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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
何も知らない転生少女
32/404

神から授かりし髪の力

 夕食を食べて、みんなが寛いでいる姿を見て、ようやくアリエッタは安堵した。


(よかった、置いて行かれなかった。まだ油断は出来ないけど)


 もちろんアリエッタをここに置いていくという事は絶対に無いのだが、それを知ることが出来ない為、完全に緊張を解くことが出来ないでいる。

 だから常に誰かにくっついて行動しているのだが……


「なぜわちを、ロンデルのひざのうえに、すわらせるのだ?」

(ぴあーにゃもお父さんに抱っこされたいよね。僕ばかり甘やかされても悪いし……それに恥ずかしいし)


 笑顔のアリエッタと困り顔のピアーニャのやり取りを見るのにも、すっかり慣れてきた3人は、面白そうにその光景を眺めている。特にロンデルは、悪い顔になっていた。

 そんな副総長の顔を見て、ミューゼかコソコソとパフィに話しかけた。


「なんで副総長はあんな悪そうな顔をしてるの?」

「……これは総長にはナイショなのよ。副総長は小さい頃から総長に遊ばれてたから、その仕返しが出来て嬉しいらしいのよ。それでつい悪い顔になるらしいのよ」

「……そんな可愛い理由であんな顔になってたのね」


 アリエッタの出現でその願いが叶い、今が心底楽しいロンデルだった。悪い笑顔になるのは、ただの癖である。

 今は笑顔から悪さを消し、アリエッタとピアーニャの頭を撫でている。


「うぅ~、撫でるなぁ! ロンデルのくせにぃ!」

「こらこらピアーニャちゃん。あまり怒った顔をすると、アリエッタさんに怒られますよ」


「楽しそうね」

「楽しそうなのよ」


 食後という事もあって、しばし平和な光景を眺めていた。




「それでは、絵の色の事を聴かせていただけますね?」

「ついに謎が解けるのよ」


 絵を描く現場を見ていなかった2人は、緊張した面持ちで座っている。

 話の中心人物であるアリエッタはというと、暇つぶし用に置かれていた紙と炭筆を握って、今度はロンデルをジッと見ていた。ロンデルを描く気のようだ。


「また私が描かれないのよ……」

「まぁまぁ、パフィはいつでも一緒にいるじゃない。帰ったら綺麗に描いてもらお?」

「しかしこれは恥ずかしいですね……下手に動けませんし」

「動いたらアリエッタに睨まれるぞ?」


 実は動いていてもアリエッタにとっては問題無いのだが、特徴を捉える為につい真剣に睨んでしまう為、全員に威圧しているように思われていた。

 ミューゼやピアーニャは、実際にその状態を見せる事が出来ると思い、好きなようにさせている。


「色を付けるまで少し時間かかるから、それまではのんびりしましょう。どうせ話を聞いただけでは理解出来るハズがないので。とりあえず、今やっている事ですけど……」


 2人が頷くのを見て、ミューゼは話を始めた。


「まず最初に、今のように炭筆で絵を描いていきます。この時点で信じられないほど凄い絵なので、どうやってるのかは見てても分かりませんでした」

「もはやすでに、とくしゅのうりょくだな……」


 絵を描く知識が無いと、実際に作業を見た所で、何をやっているのか分からないのは当然である。特に美術面で全く進歩していないファナリアでは、完全に理解の範疇外だった。

 それからしばらくの間、アリエッタの様子を見ながら雑談していった。

 そして、アリエッタは次の段階に入る。


「アリエッタが髪を解きましたね。ここからが本番です。ちなみに今の絵は、完成したと言っても過言ではない状態だと思います。総長の絵を見た時も、一瞬完成かと思ったくらいです」

「しかし何故髪を……」


 ロンデルは気になったが、今は押し黙り、説明を待つ。

 アリエッタの動きを見ながら、ミューゼは解説を進めていった。


「解いた髪をひと房掴み、逆さまに持った炭筆に、髪紐で結び付けているところです」

「むかしそんざいしていた、ケモノの毛をつかった『モウヒツ』というどうぐに、にているぞ。いまのインクとペンのカタチができてから、すっかりなくなっていたのだが」


 インクで文字しか書かない人々は、柔らかい毛筆よりも、硬いつけペンの方を選んだ。その結果、毛筆自体が忘れられていくという事態になったのだ。


「おっと、準備が出来たようです。アリエッタの髪の毛をよく見ていてください」


 言われて全員がアリエッタの髪に注目する。


(うぅ……なんかすっごい見られてる。一体何を話してるんだろう)


 ちょっと緊張しながら、アリエッタは意識を毛先に集中した。すると──


「えっ……毛先の色が変わったのよ……まるであの時みたいなのよ……」


 パフィは赤い生物、レデルザードに襲われた時の事を思い出していた。あの時は銀色だった髪の毛の先が7色に輝いていたが、今回は紺色……ロンデルの瞳の色である。

 毛先はすぐに、ホワイト、ベージュ、ブラウンへと次々に変わっていき、アリエッタは手を動かし続ける。


「今アリエッタは色を付けています。毛先の色が紙に付くようですよ」

「なんという能力でしょう……こういったものは初めて見ました」

「わちもはじめてだ。いったいどこのリージョンからきたのだろうな……」


 アリエッタが女神エルツァーレマイアより教わった力は、『(いろどり)』の力。自分のイメージした色を具現化するという、絵が好きなアリエッタ好みの能力だった。

 女神が使った時は、色の塊をぶつけて対象を破壊するなどの力技が出来ていたが、アリエッタの力は弱い為、今は絵を1枚塗り終えた時点で力尽きて寝てしまう。しかしそれでも、本人は満足だった。


