」

 ゴッ

「おぶっ」


 ミューゼが大きな種を投げつけた。


「ああっ! わたくしとミューゼの子がっ!」

「違いますっ!」


 どこに持っていたのか、それはネフテリアから産み落とされた種だった。

 ネフテリアは慌てて回収し、大切そうに温め始めた。


「いや卵じゃないんですから……」


 この後も、ネフテリアとミューゼがケインの決めポーズに巻き込まれたり、アリエッタがニオを怖がらせないようにと手を繋いで呼吸停止させてしまったりと、色々な事をして遊んでいた。

 それなりに時間が経った時、エンディアが顔を真っ赤にして部屋に飛び込んできた。


「も、もう限界ですっ! 今回はこれで終わりにしてくださいっ」


 フラウリージェの店内で、数々の着せ替え(はずかしめ)を受け、羞恥心が限界に達したようだ。最後に着せられたドレスを纏って、心底恥ずかしそうにしている。


「服を着るって、こんなにも恥ずかしい事だったんですね。覚悟は決めたつもりだったのに……」

「価値観が反対すぎて怖いわ……」

「ファナリアじゃ平穏に暮らせなさそうですね……」


 エンディアがケインにくっついてヨークスフィルンに行ったのは、サイロバクラム全体にとっても良かったのかもしれない。日中のヨークスフィルンは常夏のリゾートなので、基本的に水着か薄着で過ごすのだ。

 ネフテリアは少し報告を聞いて知っていたが、ボディライン丸出しのサイロバクラム人は目に毒だと言われる事もある。これまではクリエルテスのような服の意識が薄いリージョンを見学先に薦めようとしていたが、年中水着のヨークスフィルンのほうがいいかもしれないと、考え直していた。

 クォンのように、既にファナリアに馴染もうとしている例外的な個人勢もいるが、リージョンによる価値観の違いは、そう簡単に解決するものではないのだ。

 とりあえず精神的に限界らしいエンディアには脱いでもらい、これから少しずつ慣らしていくように、ケインにも言い含めておいた。元レジスタンスのリーダーというちょっと問題のある人物だが、同時に有名人でもあるので、リージョン間交流の先駆けとしてはうってつけの人物なのである。

 ひとまず予定外の事も含め、やるべき事はやったので、これにて解散。ケイン達を全力で追い出した。絵の事は結局教えていないので、出来上がったら適当に渡しに行く事にした。


「それじゃ、ケインの絵、お願いね。アリエッタちゃん」

「だいじょうぶ! まかせる!」

「うんうん。わたくしはお勉強についてみんなで考えてみるね。ミューゼとパフィも手伝ってね」

「わかりました」


 今後、アリエッタの会話の勉強は、かなりの速度で捗る事になる。

 そして、ケインの絵を描く事に決めたアリエッタは、筋肉を描くのが楽しくなったのか、爆速で数枚描き上げた。一部はカラーまで仕上げる始末である。


「……なんか凄いの出来たのよ」

「ケインの何が、アリエッタちゃんを本気にさせたのか」


 それはただの肖像画ではない。写実感のある肖像をベースにしつつ、イラストや漫画で使われるような部分的な強調やエフェクトを混ぜた事で、筋肉の迫力が増し、生きて動いているかのような躍動感を持つ絵となった。ただし着ている服は今回のセーラー水着だけでなく、以前に見た事のある清楚なワンピースや、フラウリージェにある可愛らしい服などになっている。

 それを見せられたミューゼ達は、今にも殴られそうな迫力に長時間戸惑うのだった。

スト5とかのリュウとか、迫力ある筋肉ですよね。

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