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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
暖色と寒色のリゾートワールド
167/404

無恥と無礼のレパトリエーション

 植物園跡地……の近所。

 巨大な木の山は、夜のうちに凍り付き、明るくなると同時に氷が解けた。『スラッタル』はもう動く事は無かった。

 その麓で、先日とは色違いの女性用ビキニとマントを装着したケインは、腕を組んで呟いた。


「終わったな……」

「……そんな渋く言っても無駄ですよ。丸出しで気絶してたんですから」


 ケインは、ミューゼによって思いっきり武器にされた後、ずっと気絶していたのを、騒動の様子を確認する為にたまたま通りかかった植物園の女性係員によって発見され、悲鳴が響き渡った事で捕獲…もとい保護されていた。運ばれる時にはバルナバの殻を装着されたお陰で、それ以上騒ぎは大きくならないまま警備局に戻ってこれたのである。

 朝になり目を覚まし、『スラッタル』が動かなくなったという報告を受けて現場に戻ってきた。そこで夜間見張っていたコーアンの隊の報告を聞き、ニヒルに締めようとしていた。

 コーアンはというと、ひたすら蔓相手に立ち回っていた事もあり、見張りを部下に任せ、ゆっくりと休んでいた。持ち前の体力もあり、すっかり元気になっている。


「しっかし、コイツなんだったんだろうな」

「それを調べろと、王妃フレア様からの指令もありますよ」

「ん? 聞いてねぇぞ?」

「これから説明するところですから」


 警備隊に下った王妃からの命令は、ヨークスフィルン内での聞き込み調査と復興の指揮。救助や復興をする為の本部として動きつつ、人々から情報を得るのが仕事である。その為にも、現地人で事情をある程度把握しているケイン達の存在は都合が良かった。

 現地人の大部分はバルナバの実の清掃に忙しい。黄色い実で埋め尽くされた街では、食料はともかく生活が大変なのだ。中でも、潰れた実や匂いがついてしまう衣類が特に厳しい。

 その為、ノエラの商談相手となったクラウンスターのセレジュが、既にファナリアに戻り、王城から手配された布で簡易的な服を作り、無料で提供する予定である。その後は一時的に格安で販売。要するに、政治的な金で名を売るチャンスを得たという事で、やる気を漲らせていた。

 だが、警備隊は不満を漏らしていた。


「フラウリージェという店の服の方が良いのだがな。あれほどシャレた水着は初めて見た。俺様の筋肉にふさわしい」

「ですね。普段着も少し見ましたが、オレもあの服を着てみたいと思いましたね。清楚なだけじゃない、色が付いていて華やかになっている。あのようなドレスなら、これまで以上にいい気分になれる気がする」


 どうやらクラウンスターよりも、フラウリージェの新作が気になって仕方がない様子。もちろん女装の為である。それが2人の感性であり常識なのだ。


「それに、いまよりもお洒落になりさえすれば、きっとツーファンにも分かってもらえる」

「……そうだな。俺様達が理解されるには、筋肉と同等にお洒落も必要だ。極めさえすれば、きっと妹くんとも分かり合えるさ」


 兄妹であるコーアンとツーファンが別の暮らしをしている理由は、趣味と感性の圧倒的な違いによる喧嘩別れだった。白いワンピースを中身が見える程たなびかせているコーアンは、目を閉じると今でも別れ際の言葉を思い出す。


『なんで下着まで女物なのよ! っていうか私のパンツじゃん! お(にぃ)なんかもう死んでしまえ! 女装を今すぐ止めないなら出て行ってやる! バイバイ!!』

(あの後いきなり放火されて、家が焼き菓子になって脆く崩れて、仕事を探してたらこの場所にたどり着いたっけな。まぁあいつがファナリアでしっかりした地位について、元気にやっているようで安心したが)


