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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
何も知らない転生少女
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守る為の力を求めて

「はぁ……つかれた……」


 わざと高級なレストランを選び、自分達以外がいたら不審者として捕らえられる環境を、パフィとミューゼにバレないように、お詫びと称してセッティング。そこで仲間アピールしながら、アリエッタについての話をする。

 そのスケジュール自体は上手く事を運んだのだが、まさか当のアリエッタ本人に、離してもらえない程まで好かれるとは思いもしなかったピアーニャ。

 しかも得られた情報は、本当に少ない。そもそも出会ってまだ数日で、本人とは話がほとんど出来ない為、森で観てきた情報しか無かったのだ。

 巨大な生物を倒した力の事など、パフィ達どころか、アリエッタですら初めて知ったのだから、無理もない。


「まさかここまで情報が存在しないとは、アリエッタさんは何者なのでしょうね」

「アクイがまったくないのはハッキリしたがな。またあわねばならないのか……ツライ」

「ご苦労様です。総長のお陰で、友好的な関係になれましたよ。次回もお願いします」

「おまえ、わちをイケニエかなんかだと、おもってないか?」


 アリエッタ本人から情報を聞き出す事が出来ない以上、言葉を覚えるまでは、注意深く見守る事が主な調査方法となる。

 その為には、ピアーニャも頻繁に会いに行くべきだとは分かってはいる…が、子供扱いされる事が確定している場所に行くのが、ピアーニャには何よりも辛かった。


「わち、コドモにみられるのが、いちばんキライなんだぞ? あったらぜったいコドモあつかいなんだぞ?」

「諦めてください。悪気も言葉も無い、ピアーニャちゃんの事が大好きな可愛いお姉ちゃんですよ。大人なら我慢してください」

「なんかムカつくな、おまえっ」


 皮肉に対して本気で苛つくピアーニャ。

 何故ここまで疲れているのかというと、レストランに向かうまでは、組合員達や町の人達からの好奇の視線に晒され、いざ食事となったら、アリエッタが椅子を寄せてまで世話を焼きたがり、落ち着いて食事も会話もできなかった。

 そういう訳で、実際にパフィ達と会話していたのは、ロンデルとリリの2人だけ。

 幼女1人の尊い犠牲によって、4人はしっかり親交を深めていたのだ。


「総長はアリエッタさんとの親交を深めておいて下さい。もしかしたら総長を守る為に、また力を使うかもしれませんよ」

「うっ……たしかにイチリある……」


 しかしそれは、子供扱いが嫌いなピアーニャにとって、屈辱でしかない。

 明日には言葉を全部覚えて、色々と教えてくれないだろうかと、あり得ない期待を抱きたくなるピアーニャであった。


「総長! 緊急報告だ!」


 ドアの向こうから野太い声が聞こえてくる。


「バルドル組合長ですね。どうしました?」


 入ってきたバルドルは、ソファで寛ぐピアーニャの前に立ち、一言だけの報告をした。


「例の森の光が消えた」

「なんですって!?」

「ふむ……」


 だらけていた部屋に、緊張が走った。




 少し時間は遡り、その日の朝。


『それじゃあ今日のところは帰りますね。元気でね、アリエッタ。ちゃんと手を洗うのよ? みゅーぜ達から離れちゃ駄目よ?』

『分かってるから! 本当に親みたいになってるよ!』

『私が産み出したんですもの。れっきとした親子よ』

『確かにそうだけどさ……』


 ここはアリエッタの精神世界。

 実はエルツァーレマイアはまだ残っていて、アリエッタの中に潜んでいた。

 1日だけ生活を見守っていたのだ。


『あと、ぴあーにゃちゃんと仲良くするのよ?』

『もちろん!』


 2人共言葉が分からない為、ピアーニャは年下の幼児という共通認識である。


『他に何か言っておく事は、えっと……』

『大丈夫だから! ちゃんと生きていけるから!』

『そう? それと……今度会ったら、ママって呼んでくれたら、嬉しいな』


 流石に成人男性の意識が抜けきっていないアリエッタが、自分と同じ姿をした神様を『ママ』と呼ぶのには抵抗があり、一瞬躊躇う。

 同調しているエルツァーレマイアは、すぐにそれを察し、少し離れてから目を閉じた。次の瞬間、体が光り、大きくなっていく。


『わぁ……』


 そこには少女ではなく、美しい大人の女性が立っていた。

 長い銀髪、美しい顔立ち、出るところが出た魅惑の体。少女となったアリエッタにとっても、かなり魅力的に感じる姿だった。


『ふふ、貴女も私と同じようなものですから、これくらい成長しますよ』

『おぉ~……僕がそんなダイナマイトボディに……』


 自分が魅惑の女性になることに違和感を感じつつも、ちょっと嬉しいアリエッタ。あと数年もすれば、精神面も完全に女性化するかもしれない。

 アリエッタは自身のプニプニペタペタな体を確かめる。そんな姿を愛しそうに見つめるエルツァーレマイア。


(この子が大人になるまで、数千年(すうねん)程度。子供の成長って早いから楽しみだわ)


