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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
日常の過ごしかた ~あの人は今~

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勉強のしかた

 アリエッタは悩んでいた。


(勉強したい! けど、「教えて」ってどう言えばいいんだ?)


 言葉を教えてもらおうにも、教えてもらう為の言葉を知らないという、なんとも言えない状況である。


(思い出せアリエッタ。昔幼稚園や小学校ではどうやって文字を習った? 英語とかはどんな授業だった?)


 前世での勉強の仕方を思い出しながら、効率の良い学習の仕方を考えている。本来ならば、子供は幼い間に大人の会話を聞き、数年かけてその『話し方』を吸収し、覚えた言葉で会話をして学んでいく。

 しかし、アリエッタは最初から以前の言葉を覚えており、ファナリアでの言葉を新たに学習しようとしている立場なのだ。


(昔の人とか、教科書とか無いのによく外国語覚えたよなぁ……どうやったんだろう?)


 考えれば考える程、疑問ばかりが浮かんでくる。

 このまま考えるだけでは埒が明かないと、アリエッタはミューゼの本を1冊取り出し、開いてみた。


「おぉ……」(文字しかない……挿絵とかあれば分かりやすかったかもしれないのに)


 まだこちらの世界で絵の文化が育っていない事をハッキリ理解していないので、どれだけ捲っても挿絵や写真が無い事に驚いている。


(んー、絵本とか漫画とかあればよかったなぁ)


 本に絵をつけるにしても、書いてある内容が分からないのでは描きようが無い。何か良い方法が無いかと、しばらく本を睨みつけ続けるのだった。

 そして、そんな様子をニコニコしながら見守る保護者2人。


「真剣なアリエッタも可愛いなぁ」

「はぁはぁ……」


 片方はヨダレまで垂らしかけ、挙動はもう変態のそれである。


「文字ってどうやって覚えたっけ?」

「普通は親に教えてもらうのよ」

「ああそっか。本とか膝の上で読んでもらったなぁ」

「退屈で逃げる子がほとんどだから、結構大変らしいのよ」

「だよねぇ」


 子供にとって、文字の羅列はつまらないものである。それでも少しずつ読み聞かせる事で、仕事をする頃には文字を読む程度の知識がつく…という大雑把な教育環境だった。子供にとって学びやすい環境があるわけではないのだ。


「きっとアリエッタは文字も覚えたいのよ。これまでも物の名前を覚えて喜んでたのよ」

「それは見ていれば分かるけど。同じ教え方は…時間かかるよねぇ」


 興味の対象がはっきりし、絵を描くという明確な行動を既に持っているアリエッタには、物心つく前からの数年と同じような吸収による学習は期待しない方が良い事もある。

 何も思いつかないので、とりあえずまったりしていたら、アリエッタが動きだした。


「ん?」

「紙を切るのよ?」


 実は小型ナイフをおねだりしていたアリエッタ。包丁の使い方が上手いというパフィからのお墨付きがあったので、紙を切るアピールをしたら、まな板と一緒に買ってもらえたのだ。一応使う時には、保護者の監視はつく。


「切るなら専用のまな板の上でってのもすぐ理解したし、教える方法さえあればすぐに文字を覚えそうだよねー」

「そうなのよ。つまり教える私達の方が問題なのよ」

「そうねー、あはは……」


 微妙な気持ちになりながら見守っていると、大人の掌に乗る程度の四角形の紙を、沢山作っていった。


(紐ってあったかな? みゅーぜに言ったら出してくれるかな?)

「ん? どうしたの?」

「みゅーぜ、つる……」(細いのが欲しいんだけど、細いってどう言うんだ?)

「えっと、こんな感じかな?」


 杖から蔓を伸ばすが、腕程の太さがある。

 伝え方が分からず慌てるアリエッタは、その蔓を掴んで首を振り、これだけど違うというアピールをする。


「あう…あう……」(もっとこう、糸をまとめたくらいのなんだけど……)

「え、もっと細いのかな? どれくらいなんだろ?」

「必死で可愛いのよぉ♡ ミューゼ、いろんな太さで出してあげたらいいのよ?」

「あ、そっか」


 続いてミューゼは、先程の蔓の半分程の太さになった蔓と、それより段階的に補足した蔓を2本、さらに紐程に細く頑丈にした蔓…ではなく蔦を違う太さで伸ばしてみた。


「みゅーぜ! ありがと! ありがと!」(やっぱりみゅーぜ凄い! こんなに硬いのに曲げやすい蔓出せるんだ!)


 アリエッタが選んだのは、一番細い蔦。持っているナイフを見て、細い紐が欲しかった事を察したミューゼは、ナイフを受け取ってアリエッタの代わりに切断した。


「私もそんな風におねだりされたいのよー」

「ふふふ、いいでしょー。でも何に使うのかな?」


 続いて貰った蔦の先端をナイフで少し尖らせ、紙の隅の部分に差し込んでいく。それを何枚も繰り返し、紙の束を固定した。


(これで50枚っと。画用紙みたいな紙で助かった。これなら破れにくいし)


 最後に蔦を結び、輪にしたら完成である。

 アリエッタが作ったのは、前世で単語を覚える為に使ったカードだった。しかしそれよりもかなり大きい。というのも、今回はお試しであり、単語のためのカードではないのだ。


「えっ、あの、もしかして『本』作っちゃったのよ?」

「簡単だけど、『本』と同じものだよね……」

(お次は本から…このページの文字でいいかな)