 家族を想うその愁いを帯びた顔で、妹が宿泊している筈の海の方向を眺める。顔つきと雰囲気だけは良いのだが、筋肉に満ちた女装が濃く、別れたきっかけが余りにも酷過ぎる。しかしその事にツッコミを入れる人材は、この場には1人もいなかった。


「よし、この『スラッタル』は植物園関係者に任せて、俺様達は復興に向かうか!」

「ええ! 早くいつものリゾートに戻して…いや、こうなったら前よりも賑やかにして、人々に楽しんでもらいたいですからね!」

「だな!」


 爽やかな笑顔を交わし、以前よりもより良い健全な未来を目指して、変態集団のトップ2人は街へと歩を進めるのだった。




「う~ん……って事は、もうそのナイフは燃えない?」

「たぶん……アリエッタがその気にならないと分からないのよ」


 リージョンシーカー、ニーニル支部の会議室。

 ミューゼとパフィは、ナイフに描かれた炎の模様を見て、首を傾げていた。


「やっぱりあの時との違いといえば……」

「虹色の髪なのよ」


 現状アリエッタの力だけでは、アリエッタが絵を描いた物に直接触れていないと、その力は現実化しない。エルツァーレマイアの方が力を込める事で、遠隔でも絵の効力を発揮できるのだ。

 そうとは知らないパフィ達からは、アリエッタが興奮して本気を出すと、離れていてもその力が使えるという結論を導き出している。というよりも、それが一番辻褄が合うので仕方がない。


「あの時あたしの杖がすっごい力を出したのは、やっぱりアリエッタのお陰だったんだねぇ」


 巨大になる前の『スラッタル』を殴ったウッドゴーレムは、普段のミューゼよりも数倍力が強かった。それがアリエッタのお陰と考え、完全に納得する。

 2人は隣で記憶を頼りに『スラッタル』の絵を描いているアリエッタの近くに、そっとお菓子を追加して微笑んだ。その絵は後で資料に使わせてもらおうと考えながら。


「いいなぁ、わたくしは武器とか無いし、どこに描いてもらおうかなぁ」


 一緒にいて、報告書をまとめているネフテリアが、羨ましそうにぼやいていた。

 ヨークスフィルンの『スラッタル巨木化事件』と名付けられた事件の後日、ファナリアに帰ってきた一同は、王城とニーニル支部に分かれ、事件について会議をしながらまとめていた。

 植物園にいたピアーニャのグループと、街にいたネフテリアのグループが、改めて情報を交換し、状況を照らし合わせていく。

 途中で、王城に帰ってディラン達と情報交換をしていたフレアやパルミラ達が、ニーニル支部にやってきて大所帯となった。もっとも、フレアはパフィ目当てだというのもあったりするが。

 それぞれの目撃と経験を聴取、全員でまとめ続けてすっかり夕方になっていた。ツーファンとクリムがいないので、パフィが全員分の食事を作る事になり、フレアが大歓喜する。


「ん~! パフィちゃんの手料理最高!」

「おいしー!」

「やっぱり最後に現れた、スラッタルらしき生物が怪しいよね?」

「そこにおちつくよなぁ……アレはなんだったんだ?」


 それでも大まかにまとめ終えた資料を見て、考察をし始める……つもりだったが、流石に疲れたのか、食後は一旦帰って休み、また明日集合する事になった。

 帰る為に会議室を離れ、復興作業で忙しいシーカー達が休んでいるホールで、フレアとネフテリアが名案とばかりに主張を始める。


「ねぇ、ミューゼちゃんの家に行っていいかしら?」

「あ、わたくしもー!」

「えぇ……あたしんち、お城じゃないんですけど?」


 王族を2人も泊めるような部屋など、一般人のミューゼの家にはあるわけが無い。ぐいぐい来る2人を押し返すように、ミューゼとパフィは全力で断っていた。

 それを見て穏やかではないのが周囲のシーカーと受付嬢達である。王族が何を言っているんだという事もあるが、それを平気で断っているミューゼ達の事も信じられないという様子である。

 そして、お互いの主張に反発しあう余り、王族対一般人の取っ組み合いにまで発展していく。


「いいじゃないのよ! わたくしとミューゼの仲なんだし!」

「そんな事言われても駄目ですー。おとなしく帰ってくださーい」

「そーなのよそーなのよ! 帰れなのよ!」

「まぁまぁそう言わずに」(ああ、パフィちゃん柔らかい♡)

(なんで普通にケンカしてんだよっ!)

