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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
何も知らない転生少女
31/404

血に塗れた森の中で

「獲ったどぉー!」


 森の中に威勢の良い声が響く。


「んっふっふー、ミルブルスだなんて結構大物なのよ。荷物の心配がいらないって素敵なのよ」


 パフィが襲いかかってきた動物を仕留め、1人盛り上がっている。足元にはパフィより少し大きいくらいの、足を太くした牛のような動物が転がっていた。

 早速解体を進めていき、肉を袋に詰め込んでいると、森の奥からロンデルが向かってくるのが見えた。


「パフィさん。今夜の食材でも獲っていましたか?」

「そうなのよ。大物だったから、副総長も手伝ってほしいのよ」

「ええ、俺…私としても有難いですし、喜んで」


 にこやかに切り分けられた肉を詰め込んでいく。

 パフィは要らない部位を埋めながら、ロンデルに質問を始めた。


「副総長って、アリエッタと遊んでいる(?)ピアーニャを見てる時、すっごく悪い笑顔になってるのよ。どうしてなのよ?」


 ロンデルはピタリと身体を止めて、笑顔でパフィに向き直った。


「……おや、バレていましたか」

「甘く見てもらっちゃ、困るのよ」


 2人は不敵な笑みで、見つめ合うのだった。




 その頃家の前では……ピアーニャが一切動けなくなっていた。顔が強張り、頬には汗が伝い、手が微妙に震えている。

 そんなピアーニャを、アリエッタは険しい顔で睨みつけていた。


「総長、絶対に動いては駄目ですよ?」

「ぐ……まさかこんなコトになるとは……」

「むー……」


 ピアーニャが動こうとすると、不機嫌そうな声を出すアリエッタ。数日でその理由を理解する事が出来ていたミューゼは、アリエッタの望んでいるであろう事を、ピアーニャに伝える事が出来るようになっていた。