 茫然と見守る保護者に気付かず、アリエッタは綴った紙の1枚に、炭筆で大きく文字を書いた。それを本に載っている最初の5文字分続ける。1枚に1文字を使用して。

 続いて、それを持ってミューゼに質問した。


「これなーに?」

「それは……」

「もうたまらんのよ! この子天才なのよおおお!!」

「へあっ!?」


 感極まったパフィが限界を超えてしまい、アリエッタを抱きしめた。

 アリエッタは、他の文字が並んでいると文字を1つずつ教えてもらうのが難しいと考え、本当に1文字しか書かれていない紙を作りたかったのだ。

 その考えは2人も理解し、同時に驚愕した。リージョンが違っても共通の言葉を使うのが常識となっていた為、生まれる必要が無かった学習方法である。

 ミューゼは平静を装いながら、血走った目で観察記録(いくじにっき)を書いていった。


「これはまた総長が驚くだろうなぁ」


 やりたい事を知ったミューゼは、アリエッタが作ったノートに全ての文字を書く事にした。


「アリエッタ、これ書くの、あたし、まかせて!」


 単語に区切りながら伝え、最後の『まかせて』の時に胸を叩いて強調。それが功を奏し、アリエッタに意味が伝わった。


 アリエッタは『まかせて』を覚えた。


 紙に大きく文字を書きながら、ミューゼはふと気づく。


「これって、文字を並べて名前を覚える練習にもなるんじゃない?」

「確かになのよ。アリエッタに自分の名前を教える事が出来るのよ」


 アリエッタが最終的にやりたい使い方を、2人はいち早く察知。すぐにパフィが同じように紙を切り始める。今度は使いやすいように大きさを調整し、綺麗に作れるように蔦ではなく針と紐を使用した。

 こうしてアリエッタが欲した教材は、保護者の手によって形を成していった。




「あたしのアリエッタは天才でした」

「えっと、うん。それは最初から分かってるけど、結局どういう事?」


 後日、いきなり家にやってきたネフテリアに、何の説明もせずに天才だと言い放った。当然意味が通じない。

 ネフテリアの訪問に最初は嫌な顔をしたミューゼだったが、来てしまったものは仕方がないと、リビングに招き、最近のアリエッタについて語る事にした。


「まずはお披露目からです。パフィ、お願い」


 パフィを呼ぶと、緊張した面持ちのアリエッタを連れてやってきた。


「ほら、挨拶なのよ」

「はいっ。テリア、コニーチワ。わたし、アリエッタ」


 カタコトだが、挨拶と自己紹介である。一人称の単語も覚えていた。


「えっ、あっ、はい。アリエッタちゃん、こんにちは……えっ、いきなりここまで覚えたの!?」

「凄いのよ? まだ途切れながらしか喋れないけど、少しだけ会話出来るようになったのよ」


 わしゃわしゃとアリエッタを撫で…るだけでは終わらず、頬ずりと抱擁まですると、アリエッタは赤くなり、笑顔のまま俯いてしまう。それがより一層パフィの欲情を掻き立てる。

 滅茶苦茶にされてるアリエッタを他所に、どうやったら言葉を教える事が出来たのか、ミューゼに問うネフテリア。


「実は、これなんですよ」


 取り出したのは、改めて綺麗に作り直した文字のカード束と、絵と単語が書かれたカード束。

 文字の方はミューゼが文字数を合わせ、蔦から紐にして使いやすくした物である。

 もう1つの方は、最初は単語だけを書いていたが、その単語の意味を理解したアリエッタが、隣に小さく絵を描いたのだ。物の名詞はもちろん、いくつか動詞とその絵まで描かれている。


「なにこれ凄い……分かりやすい」


 数はまだ少ないが、立派な辞書である。今まで本に絵を載せるという文化が無かった事もあり、その意味の伝わりやすさに震えながら驚愕するネフテリア。


「これアリエッタちゃんが考えたの?」

「整えたのはあたし達ですけど、天才でしょ?」


 返事は言葉にならず、コクリと頷くだけとなった。ミューゼはその動揺を理解し、クスリと笑う。

 しかしその内心の動揺っぷりは、ミューゼが考えている以上のものだった。


(どうしようどうしよう! これ有用過ぎてヤバイ! 今までは元々広まってない技術の上位互換だったり、服のデザインっていう裏方とかだったから、アリエッタちゃんの存在は隠せていたけど、こんな一般でも使えるような国の発展に繋がる発明は、場合によっては隠し切れないよ!?)


 今回作ったのは、本モドキに文字と絵を描いただけの、誰にでも使え、誰でも手に入れる事が出来るような、一般向けの教材。それを知ってしまったからには、国のトップ(おうじょ)として利用しない手は無い。しかし、それだけ現物が広まれば、情報収集という形でアリエッタの存在にたどり着く国家機関や組織もあるかもしれない。

 救いはアリエッタの能力は関係無いというところか。


「これ、ちっちゃい子の勉強にも使えると思いません?」

(それが問題だって言いたいのよ!)


 能力の事を隠せば良く、アリエッタが女神である事も知らず、国レベルの組織に関しては想像も出来ないミューゼは、こういう便利なものだったら…と、広める気満々である。

 一方、アリエッタの正体を言えず、ミューゼ達を国家や裏組織の問題に関わらせたくないネフテリアは、内心絶叫して頭を抱えるのだった。

区切りが良かったので唐突に新章です。

前章ではあちこちで暴れたので、日常をメインにしてみましょう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 辞書を作った、ではなく〝辞書という概念〟を作った!
[良い点] ついにアリエッタちゃんとお話出来るように!
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