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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
世界の夢幻と色彩の少女達
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嫌がらせを王族へ

『ずびばぜんでじだっ!』


 城のホールの中心で、正座をしながら泣いて謝る王女と王妃。

 その正面に立つのは、ゴゴゴゴという音が聞こえそうな程、物凄い剣幕で2人を睨みつけるピアーニャとミューゼ、そしてオスルェンシスの姿がある。事情を最初から全て把握しているオスルェンシスが前に立ち、王族2人に懇懇と説教していた。

 横から見ているラッチには、謎の黒いオーラが溢れているように見えていた。


(怖い……さすがフェリスクベル様……)


 さらにその横では、パフィがアリエッタを抱きしめている。


「うふふ、今日はずっと甘えていいのよ~」

(僕は人形、僕は人形、僕は人形……)


 頑張って無表情を貫こうとしているアリエッタは、胴体をがっしりと抱えられ、宙ぶらりん状態になっている。その頭部はパフィの胸の中に納まっている。もちろん動く事など出来はしない。おかしな感情こそ沸いてこないが、前世の記憶の影響による申し訳ないという気持ちが、アリエッタをガチガチに固めていた。

 フレアのセクハラから守ってもらえたパフィは、上機嫌でアリエッタを甘やかしているだけで、一切悪気は無い。

 そしてその姿をチラ見し続ける、フレアと兵士達の熱き想いはただ1つ。


(アリエッタちゃん、そこ変わって!)

 ゴチン

「いだぁっ!!」


 拳の形をしたピアーニャの『雲塊(シルキークレイ)』が、王妃の頭に落とされた。


「話を聞いてましたか? フレア様」

「はい……」


 従者であるオスルェンシスが、王妃を見下して怒っている。そんな異様な風景に兵士達はおののいているが、メイド達は気にした様子も無くテキパキと掃除を進めている。いつも通りの慣れた光景のようだ。


「ミューゼさんもパフィさんも、怒ってるんですよ?」

「はい……」


 空き巣に入られた被害者なので当然である。返すつもりだったとはいえ、アリエッタの絵まで無断で持ち出してしまったので、立場的にも色々よろしくない。

 本人達が親しい関係なので、王城に殴り込むだけで済ませているのだが、それはそれで異常である。


「フレア様、全然反省なさってませんよね?」

「はい……」

「って正直に言うなああああ!!」

「こいつ、パフィにであってから、イキナリかわったな……」

「愛は人を狂わせるんですよ、先生」

「くるいかたがオカシイわ!」


 停止状態を解除後、ボロボロにされたあげく、泣く程説教されたが、反省の色は全く無い。もうすっかり開き直った様子。少し前まではこんなヤツではなかったのにと、逆にピアーニャが凹んでいた。

 いつまでもここで説教していても仕方がないと、一旦絵が置いてあるネフテリアの部屋へと向かう一同。移動中のアリエッタは、なぜかパフィにお姫様抱っこされていたりする。お腹に柔らかいモノが乗っているせいで、真っ赤になって固まっていた。


「大人しくなっちゃって可愛いのよ~。トイレ行きたくなったら言うのよー? 全部世話してあげるのよー」

(とととといれっ!? ここここのままっ!?)


 上機嫌なパフィの腕の中で、アリエッタはまたしてもピンチを迎えていたのだった。




「うぅ……ごめんねアリエッタちゃん。絵を返すね……」


 姿勢の低さに王族としての威厳のカケラも感じない。そんなネフテリアが、悲しそうにアリエッタに絵を差し出した。


「てりあ?」


 しょんぼりとしたネフテリアを見て、ようやくパフィから解放されたアリエッタが、首を傾げている。話の流れが分からないので当然ではあるが。


(あれ? これって雲の上のホテル?で描いたやつだ)


 雲の上のホテルとは、ピアーニャの実家の事である。大きい屋敷だったので宿みたいなものだと考え、ピアーニャの家や両親などとは夢にも思っていない状態のままなのだ。


(また行きたいなー。てりあはコレ欲しかったのかな? まぁ箱の中に溜まっていくよりは使われた方が良いかもだけど、そっか欲しいのかー……)


 アリエッタにとって、絵は思い出にはなるが、過去の作品を何度も自分で眺める事はあまり無い。照れくさいというのもあるが、また描けば良いという考えでもあるのだ。

 なので、もしミューゼが絵を飾りたかったり、売りたいと思っていたら、喜んでその通りにするつもりだった。しかし、まだそういう場面になっていなかったので、ミューゼの役には立っていない…と思っている。

 だがここで、ついに絵を欲しがっている様に見える人が現れた。しかもよく知る人物なので、安心して渡す事が出来る。


「てりあ……」(えーっとえーっと、あげるってなんて言えばいいんだ?)