「ふふふ、さすがの総長も、予想出来なかったようですね。感想は……全てが終わってから聞くとしましょう。今は大人しくしておいた方が身の為ですよ」

「く……そ……」

「うぅ……」

「総長、力を抜いて笑っておいた方が良いですよ。アリエッタが怒っても知りませんからね~」


 アリエッタの望むままに、総長を意のままに操る……ミューゼは明らかに楽しんでいた。

 諦めたピアーニャは、言われた通りに肩の力を抜いて、表情を崩す。


「まぁ話をする分には問題ないですし、気楽にいきましょう」

「ふん……それで、さっきいったとおり、おまえたちはアリエッタをつれて、あそこにいきたいと…いうのだな?」

「はい」


 ピアーニャは溜息をつく。


「それはいいが、なぜわちもいくハナシになるのだ?」

「なぜって、当然じゃないですか」


 少し小馬鹿にしたような顔で、溜息をつき返すミューゼ。

 ピアーニャは少しムッとするが、動けないでいる。


「アリエッタとピアーニャちゃんは、既にセットなんですよ」

「かんべんしてくれ……」

「ぴあーにゃ?」

「いや、うむ、なんでもないぞ」


 大きな溜息をつくとアリエッタに声をかけられ、姿勢を正す。会話は通じずとも、目の前に本人がいるせいで、焦らずにはいられないのだった。

 しばらく静かにしていると、突然アリエッタが動き出す。


「あら、どうしたの?」

「ん……」


 おもむろにサイドテールを触り……そして髪を解いた。銀色の髪がふわりと広がる。


「なんだ?」


 ミューゼとピアーニャが観ている中で、アリエッタはニヤリと笑みを浮かべていた。




 日が傾き、森の中は少しずつ薄暗くなってきた。そんな中、1つの人影が泉の方向に歩いて行く。


「少々手こずってしまいましたね。戻ったら湧き水で血を落とさねば……」


 赤く染まった手を見ながら、ロンデルは袋を持って泉のある場所へと入っていく。その顔にも赤いモノが付着していた。

 少し立ち止まり、笑みを浮かべて軽く後ろを振り返り、呟き始める。


「礼を言いますよ、パフィさん。貴女方のお陰で私は総長に……フフフ……ハハハハハハ!!」


 ひとしきり笑った後、深呼吸をしてからいつもの顔に戻り、アリエッタの家の方向へと歩き始めたのだった。

 茂みの奥に入り、蔓を目印に歩いて行く。すぐに大きなキノコが見えてきた。その前には……


「むっ……あれは……」


 ロンデルが見たのは、魂が抜けたような顔をしているミューゼとピアーニャ。そしてミューゼの膝枕で横になっているアリエッタの姿だった。

 近寄ってみると、何かを見ているようである。


「どうしました? 総長、ミューゼオラさん」

「……あ、副総長」


 かろうじてロンデルに気が付いたミューゼが反応した。


「ちょっと……アリエッタの凄さを目の当たりにしてしまいまして……ははは」

「? すぐ戻りますので、詳しく聞かせていただきたい」

「はい」


 訝し気な顔をしながら、ロンデルは赤く染まった手を洗いに向かった。

 我に返ったミューゼは膝で眠るアリエッタを撫で、ピアーニャが固まったまま持っているそれを見て、ため息をついた。


「総長、そろそろ戻ってきてください。副総長が戻ってきましたよ」

「……はっ! わちはいったい」


 ピアーニャも我に返り、すぐにロンデルが戻ってくる。ミューゼとピアーニャは頷きあい、真剣な顔でロンデルと向き合った。


「じつはおまえとパフィがはなれてから…なんだがな。アリエッタが、えをかきはじめ、ついさっきできあがったのだ。こころしてみるがいい」

「はぁ。あの素晴らしい絵ですか」


 そう言って、手に持っていた紙を裏返してロンデルに手渡した。

 絵が尋常じゃなく上手いと知っていた為、渡されてもすぐには見ず、緊張した面持ちで1回だけ深呼吸し、紙を裏返す。すると……


「っんな!? これは……総長!?」


 そこには予想以上の絵が描かれていた。

 丸みを帯びた輪郭、くりんとした瞳、ふわりとした髪……幼い外見を見事に捉え、ロンデルにはどう見ても生きているように見えてしまう。

 しかもミューゼの時に比べて、色が細かくつけられ、光彩も陰影も細部にわたって表現されている。明らかにグレードが上がっていた。

 ロンデルは呆けた顔で、絵とピアーニャ本人を見比べ、呟いた。


「……どちらが本物でしょうか」

「ぅおいっ!?」

「ま、まぁ気持ちは分かるけど……」


 そのまま少しの間、ロンデルは絵を凝視し続けたのであった。


「なんだか…わちがみられてるようで、ムズムズするな……」

「それ分かります。あたしもこの前そう思ってましたし」


 覚悟していたお陰か、2人より早く復帰したロンデル。そのまま疑問を投げかける。


「これ、どうやって色をつけたんですか? 何も持ってきていませんでしたよね?」

「それについては、パフィが戻ったら話します」

「……あぁ、パフィさんでしたら」


 視線を泉の方向に向ける、ミューゼもつられてそっちを向くと……


「戻ったのよー。いやー重かったのよ」


 血みどろのパフィが歩いてきていた。


「ちょっとパフィ!? なにそれ!」

「えっと、ミルブルスを仕留めて解体していたのよ。それを運ぶために袋に入れていたら、まだ血が残ってて、思いっきりかかっちゃったのよ。あ、副総長、血はもう落としたのよ?」

「ええ、先程裏で洗い流しましたよ。肉はそこに」

「助かったのよ」


 解体の返り血まみれになりながら、先にロンデルに半分以上の肉を運んでもらい、パフィは後処理をして戻ってきたのだった。

 アリエッタに膝枕しているミューゼの様子を見て、動けないと理解したパフィは、肉が入った袋を置いて、家の裏へと向かう。


「なんだか大量ですね」

「今日明日で半分も使えないでしょうね。帰ったら残った分はお渡ししますよ」

「えっと……良いんでしょうか……」

「わちらはカネあるからキにするな。アリエッタのチョウサヒだとおもってくれ」


 しばらくしてパフィが戻ってきた。付着した血が多かった為、しきりに匂いを気にしている。


「で、何の話をしていたのよ?」

「これの話ですよ」


 サッパリして戻ってきたパフィに、しれっと絵を渡すロンデル。そして普通に受け取り、それを見た。


「あらそうちょ…んん? んんんっ!?」


 一瞬リアクションが遅れ、すぐに目を丸くして固まった。完全に不意打ち状態で見てしまった為、自分が何を見たのか、分からなかったのである。


「みゅみゅみゅみゅみゅ……」

「そうよ、もちろんアリエッタが描いたの」

「どどどどどどど……」

「みんな揃ったから、その事について話そうとは思うんだけど、ちょっと暗くなってきたし、中に入らない?」

「なんでカイワせいりつしてるのだ……?」


 混乱して全く上手く話せていないパフィに対し、当たり前のように応答出来ているミューゼを、横の2人は不思議そうに見ているのだった。

 全員移動しようとしたその時、アリエッタが目を覚ました。


「んぅ……?」

「アリエッタ、おはよう」

「……おはよ」(ちょっとだけ寝ちゃってたか……満足したからなー)


 アリエッタが起き上がろうとしたその時、


 く〜〜〜……


 お腹から可愛い音が鳴り響き、難しい顔をしている一同を、破顔させた。


「話の前にごはんにするのよ。今回は獲れたてのお肉が沢山あるのよ」

「そうね。その後の方が時間たっぷりあるし」


 その後、パフィは念の為に持ってきていた芋モドキを塩茹でにし、肉を切って焼いていく。

 アリエッタを除く4人は、大事な話の前の、のどかなひと時を楽しんだ。時々美味しそうに肉を頬張るアリエッタを、優しい目で眺めながら……。

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