(いやいやパフィさん!? 相手誰だか分かってるんですよねっ!? 不敬! 不敬ってやつですよ!)

(ひぃぃ! これ俺が止めなきゃ駄目なのか!? 総長はなんでそのチビに捕まってんだ!)


 リージョンシーカーのホールで声を出しているのは、当事者だけだった。

 普通ならあり得ない光景が、王族が何故ここにいるのかという疑問をとっくに吹き飛ばしている。組合長のバルドルですら、声をかけるのが恐ろしくて青ざめていた。

 取っ組み合いはともかく、普通に話しているのが当たり前になっているパルミラ達は、頭の疲れもあって止める気が無い。むしろ休み状態になって和んでいたりする

 しばらくの間、冷え切ったホールの中で、熱く争う4人と、それを放置する生暖かい集団という、おかしな状態が続くのだった。


「今日の所は、おふたりはリビングで寝てもらいますからね!」

「良いでしょう」

「わかりました♪」


 決着がつき、ミューゼ側が折れた。それでも寝る場所が用意出来ないという事で、王族はリビングでのお泊りが決まった。


(だからなんで負けたミューゼちゃんが、王妃様相手にマウント取ってんだっ!)

(普通王族にベッド明け渡すわよね? あれ? そもそも宿泊ってどういう……私がおかしいのかしら?)

(あー……僕疲れてるのかな。うん、寝よう)


 嬉しそうな王妃と王女を見て、さらに現場は静かなまま大混乱。受付嬢の一部など、耐えきれずに卒倒していたりするが、助け起こす余裕のある者はいない。


「アリエッタおいでー。ピアーニャちゃんとはここでバイバイするよー」

『んふっ!?』


 追い打ちをかけるように、今度はシーカー最強の総長に向かってピアーニャ()()()呼ばわりである。これでまた何人かのシーカーが崩れ落ちた。

 まだ辛うじて無事な者達もいるが、畏怖と笑いという、普通ならば相いれない感情が激しく入り混じり、立っているのもやっとである。


「それじゃあ自分も護衛として一緒にいきますね。あ、床で寝るのでご心配なく」

「はいはい。じゃあ帰りますか」


 王族の護衛ならば仕方がないと、オスルェンシスの同行を許可。こうして3人追加で帰路につくのだった。


「じゃあバルドル。またあしたな」

「は、はひっ!」(明日も来んのかよ!)


 残ったピアーニャ達もバルドルに死の宣告(あいさつ)をした後、エインデルブルグへ転移する為に塔へと向かった。

 ようやく静かになったホールで、緊張が解けた事でその場に座り込む者が続出。


「た、助かったぁ……」

「怖かったよぅ……」

「なんでパフィとミューゼちゃんは不敬罪にならねーんだよ……おかしいだろ」


 こうして、ニーニルのシーカー達を震撼させた色々おかしい王族訪問は……


「はいはーい。明日も同じメンバーが揃いますので、全員でお出迎えの準備を始めましょうかー」

「ちょっと待ってくれリリ!」(こいつ絶対面白がってるだろ!)

「組合長は帰ったらお風呂で身だしなみ整えてくださいね、汗臭いんで。シーカーと受付は全員出勤です。サボったら不敬とみなしまーす♪」

『悪魔かああああっ!!』


 数日の間、全員を巻き込んで続くのだった。

ヨークスフィルン編終了!……の前に、ちょっと日常挟んでおきたい気分。

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