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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
何も知らない転生少女
35/404

閉じ込められた幼女

 アリエッタの進入禁止の力で、ピアーニャが部屋の奥側に閉じ込められてしまった。

 慌てふためくピアーニャを見て、ミューゼとパフィは考える。そして1つの結論に達した。


「それじゃ……頑張るのよ、総長」

「あたし達はリリさんと話を進めておきますね」

「またんかコラァッ!!」


『よく分からないから、とりあえず出来る事からやろう』という結論は、ピアーニャには受け入れられなかった。見えない壁の向こうで、幼女が地団駄を踏んでいる。


「せめて、これをけすホウホウをかんがえるとか、アリエッタをおこすとか、やることあるだろうがっ!」

「こんな幸せそうなアリエッタを起こすとか、そんな酷いのよ……」

「ぅおい!!」

「最悪部屋を壊すとか?」

「したくないから、こまってるんだろーがっ!」


 可愛いアリエッタを寝かせてあげたいと思う2人は、なんとなくピアーニャをあしらってみた。もちろん本気ではないのだが……。

 しかしピアーニャが騒いだ事で、結局アリエッタが起きてしまった。


「ん……?」

「目が覚めたのよ?」


 寝ぼけ眼のアリエッタは、自分を抱くパフィの顔を見て何を思ったのか、パフィの首にしがみつき、そのまま頬ずりするように縋りついて、二度寝してしまう。


「おきたんじゃないんかい!」

「いいなぁパフィ……」

「……私の生涯に一片の悔い無しなのよっ」


 頬を赤らめ、小刻みに震えながら、パフィは呟いた。


「アホなコトいってないで、はやくそいつをおこしてくれ……」

「はーい。ほらアリエッタ、起きるのよ~」


 パフィが揺すって、今度こそアリエッタは目を覚ました。

 顔をくっつけて寝ている事に気づいた時は、真っ赤になりながらゆっくりと離れて俯いた為、パフィをほんわかさせていた。


(またやっちゃった……なんでくっついて寝ちゃうんだろう……)

(だからなんでこんなにも可愛いのよ。変な気分になってしまうのよ)

「あー……アリエッタ! こっちみてくれ!」


 ピアーニャが名前を呼ぶと、我に返ったアリエッタが振り向いた。そして元気よく挨拶。


「ピアーニャ、おはよっ!」

「お、おう、おはよう……まずはこのカベをどうにかしてほしいのだが……」


 もちろん通じる訳が無いので、ミューゼが代わりにアリエッタと話?をする。

 一度アリエッタの名前を呼び、壁のあるところをノックする。そして通れないというジェスチャーをしてアピール。


(あ、もしかして進入禁止の力が出ちゃってるのかな? もしかして寝惚けて発動させちゃった? って、ピアーニャ出られないじゃん! えーっと……あっ)


 なんとなく状況を察したアリエッタは、ミューゼの名を呼び、ある一点を指差した。


「みゅーぜ」

「あぁ、あの絵ね。これをどうにかすればいいのかな?」


 なんとなく絵を手に取ってみた。すると──


「うおぅ!? いきなりきえたぞ!? えをうごかせばよかったのか?」

「ずいぶん簡単なのよ。でも扱い方によってはとっても凄いのよ」


 頭を悩ませていた壁が、ミューゼの手であっさり消えた事に、驚きを隠せない一同。ともあれ、壁を壊す必要がなくなり、ピアーニャはようやく安心出来たのであった。




 4人は受付へと向かい、リリから肉を買い取ってもらった料金と、預かってもらっていた2体分の肉を受け取った。


「すごいお金なのよ……」

「それでアリエッタにひつようなモノを、かいそろえてやってくれ。いままでのコウドウからかんがえると、モウヒツにハンノウするとおもうが」

「モウヒツ? モウヒツって毛筆の事ですか? 毛がついた筆の」


 なんと予想を裏切って、反応したのはアリエッタではく、リリだった。


「そうなんです。売ってる場所とか知ってますか?」

「知ってるも何も、受付で太い目印なんかを付ける時に使ってますよ。今持ってきますね」


 そう言って小走りで受付の奥へと消えていった。そしてすぐに戻ってくると、アリエッタに毛筆を見せた。


「アリエッタちゃん。もしかしてこれが欲しいの?」

「!!」(毛筆だ! ここじゃなんて言うんだろう!)

「おもったとおりだったな」

「興味津々なのよ」


 チャンスとばかりに、ミューゼが毛筆の呼び方を教え、単語を覚えたら、毛筆をアリエッタに手渡した。


 アリエッタは『毛筆』を覚えた。


「うわぁ、これでこんなに嬉しそうにするなんて……アリエッタちゃんが初めてですよ」


 リリにとって、毛筆は太い目印を付けるための道具でしかない。どうして小さな女の子が喜ぶのかが、理解できないのである。

 目をキラキラさせながら毛筆を眺め、アリエッタは再び決心する。


(よし、今度こそ伝えるぞ!)「みゅーぜ! みゅーぜ! モウヒツ!」


 髪の毛をひと房掴み、毛筆の毛の部分に寄せて、ミューゼに見せた。

 ミューゼだけでなくパフィ達も、首を傾げながらアリエッタの伝えたい事が何かを考え始めた。


「……もしかしてジブンのケで、モウヒツをつくってほしいのか?」

「あっ……なーるほど、アリエッタの力に関わりますもんね」

「アリエッタちゃんの力? なんですかそれ?」


 事情を知らないリリに、周りに聞こえないようにパフィが小声で説明する。当然驚くも、パフィに口を押さえられ、事無き事を得る。

 その後、ピアーニャの提案でもう一度応接室に戻り、そこでアリエッタの髪を切る事になった。ミューゼはアリエッタの綺麗な銀髪を切る事に抵抗があったが、本人が望んでいると分かって、渋々ながらも必要な分だけ切る事を了承した。