「それにしても、神秘的なのよ……綺麗な銀色の髪に色がついて、輝いて見えるのよ」

「オウトのおえらいさんには、みせたくないな。ホゴをりゆうにつれていかれそうだ」

「絶対にバレないようにしたいですね……」


 こうやってピアーニャやミューゼの絵が出来ていたのかと、4人がピアーニャの似顔絵とアリエッタを交互に見て、納得していた。

 4人が見守る中、アリエッタはゆっくりと時間をかけて、絵を完成させていく。


「神秘的で可愛い、料理も出来るし、あり得ない程絵が上手。言葉が分からないという枷も、ここまでくると逆に可愛いですね」

「わちにはそのカセがおおきすぎるのだが……」


 能力と色の原因が分かり、改めてアリエッタの話題で盛り上がる一同。

 時間を忘れて喋っていると、おもむろにアリエッタが立ち上がった。


「あら? もしかして完成したのよ?」


 全員が注目する中、目を擦りながらヨタヨタと歩くアリエッタ。


「まさか、イロをつかうとつかれるのか? マホウみたいだな」

「アリエッタ、大丈夫?」

「だいじょーぶ……」


 そのままロンデルの元へたどり着き、絵を渡した。


「ありがとうございます。それでは早速……おぉぉ、これは……すごい……」

「お疲れ様なのよアリエッタ。さぁおいでなのよ」

「ん~ぱひー……」


 眠気が勝るアリエッタは、ミューゼとパフィに呼ばれるだけでヨタヨタと歩いて行く。そのまま抱き上げられて、頭を撫でられると、簡単に眠ってしまった。


「さてロンデルよ。えをテーブルにおくがいい」

「はい……これは少々照れますね。どうぞ」

「これはっ!」

「これはまた凄いのを描いたのよ……」


 描かれていたのは、少し斜めから見た、優しくキリッとした顔のロンデルの似顔絵。誰がどう見てもイケメンである。


「ぷくく……おまえカッコよくかかれたなぁ!」

「何も知らない人にこれだけ見せたら、簡単に惚れそうですよね」

「確かに鏡で見た時よりも良く描かれています。改めて感想を聞くと恥ずかしいどころじゃないですね、ははは……」


 ロンデルは立ち上がり、落ち着かない様子で家の中をウロウロした後、ドアを開けて外に出た。


「ちょ……ちょっと頭を冷やして寝ますね。焚火の前にいるので、用がありましたらお呼びください」


 振り向かずにそう言うと、ドアを閉めてしまった。


「ありゃかなりテレていたな。まぁむりもないが」

「リリじゃないけど、これはお見合いの姿絵に使えそうなのよ」

「うん、あたしもちょっとドキドキする」

「ロンデルならまだミコンだし、そこらのオトコよりはユウノウでカネもあるから、きにいったならユウワクしてかまわんぞ?」

「う~ん……」


 ちょっと悪くないなと思ったミューゼであった。




「副総長~、そろそろ寝ますけど……」

「私は外で良いですよ。不思議な焚火もありますし、一応の警戒はしておきます。それに女性4人いらっしゃいますからね」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

(おまけに紳士かぁ……確かに超優良物件だわ。あたしが釣り合うかは分からないけど)


 そっとドアを閉めたミューゼは、少しため息を吐いた。


「なんだ、もうホレたか?」

「分からないです。むしろ自分が頼りないなぁって思ってしまって」

「それはしかたないだろう。おまえはまだシンジンだぞ」


 シーカーとして働く事が出来るのは15歳から。そしてミューゼはまだ15歳。年上のパフィと一緒に活動して、充分な貢献をしていたが、ベテランのピアーニャやロンデルと比べると、やはり能力の低さは否めない。


「ま、あたしにはアリエッタもいるし、今焦って考えても仕方ないと思うので、まずはベテラン目指して頑張りますよ」

「そうか」


 それ以上は何も言わず、アリエッタの元に集まった。


「それじゃ、総長はアリエッタの横で、あたし達はベッドの横で寝ますね」

「おいっ、なんでそうなる!?」

「小さい子を下で寝かせるわけにはいかないのよ。アリエッタもピアーニャちゃんを気遣うはずなのよ」

「ぐっ……」

「アリエッタの事だから、起きた時にピアーニャちゃんが下で寝てたら心配して、きっと1日離さなくなるのよ」

「そ、それは……」


 いままでの経験から、アリエッタの前での大人扱いは全く通用しない。むしろ心配されて過保護化してしまう恐れがある。

 そうなってしまっては、町中でもひたすら面倒を見られ、また幼児扱いされてしまうと考えたピアーニャは、渋々その提案を受け入れた。




 次の日の朝……

 いち早く目を覚ましたパフィは、ミューゼを静かに起こし、ロンデルを家に招き入れた。そして一緒にベッドの上を観察する。

 ベッドの上では、アリエッタがピアーニャを腕枕し、守る様に眠っていた。もちろんピアーニャは動けない。

 その光景を見て、3人は同時に悪い顔をし、同じ事を思うのだった。


(計画通り……!)

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