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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
日常の過ごしかた ~あの人は今~

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219/437

逃走のしかた

 本日パフィは、1人でリージョンシーカー本部にやってきた。

 理由は父マルクのお見舞い?である。マルクは太り過ぎて悪魔に食べられそうになっていたが、救出してからはピアーニャの計らいで、今後悪魔に攫われないように、シーカー指導の下でダイエットをしているのだ。


「おっ、パフィちゃん。お父さんに会いに来たのかい?」

「なのよ。お野菜たっぷりの差し入れもあるのよ」

「いいねぇ、美人に育った愛娘からのお弁当とは。かーっ、羨ましいなぁオイ!」

「はっはっは、やらんぞ?」


 こうして空いている時に訓練場に顔を出しては、父の様子を見て、母であるサンディへと手紙を送っている。

 差し入れの弁当は、野菜多めで肉や油は少な目のヘルシーなものとなっている。物足りないとは思いつつも、娘からの弁当はやはり嬉しいようで、マルクは笑顔で食べていった。


「それにしてもパフィちゃんはオシャレだねぇ。なんだいその服は」

「これはフラウリージェの新作で……──」


 ダイエットの対象者達とシーカー達を交え、しばらく世間話に花を咲かせた後は、マルク達の午後のダイエットの時間となる。


「よーしやるか!」

「頑張るのよー。私は買い物でもして帰るのよ」

「おう気を付けてなー!」

「今度はおかずだけでもいいから、俺達にもなんかくれよー」

「考えとくのよー」


 別れの挨拶を済ませ、パフィは部屋の扉を開け、


「………………」


 動きを止めた。そして……全力で扉を蹴って閉めた!


 ドガバンッ!

『!?』


 ダイエットを始めた面々が驚き、パフィは踵を返してダッシュで扉から離れる。

 背負っていたカトラリーを手に持ち、扉の方へ振り返ろうとしたその時、扉が勢いよく開いた。


「パフィちゃん。何も言わずに閉めるなんて酷いわ」


 扉の先から姿を現したのは、優雅に佇む王妃フレア。


「うわっ!」


 同時に突風がパフィを襲い、両手からカトラリーを落としてしまう。

 フレアは空魔法が特に得意で、そよ風から突風、小規模な竜巻まで自由自在なのである。佇んだまま扉を開けたのも、風で勢いよく押したからなのだ。何故手で開けようとしないのか……。


「出たのよ変態王妃」

(王妃様!? 変態!? どういう事!?)


