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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
何も知らない転生少女
30/404

存在価値を示す小さな戦い

「そういえば思ったのよ」

「なんだ?」


 目の前にある泉を眺めながら、パフィは疑問を投げかけた。


「ここはファナリアとは違って魔法を使う人がいないのよ。なのに何で、この泉は魔力の泉って呼ばれてて、定期的に汲んでくる仕事があるのよ?」


 パフィは先程聞いた『総長はファナリア出身じゃないから、魔法は使えない』という話を思い出していた。それはつまり、魔法を使えるのはファナリア出身者だけという風に捉える事もできる。

 その為の魔力と同じモノが、本来ファナリアとは関係の無いグラウレスタにあるという事が、とても不可思議だったのだ。


「うむ、それは3ねんほどまえに、モリとイズミがハッケンされたときにもギダイにあがったな」

「はい、その時調査をしていたシーカーの魔法使いが、森の奥から魔力を感じて調査を進めたところ、この泉を発見しました。魔力がある理由は解明されていませんが、この水によって様々な薬が作れるようになり、ファナリアからは神聖視されるようになった…という訳です」


 魔力を感じる事の出来ないパフィは、仕事が貰えるという理由で、とりあえず神聖だという教えに従っているのだ。

 ピアーニャ達の話を聞いて納得したパフィは、横を見る。そこには泉に顔をつけて水を美味しそうに飲む、アリエッタの姿があった。


(あー、冷たくて美味しー。目が覚めた!)

「……あれは良いのよ?」

「うーむ……」

「良いも悪いも、どうやって教えたら良いんでしょうね……」


 育児や教育の為の施設が無く、本人達にも育児経験は無い。基本的に口伝や共同生活だけで教育していく人々にとって、言葉を任意に教えるという行為自体が、未知の行動だった。それ故に、言葉が通じないアリエッタ自体が、この場の全員にとって大きな障害となっている。

 この中で一番多く言葉を教えているミューゼですら、アリエッタの『単語』に対する反応が無ければ、あまり教える事が出来ないでいるのが現状である。


「しらないものにとっては、ただのミズということだな。まぁここにはシーカーいがいはこないから、そのてんはアンシンだが」


 すっかり目が覚め、ニコニコと笑顔を向けてくるアリエッタ。その世話をミューゼに任せ、3人は辺りを見回した。


「光が出現したのは森の奥の方……もしかしたらと考えていましたが、何事もないようですね。泉も普段と全く変わりませんし」

「キがもえたりもしてないな。ココではなかったのか?」

「後はアリエッタの家しかないのよ。他は何か異変があっても、比べようがないのよ」

「ふーむ……」


 一同はサッパリしたアリエッタを連れて、泉のさらに奥へと向かう。そこには前日ミューゼが蔓を巻いた木があった。


(やっぱりあの家に向かうんだ……)

「ん?」

「どうした?」

「いえ、やけにアリエッタがくっついてくるなーと思いまして」


 会話を聴いていても理解出来ないアリエッタ。住んでいた家に帰されるのではないかと、不安でいっぱいなのである。


「もしかして、へんなケハイとかかんじているのではないか?」

「森の中ですし、警戒しておくに越した事はないでしょう。お二人とも、案内をお願いします」

「ここを抜けて割とすぐなのよ」

「むぅ……アリエッタがはなしてくれん……」


 移動が始まっても、ミューゼとピアーニャの手を離さないアリエッタ。家が近づく程、握る力が少しだけ強くなっていく。


「一体どうしたのかしら……」

「ちょっとテアセがにじんでるのだが」


 悲しい事に、理由は誰にも分からない。

 そうこう考えているうちに、アリエッタの家が見えてきた。


「何も変わっていないのよ」


 パフィの言う通り、アリエッタを連れて出た時と、一切変わっていない。地面の落書きも、家の前に実っている野菜も、そしてキノコの家も。

 全員が気配を探ってみるが、辺りには獣の気配すら無かった。


「不思議ですね。まるでこの辺りだけ違う空間のような……この森は沢山の危険生物がいるはずなのに、ここにはその足跡すらないとは」


 全員が知る由もないが、女神エルツァーレマイアによるものである。アリエッタの住むこの家が、危険な獣に襲われないようにと、害意を持つ者が近づきたいと思わなくなるという、結界という名の威圧力を家に宿していたのだ。

