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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
乙女の悪夢はトラブルの元

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第三勢力

 クォンは困っていた。キッパリと断ったのに、退いてくれる気配が無い。

 いっそ強硬手段に出てくれれば、対抗はいくらでも可能なのだが、目の前にいるのは土下座する男1人。

 こちらから強引な排除をしてしまっては、加害者になりかねないし、あまり近寄りたくないとも思っている。


(うぅ、キモイよぉ)


 自分に対してフェティシズム全開で寄ってくる相手に、触れたくない一心なのだ。

 ただし、そんなものはピアーニャには通じない。


「…………あ」

「だまってろ」


 それを見て声が出そうになったクォンを小声で制し、土下座で下を向いているスレッド……ではなく、その近くの地面を睨みつけた。

 よく見ると、地面の中から薄く白い何かが少しだけはみ出している。それはスレッドのいる場所を中心に、四角形を描くように広がった。

 完全にスレッドを囲んだ次の瞬間、スレッドの下の地面だけ、少しだけ浮き上がる。


(うわぁお……)


 感心するクォン。

 土下座したまま地面ごと浮かんだスレッドは、そのままゆっくりと横にスライドしていった。前を見ていないスレッドは気づいていない。

 もちろん原因はピアーニャの『雲塊(シルキークレイ)』である。薄く鋭く変形し、地面を薄く切り取ってほんの少しだけ浮かばせ、静かに強制的に移動させたのだ。

 そしてもう1つの『雲塊(シルキークレイ)』を自分達の足元に広げ、クォンとミューゼに乗るよう促した。


「しずかにな」


 2人は頷いて乗ると、こちらも少しだけ浮かび、地面スレスレを静かに移動。

 同時にスレッドのいる地面を静かに降ろし、『雲塊(シルキークレイ)』を回収。そのまま不動かつ無音でこの場を去るのだった。


「……なんか、ちょっと可哀想?」

「べつにいいだろ」


 離れてから、普通のトーンで会話を開始。雲の速度も徐々に速くし、可能な限り速く静かにその場を去ろうとした。


「待てやコラアアアアアア!!」

「だよなー」


 後ろから聞こえた叫びに反応して振り向くと、スレッドではなくツーサイドアップの女だった。


「え、誰?」

「ああ、ミューゼさんは知らないよね。昨日襲ってきた人達なんだけど」

「えー……」


 後ろには仲間らしき集団が続いている。

 そして女のアーマメントには、顔をボコボコに腫らしたスレッドがぶら下がっていた。


「あー、見張っていた仲間にボコられたね」

「きっとなぐられるまで、ドゲザしてたんだろ」

「マヌケねー」


 逃げた本人達は、完全に他人事である。

 ピアーニャはなんとなく移動速度を上げ、追手から逃げてみた。


「あ、逃げるんですか」

「えーっと、コロニー内の飛行移動は、資格が無いと怒られますよ」

「もうソトだぞ」

「えっ、あっ」


 元々呼び止められたのがコロニーの端近くだったので、少し逃げたらあっという間に外に出ていた。

 危険生物も生息するコロニーの外では、よほどの危険行為でもしない限り、罪に問われる事は無いのだ。


「つまり、ここからは何をしても──」

「たのむからミューゼオラはおとなしくしてくれ! きのうのコトがあるだろーが!」


 なんだかやる気になったミューゼだが、昨日前科ができたばかりである。気ままにやらせておけば、平原すらも樹海になりかねないと思ったピアーニャは、一旦ミューゼ抜きで動くことにした。


「【木の壁(ウォールツリー)】!」

「なにもするなって、いってるだろおおおおお!」

 ごちんっ

「あだっ!」


 言うことを聞かなかったミューゼに『雲塊(シルキークレイ)』をぶつけ、大人しくさせた。

 後方ではアーマメントの飛行機能を使って追いかけてきたツーサイドアップ派の面々が、突然生えた木に狼狽え、およそ半数が大幅に引き離されていた。


「そりゃ速く飛んでる目の前に、いきなり太い木が生えたらそうなるよねぇ……」


 驚いただけで脱落者は出なかったが、警戒心を露わにしているのがクォンから見てもよく分かる。

 ピアーニャは速度を加減しつつ、追いつかれないように逃げながら、ミューゼにしっかり釘を刺す。


「ミューゼオラは、きょうはメイレイにしたがうこと。したがわなかったら、はずかしいカッコウで、こんやテリアにひきわたすぞ」

「すみませんでした! なんなりとご命令ください!」

「お姫様の扱いがひどすぎる!」


 段々とミューゼの扱いが上手くなっていくピアーニャであった。


「いまはケイカイをたのむ。あいてはソシキだからな。ほかにもミカタがいるかもしれん」

「はいっ! 上空から大きめの魔力が、こっちを狙っています! であります!」

「それはメイレイなくてもいえよ!!」


 その言葉で上を見たクォンは、目を見開いた。

 少し高い位置から、1人のサイロバクラム人の少女が、両肩の辺りを光らせ、自分達の方を向いているのが見えたのだ。


「EBライフル!? 総長さん、アレ危ないやつ!」

「ああくそっ」


 ピアーニャは慌てて『雲塊(シルキークレイ)』を上に移動させた。

 次の瞬間、上空から太い光が降ってきた。


 ちゅごおおぉぉぉん


 爆発が起こったその場所を、上空から女が見ている。先程エーテルを放った張本人である。


「……逸れた?」


 やたらと煽情的な黒いボディースーツを着ている女は、放った高出力エーテルの着弾地点に疑問を感じ、警戒していた。

 撃ったはずの場所には、白い壁があった。


「なるほど、斜めに壁を作って、エーテルを逸らしたのね」


 壁が消える瞬間を見たことで、何が起こったかを理解した。

 ピアーニャは『雲塊(シルキークレイ)』を壁として展開し、斜めにそびえ立たせたのだ。それも先端はほぼ垂直になるように。

 結果、エーテルは雲の表面を撫でるように角度を変えていき、ピアーニャ達から少し離れた地面へと突き刺さったのだ。追ってきていたツーサイドアップ派の数名を爆発に巻き込んで。


