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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
食べ物と悪魔の世界
37/404

ケーキビュッフェ スタックコース

 ある日の昼過ぎ、ニーニルの町。

 3人の男女が歩いていた。


「いよいよ会えるのね」

「交渉時は注意してくださいよ?」

「分かってるってー。さすがに小さい子に変な事言わないって!」

「そういう事ではないのですが……」


 両側には軽装の男性が2人、その中央を歩くのはパフィと同じくらいの年ごろの黒髪の女性。


「仲良くなるなら早い方が良いじゃない? もしかしたら将来……くふふっ」

「そうなるのは構いませんが……絶対に強要はしないでくださいね?」

「……うんうん、とーぜんでしょ!」

「今の間は何ですか?」


 なにやら楽しそうにこの後の事を話しながら、3人は1軒の家の前へとやってきた。ミューゼ達の家である。

 隣の男性が前に出てドアを叩く。


「すみませーん! どなたかおいでですかー?」


 呼ぶも、返事は無い。


「居ないんでしょうか?」

「おかしいわね。ちゃんと手紙は届けた筈よ?」

「手紙……って、そこにあるソレですかね」

「へっ?」


 ポストから、綺麗な封筒がはみ出ているのが見える。

 女性は慌てて近寄り、ポストから出さずに封筒を確認していった。


「これよ! なんでまだ読まれてないの!?」

「ちなみにそれを出したのは何時ですか?」

「一昨日だから……昨日には届いてる筈よね?」

「という事は、少なくとも昨日から不在という事になりますかね」

「嘘でしょ!? 調べさせたら、仕事は受けてないって言ってたのに!」


 家の前で大騒ぎする3人を、近所の人がチラチラと見始めている。

 その視線を感じた男性は、一旦この場を退散する事に決めた。


「このままでは無駄足になってしまうので、少し足取りを追ってみますか」

「そうね。せっかくここまで来たのにーっ!」


 納得できない雰囲気の女性は、最初にパフィの親友でもあるクリムの食堂へと足を運んだ。一緒にいる事が多いクリムならば、何か知っているかもしれないという、最も妥当な線……だったのだが──


「本日休業……ですね」

「なんでっ!?」


 男性の1人が周辺の人々に聞いてみたところ、3日前にしばらく休業するという報せがあったようだった。理由は特に知らされていないらしい。


「これは困りました……残るはリージョンシーカーですね」

「もうっ、手間取らせてくれるわねっ」


 3人はすぐにリージョンシーカーへと向かう。

 ミューゼとパフィは受付嬢リリと親しい…という情報があった為、迷う事なく当人を呼び出し、話を聞く事に成功した。


「パフィさん達でしたら、昨日の朝早くからラスィーテに行きました」

『はい?』


 まさかの別リージョンの名に、3人とも目が点になった。衝撃だったせいか、何故かコソコソと話し合い始める。


「ちょっと……仕事はしてない筈でしょ!?」

「ええ、聞いた情報では間違いない筈ですよ」

「今日になって急に仕事でも始めたのでしょうか……」


 その話が少し聞こえ、なんだかちょっと申し訳ない顔になるリリ。別に隠す事でもないので、普通に教える事にした。


「ええと、仕事ではなく里帰りですよ。パフィさんとクリムさんの」

『…………へ?』


 再び3人の目が点になったのだった。

 流石にプライベートの事前情報までは、得られなかった様子である。

 リージョンシーカー内の一部に、ちょっと寒い風が吹いた……ように思えた。





 ── ラスィーテ ──


 そっちに行けば甘い匂い、あっちに行けば香ばしい匂い。

 木からは出汁が取れ、岩は砂糖の塊。土も家も何もかもが食材で出来ている。

 そう、ここはとってもお菓子なリージョン。

 だけどご注意、丸々太るとたちまち悪魔がやってきて、お城で焼かれて食べられちゃう!

 異世界から来たアナタ……食べ過ぎない覚悟はおありですか?───




「おいしー!!」

「ん~♪」

(あま~い! それにずっと美味しそうな匂いするから、いくらでも食べられちゃいそう!)


