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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
世界の夢幻と色彩の少女達
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空無き星夜の中心へ

 結局、本日の所は何の成果も得られなかったミューゼ、パフィ、ピアーニャ。野宿場所を決め、まだ捜索は始まったばかりという事で雑談をし始めた。

 一方、自分の成果に全く気付いていないラッチは、棒状の宝石(おやつ)をムシャムシャ食べながら、ミューゼ達の話に耳を傾けている。話について行くのが難しいので、とりあえず聞いて、どういう仕事をしているのか学んでいる様子である。

 残るアリエッタは、紙をもらってミューゼの横で絵を描いている。もちろんクリエルテスの風景画である。目の前に題材が広がっていて、絵を描いていいとなれば、描かずにはいられないのだ。


(水晶って透明だから、塗りから始めた方が綺麗に描けるなー。CG程じゃないけど、ママの力なら濃度も自由だし、ホント便利)


 下書きをせずに、水彩画のように塗っていく。幻想的な風景が現実にあって描く事ができるせいか、テンションがあがって凄い勢いで描いている。

 ラッチがそんなアリエッタの事を気にしているが、邪魔してはいけないと言われている為、大人しく待っているようだ。


「探し方を変えるのよ?」

「うむ。わちはソラからさがせないから、ソウサクがむずかしい」

「総長役立たず?」

「ほっとけ! うえのスイショウがジャマすぎるんだ」


 広く立体的に入り組んでいる中で、少人数での捜索は困難である。


「そんなわけだから、あしたはミューゼオラがどうにかして、さがしてくれ」

「えっ、どうにかしてって……」


 自分には良い手段がないと考えたピアーニャは、あろうことかミューゼに丸投げした。困った時の魔法頼みである。


「まぁ今はそれしかないのよ。私も魔法みたいに便利な能力じゃないのよ」

「便利て……まぁ便利だけど」

(うん? みゅーぜのマホウみれるの?)


 魔法というワードに反応したアリエッタだったが、見えたのはミューゼの困り顔だった為、首を傾げてから作業に戻っていた。

 その代わり、これまで静かにしていたラッチが話に入ってきた。


「魔法ってなに?」

「え? あー……」


 クリエルテスから出た事が無いラッチにとって、他リージョンの能力を見る機会は少ない。外出すれば全く見ないわけではないが、町中では普通、ほとんどの人が能力を使わずに過ごしているのだ。

 ミューゼ達は、暇だからまぁいいかと、ラッチに魔法や能力の説明をしていった。


「ふっふっふ、なるほどな。それこそ我が追い求めてし最強の力。木の魔法こそ神の証!」

「いやいや、ただの植物魔法だから」


 本来有機物の無いリージョンにおいて、木は最高級品であると共に、伝説級の存在だった事もある。逆にクリエルテスの鉱物類…主に宝石は、他リージョンにとっての高級品となる。

 一時期リージョン間の交易で大量に木と宝石を交換していた者がいたが、局地的に価値が暴落してしまった事もある。それをきっかけとして、リージョン間の取引を取り締まる為の組織が王城などの最高機関から発足。転移の塔は兵士によって管理され、名簿や記録で過剰な取引を防ぎ、リージョンの価値が偏り過ぎないよう調整されるようになったのだった。

 ピアーニャ以外はそんな経緯があった事など知らないが、木に憧れるラッチにとって、ミューゼの木の杖は、輝いて見える程の一品である。


「おお神よ。我に力をっ!」

「いやあたし神じゃないし。力ってどうすればいいの……」

「ふっふはははは! 神だ! 神がここにおられるのだ! もう何も怖くない! いつか最強の木の家具を手に入れてみせる!」


 この時、ラッチにとってミューゼは崇拝対象に格上げされた。その目標は、クリエルテス人以外には超平凡に聞こえるものだった。

 もちろんそんな事になったミューゼの心は落ち着かない。ラッチを止めようにも変なテンションのせいで近寄りがたく、ピアーニャを見ても目を逸らされてしまう。

 騒いだ後はいきなり静かになった…と思いきや、キラキラした目で拝み倒されてしまう。その目からネフテリアに近い危うさを感じたミューゼは、思わず後退り。しかし膝立ちのまま距離を保たれ、逃げられない。


「怖い! 怖いよ! なんでこうなるのっ!」


 目を見開きながら笑顔を絶やさないラッチ。そんな顔を正面から見ているミューゼは、ファナリア人に例えたら瞳孔を開いてヨダレとか垂らしながら危ない笑みを浮かべている状態だと感じ、後退りの速度を速める。しかし逃げる事が出来ない。