「ど、どうしたの?」(もしかしてアリエッタちゃんにも怒られるんじゃ……)


 アリエッタは絵を譲りたい。そしてちゃんとした譲り方を覚えたい。

 とりあえずミューゼを見て、絵をネフテリアに向けて差し出す動作をしてみた。困った時のミューゼ頼みである。


「え…てりあ……」(どうすればいいのー)

「……んっ? まさかアリエッタ、テリア様に絵をあげたいの?」

「そうみたいなのよ」

『えっ!?』


 考えてジェスチャーしているという事も要因ではあるが、アリエッタの世話に慣れているお陰で、ミューゼとパフィはアリエッタのやりたい事ならすぐに分かるようになっていた。


「えっと、流石にタダで貰うわけには……」


 絵の文化が無い世の中で、アリエッタの絵は感情を揺さぶる程の、2つと無い品である。いくら親しい仲になったとはいえ、子供からそんな物を平気で貰えるようなネフテリアではない。

 しかし、本人に交渉は不可能。

 今度は困った顔のままミューゼを見た。


「こっち見ないでください」

「ひどっ!?」


 まだミューゼの機嫌は直っていないので、対応が冷たかった。

 打ちのめされるネフテリアを放っておいて、アリエッタの傍に寄ったミューゼは、絵を持っているアリエッタの手を取り、微笑みかける。


「アリエッタ」

「……みゅーぜ?」


 アリエッタは意中の相手から笑顔を向けられ、ドキッとした。

 そんな様子に気付いていたミューゼだったが、悶えそうになる気持ちを押さえ、アリエッタの向きをネフテリアの方向へ変えた。

 そしてゆっくりと言葉を発する。


「ど・う・ぞ」

「………………」(へっ?)

「ど・う・ぞ」

「!」(なるほどっ!)


 ミューゼとパフィは、行動をもって言葉を教える方法を習得していた。まだ実りは少ないが、アリエッタの行動パターンを増やす事に成功していたのである。

 アリエッタは喜んで、ネフテリアに向き直った。


「どーうーぞ」

「……え、ええっ……その……」


 絵を差し出すと、今度はネフテリアが困惑する。やはりタダで貰うのは気が引けるようだ。


「……どーぞ」(ま、間違えた?)


 ネフテリアが受け取らない事で、アリエッタがいきなり自信を無くし、落ち込み始める。


「テリア? 早く受け取らないと、アリエッタが泣くのよ」

「でっでもっ!」

「泣かしたら許さないのよ」

「ひぃっ!」


 ネフテリアはアリエッタが泣きやすい事を知っている。そして泣かしたら保護者が怖い事も知っている。

 それでも一瞬タダで受け取る事を躊躇ったが、慌ててアリエッタから絵を受け取った。


「ありガトうっ!」


 声が裏返ったのは、良心の呵責か、それとも恐怖のせいか。とりあえずお礼と共にアリエッタの頭を撫でて、無事に生き残る事が出来たのだった。


 アリエッタは「どうぞ」を覚えた。


「あの、本当にいいの?」

「アリエッタが良いって言ってるなら良いのよ」

「それアリエッタの作った物だし」

「う、うん」

「それに……」


 ここでミューゼが口の端を吊り上げ、ネフテリアを指差した。


「そんなとんでもない品をちっちゃい子から盗んだうえに貰ってしまって、ロクにお礼も謝罪も分かってもらえない現実に苦しむといいんですよ」

「嫌がらせの方向性おかしくない!?」


 今のミューゼにとって、ネフテリアが困るなら何でもいいのである。そしてそれは本当に効果覿面だった。

 後ろでは、フレアが同じ事をされるのではないかと思っており、困った顔になっている。実際、ピアーニャとオスルェンシスが、同じ事をするようにパフィに頼むつもりなので、絶対に逃げられない。

 そんな中、ラッチだけがキラキラした目でミューゼを見ていた。


「か、かっこいい……フェリスクベル様、まさに我が主にふさわしいお方リムな」


 ミューゼは聞こえなかった事にした。

 この後、本当にフレアの部屋でも同じ事をアリエッタにやってもらい、フレアの良心に地味過ぎる継続ダメージを与えたところで、王城に来たもう1つの目的を、応接室で果たす事にした。


「失礼します……ラッチ、久しぶり」

「お母さん!」


 フレアに呼ばれ、パルミラが応接室にやってきた。

 思わず立ち上がったラッチが、嬉しそうにパルミラへと駆け寄っていく。


「本当に親子なのね……」


 傍から見れば、赤く半透明な歳の近い姉妹が、仲良く再会しているシーンにしか見えない。事実、アリエッタはそう確信してしまっている。


「えへへ、ありがとうございます。わたしも久しぶりに分裂体(むすめ)に会えて嬉しいですっ」

「知ってたけど、実際に親子揃って見るのは初めてで驚いたわ」


 当人達とフレアは嬉しそうにしているが、ミューゼ達は複雑そうな顔をしている。見た目年齢が近いのに大きな子供がいるせいで、なんとも言えない気持ちになっているのだった。

 この後パルミラと話し合い、一旦ラッチの事を任せる事にした。数日一緒にいて、ファナリアの案内と身の振り方を考える予定である。

 ラッチの話を済ませたら、今度はピアーニャが先の事を考えて、ネフテリアにあの提案を持ち掛ける。


「テリア。せいしきにミューゼオラのシショウになってやれ」

『えええええ!?』


 その言葉に、ミューゼとネフテリアが思いっきり叫んでいた。

使えるのが名詞以外にも少しずつ増えてきました。

主人公ぽくドーンと強くなるのも良いけど、じわじわ成長するシーンもまた良き。

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[良い点] >「そんな(略)現実に苦しむといいんですよ」 >「嫌がらせの方向性おかしくない!?」 さすミュー。
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