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からふるシーカーズ  作者: 白月らび
何も知らない転生少女
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心休まらない平和の一方で

 着せ替え人形になったり、紙とペンに興奮したこともあって、疲れていたアリエッタは家に着くと、すぐにソファの上で眠ってしまった。


「アリエッタが可愛くて、お店ではしゃぎ過ぎたのよ」

「髪型も整えたら、もっと可愛くなると思わない?」

「ほほう、それは大変興味があるのよ」


 2人はニヤリと笑い、静かに準備を始めた。




「うん、シンプルだけどこれが良いかも!」

(うぅ……た、楽しそうでナニヨリデス)


 目が覚めたアリエッタは、早速ミューゼのお人形になっていた。

 鏡の前に座らされ、いきなり頭をいじられたかと思ったら、次々に髪型を変えられていき、最終的にはウェーブがかったサイドテールに落ち着いた。


(自分で見ても可愛いって思うよ。まだ見慣れないけど……みゅーぜ凄いなぁ)

「アリエッタ凄く可愛いのよ!」

「素材が良すぎて、下手に飾るよりもシンプルな方が良いと思ったの。髪もアップにしておけば、絵を描く時に落ちてこないでしょ?」


 説得力はあるかもしれないが、結局はミューゼの趣味である。

 髪をまとめた本当の理由は……


「これで柔らかいほっぺが無防備になったよ~ほらチュ~♪」

「わーーーーっ!?」

「なるほどなのよ……」


 アリエッタは驚いて悲鳴を上げ、パフィは感心した。

 動揺したアリエッタは、ここから一旦逃げる方法が無いか考えた。


(このままだとみゅーぜに色々されてしまう! ここはぱひーに助けてもらって……そうだ、さっきみたいに絵を描いてる間は近寄って来ないかも!)


 ミューゼに抱っこされて勝手に移動させられながら、脱出作戦を練ってみた。見上げると、自分をみつめるパフィと目が合う。


「ぱひー! ぱひー!」(助けてお願い! ついでに『助けて』って言葉教えて!)


 名前を呼んだら、パフィが立ち上がった。そして近寄ってくる。


「ミューゼ、ちょっと離すのよ」

「むー……もうちょっと撫でていたかったなぁ」

(やった! 作戦成功!)


 こうして、あっさりとアリエッタは救助された。が、思惑通りだったのはここまでだった。


「可愛すぎるのよ。私もチュ~♪」

「ほにゃあぁぁぁぁ!?」(なんでーーーーーっ!?)

「ちょっと変だけど可愛い悲鳴だねー。たまにこうやって驚かせるのもいいかも♡」


 ちょっとした嗜虐心が芽生えてしまった。もっとも、可愛がって驚かせるだけの平和的な考えだが。


「あ、そうだ。昨日はアリエッタが風邪引かないように急いで上がったから、ちゃんと洗えてないの。今日はパフィがお風呂入れてあげてくれる?」

「もちろんなのよ。交代で入れてあげるのよ」


 今のアリエッタにとって、それは死の宣告にも等しかった。しかし宣告された本人は、その内容が分からない。


(やっと頬が落ち着いた……今度はぱひーのが柔らかくて落ち着かないけど。あれ? ミューゼが出て行った。何か用事かな?)


 もちろんお風呂である。

 残ったパフィはアリエッタを撫でながら、その境遇について考えている。


(言葉なんて、赤ちゃんの時から日常で聞いてたら自然に覚えるものなのよ。昔はリージョン同士の意思疎通は難しかったっていうけど、今は共通の言葉で話せるから、私もそれが当たり前だと思っていたのよ。もしかしてこの子はまだ未発見のリージョンから来たって事なのよ?)


 リージョンどころか、赤ん坊時代すら無い転生者なのだが、知る術もなければ伝える術もない状況で、そこにたどり着く事はまずあり得ない。


(いずれにしても、この子は今も不安でいっぱいの筈なのよ。知らない地で、知らない人の知らない言葉に囲まれて……ようやく名前だけ憶えて。私がそんな境遇だったら、きっと怖くて森からも出られないのよ)


 斬りつけた負い目もあるが、パフィは基本的に真面目である。我が身の様にアリエッタの身に起きた事を想像し、心を痛めていた。


(うーん、こうやって何もしないで撫でられているのも恥ずかしいし悪い気がするし……いっその事、絵を描いていたいなぁ。さっきからぱひー元気ないし、ミューゼみたいに似顔絵で喜んでくれるかな?)