 パフィの呟きに、ファナリア人のシーカー達が恐れおののいた。王妃がここにいる事も、変態扱いする事も、そして警戒心に満ちた目で王妃を見る事も、訳が分からない。

 ダイエット中のラスィーテ人は、権力というものにピンとこないので平然としているが、そんな中マルクだけは、少し警戒していた。


「ほう。その人が俺の妻を狙っている変態か?」

「そうなのよ。私は完全にとばっちりなのよ」

「変態とは失礼な! 愛しているだけよ!」

「それが問題だってのよ」


 パフィの反論に、フレアはただただ笑顔を向けるだけ。パフィになら罵倒されても嬉しいらしい。

 表情をキリッと改め、マルクに対しカーテシー。どうやらマルクに用があるようだ。


「貴方がパフィちゃんの父、マルク様ね」

「……ああ、そうだが?」

「お願いがあります。奥様を寝取らせてください」

『家族相手に堂々と寝取り宣言するなぁっ!』


 とんでもないお願いに、マルクもパフィも全力で否定した。

 しかし、フレアは一歩も引かない。


「大丈夫ですから! 一晩だけ…いえ、先っぽだけですから!」

「先っぽってなんだよ!?」

「やっぱり王妃は撃退するに限るのよ! パパ下がってるのよ! 誰か総長を呼んできてほしいのよ!」


 ここはリージョンシーカー本部。この後顔を見せる予定だったピアーニャを呼ぶ為に、後ろのシーカーに声をかけた。


「いやいやその前に王妃様を撃退って何だよ!?」

「……総長に聞けば分かるのよ! 早くするのよ!」

「はひっ!!」


 勢いに負け、シーカーが入口へと走っていく。しかし、ピアーニャを恐れるフレアが、それを見逃す筈がない。


「させませんよ」

「それはこっちのセリフなのよ!」


 シーカーに向かって風の塊を撃とうとするフレア。そうはさせじと、パフィが()()()()()()()を掴み、フレアとシーカーの間に向けて投げつけた。


「おわあああああっ!?」

「なっ」

「あ」


 ()()()が勢いよく飛んでいき、ワンバウンドして放たれた風の塊の前に出る。


「ぎゃっ!!」


 狙いはバッチリ。風はマルクに直撃し、その丸い体を吹き飛ばした。


『ごはっ!?』


 吹き飛んだマルクは、そのままシーカーを巻き込んで壁に衝突。2人とも気を失った。


「ええと……」

「………………」


 気まずい沈黙が、訓練場を支配する。妨害をしようとしたフレアも、目を点にして茫然としている。

 しかしすぐに、その沈黙は全力で破られる事となる。


「よくもパパを! 許さないのよ!」

『お前のせいだあああああ!!』


 その場で立っていた全員からツッコミを食らうパフィ。誤魔化す気満々である。

 落としたカトラリーを拾い、再びフレアと対峙した。


「悪い事をしちゃったパフィちゃんには、オシオキが必要かしらね」(これはあんな事やこんな事をするチャンス!)

(まずいのよ。捕まったら変な事されるのよ。こうなったら……)


 パフィが自分より強い相手に取れる、撃退以外の行動はただ1つ。


「逃げるのよおぉっ!」

 ガシャーン

「ちょっ、割るなー!!」


 窓を割って外に飛び出した。シーカーの1人が、窓を割った事に対して抗議の声を上げているが、聞こえないパフィはそのまま走り去っていった。

 一瞬驚いたフレアだが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。


「逃がさないわよ? ふふふ」(路地裏に連れ込んでしまえば、ピアーニャ先生にもバレない。これはもう神様の思し召しね! ありがとう、アリエッタちゃんのお母様!)


 勿論エルツァーレマイアは無関係である。

 欲望に満ちた思い込みと共に、暴走を始めたフレア。優雅に高速で割れた窓に近づき、窓から…ではなく、


 ドッゴオオオォォォン

「ぎゃああああ!! 壁がっ! 壁がああああ!!」


 割れた窓を含めた壁を破壊して、パフィを追って飛び出した。

 その場に残された者達は、壊れた壁を眺めて茫然とするしかない。なんとか我に返ったシーカーが、ピアーニャに助けを求める為、急いで訓練場を出て行くのだった。




「パフィちゃああああん!!」

「げっ! もう来たのよ!?」


 リージョンシーカーの敷地を出て、大通りを走るパフィ。

 後ろから聞こえる声に振り向けば、物凄い勢いで接近してくるフレアの姿が見える。その姿は歩いているようにも見えるのに、走るよりも速いので、見ている分にはかなり怖い。


「もうあれどうなってるのよ!」


 魔法で発生させている局所的な追い風に乗っているだけなのだが、魔法に詳しくないパフィには分からない。


「【フルスタ・ディ・リーゾ】!」


 持っていたナイフを収め、餅を取り出し、操って建物の上へと伸ばす。屋根にくっついたところで、手元の方で巻き取りながら、壁を走って登り始めた。餅は伸びたら自然に縮む事は無いので、伸ばさないようにしてから壁を登る補助具にしたのだ。

 周囲の通行人がどよめく。


「あらあら。そんな事も出来るのねぇ」


 と言っているフレアは、何事も無いかのように、持ち前の魔法技術で壁を歩いて登っていく。唖然としている通行人達に手を振ってから、屋根の上へとたどり着いた。


「屋根の上だとピアーニャ先生に見つかるから、はやく追いつくとしますか」


 屋根の上を走り去るパフィの姿を見つけたフレアは、前屈みになり膝を曲げ、背中や足の裏などに魔力を集中させ……跳んだ。その衝撃で、屋根が少し壊れる。

 その家に住んでいる住人が、ビックリして屋根を見上げ、涙した。


「のあっ!?」

「やっほーパフィちゃん♡」


 かなり距離を離していた筈が、一瞬にして追い越された。

 パフィは慌てて足を止め、身を守る。


「んふふー、王妃からは逃げられないわよ~」

「うぅ……」(障害物が無いと追い付かれるのよ? だったら……)