「くっ……おのれぇ、クォン・パイラ!」


 なぜかクォンが恨まれた。


「昨日はよく分からない何かに引っ張られて何も出来なかったし、今日こそはケリをつけてやる!」


 昨日、何かをしようとして、薄く伸ばした『雲塊(シルキークレイ)』に捕らえられてしまったうちの1人のようだ。

 そんな悔しがって隙だらけになっている状態を見逃すような、生易しいリージョンシーカー総長ではない。


「よっ。オマエのコウゲキか?」


 斜めに展開した『雲塊(シルキークレイ)』の陰を利用して、一気に女に近づいていた。


「うわあああ!?」

「ミューゼオラ! 縛れ!」

「【縛蔦網(アイヴィーウェブ)】」


 ミューゼの杖から伸びた蔦が、煽情的な女の体を、さらに艶めかしく縛り上げる。


「ヘンなしばりかたするなよ……」

「あたしのせいじゃないですよ。ムダにでかいのが悪いんですー」


 わざとではないようだが、嫉妬心丸出しのミューゼ。

 色々はみ出しそうで危ない。このまま運ばれるわけにはいかない。女はそう考えるが、アーマメントまで縛られ、蔦から抜け出せない。

 と、そこへ、別の場所からのエーテルの射撃が飛んできた。エーテルは女のアーマメントにかかった蔓を切った。

 女はその好機を逃さなかった。


「はあああああっ!」

「! ミューゼオラ、ツタをきれ!」


 アーマメントの知識に乏しい事が幸いし、ピアーニャは素直に警戒、蔦を切らせ、後退した。合わせてクォンが前に出る。

 そして女が爆光に包まれた。


「うおぉ、なにがおこった?」

「危なかったぁ。今の人が動かせるようになったアーマメントを暴走させて、エーテル爆発を起こしたんですよ。まともに喰らったら吹き飛んでたかも」


 拡散しただけのエーテルでは殺傷力はそれほど無いが、空中で飛ばされるのは危ない。それに気づいたクォンが、自分のアーマメントでバリアを張り、自分達を守ったのだ。

 光が収まると、そこには際どかったボディースーツをボロボロにした女が、辛うじて飛んでいた。これ以上は危ない。


「はぁ、はぁ……」

「チジョだな」

「痴女ですね」


 ボロボロの相手に対して、ピアーニャとミューゼは酷い評価を下した。

 女は鋭い視線でクォンを睨みつけた。


「クォン・パイラ! 貴様だけは許さない!」

「なんでクォンなの!?」


 今回クォンは何もしていなし、許されない意味が分からないが、女は明確にクォン個人を敵視している。

 その理由とは、


「異界なんて信用出来るわけがないでしょう。こいつらは、いつか必ず私達を支配しにくるわ」

「そんなヨテイはないけどな」

「そうなってしまったら、私達にあんな事やこんな事をするに違いないのよ! えっちなノベルみたいに!」

「完全に妄想じゃん!」


 女はそういうノベルの愛読者だった。物語を読んで被害妄想だけを膨らませていたのだ。


「でも、あの恰好のせいで、変な説得力あるなぁ……」

「うむ……フクきてくれないかな」


 妙な納得要素を眺めていると、下から女が飛んで来た。先程追いかけてきていたツーサイドアップの女である。アーマメントには、ボロボロのスレッドを引っ掛けたままになっている。


「リーダー! 無事か!?」

「なんとかね。一旦撤退するわよ」

「ああ。捕まってくれ」


 撤退を決めるツーサイドアップ派。

 しかし、理由も無く逃がす程、ピアーニャは甘くない。

 これまででそれを理解出来たのか、リーダーと呼ばれた女は動こうとしたピアーニャを手で制した。


「のんびりしてて良いのかしら? 世界抵抗軍《リージョンレジスタンス》の部下に、あの塔を壊すように命令してあるのだけれどねぇ」

「……シュウトウだな、さっさといけ」


 ピアーニャは大人しく逃がす事にした。自分達が撤退行動をとってしまっては、後ろから撃たれかねないと思ったからだ。

 最後にツーサイドアップの女が、クォンに対して捨て台詞を吐いた。


「お前、ツーサイドアップでありながらツインテールの美女と恋中になりやがって。人類の裏切り者め!」


 そう言って、2人と下にいたツーサイドアップ派の世界抵抗軍《リージョンレジスタンス》は去って行った。

 うんざりした顔でそれを眺めていたミューゼは、ポツリと呟いた。


「髪型1つで人類を一括りにしないでよ……」

大きな争いは同レベルだったり両者が正義だからこそ起こるわけですね。

原因として巻き込まれている主人公サイドは悪役ですわ。

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