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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
何も知らない転生少女
34/404

不思議な絵の秘密

 ひっくり返った巨大な蟲を前に、シーカー達はあんぐりと口を開けて、声すら出せないでいた。なにしろ小さな子供が、これまで攻撃が通らなかった相手を弾き返したのである。


(やったやった! 大成功!)


 それをやらかした本人は、喜びのあまりぴょんぴょん飛び跳ねていた。その姿は誰が見ても、普通の無邪気な子供にしか見えない。


「みゅーぜ! ぱひー!」(2人を守れた! 役に立てた!)


 そのテンションのまま、呆然とへたり込んでいるミューゼへと抱きついた。

 抱きつかれて笑顔を目の当たりにしたミューゼが、一番最初に我に返り、時が動き出したかのように驚愕する。


「ぅえええええええええええええええ!?」

『うわああああああああぁぁぁぁ!?』


 ミューゼの叫びに反応して、シーカー達も大声をあげた。


「何が起こった!?」

「あの子供、何をしたんだ!?」

「よく分かんないけど滅茶苦茶可愛い!」


 すぐに全員慌て始める。目の前の敵の存在も忘れて。

 忘れられている蟲も、叫び声に反応したのか、裏返しになりながら足を動かし始めた。しかしツノが地面にめり込んでいて、上手く動けないでいる。


「はっ! 総長! 皆さん! 今のうちに攻撃を!」

「うおぅ!? わすれておった!」

「やべぇみんな落ち着け! 戦闘中だぞ!」


 ロンデルの言葉に全員我に返り、攻撃態勢を整える。

 上空からピアーニャの雲の槍が、裏返しになった蟲の腹を貫いた。


「む! こいつカタいのはカラダのヒョウメンだけだ! ウラガワはそんなにカタくないぞ!」

「了解! 起き上がる前に仕留めるぞ!」

『うおおおおおおおおお!!』


 シーカー達が裏返しの蟲に登り、ひたすら攻撃を加えていく。そんな光景を、アリエッタ達は離れて見守っていた。


(うわー、巨大生物を狩るのって、こんな感じなんだ。勇ましいなぁ)

「あたし達は参加しなくていいのかな?」

「いいのよ。今回はアリエッタの護衛と子守なのよ」


 そんな事を言っている間に、もがいていた蟲の足は、動かなくなっていった。

 トドメを刺したシーカー達は、蟲の上や周囲で喜びの雄叫びをあげている。


「一時はどうなるかと思ったよ。大工さーん、もう大丈夫ですよー」


 終わったのを確認し、ミューゼはまだ残っている大工達に声をかけた。大工達は緊張が抜けたのか、力が抜けて座り込んでしまった。

 アリエッタは上のピアーニャに向かって手を振る。しかしピアーニャは降りるでもなく、アリエッタを観察し続けた。


「いったいなんなんだアイツは。あんなデカいのをはじくチカラ、みたこともきいたこともないぞ。パフィたちは……しってるわけないよなぁ……はぁ」


 諦めて下に降りると、早速心配顔のアリエッタに抱き上げられてしまった。

 当然、周囲のシーカー達からは笑い声と生暖かい視線を浴びる事になるが、ピアーニャが睨むと逃げるように、蟲の死骸をどうするか話し合い始める。

 仕方なくロンデルにこの場を任せ、一旦組合に戻る事にした。


「だいくたちも。いちどぜんいんキカンだ。ロンデルたちがあんぜんをカクニンできたら、またたのむぞ」

「おう、すまねぇな総長の嬢ちゃん」

「そのよびかたはヤメテほしいんだが……」


 そんなやり取りの後、大工達が転移していくところを、アリエッタは不思議そうに眺めていた。それも無理もない事で、今まで転移をしているとは気づかずに、どうして町から外にいつの間にか出ているのか、全然分かっていなかったのである。


(光ったと思ったら人がだんだん消えていく……これってもしかしてワープってやつ? わ、また消えた)

「な、なぁ……ヒトをテンソウしているところを、フシギそうにみてるんだが……まさか……」

「……ヲホホ……そんなの今まで横から見せた事無かったのに、教える事が出来るわけ無いじゃないですか」

「わらってごまかすなっ! そりゃテンイしたときコワがるわ!」


 何も知らない事と伝わらない事の恐ろしさを改めて知ったピアーニャは、子守りの補助に加えて、それなりの報酬を出した方がいいのではと、思い始めていた。なにしろピアーニャには、子育てなど到底無理難題だからだ。あらゆる意味で。


「さて、行くよアリエッタ。ちゃんと目隠ししてあげるからねー」


 ミューゼはアリエッタの手を引き、台に立つ。そして少し屈んで、アリエッタの頭を思いっきり抱きしめて、顔を胸に押し付けた。


「みゅー……!?」(あの! そんな! 胸が! ちょっとやわらか!?)