 フォークを仕舞い、左手に小麦粉生地を持つ。右手には餅を握り締めたまま。


「今度こそっ、【フルスタ・ディ・リーゾ】!」


 近くの高い家の壁に餅を伸ばし、先程と同じく巻き取りながら壁を走る。


「あら、同じ事?」


 当然フレアが追いかける。今度は速度を調整し、追い抜かない程度で。

 しかし、追いかけられるのはパフィも想定済み。接近を察したところで振り返り、左手をフレアの方に向けて広げた。


「【ラザニア】っ!」

「ぅよっ!?」


 フレアの前方で、大きく広がる小麦粉生地。それなりの速度で突っ込んでいるフレアはそのままぶつかり、薄く柔らかい生地に包まれてしまった。


「このっ…【風の剣(ウィンドセイバー)】!」


 咄嗟に風を手先に集め、鋭い剣状にし、生地を切り裂く。

 フレアが視界を取り戻した時、パフィは走っていた壁を蹴り、道へと飛び出た。その道には魔動機が走っている。


「パフィちゃん危ない!」


 フレアが再度追いながら叫んだ時、空中でフォークを取り出す。そして真下を丁度通過しようとした魔動機の天井へと突き刺した。


「うわぎゃあああ!?」

「くううぅぅぅぅっ」


 フォークは天井を突き破り、運転手の頭をかすめていた。驚いて暴走する魔動機の上で、フォークに掴まって必死に耐えるパフィ。

 なんとか踏ん張り、横を見て……丁度通りかかった魔動機へと飛び移った。勿論フォークを刺して、安定を図る。


「ちょっ、パフィちゃん、なんてことを……」


 一方建物の壁を飛び移りながら、走って追いかけるフレア。自分からの逃走の為に巻き起こった大惨事に、どう対処しようかと考え、


「……そんな事より今はパフィちゃんだわ」


 見なかった事にした。


「こっち来るななのよおおおお!!」


 泣きながら魔動機を飛び移るパフィと、壁を魔動機と変わらない速度で歩くフレアの追いかけっこは、突如終わりを迎える事となる。


「やめんかこのドアホどもがあああああ!!」

 ガガガガガガガッ

「わああああ!?」

「かはっ……」


 パフィとフレアの場所を中心に降り注ぐ白い槍状の物。

 パフィをのせた魔動機は串刺しになって動きを止め、パフィは刺したフォークにしがみついて、なんとか耐えている。

 フレアは歩いている所に突き立った障害物を回避しきれず、思いっきりぶつかって苦悶の表情を浮かべている。


「こ、これって、総長!?」


 周囲に大量に突き立っている白い物は、ピアーニャの『雲塊(シルキークレイ)』だった。

 上を見上げると、物凄く不機嫌な顔をしたピアーニャが、腕を組んで雲の上に立っている。


「ピアーニャ…せんせいっ!? 何故ここに!」

「ナゼここに?じゃないわっ! ハデにあばれて、きづかないワケがないだろう!」


 パフィは周りをキョロキョロと見渡し、コテンと首を傾げた。


「この辺がボロボロなのは、総長のせいなのよ?」

「うるさいな! オマエらがボウソウするからだっ!」


 実際『雲塊(シルキークレイ)』による被害が一番大きかったりする。

 怒ったピアーニャによって、このままパフィとフレアは問答無用で捕まり、リージョンシーカーに戻ってきっちり説教を受けるのだった。

 なお、暴れた場所や魔動機の弁償は、フレアの資産から出す事になったという。

もっとこう、最初は半壊とかさせようかと(こらこら

母娘揃って懲りないですねぇ。

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[一言] 運転手さん、危うく死ぬところでした。九死に一生!
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