 ラスィーテにやってきたパフィ、クリム、ミューゼ、アリエッタの4人は、塔のある町『シュクルシティ』で食べ歩き……もとい立ち往生していた。

 その理由は……


「困ったし。橋が直るまでまだ何日もかかるし」

「まさかアリクルリバーが氾濫してたなんて思わないのよ」

「これじゃムーファンタウンに行けないし」


 パフィ達が得た情報によると、原因不明の川の氾濫によって橋が壊され、パフィの故郷である『ムーファンタウン』に行く事が出来ない状態なのだという。

 橋を越えて行く先は他にもある為、沢山の人が橋の修理を待つ事になってしまっているのだ。

 パフィとクリムが悩む横で、買ってもらったケーキを食べ終えたアリエッタは、2日目となるラスィーテの光景を見回し、改めてじっくりと考え始めた。


(凄い所だなぁ……全部お菓子の家に見えるけど、食べられたりするのかな? それに、空に浮かんでるのって、雲じゃないよね。なんだかツヤツヤしてるけど、なんだろう?)


 アリエッタが眺める街並みは、チョコレートやクリームなどを模った可愛い家が建ち並ぶ、見た目からして甘い風景だった。

 この街に限らず、全ての材料が食材で出来ているラスィーテでは、食べるのが勿体ないと思える家ほど、ステータスになるのである。

 そして空に浮かぶのは雲ではなく(アメ)。水飴のように形を変えながら漂い、天気が悪い時は綿アメを降らしていく。他のリージョンの人々から見れば、アメからクモが降ってくるという、とても不思議な光景となっているのだった。


(それに……今まで聞く手段が無いからスルーしてたけど、ぱひーやくりむの頭に浮いてるあの丸っこいの。同じのがある人が沢山いるんだけど……ここって2人が関係している場所なのかな?)


 初めて出会った時にも思っていた、パフィの頭の何か。ついに気になったアリエッタは、それを確かめる為に行動を起こした。


「ぱひー、ぱひー」

「ん? どうしたのよ?」

(えーっと、屈んでもらうか抱っこしてもらわないと……ゴメンぱひー)


 とりあえずパフィの足元で、両手をあげて小さくジャンプしてみた。すると、あっという間にパフィが笑顔になり、屈んでアリエッタを抱き上げた。


「もー、なーに可愛い事してるのよ。んふ♪」

「あ、いいなー」


 デレデレするパフィの頭をジッと見つめるアリエッタ。ついにアリエッタの頭の物体に手を伸ばした。

 掴むのではなく、ツンツンと突いてみると、ふよんふよんと揺れ、元の場所に戻る物体。


「??」

「あら、私の髪の毛が気になるのよ?」


 なんと、頭の上に浮いている丸みを帯びた物体は、髪の毛だった。


「あー、そういえば当然よね。あたしも最初は気になって、引っ張ったりしてたもん」

「そんな恐ろしい事してたし!?」

「あれは痛かったのよ……」

「ごめんって……あっ」


 丁度その時、アリエッタが両手を伸ばし、パフィの髪の毛を掴んだ。そのまま手元に引き寄せる。


「いだだだだだ!? アリエッタだめだめ!!」


 浮いてはいるが、髪の毛の動きに連動して、パフィの頭が引き寄せられる。

 悲鳴とパフィの動きに驚いたアリエッタは、すぐに髪の毛から手を離した。


(えっ、痛いの!? ど、どうしよう。たぶん凄く悪い事しちゃったんじゃないかな……)


 パフィは涙目になりながら、そっとアリエッタを地面に降ろした。アリエッタはというと、泣きそうな顔でパフィを見上げている。

 その様子を見て、クリムがあえてちょっと怒った顔で、アリエッタの頭を小突く。


「めっ!だし」

「うぅ……めっ……」(これはきっと怒られてるんだな……)


 アリエッタは「めっ」を覚えた。


 怒られているのは分かったが、どうしたら良いか分からないアリエッタ。

 そんな泣きそうな様子を見ていたミューゼが、そっと頭を撫でた。そのまま耳元で、ある言葉を教えてみた。

 不思議そうに振り返るアリエッタに、笑顔でパフィを指差すミューゼ。その行動の意味は……珍しく通じた。


「ぱひー……ごめんなさい……」


 言葉を教える事に成功したミューゼは、喜びのあまり満面の笑顔でガッツポーズ。屈んでいた為、ケーキを食べる為に座っていた椅子に肘をぶつけ、1人で悶える事になる。

 謝られたパフィは驚いた後、アリエッタの頭を撫で、抱きしめた。

 そして嫉妬するクリム。


 アリエッタは「ごめんなさい」を覚えた。

この世界(リージョン)はお腹が空きます。

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