 アリエッタが100日以上も、何事も無く暮らせていたのには、こういう理由があったのだった。


「さて、中に入るのよ。アリエッタ、お邪魔するのよ」

「ん……」


 パフィはアリエッタの頭を撫で、家の中へと入って行った。


「しかし、かわいらしいイエだな……わちにはゼッタイにあわんな」

「え?」

「ん?」


 お互い不思議そうに頭を傾げるミューゼとピアーニャ。そしてそんなミューゼを不思議そうに見上げるアリエッタ。

 少しの間、そのままのんびりとした時が流れた。


「ミューゼ、何してるのよ。早く入ってくるのよ」

「あ、ごめんごめん。行くよアリエッタ」


 こうして数日ぶりに、アリエッタは住んでいた家に戻ってきたのだった。




(この後の事は分からないけど、今は家にいる訳だし、僕がしっかりもてなさないと!)


 ミューゼに膝の上で撫でられながら、アリエッタは決心した。その視線の先には、先程手に入れていた肉を受け取っているパフィがいる。


「ぱひー」

「ん? どうしたのよ?」

(前は怪我して動けなかったけど、今回は僕が頑張るぞ! そしてミューゼの家で役に立てる事を、証明するんだ!)


 アリエッタは闘志に満ち溢れていた。

 自分に価値があると分かれば、ここには置いていかれない筈だと考え、パフィの料理を手伝いに、先に外に出た。玄関前の野菜を採りに行ったのである。


(何をするのか分からないなら、開き直って別々に料理を作ればいいんだ。よーしやってやるぞー)

「アリエッタ? 何してるのよ?」


 パフィが声をかけると、笑顔で応えて家の中にある食器入れからナイフを取り出した。そしてそのまま外にある台で野菜を切り始めた。


「お、おい。こどもがナイフをつかうのはあぶなくないか? とめなくていいのか?」

「力ずくで止めるのは危ないのよ。それに、私達と出会う前は、1人でああやって暮らしていた筈なのよ」


 とか言いつつも、ハラハラしながら見ているパフィ。しかしそんな心配とは裏腹に、手慣れたナイフ捌きで野菜を切っていく。


「…………あいつ、わちよりうまくないか?」

「うーん……まさかここまで慣れてるとは思わなかったのよ」


 ピアーニャの腕前はともかくとして、料理上手なパフィが危機感を覚える程の手際の良さである。少なくともミューゼより上という評価になっていた。

 パフィは試しに、手に持っている肉を大きく切り分け、調味料と一緒にアリエッタの台に置いてみた。すると、不思議そうにその2つとパフィを見比べた後、肉を切り始め、調味料を確かめながら下ごしらえをしていった。


「す、すごいのよ……完璧なのよ」


 下ごしらえを終えたアリエッタは、近くにある薪を1本持ち、他の薪をそれで軽くコンと叩く。すると、一発で火が点き、簡単に焚火となった。


『へ?』


 突然の出来事に、口をあんぐり開けるパフィとピアーニャ。


「な、なんだいまのは!? なにをした!?」

「アリエッタそれなにっ!?」


 一瞬名前を呼ばれて振り向くも、やる気満々のアリエッタは笑顔で答えて料理に戻る。そのままパフィが持ってきていたフライパンを使い、焚火を挟んだ石の上に置いて、切った食材を炒めていく。辺りに香ばしい匂いが広がった。


(フライパンなんて久しぶりだけど、前はいつもやってたからね。この程度なら余裕余裕)


 出来上がる頃には、いち早く我に返ったパフィが器を持ってきた。盛り付ける時は、アリエッタの力が足りなくて危なっかしかったが、すぐにパフィがフライパンを受け取って、アリエッタが丁寧に器に入れていくという、微笑ましい共同作業になっていた。