 自分が原因だとは知らずに、何をしようか考えるアリエッタ。


(そういえば、さっき買ってきたものは……あれか)「ぱひー、ぱひー」

「ん? どうしたのよ?」


 パフィが反応したのを見計らって、指で買ってきた荷物の片方を指し示す。


「あ、もしかして暇だったのよ? 本当に絵が好きみたいなのよ」


 理解したパフィは、一旦アリエッタを降ろし、紙とペンが入った袋を手に取る。

 待ちきれないとばかりに、アリエッタが期待に満ちた目をし、ぴょんぴょん飛び跳ねた。


「ふふっ、そんなに可愛い事されると、私がおかしくなっちゃいそうなのよ」

(はやくっ、はやくっ)

「はい、紙なのよ」


 そう言って、紙を1枚、アリエッタに手渡した。


「カ…ミナ……?」

(! そうなのよ、このタイミングで教えればいいのよ!)


 紙をみて呟いたアリエッタの様子を見て、パフィが閃いた。


「か・み」

「かー…み?」


 指を差してその名称を教えると、アリエッタが繰り返す。


「かみ!」

「そうなのよ! 賢いのよ! 成功したのよ!」

(やった、これで『かみ』って言えば、紙が欲しいって伝えられる!)


 この後、同じ様に炭筆(たんぴつ)を教え、2人はそれぞれ教えた事と覚えた事に対して大いに喜んだ。


 アリエッタは『かみ』『たんぴつ』を覚えた。


「パフィ~。上がったよー」

「今行くのよー。あ、入ってる間にアリエッタの着替えの準備お願いするのよ」

「はーい」


 丁度良いところでミューゼから声がかかり、

 言葉を覚えてすっかりテンションが上がったアリエッタを抱き抱え、ウキウキしながらお風呂へと向かった。

 見覚えのあるその場所に降ろされたアリエッタは、上がっていたテンションが吹き飛ぶ程、嫌な予感に襲われる。


(……えっ? ここってあの、おふろ……ま、まさか……まさかっ!)


 そんな怯える少女の後ろから、肌色の人影が手を伸ばす。

 チキンなハートを持つ元男性にとっての天国(じごく)が始まった。




 いたいけな少女がやわらかい凶器によって洗われている頃……。


「隊長! 森から妙な光が!」

「何!?」


 先日アリエッタ達をニーニルの町へと送ったグラウレスタの塔で、兵士が森に異変を感じた。

 隊長が塔の屋上から森の方を見ると、赤い光が空まで立ち昇っているのが見える。


「火……ではないな。なんだあれは……」

「あっ、何か飛び出しました!」


 塔と森はそれなりに離れている。その為、光から飛び出してきたものが何かまでは見えなかったが、それは森の中に消えた。


「………………」

「……何かは分からんが、警戒する必要がありそうだな。王城とリージョンシーカー本部に伝令だ。今見た事を伝えてきてくれ」

「了解しました」


 2人は階下に降り、転送の準備を始める。


「では、エインデルブルグに転送──」

 ゴガァッ


 突然、塔の壁が壊れた。


「なんだっ!?」

「たいちょ…ぐあああああ!!」


 悲鳴が聞こえた方を見ると、砂煙の中に大きな赤い影が見えた。


「ひっ!?」

「なんだこいつは……」


 それは腕と思しき部分を振って、塔をさらに破壊する。

 一瞬、煙の間から、その巨大な目が見えた。


「もしかしてさっきの?」

「光から出てきたってやつか!」


 その目は祭壇の方を見た。


「目的は分からんが、こっちを狙っているな。お前は行け!」


 そう言うと、隊長は転送の装置に魔力を込める。


「そんな、隊長は!?」

「……さぁな、頼んだぞ!」

「隊長!? たい──」


 転送が終わり、光が消える。

 隊長は杖を構え、大きな生き物と対峙した。


「さて、最期の仕事といくか。なぁバケモノ」


 そう言って、不敵な笑みを浮かべながら、生き物へと向かっていった。


 転移した女性兵士は、光が収まって転移完了した事を認識すると、膝から崩れ落ちた。


「隊長……」

「おい、どうした?」


 ただならぬ様子に、近くにいた兵士が声をかけてくる。

 女性兵士は一度深呼吸し、頬を叩いて気を落ち着けると、キッと兵士の方に顔をあげた。


「重要な…報告があります!」


 女性兵士がもたらした情報は、後に国中のシーカー達を震撼させることとなる。




「あちゃー、のぼせちゃったか」

「まだお湯に慣れていないのかもしれないのよ。ぬるめにした方が良いかもしれないのよ」


 大人の魅力に震撼し続けていたアリエッタは、お風呂から上げられながら呆然としていた。パフィに呼ばれたミューゼに体を拭かれるも、全く反応を示さない。


(あうぅ……おっきい……ぱひーおっきい……2つ……やわらかい……ぜんぶ…やわらか……)

「森じゃ水浴びしか出来ないもんね。あ、ついでに今夜はパフィが一緒に寝てあげるといいよ。寝顔可愛いし暖かいよ」

「それは楽しみなのよ」


 アリエッタのやわらか天国(じごく)は、まだ始まったばかりだった。

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