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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
ランページドリーマー
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解せない影響に悩まされます

「うーし、着いた着いた」

「ひどい目に合いました……」

「あ、戻ってきた」


 ピアーニャに連れていかれたケインとエンディアが、ボロボロになってフラウリージェに戻ってきた。

 店頭にいるルイルイがその姿を見て呆れている。


「いや服着てよ……」


 ケインはボロボロどころか布地が少なくなったドレスを着ていて、大胸筋や割れた腹筋が思いっきり露出している。

 エンディアは元々セクシーなボディスーツだったが、色々な所が破れて無くなり、とても危険な状態になっている。


「そんな恰好で凄く見られてたんじゃない?」

「ええ、ヴェレスアンツでも感謝されましたし、ここに来るまでも熱い視線を感じて幸せでした」

(あ、駄目だこの人……)


 サイロバクラム人はボディスーツを身に着けてさえいれば、ボディラインが見えても気にしない。それどころか、見えないように隠す方が恥ずかしいという価値観を持っている。そんな中でも、エンディアはさらに露出癖があるようだ。


「そういうわけで、水着を売ってくれないか」

「どーゆーわけ!? まぁいいけど。隊長さんも女物でいいんですか?」

「もちろんだ」

「はいはい……」


 ルイルイは完全にケインの扱いに慣れていた。ヨークスフィルンで顔を合わせている事もあるが、内心で『女装した男』というカテゴリにまとめ、ムームーとあまり変わらないかも?という考えに落ち着いた結果、何を言っていても軽くあしらえるようになったのだ。


(これでムームーみたいに女装が似合う見た目だったら良かったのに)


 小さい頃から男の娘として育てて(ちょうきょうして)いたムームーとは違い、ケインは見た目が『たくましい男』そのものなのが、ルイルイにとっての悩みであった。

 2人がセクシーなワンピース水着を選んでいると、何事かと思ったニオがやってきた。丁度店番の時間だったようだ。


「………………」(あの人恥ずかしくないのかな?)


 ニオはケインを真っ直ぐに見つめている。


「あら、ニオどうしたの?」

「えっと、あの人……」

「隊長さん?」

「凄い人だなって思って」

「…………え?」


 その目には困惑や警戒は一切無く、驚きと尊敬の色が現れていた。そのせいでルイルイは内心焦る。


(あれ、これもしかして教育に悪い? ニオが変な趣味に走ったら、両親に謝罪案件?)


 慌てて近くにいたエークタルトを呼び、ニオを連れて行ってもらおうとした。が、


「どうだい、似合うかい?」

「うっ」

「ひっ」


 後ろから自陣満々なケインが声をかけてきた。振り向くと、胸元に名前を書く白い部分に『しちゃく』と書かれた紺色のワンピース水着を着たケインが立っていた。

 その後ろには胸元を大きく開けたV字型の際どいワンピースを着たエンディアも立っている。

 巻き込まれたエークタルトは現状を理解し、自分を呼んだルイルイをちょっと恨んだ。


「ここに『ケイン』と入れてくれるのだろうか?」

「ええと、墨ならご自分で書く事が出来ます。刺繍で名前を書く場合は別料金になります」

「ほほう、では頼みたい」

「かしこまりました。サイズはこれで……では試着用を脱いでお待ちください」


 こうなったら仕方ないと、ニオを硬直したエークタルトの傍に置いて、ルイルイは淡々と対応した。

 アリエッタに教えてもらった刺繍も、今ではすっかり手慣れたもので、糸を操ってスルスルと字を描いていく。糸を操るアイゼレイル人の本領発揮である。

 出来た水着をケインに手渡すと、そのまま購入。再度試着室で着替え、水着姿のまま2人は店を後にした。


「やれやれ……」

「あの、ルイルイ? 外からお客さん達の悲鳴が聞こえるんだけど」

「細かい事は気にしない」


 これでニオへの悪影響を最小限に抑えられた筈……と思ったのだが、


「堂々としてて、なんかカッコよかったです。うちも頑張らなきゃ」

『え?』


 なんとも反応に困る影響があったようで、大人達はしばらく悩む事になるのだった。




 実はおかしな影響を受けたのは、ニオだけではなかった。


(まさか筋肉にスク水とは、新境地だなぁ)


 男らしさの価値観がだんだん変化しているアリエッタである。実はエルトフェリアの庭でのんびりと、楽しそうに出入りする人々を眺めていたのだが、偶然にもケインの来店を見ていたのだ。