「うぅ……こんなに綺麗な髪なのに~」

「また伸びるのよ。今は我慢なのよ」


 必要な分といっても、切り揃える為に後ろ髪を一通り切る事になる。その結果、充分な長さの毛が、かなりの量手に入ったのだった。

 配分には少し揉めたが、最終的には半分以上をミューゼ達が、筆を作るのに充分以上の量をピアーニャが、そしてなぜか少量だけリリの手に渡った。


「はぁ……眺めてよし、味わってよし、嗅いでよしのアリエッタちゃんの髪の毛……美しいわぁ~♡」

「……こんなキケンジンブツが、うちのカンバンうけつけじょうなのか? ジンセンまちがえたか?」


 ピアーニャは引いているが、髪の毛に夢中のリリにとっては些細な事でしかない様子。

 しかしピアーニャも、大事そうに髪の毛を小箱に入れている。


「ところで総長も髪の毛持ってますけど、どうするんです? 飾るんですか?」

「おまえらといっしょにするなっ! わちのほうでもオウトで、モウヒツをつくれるトコロをさがそうとおもっているのだ!」

「そうなんですか! ありがとうございます!」


 ピアーニャの住む王都でも、事務用品を作る職人はいる。アリエッタの謎を解明する為に、ピアーニャの方でも可能な事はするつもりでいた。決してアリエッタと仲良くなりたい、という訳ではなかったりする。

 それぞれ髪の毛を所持し、やるべき事の為に動き出す。その前にアリエッタがトコトコと歩きだした。


「ぴあーにゃ……」(また会いに来るからね。元気でね)

「うぅ……あたまをなでるんじゃない……」


 ピアーニャは嫌がっているが、アリエッタには悲しんでいるように見えているというすれ違いが、今まさに起こっていた。顔をしかめているのが、泣きそうな顔に見えているのだ。

 パフィが気を利かせてアリエッタを呼ぶと、名残惜しそうにパフィの元へと向かい、手を振りながら組合から出て行った。


「はぁ……やっといってくれた……」

(落ち込んでたなぁ。ちょっと嬉しいけど、ごめんね?)


 ちびっこ達が正しく意思疎通する日は、まだまだ遠そうである。




「着いたのよ」

「まずは聞いてみないとね」


 組合を出てからやってきたのは紙と炭筆を買った事務品店。ミューゼ達は帰る前に、ここで毛筆を作れないか、店主に聞いてみる事にしたのだった。


「ふ~む……まさか毛筆を所望する客が現れるとはなぁ」

「出来ないのよ?」

「いや、感心しただけだ。一体どういう使い方をするんだ?」


 前回の来店で学んだミューゼは、説明するより見せる方が早いと思い、早速杖から似顔絵を取り出して見せた。

 その瞬間、店主は立ち上がって石の様に固まってしまった。


「あの~、おじさん?」

「……衝撃が大きすぎた様なのよ。何が起こるか分からないから一旦絵は片づけるのよ」


 しばらく待つと、店主はゆっくりと動き出した。息を吐きながら椅子に座り直して項垂れる。


「ほあぁぁぁぁ……ちょっとちびったぜ……」

「キタナイのよ……」

「あたし達も叫んだし、気持ちは分かるけど、そんな堂々と……」


 2人は少し後退り。


「すまんな。とんでもねぇモン見せられて意識ぶっ飛んじまった。もしかしてそのために毛筆が欲しいのか?」

「そうなのよ。この毛を使って作って欲しいのよ」

「どう使うのか知らんが、任された。何本作ればいいんだ?」


 パフィは店主と大まかに決めていく。店主が毛筆を持ち出し、銀色の髪の毛を合わせて話を進めていく姿を見て、アリエッタは内心喜んでいた。

 最終的に、髪の毛を手持ちの半分以上渡し、特注の費用として肉を売って手に入ったお金で、前金を払って店を出る。


「一応5日後、遅くて10日か。それまで何してよっか?」

「もちろんアリエッタを愛で……観察するのよ。もっとこの子の事知ってあげないといけないのよ」

「そうだねー。いつもどんな事を思ってるんだろう……いつか話せるようになるかな?」

「それは私達次第なのよ。それに、はやく私も色付きで描かれたいのよ」


 日が傾き始めた町中で、3人は手を繋いで帰路についた。そんな仲の良い姿を、肉串を食べながら鋭い視線で見つめる者がいる。


「なるほど……彼女達か。ふふふ……」


 その人影は含み笑いをしながら、3人とは逆方向に歩いて行った。


「…………?」

「どうしたの?」

「いや、なんでも無いのよ……」

熱中症には注意ですよ。

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