「今のうちに転移を!」

「は、はい!」


 男性兵士が少し顔を赤らめながら、魔力を込める。

 ミューゼの作戦通り、今回は悲鳴が上がることなく、無事に転移をしたのだった。




「……さて、ようやくおちついたし、くわしいハナシがきけるな」


 ドアを閉めたピアーニャが、パフィに向かって言いながら、奥の椅子に座る。

 組合のニーニル支部に戻ってきたミューゼ達は、応接室を使って話をする事にした。

 あまりの出来事だった為、この場にいるのはグラウレスタから戻ってきた、ピアーニャ、ミューゼ、パフィ、アリエッタの4人のみ。その中でも、アリエッタが特に真剣な顔で、前を向いている。

 そんなアリエッタが見守る前で、パフィが手を伸ばした。


「……よし、いいのよアリエッタ。熱いから気をつけるのよ」

「おぉぉ~~」

「あ、こっちももう焼けてるね。いっただきー♪」


 真剣な顔のピアーニャの前で、3人は鉄板を使って焼肉を焼いていた。昼過ぎに蟲の襲撃に合い、グラウレスタから帰ってきてからも、まだ昼食を食べていなかったのである。そんな訳で、お腹が空いた4人は、厨房で解体した肉を切ってもらい、鉄板を借りて応接室で食べる事にしたのだった。

 スルーされたピアーニャは一旦寂しそうな顔をするも、気を取り直して肉をつまみ始める。

 しばらくの間、それはそれは楽しい食事となっていた。


「ふぅ、そろそろいいか? グラウレスタでアリエッタがやったことを、ききたいのだが……」

「あ、はいもちろん。この鉄板は……」

「へやのスミにでもおいておけ。あとでかたづけさせる」


 パフィが食事に使った道具を隅に置き、ミューゼが杖から紙を1枚取り出した。それは戦闘中にアリエッタが描いていたものである。

 テーブルにそれを置くと、ピアーニャが覗き込む。


「それがあの時、巨大生物を弾いた絵です」

「これが……というか、これだけなのか?」

「そうなのよ。何かを言いながら、それを飛び込んでくる蟲に向かって突き出したと思ったら、あの通り跳ね返してしまったのよ」

「このえに、なにかイミがあるというのか……」


 紙に描かれているのは、赤い円に、白い横線があるだけのもの。そう、アリエッタの前世にあった『進入禁止』のマークである。

 グラウレスタでアリエッタが巨大な蟲を弾いたのは、これで『絶対に通れない境界』を作り上げた為であった。弾いたのは、相手の勢いが強かった反動であり、特に弾き飛ばす力が込められていた訳ではない。

 女神エルツァーレマイアの言っていた、『()()()()()()()()()常識であるほど完全かつ強い力となる』というのを完璧に引き出していたのは、このマークがアリエッタの前世では一般常識だったお陰である。

 前世での常識が、別次元にあるこのファナリアで通じる訳が無く、3人はこの絵の意味が分からず頭を傾げていた。

 そしてこれを描いた当のアリエッタはというと……


「…………んにゅ……」


 ウトウトとしてパフィに頭をぶつけていた。会話に参加出来ず、満腹状態であれば無理も無かった。


「あら、眠いのよ? ごめんなのよ。貴女が描いたこれを見ていたのよ」

「ぅぇ……?」


 パフィが指を差した先にある紙を見て、寝ぼけているアリエッタは手を伸ばした。そして手を触れた瞬間、絵が淡く輝いた。


「うおっ!?」

「光った!?」

「何が……おっと、危ないのよ」


 眠気に抗えず、コテンと力尽きたアリエッタを抱き寄せ、様子を見る……が、淡い光を放つ絵は、ずっとその状態を維持している。


「何なのよ? 何か変わったのよ?」

「わからん……しらべてみなければ……」


 一応警戒する為に、『雲塊(シルキークレイ)』を出して絵の周りに浮かせる、が……


「ん? なんだ? なにかにぶつかるぞ?」

「何も無いのよ?」

「……あれ? 見えないけど何かある」


 ミューゼが絵の上の空間をツンツン突くと、そこには見えない壁がある。

 ピアーニャは机に乗り、アリエッタを抱いて動けないパフィも、手を伸ばしてそれを確認してみた。


「不思議なのよ……見えない壁なのよ」

「あの時の蟲を弾いたのはこの力なのね……弾いたというよりも、防いだのかな?」

「あんなデカいのをふせげるなら、そうとうつよいボウギョしゅだんだぞ。これがアリエッタのちからなのか? それともこのえがカンケイしてるのか?」


 この後も様々な憶測を立てていくが、3人が結論を出すには情報が足りなさ過ぎた。肝心のアリエッタには、聴いたところで絶対に通じない為、どうしようもない。

 話は流れ、絵を描く為の道具の話題へとシフトしていく。


「これもアリエッタの髪で描いたのよ。もしかして毛筆があれば出来るのよ?」

「どうだろうな、アリエッタのカミでなければいけないのか、アリエッタがかけばいいのか……それか、このえをかければ、だれでもつかえるのか」

「毛筆を準備しても、色がないんじゃ試せないのよ」


 世に出回っているのは黒いインクのみ。色のあるインクは染料としては存在しているが、筆で使えるようなタイプではない。つまり現状では、アリエッタにしか色を使えないという事になっている。

 結局、今はアリエッタが描く気にならないと何も分からないという所に落ち着き、話は終わった。


「さて、それではさきほど、クミアイがかいとったニクのせいさんがあるから、うけつけにむかうぞ。リリがよういしているハズだ」


 ピアーニャが立ち上がり、部屋から出ようとする……が、


 ゴン

「あうっ!? な、なんだ!?」


 何もない所で頭を打って、のけ反った。ぶつかったのは、もちろん進入禁止の壁である。


「もしや、こんなところにまで……まさか!」


 ピアーニャが顔色を変えて部屋の中を走り回って調べ始める。そして重大な事実が判明した。


「わち……へやのいりぐちに、いけんのだが……」


 なんと奥にいたピアーニャは、閉じ込められてしまっていた。

この話を投稿し始めて、1か月が経ちました。

思った以上に読んでいただけて嬉しいです、ありがとうございます(*´Д`)

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