 相変わらず時間間隔のズレは絶望的なまでに大きかった。


『それじゃ、私は帰ります。しばらくしたらまた来ますから、貴女の思うように生きるのですよ』

『はいっ、色々ありがとうございます』


 エルツァーレマイアは、微笑みながら消えて行った。

 その後エルツァーレマイアは、グラウレスタのアリエッタが住んでいた家に突如現れ、家の横にある光の柱へと入って行く。

 そして……光は消えた。


 女神エルツァーレマイアは知らなかった。自分が次元を行き来する為に使っている光のゲートが原因で、アリエッタのいる町は大騒ぎになっているという事を。

 ピアーニャは知らなかった。女神の通り道でしかない光の柱と、今回襲ってきた赤い生物とは、なんの因果関係も無かったという事を。

 そしてアリエッタは知らなかった……何も。




「よし、わちらはパフィたちにキョウリョクしてもらい、モリのチョウサにむかう! そのため、マリョクのイズミまでの、センコウチョウサとアンゼンカクホをたのみたい」


 ミューゼ達シーカーは、光が生物を狂暴化させたのではないかという仮説を立て、調査へと向かう事にした。

 まだグラウレスタについては知っている事が少ない為、これを機にリージョンの調査を進めようという魂胆もある。


「了解! ではパフィ、ミューゼオラを除いた数人のチームを作り、調査に向かわせよう」


 バルドルはすぐにメンバーを集め、グラウレスタへと向かわせた。


「ホンブからは、モリいがいのチョウサをさせるぞ。いや、ぜんシーカーにセイタイチョウサをイライするぞ。イノチがけだから、キョウセイはできんがな」

「生態調査ですか。危険ですが、シーカー本来の仕事です。気合の入る者達も多いでしょうね」


 シーカーは未踏の地を見たいという者達の集まりでもある。命に関わる事も多々あるが、他のリージョンへの興味の方が勝っている者の方が多かった。


「…………アリエッタをつれていくのか……はぁ……」


 一緒に行動する事を思うと、ピアーニャは一気に気が重くなった。




 一方、知らないうちにピアーニャの天敵になっていたアリエッタは、ミューゼに対しておねだり作戦を決行しようとしていた。


(アレさえあれば、みゅーぜにぱひー、ぴあーにゃだって守れるはず! なんとかしてミューゼにお願いしないと!)


 先日精神世界(ゆめのなか)で聴いたエルツァーレマイアの力。それを自分の力にする為に、アリエッタは動き出したのだ。


「みゅーぜ」

「あら、どうしたのアリエッタ?」


 自分の方を見たミューゼに、アリエッタは動作でやりたい事を伝える。

 髪をひと掴みし、少しだけ先を出して、指で挟んで見せた。


「ん」

「? 髪の毛? えっと……」

(伝われ…伝われ……)


 ミューゼは悩む。何かを自分に伝えようとしている事は理解しているが、今までと違って明確に何かを伝えようとしているアリエッタへの驚きの方が大きかった。


(こんな真剣なアリエッタも良いわね。っと、何を言いたいのかしら)


 何か伝えに来たポーズのままのアリエッタと見つめ合い、ちょっと嬉しいミューゼ。


「もしかしてまた髪を結ってほしいのかな。可愛かったもんねー」

(……伝わったかな?)

「おいでアリエッタ。あっちでしてあげる」


 起きてのんびり過ごしていただけのアリエッタは、今は髪を降ろしている。

 ミューゼは、それを気にしていると考えた。


(あ、あれ?)

「よーし、できたよー。うん可愛い♪」


 アリエッタの外行きスタイル、サイドテール。

 満足したミューゼは、アリエッタを撫でて、一緒にリビングに戻った。


「あぅ……」(違う、これじゃないよみゅーぜ!)


 アリエッタの最初の作戦は、見事に失敗に終わった。

 皆を守るまでの道のりは、言葉という壁に阻まれ、前途多難となっている。


(むー…次こそはっ!)


 こうして少女が力を得る為の闘いは、穏やかな日常の中で平和に始まったのだった。

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