 男らしい肉体を見せつけるケインの事を敵視する事もあるが、なんとなく他人とは思えないと感じる事もある。それが何故かは分かっていない。


「今日のアリエッタちゃんも可愛いわねぇ。ふわふわしてて撫でたくなるわ」

「ですよね。鳥みたいに羽ばたきそう」


 本日は天使のようなドレスを着てお茶会中。店の入り口の方から熱い視線を感じているが、ネフテリアからは気にしないように説得されている。

 試しに自分達を見ている人々に手を振ってみると、大騒ぎになった。しかし近づいてくる者は1人もいない。兵士達によって立ち入りは禁止され、強行突破した者は密偵によって見えないように捕らえられているのだ。

 客からしてみれば、アリエッタ達のお茶会姿を観覧できる最高のイベントとなっている。


「いやまさか、こんな事で成功するとはねぇ」


 ちょっとお上品な生活姿を見せるだけで、店の集客と売り上げは爆上がり。

 実は最も貢献しているのはネフテリアだったりする。この国の王女のお茶会姿など、普通に考えたら絶対に見る事が出来るものではない。今回はバッチリお姫様スタイルなので、特に男性陣が涙を流しながら拝んでいる。


「はい、お待たせなのよ」


 水色の可愛らしいエプロンドレスでお洒落したパフィが給仕をする。それだけでも歓声が上がる。


「な、なんかやりづらいのよ……」

「パフィは男性人気高いもんね」

「こればっかりは勝ち目がないわ」

「素直に喜んでいいのか分からないのよ……」


 大きい事はそれだけで強みである。

 ミューゼは以前にも着ていた赤と黒のドレスっぽい服を着ている。お茶会を察したアリエッタが、パフィとセットでコーディネートしたのだった。シルクハットのウサギ役をセッティング出来なくてちょっと残念そうだったが、おおむね満足した様子。


「それにしても、本当に可愛いのよ」

「髪の色が自由自在って、なんか羨ましいわね」

「髪型をセットしたら突然真剣な顔になって、何事かと思ったら根本から色が変わるんですよ」

「すっごい声聞こえたから見に行ったらコレなのよ。興奮が爆発しそうだったのよ」

「それは……危なかったわね」(命が)


 ふわふわのドレスを着せられ、緩い巻き髪のツインテールにセットされたアリエッタは、夜な夜な精神世界で特訓していた成果を見せた。それは髪の色を自由に変化させる彩の力だが、これまでは意識せずとも先端のみにグラデーションがかった色を具現していたのに対し、髪の一部でも全部でも根本から先端まで自由に色を変える事に成功していた。

 その力を使って、今回はツインテールの右側に水色のメッシュを、左側にはピンク色のメッシュを入れたのだ。髪自体を巻いてある事もあって、まるでリボンを巻きつけたかのようになっている。さらに前髪にはツインテールとは色を逆にしてメッシュを入れてある。


「その髪で存在感がすっごいのよね。わたくしなんか霞んでしまいそう」

「アリエッタなら当然なのよ」

「うんうん」


 遠目からでも分かる特殊な髪色は、王女様のお茶会姿を見に来た者達の視線も奪い、新たなファンを量産する。たまに気になって見物客の方を見ると、数人が胸を押さえながら倒れて強制退場させられる。


「アリエッタと目が会った弱者は死ぬ」

「やだ怖い」

「幸せそうだから良いのよ」

「?」


 今日は何人が倒れるんだろう…と、後の報告がちょっと楽しみになっているネフテリアであった。

 この後も、アリエッタに会話を聞かせ、時には教え、おいしいお菓子を食べさせあいながら、のんびりとエルトフェリアの来客を撃沈していった。アリエッタがリアクションする度に遠くがざわめくのが楽しくなって、すっかり庭に長居してしまったのである。

 最後に見物客達に近づいて手を振ってみようかと考えたが、影の中に潜んでいるオスルェンシスに「やめてください大惨事になってしまいます」と必死に説得され、大人しく裏口に帰る事になった。

 しかし、その意図が通じないアリエッタが、去り際に可愛いポーズと笑顔で手を振ってしまった。


「なんか外にいる人の殆どが笑顔で倒れてるんですが、何があったん……なるほど」

「あはは……」


 ナーサがアリエッタを見た瞬間、全てを察した。

 後日、お洒落したアリエッタの自画像を描いてもらい、ブロマイドにして売る計画が動く事になる。その為に、アリエッタのお絵描き部屋に大きな鏡が置かれる事になるのだった。


「ワグナージュとサイロバクラムとファナリアの技術者を集めて! 色付きのコピーを完成させるのよ!」


 いつの間にか多世界を巻き込む一大プロジェクトとなっていく。この計り知れない1人の女神の影響力に、ネフテリアとその両親は王城での打ち合わせで悩む事になるのだった。


「ちゃんと隠せてるとはいえ、なんか思ってた神の影響と違う……」

「確かに崇め(たてまつ)ってますけれど」

「信仰ってこんなんだったか?」

かわいいは正義

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