「偉いのよアリエッタ。あとは任せるのよ。総長、アリエッタを頼むのよ」

「お、おう……」


 アリエッタは料理を持って家の中に、そしてパフィはその料理が冷めないうちにと、ササッと肉を切り、全員分のステーキを焼いていった。


「お待たせなのよ。ステーキを配るのよ」

「ありがとうございます」

「これアリエッタが作ったって本当? あたしより美味しく出来てるんだけど……」

「ふっ……わちなんか、つくってるのをみててアゴはずれそうになったぞ」


 美味しさよりも、自分のふがいなさが顔に出てしまうミューゼとピアーニャ。そんな2人を見て不安になる者もいる。


(あれ、口に合わなかったかな? もしかしてちょっと塩効き過ぎた?)

「……みゅーぜ?」

「あ、ゴメンゴメン! おいしいよ!」


 慌てて笑顔になるミューゼ。


「今の絶対『美味しくなかった?』って思われたのよ」

「うっ……美味しいから悲しくなった……なんてのはこの子には分からないわよね」


 そんな事、言葉じゃないと説明しようがない……アリエッタ以外の誰もがそう思った。

 そのアリエッタは、パフィにステーキを小さく切ってもらいながら、ピアーニャに炒め物を食べさせてあげている。当然ピアーニャは、別の意味で悲しくなっていた。

 急ごしらえだったが、全員満足した後は、ロンデルが食器を洗いに家の裏の湧き水の方へ行き、他4人は家の前で話をしながら過ごす事にした。


「しかしそのタキギはなんなのだ? アリエッタがカンタンにひをつけていたが……」

「おかしいのよ。火が消えても燃えカスが無いのよ。もしかして……」


 パフィがアリエッタの真似をして、薪を軽く打ち付けた。そして簡単に火が点き驚く。

 この薪も、女神が用意した生活道具。以前2人が気づかなかった物である。


「これ、持って帰っていいのかな? アリエッタが持ち主だし、一緒ならいいよね?」

「う、うむ……わちもほしい……」


 その持ち主は、満腹になったお陰でミューゼの腕の中でお昼寝中。


「総長は大人なんですから、子供から物を取るのはどうかと思いますよ」

「……なんかムカツクな」


 他人によって、幼女と大人を都合よく使い分けられてしまう、シーカー最強の総長ピアーニャであった。

 この後も、『謎の野菜』やアリエッタについて様々な憶測を話していると、アリエッタが目を覚まし、自分が座っている場所を知ってちょっと慌てたりと、危険な森とは思えない穏やかな時が流れて行った。


「副総長が暗くなるまで辺りの調査をしているのよ。だから今夜はここで一泊するのよ。私は晩ごはんを獲りに、泉周辺で狩りをしてくるのよ」

「じゃあわちもいくか」


 ピアーニャが立ち上がると、アリエッタが不安な顔になった。


「ぴあーにゃ……」

「なん………うっ……」

「あらら、ピアーニャちゃんはお留守番決定ね。パフィ気をつけてね。あたしも動けたら行くから」

「任せるのよ。アリエッタの事は頼むのよ」


 今度はパフィの後ろ姿を見ているのを、理由は察せずとも不安なのだと思ったミューゼは、杖から紙を取り出し、横に置いておいた荷物から板と炭筆を取り出した。

 それを手渡されたアリエッタは、ミューゼの目を見つめている。


「大丈夫、どこにも行かないからね」


 笑顔でそう言うと、アリエッタは絶対に離れないと言わんばかりに、ミューゼに寄りかかって、炭筆を握った。


「む? いってるコトがわかったのか?」

(『だいじょうぶ』……怪我してないのに『だいじょうぶ』? もしかして怪我の時以外にも使うのか? ……とりあえず……こうやってミューゼから離れないようにすれば、置いて行かれないハズ!)


 分かっていなかった。

 置いて行かれるよりも、描きかけの絵を見られる事を選んだだけである。


「ミューゼオラ……シリアスぶってるとおもったら、なんだそのトンデモなくだらしないカオは」

「え? えへへ……甘えてくるアリエッタが可愛くてつい♡」


 こうして再び、危険な森の中での、非常にまったりとした時間が始まったのだった。

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