 辺りをグルグル回り続けた後、パフィから横槍が入る。


「じゃあラッチは明日、神に従うといいのよ。一緒に探すのよ」

「えっ! いいの!?」

「ぅええっ!? ちょっとパフィ!?」


 神に対して慈悲など無かった。


「それで、アリエッタの面倒は総長が見るのよ」

「ちょっとまてなんでそうなる!?」


 ついでに上司に対しても慈悲が無かった。

 慌ててピアーニャが抗議するが、空を飛べないピアーニャの捜索能力は、本当に子供と変わらない。それを指摘すると納得し、ガックリと項垂れた。

 明日はピアーニャと一緒にいられるようになった事をまだ知らないアリエッタは、せっせとお絵かきを進めている。じーっと遠くを見つめては、納得したようにコクリと首を縦に振り、丁寧に筆を滑らせていった。


(むむむ……やっぱり透明表現は難しいな……ここの羽とか上手く背景に溶かさないと……)


 どうやら完成は後日になる様子。

 しばらくして辺りがゆっくりと暗くなり、壁や天井に点々とした光が灯り始めた。ピアーニャが荷物から魔法のランタンを取り出し、地面に置いて灯りを点けた。夜になったという事に気付き、備え始めたのだ。

 クリエルテスには夕焼けという現象はなく、気付かない程度の早さで暗くなっていった為、絵を描くのに夢中になっていたアリエッタは、見ていた場所が暗くて見えなくなった事でようやく違和感に気付いた。そしてミューゼと一緒に感嘆の声を漏らした。


「うわぁ……」

「ふわぁ~」(え、なに、どうなってんの?)


 夜の光はかなり小さく、周囲を照らす程の明るさになっているのはほんの少ししかない。つまり地面も壁も、全くと言っていい程見えなくなっている。

 少し大きめの光に照らされている場所も、かろうじて水晶の輪郭が見える程度でしかない。

 焚火の代わりとしてピアーニャが持参していた灯りの道具が無ければ、隣の人物すらも分からなくなっていただろう。


(綺麗だなー。なんだか宇宙の中に座ってるみたい)


 絵の道具を片付けて、改めて周囲を見たアリエッタがそう思うのも無理は無い。暗い中、小さな光が星のように輝いているのだ。天井や壁だけではなく、地面も星空のように暗く、小さな光が点いている。灯りがなければ足場が見えずに錯乱していたかもしれないと想像したら、ちょっと怖くなってミューゼにしがみついた。


「あら、うふふ。綺麗よねー」

「ふっ、その娘もやはり女という事か」

「きっとロマンチックなこの光景にやられたのよ。大好きなミューゼに寄り添ってるのよ。……明日は変われなのよ?」

「はいはい。よしよし綺麗だよねー♪」

(こわがってるようにみえるのは、キノセイか?)


 ピアーニャが一瞬正解に近づいたが、撫でられたアリエッタが笑顔になった事で、それ以上気にする事は無くなるのだった。

 その後、見慣れているラッチはともかく、他の4人は夜空の中心にいるような感覚になる今の状態を楽しみ、そして眠りについた。




 ファナリア・ニーニルの街。

 こちらでもすっかり深夜となり、道行く人々はほとんどいない。

 そんな暗闇の中、足音に気を付けながら、颯爽と道を駆け抜けて行く人影が2つ。その姿は周囲の暗闇よりも、さらに暗く見え、動きやすそうな服装をしている事だけが、輪郭から読み取る事が出来る程度だった。

 そんな2人が、ある家の脇で足を止める。


「………………」


 そこはミューゼの家だった。

 周囲を警戒し、頷く事で合図をし、そのまま家の横手へと進んでいく。

 通りから見えない場所にやってくると、そのまま跳び上がり、魔法を足場にしてベランダへと降り立った。2人目も同じようについてくる。


「……いける?」


 小さな声で、ベランダの出入り口を調べている1人目に語り掛けると、その人物は頷き、小さく魔法を発動した。そのまま魔力を操り、ドアの隙間に潜り込ませていく。

 やがてカチャリという音が聞こえ、ドアが開いた。


「!」


 2人は視線を交わし、家の中へと入って行った。

 そこからは堂々と歩き、迷いもせずにリビングへと到達。その部屋の片隅にある箱を開け、2人で中を物色し始めた。その目は驚愕に満ち、息も荒い。

 しばらく物色を続けた2人は、視線を交わし、手に持ったそれを見せ合った。そしてニヤリと笑みを浮かべた。

 手に持った物を袋に入れ、箱の蓋を閉じ、何かを置いてリビングを去る。次に向かったのは、帰る為のベランダ……ではなかった。

 2つの部屋の前に立ち、片方の人物がもう1人の目を見てから片方の部屋を指差した。そしてお互いコクリと頷き合い、1人が部屋へと入って行った。その部屋はパフィの部屋である。

 続いて指示をしていた方の人物が、もう片方の部屋へと入って行く。こちらはミューゼの部屋。部屋のドアを閉めた瞬間、入る時から浮かべていた笑みがより一層深みを増していた。

 そして……その2人が部屋から出てくることは無かった。

コ〇ンの犯人登場(ぉぃ

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